Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

3.

20×7年現代 とある2月上旬の火曜日

少女は、いつも通り校舎の屋上に立っていた。
昨日は天気が悪く、屋上に来られなかった。彼女の唯一の憩いの場であるこの場所は、天気がいい日は毎日来る場所だ。
少女はいつも思い悩んでいた。
どうして自分は、あの時裏切られてしまったのか?
果たして自分がいけなかったのか?はたまた、相手が気を変えてしまったのか?
あれだけ信頼して、尊敬していたのに、どうしてあんな事になってしまったのか。
何年も考え続けているが、一向に答えは出ないままだ。そして、これからも出ることはないと思う。
この記憶が、少女の脳裏に染みつく限り、この呪縛からは逃れられない。
いつも思考はループを重ねる。もうそれにも慣れた。
カー、カーとカラスが鳴いている。もう時計も五時を回っていた。気が付けば一時間以上この場に立っている。この時間が、少女にとっては苦痛であり、また愛着もあった。
どうしてここに来てしまうのかと、誰かに問われれば「分からない」と答えるだろう。だが、少女はこの場所が好きだった。
「お、やっぱりいた」
後ろから声が聞こえた。振り向かなくても分かる、美帆だ。
「また来たの?今日は何の誘い?」
振り向かずに、夕陽を見続けながら少女は言った。
「別に何の誘いでもないよ。あ、強いて言うなら、雑談でもしたいな、なんて」
「私と雑談なんかしても、つまらないわよ?」
「いいよ。こう見えて、私結構聞き上手だから」
「自分で言う?」
「言っちゃうあたりが、凄いところだと思わない?」
隣に立ってニコニコしている美帆を見て、少女はため息を吐いた。
「そうそう、こないだはありがとうね。来てくれて。来なかったら、どうしようと思ったよ」
美帆が言った。
「ふん。本当なら、あなたがあと一分遅ければ帰っていたのよ?ホント、タイミング悪かったんだから」
「嘘ぉ!?じゃあ巡り合えた奇跡ってところかな?」
「そんなの知らないわよ」
少女はそう言うと、屋上のフェンスに体を預けた。
「でも、たとえ帰っちゃったとしても、来てくれただけで私は嬉しいかな」
「何が?」
「だって、来てくれたってことは、ほんのちょっとでも、興味を持ってくれたってことだよね?」
「それは・・・」
肯定はできない。だが同時に、否定もできなかった。
「それだけで、私は嬉しいよ。っていうか、そもそも私より先に来てるっていうことに、真っ先に驚いたんだもの」
「・・・・・」
美帆はそこまで言うと、今にも消えそうな夕陽を眺めた。
「綺麗だね。いつも見てるんでしょ?」
「まぁね」
「なんだか、嫌なことも忘れられそうだね」
「・・・私はその逆よ」
「ん?どういうこと?」
ふと、美帆が不思議そうな顔でこちらを見た。
「・・・あんた、人に裏切られたこと、ある?」
「裏切られたこと・・・?」
美帆が首を傾げた。
「うーん、裏切られたかぁ。考えたこと無いなぁ」
「そう・・・」
そう言うと少女は、屋上の扉の横まで歩き、しゃがんで座り込んだ。
「・・・私、あるのよね。二回。それも、二回とも男に」
「男?それって・・・その・・・彼氏とかって話?」
「そんなんじゃない。ただ・・・」
そこまで言うと少女は、急に口を閉ざしてしまった。
「どうしたの?」
「・・・彼氏、だったのかな?」
「え?」
「今考えると、私にとってあいつは、どういう存在だったんだろう?彼氏なんかじゃなかった。でも・・・」
何故か悩みこんでいる少女を見て、美帆は呆然と立っていた。
しばらく少女は悩みこんでいると、一つ、口を開いた。
「・・・今考えると、家族に近い存在だったのかもね」
「家族・・・?」
「・・・まぁ、あんたには関係ない、か」
少女は軽く息を吐いた。
美帆には少女が、いつも気を貼っている強気の少女ではなく、とても弱弱しく見えた。
「・・・もしかして、怖かったの?」
美帆が一言口にした。
「えっ?」
意外な言葉に少女は驚愕した。俯いていた少女は顔を上げ、唖然と美帆を見た。
「嫌いだとか、裏切られるとか、そういうことを悩んでる明月さんはきっと、強くて優しい子なんだね」
「ちょ、あんた、何言って・・・」
美帆は微笑みながら、少女の隣まで歩み寄ると、その場に座り、そっと少女の手を握った。
「あのね、明月さん。確かに嫌われたり、裏切られたりしたことは、本当に辛かったと思う。でもね?そんなのいちいち気にして過ごしてたら、キリがないよ。これからもそうやって生きていくつもりなの?」
「それは・・・」
少女は口ごもった。
「何年そうやってきたのか、明月さんのことをまだあんまり知らない私だけど・・・でも、もうそんな考えやめよう?そんなことをいちいち気にしてたら、人生楽しくないよ」
美帆は片時も視線を変えることなく、少女を見ながら言った。
その美帆の言葉で、少女の中で少しだけ、何かが変わったような気がした。
「美帆・・・」
そう言うと、美帆はにっこりと微笑んだ。
「初めて名前呼んでもらえた。うれしい」
「あ、その・・・」
バツが悪そうに、少女は視線を逸らした。
「いいんだよ。名前で呼んで。そのほうが、話しやすいでしょ」
「・・・そう、ね」
今までのことが嘘みたいに、自然と笑みがこぼれた。
これまで張りつめていた何かが、少しづつ、緩み始めていた。
「・・・ねぇ。今度から、その・・・教室でも、話しましょう?その、暇だし」
思いもよらない少女の言葉が、美帆はとても嬉しく思えた。
「もちろん。っていうか、嫌になるまで話しかけに行くから。覚悟しておいてよ?」
「え、それだけはやめてくれる?さっきの撤回するわよ?」
「冗談」
二人はまるで古い友人同士のように、微笑み合った。

「あ、そうそう」
「ん?どうかした?」
「どうせだから私の事は」

「心奈って、呼んでいいわよ」

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