Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

5.

20×7年現代 3月初週の日曜日

「それで、宇佐美君と佐口さんと仲良くなったの?」
西村が問うた。
「ああ。あいつら、二学期になった途端に面倒くさくなるくらい話しかけてきてさ。本当は誰とも話したくなかったんだけど、気がついたら仲良くなっててさ」
「ふふ、なんかあるよね。そういうこと」
「おかげで面倒ごとが増えたよ。まぁその分、残りの中学生活もそれなりに過ごせたんだけどさ」
俺はベンチから立ち上がると、大きく伸びをした。
「さて、すっかり話し込んじまった。そろそろ行くか」
「・・・本当だ。そうだね、行こうか」
西村はスマートフォンで時間を確認すると、ヒョコヒョコと俺の後を付いてきた。
「そういえば心奈、中学生の間どうしてたんだろうね?一度も来てなかったんでしょ?」
「ああ。なんか中田が言ってたな。まぁ、高校に入れてるんだ。通信制の学校にでも通ってたんじゃねぇの?」
「言われてみれば。美帆の通ってる高校、偏差値が六十いくつか・・・そのくらい高いはずだよ。そこに通ってるってことは、それなりに勉強してたってことだよね」
「は?マジかよ。俺のとこ、四十ねぇよ・・・」
知らない間に、学力面ではだいぶ差をつけられてしまっていたみたいだ。昔は英語以外できないそれなりの女の子だったくせに。
まぁ、不登校になっている間に勉強ばかりしていたのだろう。彼女の性格を考えれば、なんとなく想像できる。
「嘘!?私でも五十ちょっとの高校だよ?ヒロ君って、その・・・そんなに頭悪かったっけ?」
「いやぁ・・・宇佐美達と仲良くなってから、勉強しなくなったと言いますか。バスケ部時代は、監督が監督だったから、勉強せざるを得なかったんだけど、やめた途端にこれだからさ」
「あぁ・・・なるほどね。ヒロ君なら納得」
「おい?それはどういう意味だ?」
「そのまんま」
西村が苦笑いを浮かべた。
「そう考えると、心奈凄いね。だいぶ勉強頑張ってる」
「将来英語教師になるとか言ってたもんなぁ。きっとそのせいでもあるんだろ」
「え?英語教師?心奈が?」
「あれ?知らなかったのか?」
意外という表情で、西村が首を振った。
昔親友だった西村でさえ知らなかったとなると・・・多分、俺しか知らないのかもしれない。
「心奈が英語教師かぁ。でも、面倒見がいい心奈なら上手くやっていけそう」
「そうかぁ?生徒たちにいじられて、授業が進まなくなりそうだけど」
「でも心奈の事だから、テストは凄く難しく作りそうじゃない?」
「ああ、それはあり得るな」
俺達は二人して笑い合った。
「西村は、何か将来やりたいことあるのか?」
「私?うーん・・・まだハッキリしないけど。でも、音楽には関わりたいなぁって思ってる」
「ああ。ジャズバンドやってるもんな。そういえば動画で見たよ、大会の様子。人数少なくても、いい演奏ってできるんだな」
「へぇ、見たんだ。ちょっと恥ずかしけど・・・そうだね。楽器のリズムを合わせれば、どんなに演奏者が少なくても音楽はできる。音楽は、聴く人を楽しませたり、リラックスさせたりもできるし、演奏してる本人たちも楽しい。そして何より音楽は、世界の人たちも共通して楽しむことができる。そう考えると、音楽って凄いよね」
西村が楽しそうに微笑んだ。
「よっぽど好きなんだな、音楽」
「うん、好きだよ。私たちの音楽で、もっと沢山の人たちが楽しんでくれたらいいなって思ってる」
「そうか・・・」
「そういうヒロ君は、何かやりたいことあるの?」
「俺か?・・・いや、特にないんだよな。今までずっと、ただ遊びながら生きてきたから、特別得意なこともないし、好きなこともないし」
「バスケとか、フットサルはどうなの?」
「うーん。バスケも結局、中田とのコンビネーションがよかっただけだしな。フットサルだって、大会に出たことないから、実際の自分たちの実力は分からないしさ。上手いのか、下手なのか分からんし」
正直なところ、遊び呆けて過ごせるのなら、それが一番だと考えてしまっている。その時点で特に夢もなく、やりたいことが無いと言っているのと同じであろう。
「ふーん・・・。まぁ、やりたいことが見つかればいいね」
「そうだなぁ・・・」
それからすっかり会話も冷めきってしまったまま、俺たちは駅へとたどり着いた。
「それじゃあ、私は電車だから」
「おう、気をつけてな」
「また今度ね」
「あいよ」
俺は改札口前で西村と別れると、駅の反対口に出た。
駅前の公園の前に来る。夕方時になったこの時間は既に、遊んでいる子供たちはいなかった。
―ここは・・・色々思い出があるな。
七夕の日に彼女と話したり。小さい頃は中田と遊んだり。・・・そういえば、ここで西村とも話したんだっけ。
ある意味ここは、俺の思い出の場所の一つなのかもしれない。
「あれ?裕人君?」
ふと、どこかで聞いたような声が聞こえた。
声のほうを向くと、昼間にも見た美帆が手を振りながら立っていた。
「ん、宝木。どうした?」
「ちょっと病院に、知り合いのお見舞いに行ってたの。その帰り」
「そうか」
美帆は裕人の前まで来ると、公園を見た。
「公園のこと見てたの?なんだかボーっと突っ立ってたから」
「ん、ああ。昔、色々ここであったなぁって思ってさ」
「ふーん。それって・・・心奈と?」
「えっ・・・まぁ」
「ふふっ、やっぱり。裕人君もなんだかんだ、心奈と会いたいんだね」
彼女は楽しそうに微笑むと、公園の中に入った。
「ねぇ、裕人君。今から心奈と会う?」
「・・・は?お前、何言ってんだ?」
心奈。その単語を聞くたびに、懐かしい感情が蘇る。
胸が締め付けられるような。それでもなんだか温かくて、ちょっとだけ嬉しくなる。
「ふふ、冗談」
「なんだよ・・・ビックリした。てっきり近くにいるのかと思ったわ」
彼女はブランコに座ると、子供のように漕ぎ始めた。その姿はまるで、動物の子供を見ているようで愛らしい。
「わぁ、ブランコって乗るのいつぶりだろう?凄く小さく感じるなぁ。裕人君も乗ってみる?」
「ああ?いや、俺はいいよ」
「そう?楽しいけどなぁ」
彼女は大きく揺れるブランコに乗りながら、続けて言った。
「ねぇ裕人君」
「なんだ?」
「心奈を切ったこと・・・本気で謝りたいと思う?」
「そりゃあ・・・もちろん」
「そっか。・・・じゃあ、謝らなくてもいいと思うよ」
「は?どうして?」
「裕人君は、その分心奈を幸せにしてあげる義務があるから」
「はぁ。義務ね」
「ふふ、二人とも考えすぎなんだよ。ただ一緒にいられるだけで、昔は幸せだったんじゃないの?」
「うーん・・・そうかね」
「・・・まぁ、会えばわかるよ。よっと」
美帆はブランコから降りると、公園を出た。
「それじゃあ、私は行くね」
「ん。おう、分かった」
「また連絡するね。バイバイ」
彼女は楽しそうに手を振ると、駅のほうへと向かっていった。
―ただ一緒にいられるだけ、か。
俺はその姿を見送ると、ゆっくりと自宅へ向かった。

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