ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

愛のままにわがままにボクは君がいることに気づけないようです(君)


 幼馴染である栞の転入初日は、定番のクラスメイトに質問責めにされて一切関わることがなく、今後もこのまま接点のないまま、変わらないスクールライフを過ごしていくものだと思ってた。

 だが、その数時間後。やはり、またハプニングは起こるのである。

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 湯気が漂う狭い密室で、濡れた髪が首筋に艶めかしく張り付き、子供の頃と変わっていないと思っていた栞の顔が妙に大人っぽく見えてくる。曇った鏡に映るボクの顔が、みるみるうちに紅潮していく。

 栞の体を覆うのは、小さなタオル一枚。前を隠すのがやっとで、後ろを覗ければ肢体全てが見えてしまうといったおかしな状況。
 そんな中、栞がボクの方にゆっくりと近づき、背中側に回り込んで抱きついてくる。

「えーい!」

「ちょっ、あんまりくっつくなよ!?」

「このくらいいいでしょう? 別に栞は誰にバレても構わないんだしさー」

 隔たるものが布切れ一枚にも関わらず、さらにぎゅっと抱きしめてくる。
 刹那、ボクは背中に全神経を集中させ、触れ合っている部分の柔らかさ、質感を確かめる。ふむふむ、凹凸はそれほどないにせよ、柔らかく均等に圧力がかかっていることから鑑みて形も抜群だろうと思考する。

 だが、今はこんなことをしている場合ではない。

「い、いや本当にそろそろ離れてくれ!」

「いいからいいから。そんなことよりもさっきの続き、すればいいんじゃないかしら?」

 そう言うと、手元にあったボトルから出した透明の液体を、ボクの体に優しく擦りつけてきた。
 
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 時は戻り、放課後。ボクは一目散に家に帰り、玄関で気だるげに声を出す。

「……ただいまー」

「うぃー、おかえりさん。……ってか、どしたんだ、晴人。その格好?」

 いつも通りに家でだらけている兄さんはボクを出迎えると、その出で立ちを見てドン引きする。
 ボクの今の服装は、制服姿でいつもとてんで変わりはしないのだが、ズボンには茶色いなにかが色濃くこびりついていた。

「歩道を歩いてたらトラックに浴びせられてさ、ほんと今日は何だかついてないよ……」

「うんうん、そーかそーか、そうだよな。ま、そんな時もあるよな。とりあえずシャワーでも浴びてこいよ」

「う、うん。わかったよ」

 何だか口調やら表情やら妙に優しい兄さんはボクから上着や鞄を受け取り、風呂に入るよう促す。

「あ、そーだ。これ、やるよ。これを常備してたらもう二度と同じ過ちを繰り返さないだろうしな」

「へ? なにこれ?」

 そう言って手渡されたのは、茶色い小瓶にラッパのマークが描かれた薬のようなもの。……ってこれ、正露丸じゃん。

「このことは他の誰かには絶対に言わない。約束する。なんたって、この俺様にだってそんな経験あるからな……。あれは俺様が高校入学して間も無い頃、授業中に急な腹痛に見舞われてな、チャイムがなって急いでトイレに駆け込み、大便器へ向かったのだが、全て鍵がかかっており、俺様はthe endを迎えたわけだ」

 しょうもないエピソードを話し終えた兄さんは同志を見つけたかのようにそっと頷き、ボクの肩を優しく叩いてくる。

「いや、これ漏らしたわけじゃないからね!? トラックに浴びせられた泥だって!」

「おいっ! 近づいてくるのは違うだろうが!?」

 何とか弁解をしようと近づいて、逃げる兄さんの手を取り、ズボンについた汚れを直接触らせる。

「だから泥なんだって。ほら!」

「ん、ほんとだ。……じゃあ俺様がした話は、話損じゃないか!」

「んー、まぁ。ボクも言わないと約束するよ。兄さんが催したけれど、間に合わなかった話はね」

 いつもボクをからかってくる報いを与えようと、わざとらしく口笛を吹いて嗾す。

「晴人、わかってるだろうな、絶対にだぞ! 特に母さんになんて言ってみろ、その日中にはご近所さんに知れ渡って俺様が二度と家から出られなくなってしまう!」

「どうかなー? じゃあボクはお風呂に入ってくるから」

 そう言い残して、その場を去る。後ろから兄さんのうめき声が聞こえるが、気にしないでおこう。

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