Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

1.

バレンタインデー明けの土曜日 午後3時過ぎ

西村は、駅前の公園のベンチに座って、小さい子供たちが遊んでいる様子を見ていた。
今日はこれから、中田と南口に会う約束をしている。直接会うのは久々の為に、緊張を隠せなかった。
「よう、西村」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向くと、そこには昔と変わらない、中田が手を挙げて立っていた。
「中田君!改めて久しぶり!」
「おう。元気そうだな」
「うん!」
小学生の時よりも、二回りくらい背が伸びて、スポーツ刈りの頭をしている彼は、以前よりもなんだか爽やかだ。
「ところで、玲奈は?」
「ああ。少し遅れるから、先に話しとけってさ」
「そっかぁ」
「・・・それと」
何か思いつめたように中田が俯いた。
「どうしたの?」
「・・・さっき、玲奈が会ったらしいんだ。明月に」
「えっ?」
西村が口をポカンと開いた。
「さっきって・・・今日?」
「ああ。道端で偶然会ったらしいんだけど・・・」
「だけど?」
「・・・逃げたんだってさ。玲奈から」
「逃げ、た?」
意味が分からない。どうして友人に会って、逃げるというのか?何か特別な理由でもあるのだろうか?
「そのまま結局、見失っちまったんだと」
「そう・・・なんだ」
西村は、胸元で拳をギュッと握りしめた。
心奈が近くにいる。それなら、早く今のことを解決して、そして・・・。
「・・・行こう。玲奈が待ってる」
「へ、あ、おう」
改めて決意を決めた西村は、中田と共に歩きだした。
道中で、彼といろんな話をした。中学の事。部活の事、友達の事。友達と話すことは、こんなにも楽しいことなのに。それなのに。
―きっと心奈は、またあのことに縛られてる。助けられるのは、あの事を知っている私だけ。だから私が・・・私が、助けないと。
「待っててね、心奈」
西村は、小さく空に向かって呟いた。

「玲奈ぁ!」
「うわっと!ちょっと、陽子ぉ!」
久々に再開した南口に、思わず西村は抱き着いた。
「元気だった?っていうか・・・なんか雰囲気変わった?」
「え、そうかな?」
「はは、西村もそう思うか?」
後ろで笑っている中田が言った。
「こいつ、高校に入って写真部に入ってから、写真にどっぷりでよ。なーんか雰囲気変わったんだよね」
「そ、そうかなぁ?」
自覚がないようで、南口が首を傾げた。
「ま、俺は変わらずどっちの玲奈もいいけどな」
「ちょ、中田君!」
「はーいそこ、イチャつかなぁい」
一人置いてきぼりにされた西村が指差しでそれを制した。
「もう、仲がいいのは、変わらないんだね」
「おう」
中田がにんまりと笑った。
「それじゃあ・・・どこかゆっくり話せる場所に行こうか」
西村が先導して、三人は歩き始めた。
そして一同が向かったのは・・・。
「うぉ!陽子ってば、また違うお友達!?」
「う、うん」
そう、香苗のスイーツカフェである。またまたお出迎えした香苗が、その顔ぞろえにビックリしている。
「あ、ど、ども」
「こんにちは」
二人は、どう対応すればいいかが分からないようで、仕方がなく挨拶している。
「と、とりあえず!中入るから!またあんまり邪魔してこないでよ?」
「ちょっとぉ!それじゃまるで、いつも私が邪魔してるみたいじゃない!」
「ご、ごめんね。でも、大事な話をしたいから、お願い」
「はぁ。分かったよ。三名さまご来店ー」
それだけ言うと、香苗は厨房へと戻っていった。
三人は壁際の真ん中の席に座ると、一息を吐いた。
「んで、出迎えたあいつが西村の友達か?」
「うん。香苗っていうんだけど、ちょっと元気な子でさ。許してあげて」
「ま、それはいいんだけどよ。せっかく来たんだし、なんか食うかな。玲奈もなんか食う?」
「そうだなぁ。おやつ時だし、なにか頼もうかな」
そうして二人が頼んだのは、中田がガトーショコラ。南口は苺のタルトだ。そして西村は、いつも通りトマトのシフォンケーキだ。相変わらず、このケーキはいつ食べても飽きない。
「お、美味い」
「ホント、美味しい!」
一口食べた二人が声をそろえて言った。
「でしょう?香苗の家族はみんな凄いんだよ」
作ってもいない西村が胸を張って言った。
「へぇ、いいな。今度、また二人で来ようぜ」
「うん!他のケーキも食べてみたいしね」
そんなこんなでケーキも食べ終わり、ひと段落がついたとき。
「・・・さて、じゃあ本題に入るとするか」
中田が水を飲みながら言った。
「まず西村。今お前が知ってる裕人について教えてくれ」
「私が知ってるヒロ君?うーん、特に隠し事をしている以外、そんなに変わってなかったかなぁ」
「っていうか、その会ったのって、いつの話?」
南口が問うた。
「先月末だよ。その後も連絡先を交換したから、何度か電話で喋ってるけど、やっぱり何にも変わってないかな」
「そうか。変わってない、か」
中田が南口と向かい合って、安堵の表情を浮かべた。
「それで、ヒロ君と心奈に何があったの?教えてよ」
西村が聞くと、二人の表情が一気に曇った。
中田が軽く息を吸うと、真剣な顔つきで言った。
「いじめられてたんだ。二人とも」
「・・・へ?」
いじめられた?どうして?
「ごめんね。本当は、いじめの原因は私たちもよく知らないし、何が理由で二人の仲が悪くなったのかは分からない。でも、一つ噂を聞いたことがあるの」
南口が言った。
「噂?」
「・・・心奈が、ヒロ君にナイフで切られたって」
「っ!?嘘・・・」
言葉が出なかった。信じられない。あの優しい彼が、彼女を傷つけるだなんて。そんなこと、絶対ありえない。
「あっ!」
そう言えば以前、野球部の二人がこんな会話をしていた。
『そういや、水中って前噂あったよな。一人の女子が男子に切られたって』
『ああ、あったね。でもあれ本当なの?』
『さぁ。半年くらいで噂されなくなったし、どっかのヤンキーがやったんじゃね。よくある話だろ』
あの時は、健二というワードが出てきたせいで、あまり気に留めていなかった。まさか、それが彼らの事だっただなんて。
「あの話・・・ヒロ君と心奈だったんだ・・・」
「話って?」
「前に聞いたの。水中の女の子が、切られたって噂」
「なるほど、噂か。他の中学にも回ってるもんなんだな」
中田が言った。
「でも、本当にヒロ君が心奈を切ったって確証はないよ」
「玲奈・・・」
「今のヒロ君も、昔みたいに元気なんでしょ?だったら、絶対そんなの、ただの噂だって」
南口が笑顔で言った。
「だな。あのバカが、人を切る勇気なんてねぇよな」
続けて中田が笑顔で南口を見た。
「・・・うん。ヒロ君は、絶対そんなことしない。私は、ヒロ君を信じるよ」
「おう」
「だね」
三人はそう言い合うと、互いに笑顔を見せあった。

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