ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

高級店の値段がわからないんですけど(高)


 時刻は夕飯時。今日はいつも通りに家での食事ではなく、外で外食をすることになった。
 あまり見なれない道を、兄妹二人で喋りながら歩く。
 
「今日ってなんであたしとハル兄だけ外食なの?」

 部活から帰って来てからすぐに家を出て、理由を聞かされていない彩奈が問いかける。

「確か、父さんが家の中で新入社員の歓迎ホームパーティーを開くからだったと思うけど」

 そのおかげでボクたちは、父さんからお駄賃をもらって外食に迎えるという旨を追って話す。

「ふーん。タク兄はこっちに来ないんだね」

「兄さんは、いっぱいコネを作るためにパーティーになんかするんだってさ」

 現状の就職難を見定めて、一つでも多くのコネを作ろうとする兄さんは就活生の鏡である。

「へぇー。でも、こんな二人だけでなんて、初めてだねっ!」

「んー。まぁ、そう言われたら、そうだなぁ」

 やたらと『初めて』という部分を強調して言う彩奈に対し、よくわからないボクは首を傾げながら同調する。
 そのボクの反応が気に食わなかったのか、唇を尖らせて話題を変える。

「むー。……それで、これからどこに行くの?」

「駄賃を少し多めにもらったことだし、回らない方の寿司屋にでも行こうかと思うけど、どうかな?」

「うん。いいと思うっ!」

 さっきまでの不粋な表情が明るくなり、一気に気分をよくする彩奈。こういう感情の変化が表に出やすいのを傍目に見ていると、ついついこちらまで頬が緩んでしまう。



 目的地の雰囲気の良い、見た目から高価そうな寿司屋に着く。こんなところ初めてなのだが、彩奈の手前カッコつけて、さも常連ぶりながら入店する。
 カウンターの席に並んで座り、お手拭きで手を拭きながらお品書きを見る。
 そして、単価を見て絶句する。

「ハル兄、すごいね。こんなお店本当に初めて来たよ!」

 お品書きを見てテンションを上げる彩奈に対し、ボクは顔を蒼白にして、財布の中身を確認する。

「ま、まぁ。大人になったらこれくらいの店どうってことないけどな。彩奈はなんでも好きなもの頼んでいいぞ。ははは、ははっ。……はぁ」

 妹の前で恥辱を晒すわけにもいかず、大見得を切ってから笑いするボク。思わず最後にため息が込み上げって来た。

 店の大将に寿司のネタを注文する彩奈を尻目に、もう一度お品書きを読み込む。

「ハル兄はどれを注文するの?」

「えーっと。玉子と河童巻き、かな」

「えっ? それだけでいいの?」

「いや、うん。魚介系はちょっと、な」

「いつもは刺身を美味しそうに食べてるのに?」

「なんとなく今日の気分は、魚貝系じゃないんだよなぁ」

「ふーん。そうなんだ」

 それならなんで寿司屋に来たんだろうと思っているだろうが、不思議そうな顔をするだけで口には出してこなかった。



 数分後、頼んだ寿司が目の前に運ばれ、彩奈は目を輝かせる。

「うわー、どれもこれもすごく美味しそう!」

「あぁ、そうだな。……ふぅ」

 全ての会計を計算して、自費も合わせれば大丈夫だとわかり、一安心して食事を進める。

 さすがは回らない寿司屋といったところで、玉子も河童巻きも今まで食べたことのあるものの数倍美味であった。
 その美味しさのあまりすぐに食べ終え、もう一度お品書きとにらめっこをする。

「ハル兄はさ、瑞希姉さんの師匠として何を教えてるの?」

 お茶を飲んで一息ついた彩奈が、そんなことを訊ねてくる。

「ん。まぁ、色々だよ」

 一つ一つのネタを見比べ、会計を計算しながら片手間に返事をする。

「ふーん。そうなんだ」

「……やっぱマグロは駄目だよな」

 値段を見て、ただの独り言をつぶやく。

「え、なに? あたしは弟子じゃないし、そんなこと教えなくても……」

「うん。これはマグロ以外だな」

「確かにマグロになるよりかは、多少の演技を加えた方がいいと思うけど。べっ、別にあたしは知らないよ、友達が言ってたって話だからね」

 ボクの独り言に対し、彩奈がボソボソと何か言っている気がするが、計算の途中なので気に留めず、ネタの種類を見る。

「ほぉーん。クジラかぁ……」

 見たことも聞いたこともないネタを見つけ、思わず口に出す。

「クジラ? 何それ。もしかして潮を吹くからとかそういうこと!?」

「ん? 彩奈、さっきから何言ってるんだ?」

 一旦お品書きから顔を上げ、彩奈の方へ振り向く。

「え? いやだから、ハル兄はエッチの時演技をしてほしくて、しかも潮を吹く人がいいんだなと思って……」

「なぜにそんな話に!?」

 その後、誘惑に耐えきれなかったボクはマグロを注文し、そしてもちろんお金が足りなくなり、兄さんを電話で呼び、お会計をしてもらうというなかなかの恥をかいたのであった。

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