Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.8

20×2年 4月 中学校の入学式当日

「うわっぺっ!」
上を見上げていると、口の中に桜の花びらが入った。とっさにそれを吐き出す。
こうやって桜を見ると、春だなぁと実感する。
今日は中学校の入学式だ。これまで長年通ってきた道とは違う、見慣れない風景を歩きながら、裕人はぼんやりとしていた。
「お、きたきた。よう」
待ち合わせ場所に到着すると、制服姿の中田が手を振った。
「おはよう。っていうか、制服大きくない?」
「そうなんだよ。母さんがさ、どうせ大きくなるんだから、今は大きいやつで我慢しろって言ってさ。歩きづらくてたまんねぇよ」
「まぁ、仕方がないんじゃない?」
「果たして、これがちょうどいいくらいに身長伸びるかねぇ」
そうしてしばらく、他愛もない雑談をしながら歩いていると、目の前の駐車場横の小道から、金網越しに女の子が歩いているのが見えた。
「あ、ヒロだ。おはよう!」
「中田君も!」と付け足しながら、手前の小道から出てきたのは、見覚えのある顔だった。心奈がこちらに手を振りながら、並んで歩きだす。
見慣れない彼女の制服のスカート姿に、思わずドキリと胸が高鳴る。
「おう、明月。似合ってるじゃん」
「そ、そうかな?ありがとう」
中田と心奈が、仲良さげに会話をしている。
「やっぱり制服って着慣れないね。動きづらいし、固いって言うのかなぁ?自分の服着てたほうがやっぱりいいなぁ」
裕人がぼんやりと呟く。
「だね。でも、きっと慣れるよ。毎日着るんだし、徐々に着やすくなると思うよ」
心奈が言った。
「そうかな」
「うん。あーあ、陽子もいなくなっちゃったし、私大丈夫かなぁ?」
心奈が顔を曇らせる。先月末に、西村が親の都合で、隣町に引っ越してしまったのだ。西村と心奈は小さい時からの幼馴染らしく、ショックも大きかったことだろう。
「心配すんな。俺達もいるし、玲奈だっているからな。困ったら助けになるぞ」
自信たっぷりに、中田が胸を張る。
「本当?お願いね、中田君。ヒロも!」
「え?あ、うん。俺でよければ・・・」
「何よ、頼りないなぁ。もっと男の子らしくしたらぁ?普通にヒロはカッコいいのに・・・」
「へ?」
思わず胸が高鳴る。
「・・・どうかした?」
焦る裕人を知らずに、心奈が不思議そうに問いかける。
「い、いや!なんでもないよ・・・」
―どうしたんだろう、俺。なんか今日、変だな。
大きく息を吸って平常を保つ。当時の裕人は、知らぬ間にその感情を抱いているということを、まだ自覚してなどいなかった。
中学校に着くと、校舎の壁にクラス分けの大きな名簿がそれぞれに貼ってあった。それに群がる生徒や親御さんたちで、その付近はごった返していた。
「えー、人多すぎじゃない?ヒロ、あんた背高いんだから見えないの?」
心奈がヒロに無茶ぶりを振る。確かに身長は百六十センチあるが、それでもこの距離からじゃ、いくら目が良くても辛い。
「ええ?そんなこと言われても、流石に見えないよ」
「もう、じゃあほら、近くまで見に行くよ!」
「え、ちょっと!」
心奈が強引に、裕人の腕を引っ張る。沢山の人ごみのなかを、グングンと心奈に引っ張られながら、裕人達は進んでいった。
「えーっと、名前名前・・・あった!四組だぁ。ヒロはあった?」
心奈が自分の名前を指差ししながら、裕人に問うた。
「いいよね、明月は。大体出席番号一番から三番くらいでしょ?すぐ見つかるじゃん」
「そう言われてみればそうだね。気にしたことなかったけど、結構楽だったのかも」
「うーんと・・・あった!あれ、四組?一緒?」
「本当!やったぁ!またよろしくね!」
心奈の裕人の腕を握る力がギュッと強まる。
「うん!よろしっ・・?!痛い痛い!明月!」
「あ、ごめんごめん。嬉しくてつい」
思わず苦笑いを浮かべる心奈。
「とりあえず、中田君のも探して戻ろうか」
「そうだね」
中田の名前も、案外すぐに見つかった。彼は隣のクラスの五組であった。
相変わらず最後まで彼女に腕を引っ張られながら、二人で彼の元に戻ると、中田は南口と一緒にいた。
「あ、玲奈だ。おはよう」
「おはよー。二人は、何組だった?」
相変わらずの調子の南口がにっこりと笑って言った。
「私たちは、四組で同じクラス。因みに中田君は五組だったよ」
「ありゃ、なんだ。みんなと違うクラスか」
バツが悪そうに、中田が苦い顔を見せた。
「玲奈は?」
「私は一組だよ」
「そっかぁ。ま、ヒロと同じでとりあえず一安心かな。私人見知りだから、友達作れるか不安だったんだよね」
もちろん彼女が、強い男性恐怖症を持っているということを当時知りもしない裕人達は、その場を笑って過ごした。
「大丈夫だよー。心奈は優しいからね」
「え、そうかなぁ?」
「そうそう、みんな始めはそうだって。っていうか、寧ろ俺を心配してくれよ?」
中田が自分を指差して、ニヤニヤと笑っている。
「・・・中田君は、案外誰とでもやっていけそうだけどね」
「そうか?一応不安なんだけどな」
「中田君はなんというか・・・楽観的だからねぇ」
「らっかんてき?どういう意味だ?それ」
「うーん、とりあえず当たって砕けろみたいな」
「んん?俺ってそんな感じか?よくわかんねぇけど」
心奈と南口が、揃って中田を白い目で見ていた。
「まぁまぁ、とりあえず教室に行こうよ?早く行かないと、時間になっちゃうよ」
「お、それもそうだな」
裕人が適当に三人の話をまとめると、一行はそれぞれの教室へと向かい始めた。
一組から四組までが二階にあり、五組からは三階の教室になるらしい。階段で中田と別れると、裕人と心奈は、四組の教室へと入った。
「うわぁ、ホントに知らない人ばっかり。大丈夫かな、私」
心奈が不安そうに呟く。
「とりあえず、早く新しい友達作らないとね」
「そうだね・・・頑張らないと」
お互いに微笑み合うと、二人はそれぞれの机に座った。
この時、もう既に獲物として睨まれているということも知らずに・・・。

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