Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.10

五月 ゴールデンウィーク明けの月曜日

待ちに待っていたゴールデンウィークは、あっという間に過ぎてしまった。
ウィーク中も部活の練習試合や練習はあったものの、今日から部活の一年生の練習が、本格的に始まるという。
裕人と中田は、小学校の時に経験していたということもあって、揃ってバスケ部に所属した。
まだまだチームメイトや先輩たちの名前を覚えきれていないものの、なんとか馴染めるようにはなってきた。
放課後の練習を楽しみに思いながら、裕人は朝、教室へと踏み込んだ。
―うわぁ、またか・・・。
教室に入って早々、裕人が嫌々と思ったのには訳がある。
裕人の隣の席、心奈の席に、彼女が座っていたからだ。
「お、おはよう」
しぶしぶ声をかける。彼女は長い髪を指にクルクルと巻き付けながら、ボーとしていた。相変わらず、近づくと独特の香りがする。
「あら、真田君。ごきげんよう。まだ心奈ちゃんは来てないわよ」
「そ、そうなんだ」
一体何があったのかは知らないが、彼女、前田来実と、心奈が仲良くなり始めたのだ。心奈は新しい友達ができたととても喜んでいたのだが、裕人としては不都合だ。
何しろ、初対面であのような態度を取られてから、毎日のようにこの調子で話しかけられる。
裕人は、このような大人の女性のようなタイプは初めてだったが、とてもじゃなく苦手だ。一緒にいると、なんだか気が狂う。
「真田君、アイドルとか好き?」
席に座ると、唐突に彼女が聞いてきた。
「え?アイドル?うーん、あんまりアイドルとか見ないなぁ」
「あら、そうなの。まぁ、真田君みたいなタイプはそうよねぇ」
感心している彼女の意図が、裕人は全く分からなかった。
「っていうか、真田君。まず女の人に興味ある?」
「へ?興味?」
「そ。興味。好きな子とかいないの?」
「好きな子って・・・そんなこと考えたことも・・・」
「あら、てっきり心奈ちゃんの事が好きなのかと思ってたけど、違うのね」
「あ、明月は友達だよ!っていうか、好きとかそういうの、俺まだよく分かんないし」
「ふーん。じゃあ、私が教えてあげてもいいのよ?」
彼女が顔を近づける。
「ちょっと来実ちゃん。何やってんの?」
ふと、彼女の頭にコツンとチョップが入った。
「いたっ。ちょっとぉ、心奈ちゃん。急にチョップしないでちょうだい」
「だって、来実ちゃんがヒロと仲良さそうにしてたから」
そっぽを向いた心奈が、そこには立っていた。
「あら、私たちは仲いいわよ?ね、真田君」
「え、ええ?」
―何で俺に話を振ったの!?
突然の話の振りに、裕人は心中彼女を呪った。
心奈がこちらを見る。やめてください、こっち見ないでください。お願いですから。
「えっと・・・まぁ、それなりなんじゃないかな」
「あら、私はてっきり結構仲が良いと思ってたのだけれども」
「もうどっちでもいいよ!とにかく来実ちゃん!あんまり人を困らせちゃダメだよ!」
「はいはい、分かったわよ」
何故かニヤニヤと笑いを浮かべながら、彼女はそっけなく返事をした。
すると、二人は何事もなかったかのように日常会話を始めた。
まったく、女の子と言うものはまるで理解できない。
裕人は隣で、心底感じたのであった。

「ねぇ、心奈ちゃん」
彼女は問うた。
「ん、なぁに?」
「心奈ちゃんって、真田君の事好きなの?」
「ふぇ!?な、何で急に?」
「いいから、どうなのよ?」
「うーん・・・。好き、なのかは分かんないけど、もっと仲良くなれたらなとは思う・・・かな」
「ふぅん。いいじゃない。なら、私も手伝ってあげるわよ」
「え、そんな。悪いよ。っていうか、私あんまり好きって感じ分かんないし」
「あら、それが好きってことなんじゃないかしら?」
「へ?」
「相手の事をもっと知りたい。もっと一緒にいたい。一緒にいると楽しい。それが、好きってことじゃないかしら?」
「一緒にいると楽しい・・・かぁ」
「応援するわ、心奈ちゃんの事」
「・・・うん、まだ好きってこと分かんないけど、ちょっとだけ分かった気がする。ありがと、来実ちゃん!」
「いいのよ。だって、私達―――――友達じゃない」
彼女は、唇を釣り上げて笑みを浮かべた。

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