Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.5

その後

その後裕人は、加倉井先生に怒鳴られながら緊急病院へと連れ出された。
結果、足首の関節にヒビが入ったらしい。完治は大体一、二ヶ月だという。
数日は痛むが、安静にしてあまり激しい運動をしなければ、数週間でまともに歩ける程にはなるらしい。
夜中に旅館に帰ってくる頃には、夜十時を回っていて、消灯時間は既に過ぎていた。
だが、中田たちは事情を説明していたために、まだ部屋には戻っていないようだ。
加倉井先生に助けられながら、慣れない松葉杖を使って旅館の中に入ると、ベンチには三人が座って待っていた。
「あ、真田君・・・」
「ヒロ!」
こちらの存在に気づいた西村と心奈が声をあげるや否や、心奈が裕人に歩み寄った。
一瞬、西村の顔が濁ったような気がした。
「大丈夫だった?」
「うん、足首にやっぱりヒビが入ってたみたい。治るのは一、二ヶ月だって。っていうか、明月さん。よくヒビが入ってるって分かったね」
「え?い、いや、前に何回か、あったから・・・」
心奈がごもごもと言った。
「ちょっと、心奈!」
「え?陽子・・・?」
その時、西村が少し怒鳴りに近い声で心奈を呼ぶと、彼女の腕を引っ張り、立ち去ってしまった。
「なんだ?あいつら?」
中田が後を見送りながら言った。
「さぁ?」
裕人はそう言うと、ベンチの中田の隣に座った。
「っていうか、ちゃんと謝ってなかったよな。ごめん」
柄にもなく、中田が深く頭を下げた。
「い、いいんだよ。そんなに大した怪我じゃないし。ちょっと、歩くの辛いけど・・・」
「俺が脅かそうとしたから、こんなことになっちまったんだよな。はぁ、俺ってホントバカだなぁ」
長いため息を吐きながら、中田が俯く。
「確かに、中田はバカなことをしちまったな」
すると加倉井先生が、二人の前に立ちふさがった。大きな体は、まるで立ちふさがる壁のようだった。
「まぁ、なんだ。死ななきゃ人間、どうにかなるってもんだ。そう落ち込むな。確かにお前はとんでもないことをしたが、そうやって学んでくんだからな。何か大きな失敗をしないと、人間は気づけない生き物なんだよ」
加倉井先生は中田の頭をポンと叩くと、「早く寝ろよ」と、一人戻っていってしまった。
「なんだかんだ、いい先生だよね」
その後ろ姿を見ていた裕人は、昔見ていたヒーローアニメの主人公を思い出しながら言った。
「・・・まぁな」
彼は小さく、フッと笑った。

「さっきの『ヒロ』って何?」
西村は、心奈に問いただしていた。目の前に立つ心奈の前に立ち、俯いている彼女を見ていた。
彼のことをそう呼ぶことに、西村には疑問があったのだ。
「それは・・・その・・・」
彼女は俯きながら、口をごもごもとしている。
「・・・忘れたんじゃなかったの?真田君は、あの子じゃないんだよ?」
「・・・・・」
西村から視線を逸らしている彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ずっと、似てるなって思ってた」
「っ!」
心奈の言葉に、西村は声を詰まらせた。
―それは・・・そうだよ。私だって、ずっと思ってたんだから。
胸の前で、右手をギュッと握りしめた。
「今までは、単純に一人の男の子として、頑張って見てきた。でもさっき、あんなことがあって、どうしても『ヒロ』に見えてきちゃって・・・守らなくちゃって思っちゃって・・・。私が『ヒロ』を・・・」
とうとう零れ落ちてしまった彼女は、崩れるように床にへたり込んでしまった。
「心奈・・・」
軽く息を吐くと、西村は彼女の隣に座って頭を撫でた。
―心奈も、やっぱり思ってたんだ。
そうだよね。思わないはずないよね。大切な存在だったんだから。
心奈にとって、真田君は、憧れであり、守りたいと思う存在でもあった。
ずっと我慢してきたんだよね。
「・・・気づかなくて、ごめんね」
泣きじゃくる彼女の背中を、西村は優しくさすった。
しばらくの間、西村は思い悩ませながら、窓からの綺麗な星空を眺めていた。
「・・・もうさ」
「ん・・・?」
久しぶりに心奈は口を開くと、目を赤くした顔で、笑顔で言った。
「約束しちゃったんだ。ヒロと。これからもこんな風に話したいって。多分私、あの子と重ねて見てないと、いつまで経っても克服できないと思う。だから最初だけ。最初のうちだけ、あの子と重ねて接してても・・・いいかな?」
「心奈・・・。本当に、大丈夫なの?」
「うん、さっき決めたんだ。私。もういつまでも陽子の後ろに立ってないで、強くなりたいって」
心奈は、目をゴシゴシ擦ると、いつも自分にしか見せない笑顔で言った。
―それなら、私も強くならないといけないじゃないか。
西村は小さく笑って言った。
「・・・なら」
「え?」
「なら、私もヒロ君って呼んで大丈夫かな?心奈がそうなんだから、私だって頑張らないと」
少しの間、口をぽっかり開けていた心奈だったが、すぐににっこりと微笑んだ。
「・・・大丈夫だよ。だって、『ヒロ』だもん」
「・・・そっか。そうだよね」
二人はお互いに言い合うと、肩を震わせて笑顔を見せた。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品