チート・ご都合主義いらないけどハーレムいります

平涼

第百十話 終わりの始まり

 三十六年後。

 俺は邪神を倒し、アドルフ王から多額の報酬を貰えた。他にも地位を与えると言われたが、流石に貴族になったりするとめんどくさくなりそうだったので止めておいた。

 俺が欲しいのは地位じゃなくて今は幸せな暮らしだったからだ。

 だがそれよりも俺は今日がこの世界の最後の日だ。

 昨日の夢でイルイラが出てきて、君の寿命は後一日だと教えてくれた。

 俺はこれでもまだ五十一歳でまだまだ生きるかと思ったがそうでもないらしい。その理由はイルイラに言われなくても分かってる。

 体に負担をかけ過ぎたのだろう。火魔法、その他にも無理やりゾーンに入ったりとしていたらそれはもう寿命が減るだろう。

 だけど後悔はないし、今日死ぬと言われても怖いとも思わなかった。

 この事はもちろん皆には言わなかった。だけど今日も皆は俺のお世話をしてくれている。

 俺は三カ月前ぐらいから体が思うように動かなくなった。それもあるから俺も死ぬかもしれないと思っていたのかもしれない。

 「お父さん。まだ動けないの?」

 そこには二人の女の子とエルフの男の子がいる。

 これはリリア、セシリアと俺の息子と娘だ。今年でもう十八歳になる。この二人は学校に入るのが少し遅れた方だ。

 それも最近では学校の入試が難しくなり、人口も多いのだ。殆どが貴族になる事もあるそうだ。

 因みに、女の子の名前はセラ、男の子がレオンだ。

 二人は今日は学校が休みで俺に魔法を教えて欲しいようだ。

 そうだな。一つ後悔があるとしたらこいつらともっと接してやりたかったな。

 セラとレオンはリリアとセシリアの血を受け継いでおり、美少女と美男子だ。どうやら俺の血を受け継いでいなくて良かったな。

 自分で言ってて悲しくなるから止めよう。

 「お兄ちゃんは大変なんだから駄目よ」

 そこにはもう立派な大人のココがいた。

 ココは誰とも結婚せずにこの家でアネットに変わって家事をしている。

 まあ家事と言ってもリリア達もいるから分担している。

 「大丈夫ニャ。私が見張ってるニャ」

 「私もね」

 そこには容姿が全然変わってないタマとセルミーがいた。

 こいつらも相変わらず元気だ。

 「分かってるよ!セラが様子見に来たいって言ったから見に来ただけだ!」

 レオンは少し反抗期だ。

 だがそれでも今は可愛く見える。

 すると今日はどうやらリリアがご飯の当番だったらしく持ってきてくれた。

 リリアは今では少し老けているがそれでもまだ三十歳と言っても騙せる年齢だ。

 リリアはずっと料理が下手だった。ずっと頑張っているが今でもそれは変わらない。

 「今日こそは美味しいわよ!」

 リリアは元気よく俺に食べさしてくれる。

 一応あんまり体の自由が利かないだけで食べることは出来るのだが、やると言われたので俺も嬉しいのでやらしている。

 俺がご飯を食べようとすると、皆が集まった。今家に居るのは俺、リリア、ココ、タマ、セルミ―、セラ、レオンだ。

 「.......何で皆見てるんだよ。食べにくいだろ」

 「いや、今日は本当に美味しく作れたのか見たくて」

 ココが笑顔でそういうので、

 「はあ。分かった。食べてみるよ」

 俺はリリアに食べさしてもらうとそれは、

 「美味しいよ」

 本当は今までと味は変わらない。だけどそれでも今の俺には何故か涙が出てきた。

 「何で泣いてるのよ。先生今日大丈夫?」

 「ああ。大丈夫だ。もっとくれ」

 リリアは不思議そうにしながらも美味しいと言われて嬉しいのか沢山くれる。

 何で泣いているのかすぐに分かった。俺これからもうこのリリアの料理が食べれないと思うと悲しいんだ。今までずっと腹痛に悩まされたこの料理が俺にとっては大切な料理だったんだ。

 「本当に美味しいの?」

 ココが信じられないように言うが、

 「......ああ。美味しい」

 俺は泣きながら食べさせてもらっていると、何やら玄関辺りで凄い音が聞こえてくる。

 「出来ました!ようやく出す事が出来ますよ!」

 シアが何やら本を持ちながら現れた。その後ろからマリーとセシリアも現れた。

 「どうしたんだお前達?」

 「レイこそ、どうして泣いてるんですか?」

 「......いや。何でもないから気にしないでくれ」

 俺は涙を拭いて、改めて聞いた。

 「シアが持ってる本、それ何なんだ?」

 「そうだ!聞いてください!これは皆からレイの誕生日プレゼントです!」

 おかしいぞ。俺の誕生日は先月でその時に皆からお菓子を貰った気がするんだが。

 「え?けど先月で俺貰ったよな?」

 「あれは日頃の感謝だと思ってください!実はずっと皆でこっそり作ってたんです!少し遅れてしまいましたがこれが誕生日プレゼントです」

 そう言って俺に本を渡してきた。

 「え?これ題名が『レイロード物語』って書いてあるんだけどどういうこと?」

 俺は意味が分からなかった。そこでマリーが教えてくれた。

 「レイはあの時あんだけ頑張ったのにきちんと評価されなかったじゃない?だからそれを私達で作って世の中に売ろうと思ってたの」

 そうなのだ。俺は邪神を倒したが周りからはそこまで評価は良くなかった。

 知っている人は皆俺の援護をいてくれたしこの国では正当に評価してもらったけど、他の国ではそうでもない。邪神が弱っている所で手柄を横取りしたとか噂もあったらしい。それでこれなのか。

 「レイは私達エルフの為に王にあんな事を言ってくれたしな。だが私達も本を書くのは初めてだったのでな。時間がかかったんだ」

 セシリアが申し訳なさそうに言うが、申し訳ないのは俺の方だ。

 エルフに関してはアドルフ王が誤解と言ったことで大分落ち着いたのだが、それでも全くエルフに関して大丈夫かと言えばそうでもない。

 今でも多少は皆から誤解がある。

 「いや、俺はこれだけで満足ですよ。皆が俺の為にやってくれたことが。見てもいいか?」

 「勿論よ!その為に用意したんだから!」

 リリアがそういうので俺は見せてもらった。

 その中身は文章は多少めちゃくちゃだし、誤字もあった。だけど俺にとっては今までのどの作品よりも面白かった。

 内容は俺と皆との出会い、今までどんな事を俺がしてきたのかが書かれていた。

 そして、新たな勇者『レイロード』と書かれてあった。

 作者リリア・セシリア・マリー・シアと最後に締めくくられ物語は終わっていた。

 「.......ありがとう。......本当にありがとう」

 俺は再び泣いてしまった。皆が俺の為に頑張ってきたのが本当に嬉しい。

 「ちょっと何で泣くのよ。こっちが恥ずかしいじゃない」

 マリーがそっぽを向いて言った。

 おかしいな。今日は俺何だか涙もろいかもしれない。

 「え?これ何事?」

 そこにはレイシアがいた。

 レイシアは昔のシアそっくりな美人になっている。

 「いや。ちょっとな。それよりお前今日エリック博士の所で実験じゃなかったのか?」

 俺はあれからエリック博士の所で実験の手伝いをしている時にレイシアを連れて行ったことがあるのだが、その時からレイシアは実験に興味をもち今ではエリック博士の所で働いている。

 「それがね。急に中止にするって言われて、家に戻れって言われたのよ」

 何だ。このタイミングの良さは。

 レイシアも近づいてきて、俺の本を見て、

 「ああ。これようやく出来たんだ。見てもいい?」

 そういうので俺はレイシアに本を渡した。

 「ロロとジルドがいたら皆揃ったのにね」

 ココがそう呟くがしょうがない。

 「あいつらも忙しいんだろ」

 ロロはもう一般の平民と結婚しており、今では息子も生まれたそうだ。ジルドはアランの所で次の剣聖と呼ばれている。

 ほんと皆凄いよな。そう思っていると、何だか突然眠くなってきた。

 これはもうここまでか。俺はそう思ったら精一杯力を振り絞り起き上がって、

 「ちょっと先生大丈夫!?」

 リリアが支えようとするが俺はそれを大丈夫と返し、レオンに抱きついた。

 「おい!急になんだよ!」

 「レイ!?どうしたんだ!?」

 レオンもセシリアも驚いたような表情をして叫ぶが、俺はもう最後にすることを決めた。

 「お前は今後皆を守っていく存在になるんだ。頑張れよ」

 皆に最後言わないといけない事を言う。

 「......言われなくても任せとけよ」

 「そうか」

 俺はレオンから離れ次にセラに抱きつく。ここで皆もどうやら察したのかじっと何も言わず眺めていた。

 「セラはお母さんを怒らせるなよ。容赦ないからな」

 「......もう身に染みたわ」

 「ならいい。これからレオンが何かやらかさないように見張っててくれ」

 俺はそう言って次にセルミ―に抱きつき、

 「お前はこれからもこの家族を精霊の力で守ってくれ」

 「任せない」

 「ああ。お前に任せるぞ」

 俺はそう言ってタマに抱きついた。

 「タマは俺にとって大切な存在だ。そしてこの家族にも必要な存在だ。だからこれからもこの家族の相手をしてくれよ?」

 「ご主人様の命令なら仕方ないニャ」

 そっぽを向きながらそう言った。

 「おう。頼むぞ」

 次にココに抱きつき、

 「ココは今の生活に満足しているのかもしれないけどもし結婚したくなったらいつでもしていいんだからな」

 「分かってる。けど結婚はする気はないの」

 「そうか。なら後悔だけはするなよ」

 俺はそう言って、次にレイシアに抱きつき、

 「お前は巫女の事を気にして結婚しないのかもしれないけどそれを気にする必要は無いからな?」

 「.......知ってたの?」

 レイシアは驚いた表情をしている気がする。

 「当たり前だ。俺はお前の親父だからな」

 そう言って次はシアだ。

 「シアは美人でしっかり者だ。誰かが間違いをしそうになったら頼むな」

 「任せて下さい。けどこの家族に間違いを起こす人はいませんよ」

 「確かにその通りだな」

 俺達は二人で笑い合い、次はマリーだ。

 「お前は不器用だが、それでも優しい。その優しさで誰かが落ち込んでいた時に助けてやってくれ。あの時の俺みたいに」

 「......あんなんでいいなら任せなさい。ていうかそんな事今言わないでよ」

 悪いな。本当に。今しか言うことが出来ないんだ。

 「すまないな。けど何だか今言わないといけない気がしたんだ」

 次はセシリアに抱きつく。

 「セシリアはこの中で一番長く生きると思う。だからもし他にいい男がいたらその人と結婚してもいいからな?」

 「馬鹿を言うな。私はお前以外と結婚する気はない」

 「そう言ってくれると嬉しいよ」

 正直に言えばセシリアが他の人と結婚する所なんて想像したくも無かった。だから嬉しい。

 最後はリリアなのだが抱きつこうと思ったら逆に抱きつかれた。

 「リリア?どうした?」

 リリアは耳元で、俺にしか聞こえない音量で、

 「今日死ぬんでしょ?先生」

 俺はその言葉でドキっとしてしまった。確かに今までの行動を振り返ればそう捉えてもおかしくはない。だけどリリアは今確信をもって言ったのだ。

 「......何で知ってるんだ?」

 「分からない。だけど何でだろう。分かるの」

 俺がそこで一つ思いつくのはリリアは冥王の力が使え死者を使役する。それで分かったのかも知れない。

 「ああ。そうか。ごめんな。俺もう今日までらしいんだ」

 「いやよ。先生が今死ぬなら私も」

 俺はその続きを言わせなかった。

 「リリア。俺はお前と出会えて付き合えてよかった。そしてお前との間に娘も生まれたんだ。その娘をほったからしにしないで欲しい。お前が両親がいない辛さを一番知っているだろう?」

 「だけど。.....けど私は先生がいないとつまらないわ」

 「そう言ってくれるのは嬉しいよ。だけど俺もお前がいないとつまらない。あんな破天荒もみれないし、美味しい料理も食べれない。けどさ、それは俺以外の皆が思ってると思うんだ。皆リリアがいなかったらつまらないし、さみしいって思う筈だ。だからこれからはお前が家族の中心として見守ってくれないか?」

 「......分かった」

 リリアは最後には頷いてくれた。

 俺もそろそろ眠くてやばい。

 ベットに倒れ、最後に皆に俺は、

 「今までありがとう」

 俺は五十一歳という短い生涯を終えた。


 「.......きて。起きて!起きろ!」

 「痛えよ!」

 俺は目を覚ますとそこには、イルイラがいて、

 「あっ!思い出した!」

 そこでようやくここにいたことを思い出した。

 「思い出したか。久しぶりだな。赤江樹」

 「ほんとだよ。この場所がバレたらいけないのかもしれないけどさ。それでもあんな最後に言わなくてもいいだろ。それでこれからその『魔法世界』に行くのか?」

 俺は目の前にいる大神に聞いた。

 「そのつもりだが、まだ一つ残しておいた事があるだろ?」

 「は?残した事?」

 俺はもう皆に言いたいことは言った筈だ。

 それより俺いつの間に動けるようになってるんだよ。しかもこの体十五ぐらいじゃね?ほんと大神て規格外だな。

 「そうだ。そこからもう目を背けてはいけない。今から場所を移す。そしてその場所の後ろには扉がある。全て言いたいことを言ったらその扉をくぐれ。そこから魔法世界に行ける」

 「はあ。分かった」

 「では後ほどな」

 大神が指を鳴らすと突然景色が変わる。

 「......これって」

 俺はその光景を見てすぐに分かった。

 日本での俺の葬式だ。

 大神の言う通りだ。俺はずっとこっちの事は考えないようにしていた。

 俺の写真があり、その目の前では蹲って両親が泣いていた。

 「......ごめん。俺二人に何にもしてやれなかったな」

 公立校に入学させてあげる為に俺を塾に入れてくれたり、色々と世話になったし、心配もかけてきたのに俺は何もしてあげられなかった。

 俺は日本では親父をお父さんと呼び、母をお母さんと呼んでいた。

 異世界での親を心で親父、母と呼んでいたのはこっちの世界の親を忘れない為だった。けどいつしかこっちの事は考えないように決めていた。

 こちらの声は聞こえないのだろう。だけど言っておかなきゃならない。

 「俺さ、この世界に来てもの凄い充実した毎日を過ごしたんだ。彼女も出来たんだ。四人も。お父さんもお母さんも不誠実って言うかもしれないけどそれでもさ皆いい奴でさ、こんな不誠実な俺を受け入れてくれたんだ。それに師匠っていう俺の尊敬できる人にも出会えたんだ。結局俺は誰にも恩返しは出来なかったけど、それでも俺はこの世界で夢を叶えることも出来たんだ。本当に幸せだった。迷惑もかけて親孝行出来なかったけどさ俺ほんとにこの世界に来てよかったと思ってるんだ」

 俺はそこで一つ深呼吸をして、

 「だからさ心配しなくて二人で幸せに生きてくれよ」

 俺は言いたい事は全部言った。

 後ろを振り返ると、そこには一つの扉があった。

 俺はそれに向かって歩いて扉を開くと、

 「「良かったな(ね)」」

 後ろから、二人の声が聞こえた気がした。気のせいじゃないのかもしれない。

 だけど俺は後ろを振り返らず、

 「これからも頑張るよ」

 次なる世界を目指し俺は扉をくぐるのだった。
【完】

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