Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

13.

20×7年現在

「っていう、訳なんだけど・・・」
他の四人の様子をうかがう。やはり少し重たい空気になってしまったのは承知の上だが、特に心奈は複雑そうな顔をしていた。
「なるほどねぇ。そりゃあ陽子が裕人君を好きになるのも無理ないね」
美帆が・・・食べ飽きないのか、リンゴケーキを口に運んだ。
「で?その十字架のキーホルダーって、それ?」
ふと、香苗が西村の胸元を指差した。
「ん?うん、そうだよ。ちょっと改造して、ネックレスにしたの」
「へぇ。いつもなんか、女の子らしくないもの付けてるなぁとは思ってたけど、そういうことだったんだ」
西村の胸元では、その日彼に貰った十字架が、当時以上に鈍い輝きを放っている。それでもこのネックレスは、彼の想いがこもった、大切な一品だ。
「で、告白は私達が思っていた以上に大成功だったわけね」
「まぁ・・・そうだね。まさかヒロ君が、デートに誘ってくれるなんて思ってもなかったから」
「それで卒業式の日、ヒロはずっと陽子に付きっ切りだった訳かぁ。あの時は、ちょっとだけ寂しかったなぁ」
心奈がコップに入ったリンゴジュースを一口飲んだ。
「まぁ、その時がそうでも、今のヒロ君は心奈の彼氏。私はもう、関係ないもん」
両手を後ろの床に置く。とは言ったものの、こちらとて複雑な気持ちなのだ。西村は、天井を仰いだ。
「そうそう。それで心奈、最近はなんかあった?」
美帆が彼女に問う。
「最近?うーん。というか、先週ヒロの家行ったきりほとんど話してないなぁ。なんか、『部活が大変でー』とか言ってさぁ。急に部活に熱入っちゃったらしくて、電話かけても構ってくれないんだよね」
心奈がため息を吐く。
彼女のようなタイプは、少しでも好きなものが欠けると落ち込むタイプだ。無理もあるまい。
「裕人君、フットサルだっけ?」
「うん。大会にも出られない部活だったんだけど、六月までにメンバーが揃わないと廃部なんだって。そしたらなんか、急にやる気になっちゃって。だったらなんで今までやる気出さなかったのって話なんだけど」
「まぁ、メンバーもメンバーだから仕方ないか」と、言葉に付け加えると、再び心奈がため息を吐いた。どうやら、向こうのチームも訳ありのようだ。
「まぁ、カップルの最初の壁ってやつだね。会いたかったり、話したかったりしても、それがどうしてもできなくて辛いやつ。我慢するしかないよ」
「はぁ。うん、そうだ・・・美帆、もしかして全部食べた?」
モグモグと口を動かしながら話す美帆に、テーブルを二度見して思わず心奈が聞いた。
「え?うん、食べたよ?」
「えぇーー!?」
気が付くと、ワンホールケーキが一つ丸ごと、テーブルから消え去っていた。どうやら、西村が話している最中に、ほとんど食べてしまっていたらしい。
「美帆、よくそれで太らないよね・・・」
南口が絶句する。従姉妹どうしでも、そこらへんの体質は違うようだ。
「えへへ、まぁしっかりと運動はしてるからね。土日は、朝起きたら一時間、ジョギングしてるんだ。その他にも色々やってるし」
「へ、へぇ・・・知らなかった」
―いや、それでも消費しきれないカロリー絶対取ってるよね?明らかに取ってるよね?
一同納得いかない様子で、一人微笑む美帆にただただ渋い笑みを返した。
「まぁ、その話はいいんだけど。とりあえず、裕人君と心奈はひとまずそれで置いといて。今度私が一番心配なのは・・・」
表情を一変させると、美帆がチラッと彼女を見る。
「・・・私?」
「うん。玲奈、和樹君と今どうなの?」
次に美帆が目をつけたのは、南口と中田のようだ。西村は事情を知らないが、どうやら何かあったらしい。
「どうなのって・・・私は別に、いつも通りだよ?」
彼女が微笑む。
「本当に?」
「うん。特に中田君に不満もないし、大丈夫だよ」
「ふーん・・・じゃあ、玲奈に一つだけ言っておくよ」
「え、美帆?」
ふと、心奈が美帆の言葉を聞き尋ねる。どうやら、心奈は事情を知っているようだ。
美帆は心奈に微笑むと、南口に目の色を変えて言った。
「和樹君、今別の女の子と仲良くしてるって知ってる?」
「・・・え?」
南口が驚く。どうやら、彼女は何も知らなかったらしい。突然告げられた話に、彼女は口をぽっかりと開けていた。
「相手は部活のマネージャー。二月のバレンタインの日に告白されたらしくて、それ以来だいぶ仲良くなったみたい」
「・・・それ、誰から聞いたの?」
「和樹君から直接」
「・・・そっか」
美帆の唐突な話題に、再び一同に重い空気が走る。南口は俯いたまま、何やら考え込んでいた。
怒ったり、泣いてしまうかとも西村は思った。だが、彼女は意外にも違う反応を見せた。
「まぁ・・・中田君らしいんじゃないかな」
南口は、何故か嬉しそうに笑ったのだ。その反応に、一同は再び驚愕する。
「だって、中田君に告白したのは私のほうだし。私は中田君が好きだけど、中田君がもし私に飽きちゃったり、嫌いになっちゃったのなら、それはそれで仕方ないと思うんだ。私は付き合って欲しいってお願いした立場だから、何も言えないよ」
「・・・玲奈、それは違う・・・」
「分かってるよ!!」
美帆の言葉を、らしくない様子で南口が叫び遮った。
「でも、私は中田君がそうなら、それでいいの。別に怒ったりはしない。興味が無くなったのなら仕方ない。っていうか、そもそも私なんかに、何年も彼女として付き合ってくれたんだ。それだけで、私は感謝してる。私は、それだけで満足だから・・・」
南口が言い終わったタイミングで、ふと誰かのスマートフォンが鳴った。それは場の空気を読まない、南口への電話だった。
「・・・ごめんね、ちょっと部屋出る」
「あ、うん・・・」
バタンと扉が閉められると、一同は静寂した。誰も口を開かず、顔を見合わせず、ただただそこに居座っていた。
―玲奈も・・・大変なんだな。
西村は重い空気の中、彼女らしい答えに胸を痛めた。

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