Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.9

次の日

入学式も終わり、まだまだ不安が残るなか、中学校の教室に着いた。
まだまだ見慣れない教室やクラスメイトに戸惑いながらも、裕人は自分の席へ座った。
―さて、どうしようかな。
周りは知らない人だらけ。完全なアウェーの場に、どうしていいか分からない。
誰かに話しかける勇気もないし、かと言ってこのまま何もしなければ、一人ぼっちになってしまうかもしれない。
なかなか勇気を決められずに、ボーっと教室を見渡していた。
「いよっ!おはよっ!」
「うわぁ!」
突然、背中を叩かれる。聞き覚えのない声に、思わず退き振り向いた。
寝癖なのか、セットしているのか。中学生にしては極めて目立つ黒毛のツンツン頭で、キリッとした目つきが特徴的な男の子が一人、そこには立っていた。
「えっと・・・誰?」
思わず問うた。
「ん、宇佐美悠介うさみゆうすけ。お前、なんだか一人でボーっとしてて、友達いなさそうだったから声かけてみた」
そう言うと、彼はにひひと笑った。
「友達いないって・・・それなりに友達はいるけど、このクラスには友達が一人しかいなかったから、どうしようかなって思ってたところ」
「ふーん、そうなのか。まぁいいや。お前、名前は?」
「え、真田裕人」
「へぇ、聞いたことない苗字だな。よろしくな、裕人」
「あ、うん。よろしく」
それだけ言うと彼は、じゃあな!と言って他の人に声をかけにいってしまった。どうやら、一人でいる人に片っ端から声をかけているらしい。
果たして、いい人なのか。はたまたお調子者の変わり者なのか。初めて見るタイプの彼に、裕人は驚きを隠せなかった。
「ねぇねぇ」
「うわぁ!」
はたまた、今度は後ろ頭をツンツンと突かれて驚いた。
今度は何事かと振り向くと、そこには一人、女の子が後ろの席に座っていた。
「えっと・・・何?」
すかさず裕人は彼女に問う。
「さっきの子、友達?」
「へ?い、いや、さっき初めて喋ったけど」
「ふーん、そう」
すると彼女は、口元を釣り上げて笑った。化粧でもしているのだろうか?香水のような香りが漂い、大人の女性のような印象の彼女は、悪戯っぽく笑うとなんだか艶めかしい。
「・・・君、カッコいいね」
「・・・・・はい?」
突然の聞きなれない単語にドキッとする。
「私、ちょっと好きになっちゃったかも」
「え、いや、ちょっと。いきなり何を・・・」
対応に困っている裕人など目もくれず、机に体を乗り出して、ズイっと顔を近づけた。
「君、彼女とかいたりする?」
「か、かの!?そ、そんなのいるわけないよ!」
「あら、意外。てっきりもう席が空いてないのかと思っちゃった」
顔が近い。少しでも動けば、唇が彼女にタッチしてしまいそうだ。彼女の吐息が、耳元で聞こえる。
「なら、私なんかどう?私も今、席に誰もいなくて退屈なの」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなりそんな話されても!」
もはや机を前に引いて、体ごと退く。さすがにこれだけ離れると、彼女も諦めたように机に頬杖をついて苦笑いをした。
「もう、そんなに焦らなくてもいいのに。ま、いいわ。私、前田来実まえだくるみ。これからよろしくね」
そう言うと、彼女は席を立ちあがり、教室を出て行ってしまった。
―何だったんだ、一体。
その後ろ姿を呆然と見つめる裕人は、カッコいいの言葉が微塵たりとも当てはまらない姿であった。
しばらく教室で呆然としていると、心奈がやってきた。
「おはようーヒロ」
「おはよ」
幸いなことに、彼女は裕人の隣の席だった。左隣にカバンを置くと、こちらを向きながら椅子に座った。
「どう?友達できそう?」
心奈が聞いた。
「うーん。まだ分かんないなぁ。何人かに話しかけられたけど、色んな人ばっかりで、仲良くなれるかが心配だなぁ」
「そっかぁ。私も頑張って、新しい友達作らなきゃ」
「お互い頑張ろうね」
「うん!」
二人は、お互いに微笑み合った。

放課後
「先に和樹君と待ってるね」
「うん、すぐ行くから待ってて」
裕人が先に教室を出ていく。ガヤガヤと賑わう教室の中、心奈は荷物の整理をしていた。
「明月心奈さん、よね?」
ふと、誰かに話しかけられた。振り向くとそこには、一人の女子が立っていた。心奈よりも少し目線が上で、香水のような香りがした。
「え?あ、うん。そうだけど」
「あなた、真田君のお友達よね?私も今朝、彼と友達になったの。だから、あなたとも仲良くできたらなと思って」
「え、そうなんだ。うん!私も、友達できるか凄い不安だったんだぁ」
安堵の表情を見せる心奈を見て、彼女は微笑んだ。
「前田来実よ。仲良くしてね」
彼女が、艶めかしく笑った。

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