Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.2

3月上旬 木曜日

―来週で卒業式。早くヒロ君に、告白・・・しなきゃ。
来週に行われる卒業式の練習も着々と進む中、西村は焦っていた。
南口には、「陽子のやりたいようにやればいいよ」と言われてしまった。あれだけ言っておいて、手伝ってくれる気はないらしい。その分自由にできるが気が重い。
心奈にもまだ、この気持ちを伝えていない。早くしないと、全てが後悔となってしまう。急がなくては。
「それじゃ、みんな。今日はここまでだ。気をつけて帰れよー」
「さようならー」「さようならー!!」
担任の加倉井先生による帰りの会が終わり、日直の号令で解散となる。やるとしたら・・・今日か明日しかない。
「陽子ー!」
「っ!」
「帰ろ?」
自分に寄ってきた心奈が、いつもの可愛らしい笑顔で微笑む。まったく、彼と仲良くなってから、本当によく笑うようになったものだ。ほんの一年前までは、ずっと周りを怖がって、自分や南口の後ろにくっ付いていたくせに。
「そうだね・・・帰ろっか」
「じゃあなー!西村!明月!」
「またね、二人とも」
中田と裕人が、こちらに声を掛けながらさっさと教室を出ていってしまった。心奈はそれに、笑顔で手を振っている。
―あっ・・・帰っちゃった・・・。仕方ない、今日は心奈に伝えよう・・・。
どうせいずれ、明日か来週には話すのだ。できるだけ早いほうがいいだろう。
「私達も行こう?」
教室には既に、掃除当番と自分たちだけになってしまった。心奈が、早くしようと急かす。
「うん・・・。あの、心奈?」
「ん?なぁに?」
「その・・・これから、大事な話がしたいの。だから、少しゆっくり話せる場所に行こうよ」
「大事な話・・・?うん、分かったよ・・・?」
心奈が首を傾げながら頷く。
西村は心奈を連れて、学校を出てから十分程先にある、駅前の公園へと向かった。この辺でゆっくりと話せる場所といったら、ここしか思い浮かばなかったのだ。
「でね?ヒロったら『え、カナダってアメリカの一つじゃないの?だって北アメリカでしょ?』って言ったの!ホントバカだよねー」
「あはは・・・そうだね」
声色を変えながら、彼女が裕人の真似をする。これから大事な話をするというのに、こんな彼女を西村は壊したくなかった。
「着いた、ここでいっか。そこに座ろ?」
公園のベンチに座る。お互いに背負っていたランドセルを隣に置くと、先に心奈が口を開いた。
「それで、大事な話って?」
「え?ああうん・・・その・・・」
唾を飲み込む。ダメだ、ここで躊躇っても、いずれ彼女は知ることになるんだ。今言わないでいつ言う?
地面を見ながら、西村はその言葉を口にした。
「・・・卒業したら、引っ越すことになった」
「・・・・・・・・・へ?」
「お母さんの妹がね、病気になっちゃって。それで、看病しないといけないから、引っ越すんだって」
チラッと横目で彼女を見る。彼女は大きく目を見開いて、口を開けていた。
「嘘だよね?」
「・・・こんな嘘、私が心奈につくと思う?」
「嘘だ・・・っ!ねぇ陽子!嘘なんでしょ?私達、友達だよね?ねぇ!嘘って言ってよ!ずっと一緒にいたじゃん!」
彼女が西村の肩を揺する。やめてくれ、一番嘘だと信じたいのは、こっちなのだから。
「私だって嫌だよ!ずっと一緒にいた心奈と別れるなんて!!」
叫んだ。彼女はそのまま、スッと手を離す。
「それだけじゃないよ。中田君や玲奈や、ヒロ君とだって、もっと沢山思い出を作りたかった!みんなと同じ中学校に行きたかった!でも、仕方がないの。お姉ちゃんの為だから・・・」
「・・・嘘じゃ、ないんだね?」
「・・・うん」
落ち着いた心奈が、改めて問う。西村は小さく頷いた。
「そっか・・・。悲しく、なるね」
彼女が自身の肩を揺らす。きっと、我慢しているのだろう。こんな時くらい、泣いてくれたほうがこちらの気も楽なのに、どうして我慢するんだ。
「それから・・・その・・・ずっと、心奈には黙ってたんだけど・・・」
彼女がこちらを向く。「まだ何かあるのか?」と言いたげだ。
「・・・私ね?五年生の時から・・・ずっと、ヒロ君が好きだったの」
「好き?ヒロを?」
「うん・・・。でも、心奈がヒロ君の事を『カッコいい』って言ってから、ずっと我慢してた。心奈をそんな目で見たくなかったから・・・」
例え言ってしまったのなら、自分は彼女を、恋敵として見てしまうだろう。それが嫌で、ずっと想いを黙っていた。
だが、次の言葉に緊張していた西村が予想もしていなかった一言を、彼女は次に告げた。
「・・・私さ。その『好き』って気持ち、よく分からないんだ」
「へ・・・?」
彼女が泣きそうな目で微笑む。空を仰いだまま、そのまま続けた。
「確かに、ヒロは好きだよ?でも、それはなんか・・・家族みたいな、そんな感じなの。『男の子だから好き』じゃなくて、『ヒロだから好き』って言うのかな?」
彼女がこちらを向く。
「陽子は、どっちの好き?」
「私は・・・『男の子だから好き』・・・かな」
「そっかぁ。羨ましいなぁ。私も早く、『好き』って気持ち覚えないと」
彼女が微笑んだ。
西村は驚いていた。ずっと、彼女は彼をそんな気持ちで見ているのだと思っていた。だが、それは自分の思い違いだったようだ。彼女はずっと、「彼を」好きなのではなく、「彼だから」好きだったのだ。幼稚園からの親友だというのに、それを分かっていなかった自分が情けない。そうだとしたら、もっと早くこの気持ちを彼女に伝えるべきだった。
ふふっと笑うと、西村は次に言った。
「心奈。さっきも言ったけど、私は卒業したら引っ越しちゃうの」
そう告げると、再び彼女は表情を曇らせた。
「だからね?私、ヒロ君にその『好き』って気持ち、伝えようと思うんだ。一緒に・・・手伝って、くれないかな?」
彼女が少しばかり俯き黙り込む。十秒ほど答えを待っていると、笑みを浮かべ彼女は口を開いた。
「当たり前じゃん・・・私達、友達でしょ?」
「っ!心奈・・・」
彼女が西村の手を握る。その手はとても暖かくて、心地よかった。
「絶対、伝えようね?ヒロに、その『好き』って気持ち」
「うん・・・うんっ!」
西村は親友の心奈に、思い切り頷き微笑んだ。

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