「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい

kiki

『ご冥福をお祈りします』

 




 オリジン・ラーナーズ。
 彼はごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の男の子として育ちました。
 両親は公務員で、特になんの問題もない、温かい家庭だったそうだ。
 彼が大学を卒業してから二年が経ったの。
 父が母を殺しました。
 かっとなって、ついやってしまったそうだ。
 出来心。
 仲はよかったのに。
 ほどなくして父が自殺し、オリジンは一人になったわ。
 ひょっとすると彼は、寂しかったのかもしれないな。



 ◇◇◇



 私、フラム・アプリコット、十六歳!
 どこにでもいるただの女の子――のはずだったんだけど、どういうわけだか、王都の魔法学校に入学することになっちゃった。
 魔法学校って言ったら、優秀な死体がたくさん集まる王国でも有数の素敵な場所!
 私はそこでみんなと仲良く暮らして、気持ちのいい死に方をしてもらうの。
 死ぬことはとても気持ちいいから。
 あのね、最初は目がぐるんってなって、体がびくびくってなって、末端から少しずつしびれるみたいに気持ちよくなってくの。
 なんで知ってるのかって?
 だって私、ミルキットを殺したから!

「あっはははははははっ!」

 思わず思い出し笑いしちゃった。
 でも大丈夫、みんなやさしいの。
 入学式の会場はしんとしていて、腐っていてとてもいい匂い。
 肺いっぱいに空気を吸い込むと吐き気がして、それもまた気持ちいいんだって。
 まるで死体と交わってるみたいで、私はみんなと友達になれたんだって感じられて嬉しい。

「ご、ご主人……さま……? どうしたんですか、あ、あのっ……!」

 壁には時計の代わりに頭が飾ってある。
 時間になると、そこからポッポーって腕が飛び出してくるの。
 さすが都会、さすが魔法学校、最新のテクノロジーで作られた時計を見て私は驚くばかり。
 ずらりとぐったりと横たわる死体が並ぶ光景は壮観で、とてもオリジン様みたいで素敵!
 でも私がこんな場所にいて、本当にいいのかな。
 まだ足りないんじゃないのかな。

「あ……や、やめて……ひ……っ」

 足りないのかな。
 足りないのかな。
 足りないのかな。
 足りなかったらどうしたらいいのかな、教えて、オリジン様。



 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 場所は王都です。
 名前は、フォイエ・マンキャシー。
 享年三十歳。
 死因は家族に首を絞められたことによる窒息死です。
 かわいそうに。
 幸せになれたはずなのに。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



 だからオリジン・ラーナーズは、世界を平和にしなければならないと思った。
 そうして生まれたのが回路でした。
 既存の物理燃料を利用した発電装置ではなく、人の意思を――いわゆる概念燃料と呼ばれるものを利用したエネルギー生成装置。
 人の脳と脳を接続して無限にエネルギーを生み出す、夢のシステム。
 それさえ完成すれば、世界は平和になるはずだ、そう思ったのであります。
 でも喜んでオリジンに参加する人間などだれもいなかったの。
 なぜならば体を捧げなければならなかったからだ。
 もちろんオリジンは自ら志願しましたが、他の使命感に溢れた人間が見つからねえ。
 そこで、ちょうど脳の研究をしていた彼は、人の意思に干渉して使命を植え付ける方法を生み出したんだ。
 電波を受信した人間は、人が変わったようにシステムへの参加を志願しますわ。
 彼らは口を揃えて言った。

『神のお告げ・・・を受けた』

 オリジンは笑う。
 それは間違った認識ではありません、世界を平和にしようとする神の意思を受信したのですから。
 正しい道に矯正したんだ。
 罪悪感は無い。
 むしろ人を正しい道に導けたことに誇りを抱いたぐらいだったの。
 かくして人間の脳と脳を接続し、意思を回転させることで無限のエネルギーを作り出すシステム、『オリジン』は稼働をはじめました。
 人々は喜んだんだよ。
 確かに一時的に争いは無くなった。
 自分は世界を平和にすることができたのだと、オリジンは喜びました。
 混ざり合う意識の中で、彼はもはやどれが彼なのかわからなくなっていたわ。
 でも構わねえ。
 使命を果たせるのなら、世界に平和をもたらせるのなら、それでいいと。
 むしろ嬉しいぐらいだと。
 そう心の底から思っていました。



 ◇◇◇



 入学式が終わると、いきなり実力テストなんだって。
 どうしよう、私がステータスゼロの落ちこぼれってことがバレちゃう。
 でも大丈夫だよね、理事長先生がいいって言ってくれたんだもん。
 ちなみに、理事長先生はあそこで座ってる椅子!
 その横にいるペンが校長先生で、その隣で渦を巻いてるのが糞袋の先生!
 教室に入ると、もうみんなは背筋をピンと伸ばして黒板に向き合ってた。
 天井にはたくさんの穴が開いていて、そこからたくさんの目が私達を見てる。
 サボらないようにしてあるんだって、さすが都会の学校だよね。

「助けてくれっ、誰かあぁぁぁぁっ!」

 急に教室に生きた肉が入ってくる。
 どこかで見たことあるような。
 そうだ、シェフの人だ!
 確かパーティで……なんのパーティだったか忘れたけど、あそこにいた人!
 その人の後ろから追いかけてきたのが、担任であるウェルシー・マンキャシー先生。

「明かさなきゃねー、真実をねー、だって明かすのは正しいことだから、中身を見てもいい? いいんだ! ありがとう!」

 先生は斧を振り回して、シェフの人を背後から斬りつけたの。
 これでシェフさんも立派な生徒だね!
 私が拍手をしていると、先生は急に人間みたいな顔になって、なんでか教室から出て行っちゃった。

「あ……え? ウェルシー、さん? ど、どうして……っ!?」

 声が聞こえる。
 まだ足りないんだって。

「がっ……あ……ぐうぅ……!」

 オリジン様は答えてくれないの。
 どうして?
 どうして?
 どうして?



 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 名前は、ウェルシー・マンキャシー。
 享年二十四歳。
 死因は、自分で首を切ってたくさん血が出たことによる出血性ショック死です。
 痛かったでしょうね。
 残念です。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



 正しいはずでした。
 正しいはずだった。
 正しいことをしたのに、なぜこうなってしまったのかしら。
 オリジンはすげえ悩んだ。
 無限のエネルギーがあれば誰だって幸せになれるはずなのに。
 だというのに、なぜ人はそれでも争いをやめないのでしょうか。
 むしろオリジンが存在することにより、人々の争いは激化していった。
 割と好きだった故郷の街並みはボロボロになっていったわ。
 地元のゲームセンターも、学生時代に使ってたテニスコートも、いつも通ってたスーパーマーケットも、両親との思い出が詰まった実家も、みんな。
 なんで人間はそんなことをするんだよ。
 オリジンには理解できなかったのでしょう。
 だから理解できる形に変えようとして、手を伸ばしました。
 最初は一人、次に二人、次第に人数は増えていき、やがて国を一つ自分の都合で操ったところで気づいたらしい。

『人間の構造ってとても単純だ、こんな生き物が知的生命体を気取って世界を支配しているのが気に入らない』

 それでも平和にならなかったから。
 だからオリジンは、世界を滅ぼすことにしました。
 一部の優秀な人間を接続して自分に取り込んで、力を得たわ。
 人間を操ることができる、つまりオリジンとは人間より上位の存在であり、進化の先にある存在であり、なおかつ平和を願う存在――つまり自分さえ存在していれば、平和は永遠に続く。
 一人だけど一人じゃない。
 オリジンは寂しくないし、愚かな生物はこの世に存在しなくなるし、ためらう理由などなかったのです。
 殺した。
 殺しました。
 殺したんだ。
 殺したわ。
 何千人、何万人、何億人と殺して、この世からあらゆる生命を駆逐した。
 こうしてオリジンは、ついに彼の願う平和を手に入れたのです。



 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 名前は、リーチ・マンキャシー。
 死因は、飛び降りて頭をぶつけて脳みその中身が出たことです。
 享年三十二歳。
 どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
 悲しいですね。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



 星は生きている。
 このかつてαと呼ばれ、またいつかはβと呼ばれ、ある時はγと呼ばれた惑星は、幾度となく滅亡の危機を迎えてきた。
 隕石、氷河期、疫病、環境汚染。
 理由も様々だったんだって。
 オリジンは細胞の集合体でした。
 そして生命とは、星にとっての細胞に等しい存在だったんだぜ。
 だから星は生命を求めましたわ。
 小賢しくも、何度滅ぼしても、オリジンに歯向かう命を作り出したの。
 それが星の意思。
 やがてこの星に二つの生命が生まれました。
 それが今で言う、人間と魔族だった。
『お告げ』に対しての耐性をもった害虫。
 平和になった大地を這いずり回り、どんどん増えていくウイルス。
 特に人間は欲望が強く、非常に速いスピードで増えていきましたわ。
 一方で魔族は強い力と高い知能を持ち、二つの種族は力を合わせてどんどん増長しやがった。
 そして、人間の中に『勇者』と呼ばれる力を持った個体が生まれたのです。
 そしてオリジンの抵抗も虚しく、壮絶な戦いの末に、封印は成った。



 ◇◇◇



 蛇口を捻ると小さな赤ちゃんが沢山でてくるの。
 それをぎゅってすると、「ぎゃー」って言いながらたくさんの命が血を撒き散らして死んでいくのが楽しかった。
 まわりの死体はウジ虫の這いずる体でそれを口に含んでごくごくと飲んでいた。
 私は真似できなかったから悲しかったけど、腐った体の隙間から飲んだばかりの命が溢れ出していて、それがおかしくて笑っちゃった。
 学校はみんな優しい。
 試験もいつの間にか終わってて、『お前は合格だ』『贖え』『こっちにおいで』って言ってくれたからよかった。
 これで私、正真正銘の魔法学園の生徒オリジンなんだね!

 ウウウゥゥゥゥゥゥゥ――

 サイレンが鳴り響く。
 私は窓から外を見ると、赤い景色が見えた。
 燃えてる。
 火が蛇みたいに天に向かって手を伸ばしてる!
 まるで、神様ありがとう、私達を殺してくれてありがとうって言ってるみたい!



 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 名前は、ガディオ・ラスカット。
 死因は、心臓をもぐもぐ食べられたことです、美味しそうですね。
 享年三十二歳。
 彼は幸せだったんでしょうか。
 悲しい人生。
 無意味な人生。
 早く死ねばよかったのに。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



「お願いします、ご主人様っ、正気に、戻って……!」

 私も手を伸ばした。
 そのまま窓から落ちたら一緒になれると思ったのに、何かが止めてる。
 天に登る火は正しさを示す道標だ。
 だって見てよ、街ではたくさんの人が落ちて落ちて死んでる。
 まるで流れ星みたいで綺麗なのに。
 私はそうなりたいと願っている。
 いや、ちょっと違う?
 ああ、ごめんなさいオリジン様、受信ミスだったんですね。
 電波の混濁が悪い影響を及ぼしている、私は死なない、死ぬのは彼女。

「私はどうなってもいいです。でも、ご主人様は……ご主人様だけはぁっ……!」

 剣があった。
 そういえば、だ。
 今までそれをどう使っていたのかはよく思い出せないけど、正しい方法はわかる。
 だから私はそれを握った。
 それが邪魔だから、赤ちゃんみたいにしてしまおうと思ったの。



 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 名前は、ライナス・レディアンツ。
 死因は、信じていたのに滑稽にも殺されたことです。
 享年二十四歳。
 らしいですね、どこまでもつまらない人生でした。
 虚しいですね。
 喜劇は笑いましょう。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



 それから長い間、たぶん何千年も、オリジンは暗い場所に閉じ込められた。
 けれど今から五十年前に、運命は変わったんだよ。
 出会いがありましたわ。
 ディーザという男が、自らの欲望を満たすために封印を緩めたのです。
 魔王の目を盗んで。
 普通なら不可能だと思うだろ?
 でもそれは彼が先々代からまるでその家の子供のように振る舞い、信頼を得た結果だった。
 誰も彼を疑わないからねー。
 だけど、魔王はその行動を怪しいと思って、ディーザを問いただしたの。
 もちろん彼は否定しましたし、魔王も彼を信頼していたのでそのときは見逃しました。
 しかし彼は悪辣で、頭の回る男だった。
 食事作りを任せられていた彼は、毎日少しずつ、料理に毒を仕込んだんだって。
 実行犯は彼ではなかった。
 彼が開いた塾とやらで、思想に共感する魔族を少しずつ育てていたのである。
 そして魔王は体調を崩し、命を落としたんだとよ。
 死の間際に、にこりと笑うディーザの顔を見て気づいたらしいけど、後の祭り。
 あとはもう、彼の思うがままだった。
 シートゥムがあんな風に育ったのも、王国と繋がってオリジン復活のために手を貸したのも、やりたい放題。
 動機ですか? とてもくだらなくて、人間的・・・です。

『力がある者が報われないことが我慢できない』

 ただそれだけ。
 本当に、それだけのこと。
 特別な理由も、恨みも、怒りも、何もなかったんだって。
 つまりはただの、好奇心。
 普通の魔族なら、欲望を抑え込んだんだろうな。
 でも彼は普通じゃなかった。
 彼は、『人間と魔族のハーフ』だったから。
 人の欲望と、魔族の力を兼ね備えた、ハイブリットなゴミクズ。
 それがディーザという男でしたのよ。
 つまり、これが全ての顛末です。
 だからは復活に至った。
 ただそれだけのことなんだよ。
 そして、耐性を持つ人間と魔族すら取り込んだ今――怖いものはたった一つだけなんだって。



 ◇◇◇



 剣ってなんだろう。
 そう思ったときに、やっぱり人を殺すためのものなんだって思うんだよね。
 人はここにいちゃいけないってオリジン様が言ってるから。
 あれ、じゃあ私はなんなんだっけ。
 私はどうして生きてるんだろう。
 わからないけど、とりあえずやっとこう。

「あ、あぁ……ご主人、様」

 もっと怖がるかと思ったのに、泣きながら、彼女は諦めたような顔をしていた。

「そう、ですか。そうなんですね。だったら……私の命は、とうに、ご主人様に捧げたものです」

 そして両手を広げる。

「だから……奪うというのなら、どうぞ持っていってください」

 嘘偽りなく、彼女は私に命を捧げている。
 ――理解できない。
 なぜならばそれは、オリジンに存在しない概念だからだ。
 オリジンは究極の個であるがゆえに、それを知らない。

「でも、私はずっと、ご主人様の傍にいますから。たとえ死んだとしても……ずっと、一緒にいますから」

 だから私は、迷わ ずに。
 迷わずに。
 迷わずに――剣を、振り下ろした。




 ◇◇◇



 とても悲しいお知らせがあります。
 人が死にました。
 名前は、ミルキット。
 死因は、潰されたことです。
 享年十四歳。
 彼女はなんのために生まれてきたんでしょうか。
 出会いを経て生きる意味を得たようなことを言っていましたが、全て無意味でしたね。
 とても人間らしくて、私は嫌いです。
 ご冥福をお祈りします。



 ◇◇◇



 そして、とても嬉しいお知らせがあります。
 仲間が増えました。
 名前は、フラム・アプリコット。
 繋がりましょう。
 あなたは私が愛を知らないと言いましたが、それは誤りです。
 私は愛を知っています。
 愛とは交合です。
 つまり接続。
 私とあなたは接続します、これが愛です。
 なので証明します。
 一部となり、一つになり、細胞となり、それがあなたの幸福。
 ただし人間としては、そうなのかもしれませんね。
 だから、一応こう言っておきましょう。
 享年十六歳。
 ご冥福をお祈りします。





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