Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

6.

一方

少女は美帆と共に病院を出た。
「気持ちが決まったら教えてね。私が裕人君に伝えるから」
「うぅ・・・なんだかそう言われると、複雑な気持ち。どう言えばいいんだろう」
「ふふ、まぁそんなものだよ。久しぶりに会う気持ちって」
美帆は楽しそうに笑った。
「そうだ。しばらく家に一人なんだよね?一人で寂しかったら、今度ウチに泊まりに来なよ。心奈なら、大歓迎だから」
「本当に?ありがとう。それじゃあ、今度行こうかな」
そんな話をしていると、二人は駅前の交差点前に出た。
「さて、それじゃあ私は駅の反対側だから、ここで失礼するね」
「うん。本当に、色々ありがとう。助かったよ」
「それじゃあ・・・って、あれ?」
ふと、美帆が左を向きながら声を上げた。その途端、何やら嬉しそうに笑った。
「・・・心奈。左は見ないほうがいいかもよ?」
「へ?どうして?」
少女からは、左側は塀があり、全く見ることができない。一体何があるのか、凄く気になった。
「ふふ、ちょっと予定が変わっちゃった。じゃ、バイバイ」
「え、ちょ、ちょっと!」
彼女は適当に手を振ると、すぐに駅とは逆方向の左へと曲がっていってしまった。
―見ないほうがいい?もしかして・・・。
嫌な考えが過ぎる。まさかとは思ったものの、その考えを一旦否定した。
少女は恐る恐る塀に体を近づけながら、道の左側を覗き見た。
「あれ?ヒロト君?」
「えっ・・・?」
奥で美帆の声が聞こえた。
あと少しで見えるというところで、咄嗟に顔を引っ込める。
―ヒロト君?ヒロト・・・裕人?もしかして真田裕人?ヒロなの?
「ん、宝木。どうした?」
「っ!」
急激に胸が高鳴る。
ずっと、数年間聞きたかった声が、久々に耳に入る。奥からは美帆とそれとの会話が聞こえてきた。
―嫌だ・・・見たくない。でも・・・。
「会いたい」
気持ちが葛藤する。気持ちでは思っていても、頭と体が矛盾する。
本当なら、今すぐそれの前まで行きたい。だが、体が動いてくれやしない。
彼に会いたい。でも、彼の顔を見たくない。見るのが怖い。見たらまた、何かをされてしまうのではないか?
そんな訳ないだろう。現に、美帆が楽しそうに話している。西村だってそれと話した。だったら自分だって・・・。
岩のように固くなった体を、ゆっくりと動かす。あと十センチ。五センチ。三センチ・・・。
少女はやっとの思いで、塀から顔を少し出した。
「っ!ヒロ・・・」
その横顔が目に入った。身長は昔より伸び、髪型もだいぶ変わっているが、それでもそれが、昔大好きだった、真田裕人だとすぐに分かった。
心臓がバクバクと鼓動する。嬉しさもあったが、恐怖もあった。いや、寧ろ恐怖のほうが大きいのかもしれない。
彼自身が愛すべき存在であり、トラウマでもある。それが今、ハッキリと分かった。
何故だろう。一度は「大切なもの」であったあの笑顔が、今では「恐怖」にまで成り下がってしまった理由わけは。
その温かくも冷たい笑みを浮かべる彼は、現在いま美帆と楽しそうに話している。
―私は・・・。
思考が交差する。だが、いくら悩んでも答えが出ない。
本当に、自分は彼と再び仲良くなりたいのか?それとも本当に、ただただ忘れ去りたいのか?
彼の笑顔が恐怖である以上、彼の前に立つことはできない。
一体、どうすれば・・・。
少女は悩んだ。悩んでいた。ただひたすらに、悩んでいた。
しばらくして気がつくと少女は、その場から逃げ去っていることに気がついた。
―また、逃げてしまった。
深々とため息を吐くと、少女はそのまま、独りで家へと帰ったのだった。

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