ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)
チョコレートは苦いより甘い方がいいです(甘)
時は流れ、世間ではバレンタインだ何だと賑わう季節。
そんなチョコレートメーカーの思惑にまんまと乗った若者たちを見下して、今日もボクは下駄箱を開く。
もちろんチョコが入っているなんてことはなく、淡い期待を打ち砕かれながら上靴を手にする。
だいたいバレンタインデーというものは、キリスト教から来たものだろうし、無宗教のボクには関係ないしね。
「……チョコ、欲しいなぁ」
強がっては見たものの、朝からチョコを渡したりもらったりしている光景を目にすると、羨んでしまうのは当然の流れだろう。
「おう、ハル!お前はチョコ何個貰ったんだ?」
トボトボと教室までの階段を駆け上がっていると、後ろから背中を叩かれ、振り返るとカバンいっぱいにチョコレートを詰め込んだ桐島がいた。
「……まだ一つももらってないよ」
「へぇ、お前ってモテないんだな」
気にしていることをズバッと言ってくる桐島の言葉に心を刺されながら教室に入る。
だが、まだ諦めたわけじゃない。昼休みになって屋上に行けば、瑞希さんから義理かもしれないけどもらえるには違いないと確信している。
校内にチャイムが鳴り響く。このチャイムは昼休みの始まりを知らせるものではなく、終わりを知らせるものだ。
結論から言うと瑞希さんは来なかった。そして代わりに来た人というと、
「いやー、それにしてもこの前はお楽しみやったねぇ」
チョコをもらえないボクを、神咲さんがからかいに来ていた。
「別に、あの時は何もしてませんよ」
あの後は、目がさめると病院のベットに寝ていて、自分でもだいぶびっくりしたものだ。
「ふーん。それで?チョコの収穫具合はどんなものやの?」
「まだ一つももらえてないですよ」
バツが悪そうに答えるボクに、神咲さんは快活に笑いながら一つの袋を取り出す。
「はっはっは。それならうちから一つ恵んでやろうやないの」
「え?いいんですか?」
「ええよええよ。はい、これ」
「ああ、どうも」
「せっかくやし、食べてみてよ」
促されて袋から中身を取り出すと、中からは変な形をしたチョコが出て来た。
手作りなのだろうかと、期待もしながら一口で一気に頬張る。
ガリッボリッバリッ
チョコ本来の味はするのだが何より苦い、そして歯が欠けるくらい硬い。
「これってチョコなんですか?」
「いや、ただのカカオ豆やけど」
「ちゃんと加工したものをくださいよ」
苦くて顔をしかめるボクを見て、神咲さんはしてやったりと笑っていた。
学校が終わり、放課後になるとボクはより一層落ち込んでしまう。
一日を通してもらえたチョコは、からかわれた一個のみ。そんな可哀想な成果しかあげられない自分に嫌気がさしてくる。
哀愁漂う雰囲気を撒き散らしながら帰宅し、カバンを放り投げ、ベットにダイブする。
制服から私服に着替え、飲み物を取ろうと台所に向かう廊下の途中で、ピクリとも動かない人の死体が転がっていた。
「…………うぅ、晴人か」
駆け寄って安否を確認すると、青ざめた顔をした兄さんがかすれた声でボクの名を呼んだ。
「兄さん!?ちょっとどうしたの」
「気をつけろ……。義理チョコと言われてもらったが、あれはギリギリチョコじゃない。暗黒物質(ダークマター)だ……」
「ど、どう言うこと?」
ボクの疑問に答えることのないまま、兄さんは白目をむいて倒れた。
謎の演出をする兄さんを部屋に運んでから、また台所へと向かう。
ドアを開けて台所の方を見ると、瑞希さんと彩奈が二人で何かを作っていた。
手元を覗いて見ると、どうやら包丁で板チョコを切り刻んでいるところのようだ。
「(もしや兄さんはあれを食べて、あんな風になってしまったのか……)」
とりあえず、陰に隠れて二人の調理現場をみまることに決めた。
「これを後はどうすればいいの?」
「後はお湯を張った鍋の中に刻んだチョコの入ったボウルを入れて溶かして、シリコンの型に入れて冷蔵庫で固めたら出来上がりだよ。ちなみに、固める前に生クリームを入れるとトリュフチョコになるし、水あめを入れると生チョコになるんだよ」
「へぇー、そうなんだ。ありがとね、彩奈ちゃん。わざわざ教えてくれて」
「ううん。ちょうど私もハル兄にチョコあげる気だったし……」
二人で作っていたチョコレートは別段おかしな点はなく、ボクのためにと思いがこもっていると知って、ルンルン気分で部屋へ戻って行った。
あれから数時間。そろそろチョコも固まったんじゃないかなー、なんて思っていると、ちょうど部屋のドアがノックされる。
「ハル兄、起きてるー?」
「うん。起きてるよ。何か用かな?」
チョコがもらえるとわかっていながら、白々しく返事をするボク。
「お、お邪魔してます」
「み、み、瑞希さん!?き、き、来てたんですか」
自分自身の演技力の無さにビビりながらも、さっきのぞいていたのがバレないようにと細心の注意を払う。
「ハル君これよかったら。彩奈ちゃんと一緒に作ったの」
「あ、ありがとうございます」
手渡されたラッピングが施された小包を受け取る。
兄さんの惨状を知っているボクは、少々怯えながらも中から一粒のチョコを取り出し、口の中に放り込む。
「……美味しい、です」
「本当に!?やったぁ。彩奈ちゃんハル君が美味しいって」
「うんうん。よかったね瑞希ちゃん」
瑞希さんが笑顔で喜んでいるのを彩奈は、師匠のように頭を撫でながら褒めてあげていた。
…………ボクが瑞希さんの師匠なのになぁ。
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