Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

7.

「なぁ、頼むよ。今まで一緒にやってきただろう?」
「だから、何度も言わせるなよ。俺たちはあいつとはやらねぇ」
宇佐美がこちらを睨みつけて否定した。
次の日。遅からず俺は彼らに話を持ち掛けてみたものの、やはり彼らの答えは変わってなどいなかった。
「お前はいいのかよ?あんなやつが監督で?」
机に座っている石明が問うた。
「確かに、監督としての知識は無いし、直接的に俺たちを鍛えてくれるわけではないかもしれないけど・・・それでも昨日、あの先生と一緒に練習して、なんとなくやっていけそうな気がしたんだ」
「その根拠は?」
「根拠・・・。まず、安村先生のあの性格かな。なんとなくだけど、あの人に付いていけば、なんとかなるような気がするんだ」
「へっ、そんなマンガみたいな話・・・」
宇佐美が鼻で笑う。
「それだけじゃない。あの人の観察力とか分析力は、ただモノじゃない。俺のドリブルを一度見ただけで、自分が気がつかなかった弱点も見つけてくれたし。それにあの人、これからの練習メニューを考える為に、メモ帳にいちいちメモしてたんだ。やる気がない人が、そこまですると思うか?」
「ふん、どうだか・・・」
宇佐美が椅子にふんぞり返る。これだけ言っても、彼らの心は微動だにしていないようだ。
他に何か、かける言葉は無いか。俺は必死に考えを巡らせていた。
「お、いたいた。おーい、裕人」
「安村先生?」
ふと振り向くと、青のジャージ姿をした安村先生が、教室の前で俺に手を振っていた。呼ばれるまま、急いで彼の元へと向かう。
「今日の放課後。多分、六時過ぎくらいになっちゃうかもしれないんだけど、空いてるか?」
「え?えぇ。まぁ、平気ですけど」
「じゃあ、ちょっくら車で、河川敷のほうまで行かないか?晩飯、奢るからさ」
「そ、そんな。っていうか、先生も新任なんですから、色々大変なんじゃないんですか?」
「ああ、もちろん。でも、それはそれ。確かに授業も大切だけど、今一番俺がやりたいことは、お前たちとのフットサルなんだ」
「ほら」小さく彼は呟くと、俺だけに見えるように、自分の手に持っている物を見せた。彼は「フットサル入門」という分厚い本を一冊、手に持っていた。
「お、おお。そこまでですか・・・分かりました、じゃあ、どこかで暇でも潰して待ってます」
「サンキュー。・・・よかったら、お前たちもどうだ?晩飯奢るぞ?」
教室の奥で、こちらの様子をまじまじと伺っている宇佐美と石明に、安村が声をかけた。
「ご遠慮します。目障りなんで帰ってください」
石明が何かを言いたそうにしていたが、それよりも早く宇佐美が、きっぱりと言い張った。
「・・・そうか。なら、いいんだ。それじゃあ、また後でな」
「あ、はい」
彼は少し悲しそうな目をすると、廊下を歩いて行った。

午後七時前
「いやぁ、悪いな。だいぶ待たせちゃって」
だいぶ外は暗くなり、街灯の明かりがまぶしく見える時間帯。彼はようやく校舎から、姿を現した。
「平気ですよ。暇つぶしは、慣れてるんで」
スマートフォンの画面を切ると、俺は彼を向いた。
「誰かと、喋ってたのか?」
「えぇ。一応・・・彼女と」
「お、そうか。仲良いんだな、羨ましい」
「まぁ、それなりにやってます」
「いいことじゃないか。さて、じゃあ行くか」
「はい!」
四人乗りの青いスポーツカーに俺たちは乗り込むと、十数分程かけて、河川敷へと向かった。
「裕人たち三人は、どこで知り合ったんだ?」
彼が問うた。
「宇佐美とは、中学からの仲なんです。といっても、ちょっと訳ありで仲良くなったんですけど。石明は、高校で知り合いました」
「へぇ。訳ありとは気になるね」
「まぁ・・・話せばだいぶ長くなるんですけど」
「そっか。じゃあ、時間がある時にでも聞かせてよ。今はまだ、話づらいとも思うし」
「そう、ですね。そのうち話します」
ようやく河川敷へとたどり着いた。車の中でジャージに着替えると、街頭だけが頼りの暗い夜の中、俺たちの練習はスタートした。
「さて、それじゃあまずは・・・ドリブルかな」
彼は小さいコーンを、適当にクネクネとした形で置いていく。
「とりあえず、これをなるべく素早くできるように。芝生の上だから、思いっきりやっていいぞ?俺も一緒にやるからさ」
「分かりました!」
彼と順番ずつ、コーンを避けるようにドリブルをしていく。やはりコンクリートであるテニスコートと違い、全くボールを蹴る感覚が違う。やっていくうちに足が狂うことへの恐怖心は徐々に薄れ、楽しくなってきた。
「いいね、その調子だ」
「先生もだいぶ上手くなってるじゃないですか」
「はは、そうかい?やっぱり、スポーツはどれをやってても楽しいね」
二十分程ドリブルの練習をしたのち、彼が最後のコーンを抜け終えて、ボールを手に持った。
「さて、少し休憩しよう。五分後に再開だ。今度は少し、コースを複雑にしてみようか」
「分かりました!」
ふぅっと一息をつき、買っておいたペットボトルのスポーツ飲料水を飲む。熱くなった体に、冷たい水が体の中に入る感覚が気持ちいい。
「・・・で、そろそろ出てきたらどうだ?」
ふと、安村がコーンを並べながらぼやいた。
「ん?どうしたんですか?」
「いや?ずっと俺たちを見ている人がいてね。裕人は、気がつかなかった?」
「へ?ぜ、全然」
奥の低木のほうで、ガサゴソと音がする。そこから黒い影が出てくると、それはこちらへと向かってきた。
「よう、真。一緒にやるか?」
「石明!」
そこには、石明が少し照れ臭そうに、眼鏡を直しながら立っていた。
「まぁ、なんだ。やっぱりなんだかんだ、見てみたくなってさ。チャリで来てみたんだ。そしたらなんか、楽しそうに練習してるからよ・・・」
もじもじと話す石明を見て安村はニヤッと笑うと、彼にボールをポイッと投げた。
「お前もやろうぜ。そして一緒に大会を目指そう。な?」
石明はジッとボールを見つめると、そのまま地面に置き、足で踏んだ。
「・・・ま、まぁ。暇つぶしくらいになら、やってもいいけどさ」
「はは、それでもいいよ。よぅし!じゃあ、真も加わったし、一緒に頑張っていこう!」
「はいっ!」
俺は彼の掛け声に、力いっぱいの返事をした。

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