新米オッサン冒険者、最強パーティで死ぬほど鍛えられて無敵になる。
第33話 実践訓練
教官達が明日のリック達の訓練について不穏な話し合いをしている最中。
リックのルームメイトの一人であるアルク・リグレットは学園長室にいた。
中央に置かれたテーブルに学園長と向かい合って座っている。
アルクの手がテーブルの上に置かれチェス板の上に伸びた。
「チェックメイトです」
澄んだ声が響く。
「おお、これはこれはまた負けてしまいましたね」
そう言って頭をかく学園長。
「しかし、いつも済まないねえアルク君。こんな老いぼれチェスの相手なんかさせて」
「いえ、こちらこそ。この学校に入れたのも学園長のおかげです」
アルクは言う。
「それに、こうして特別に時間をずらして貰ってるわけですからね」
「ははは、気にしないでくださいよ。アナタの才能には期待しているんですから。ぜひ主席の座を射止めてください」
「はい」
アルクは深く頷いた。
□□□
翌日の授業。校庭に集合するAクラスの面々にペディック教官は言う。
「今から貴様等Aクラスには主任教官による特別授業を受けて貰う!!」
「初めましてぇ皆さん。ワタクシが特別メニューを行うワイト・ワイダーワイズ一等騎士です」
ワイトの自己紹介にざわつくAクラスの面々。
致し方ないことである。一等騎士は騎士団と言う組織の実質的な最高ランクであり、教官達の中でもワイトを含め数名しかない。これから自分たちが騎士団員として積み上げていくキャリアの最終目標とも言える存在なのである。
その様子を見てワイトはほくそ笑んだ。
大変に気分がいい。自らの肩書きを語った時に学生達がする反応は、何度見ても愉快極まりないものだった。
ワイトは耳に絡みつくように間延びした声で言う。
「えー、今からですねえ、皆さんに私を相手に実戦訓練をしてもらおうかと思いましてねえ」
「そういう事だ。一等騎士であらせられるワイト主任教官が特別に貴様等に実践形式で手ほどきをしてくださる。感謝しろよ」
再びざわつくAクラスの面々。
「では、さっそく始めましょうかあ。そうですねえ。じゃあまずは504班、前に出てきてください」
ワイトの指示に従って4人の生徒が立ち上がる。その内の一人、年齢的に一人だけ浮いている男、リック・グラディアートルは「あれ? 番号順じゃないのか。それにしても何で俺たちから?」などと呟いていた。
「クククク」
ワイトの口から笑いが漏れる。
彼の選んだ手段は単純なものだった。一等騎士である自らの実力をもって実践形式の訓練で特別強化対象を皆が見ている前で徹底的に痛めつけるのである。
本人に耐え難い恥辱と肉体的ダメージを与えることができる上に、他の学生達にも教官という存在への恐怖を植え付けることができる。単純ながらまさに一挙両得の作戦である。
「では。まずは、27番のガイル・ドルムント君ですか。前に出てきてください」
まずは、同部屋の他の3人から痛めつけていく。ルームメイトが苦しむ様を見ながら、自分の番が回ってくる恐怖を存分に味わうといい。
「しゃあ!! 行ってくるぜ」
ガイルと言う体の大きい生徒は元気よく自らの胸をドンと叩いて、ワイトの前に立つ。
そして、ペディックから渡された訓練用の刃の無い剣を渡される。
「今回はお互いに訓練用の剣を使って行います。ワタクシがよしと言うまで自由に打ち込んできてかまいません」
ワイトも自らの剣を構える。
両者が構えたのを見てペディックが言う。
「では……始め!!」
「でりゃああああああああああああああああ!!」
開始と同時にガイルは思いっきり剣を上段から振り下ろしてきた。
(ふふふ、猪突猛進の体力バカですか。まだ『強化魔法』はおろか『身体操作』すらロクに使えないくせに愚かなことですねえ)
ワイトは自らの両腕と剣に魔力を流し強化を施す。細身の自分に自慢の腕力をはじき返され、絶望する姿目に浮かぶようである。
ガチィィィィィン!!
と、両者の剣が衝突した。
「ちっ、受け止められた。『強化魔法』って奴か!!」
「ほお」
感心したような声を上げるワイト。
一切強化を施していない状態でこれほどの威力。さすがに強化を施した自分には及ばないが、単純に腕力だけで言えば教官たちですら上回るだろう。なるほど皆が今年は当たり年だと言ったのも頷ける。
(大した体力的な資質ですねえ。仕方ありません、スタミナが尽きるまで適当に攻撃をあしらって、体力が尽きてからゆっくりいたぶることにしますか)
しかし、次の瞬間。
「だらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ガイルが咆哮と共に剣にさらなる力を込める。
「!?」
ギリギリと押し返されていくワイトの剣。
「くっ!! 強化魔法、『剛拳』『物質硬化』!!」
とっさに自らの腕力を瞬間的に何倍にも増幅するものと物質の強度を向上させる二種類の強化魔法を使うワイト。
バキン。という音と共にガイルの剣が折れた。
ワイトの剣はガイルの剣をへし折った勢いそのまま、訓練用として刃が研がれていない刀身をガイルの胴体に叩きつける。
「ごふうっ!!」
うめき声と共に、ガイルの体が15mほど吹き飛んだ。
「ぐっ、クソ……」
ガクリとそのまま地面に倒れ伏すガイル。
さすがの一等騎士と周囲から歓声が上がるが、ワイトはその賞賛を楽しむ余裕はなかった。
驚いた。
予想を遙かに上回る豪腕である。思わず痛めつける前に全力で反撃してしまった。
すぐに倒してしまっては、そこまで見ている人間の恐怖を煽ることができない。次こそはしっかりといたぶってやらねば。
「次、28番アルク・リグレット」
ペディックの指示に従い、ワイトの前に立ったのは少女とみまごうような美形の少年だった。
アレは確か、今年の主席合格生である。どれ、一体どれほどの手並みか。
「始め!!」
ペディックの声が響く。
「……」
「……」
半身で剣を構えたままワイトの動きを伺ってくるアルク。なるほど、さきほどの大男とは違い冷静に戦いを進めることができるようだ。
十秒ほどの静寂が過ぎた後だった。
アルクの体に魔力が循環するのをワイトは感じ取った。
(来る!)
身体強化を施したアルクの足が、地面を蹴り加速する。
「は、速い!!」
『身体操作』を使ったスピードだけで言えば一等騎士のレベルとほぼ同等である。
素早くかつしなやかな動きから繰り出されるアルクの袈裟切り。
ワイトはそれを間一髪で受け止める。
(くっ!! だが剣撃の重さ自体は先ほどの生徒よりも遙かに軽い)
ワイトはアルクの剣を上に弾くと、弾いた自分の剣をそのままアルクに向かって振り下ろす。
しかし、アルクは再び体を加速させワイトから遠ざかる。
空を切るワイトの剣。
その隙に再びこちらに向かって切りかかってくるアルク。
ワイトは大きく飛び退いて距離をとった。
しかし、アルクは間髪入れずに再び体内に魔力を循環させ、こちらに向かってくる。
まともな訓練をされていない人間が、全力での身体強化をこれほど連続で行えば、普通はあっという間に魔力欠乏症になるものだが、アルクは全くその様子がなかった。
そう言えばこの生徒は魔力量の測定で第一光級を叩き出していたことを思い出す。魔力量だけで言えばすでに一流の領域なのである。
ワイトは思わず剣を持っていない左手をアルクに向けた。
「西方の疾風、草原の獅子を穿て、第三界綴魔法「エアロ・ブラスト」!!」
ワイトの左手から圧縮された空気が砲弾のように猛スピードで放たれる。
「くっ……」
さすがのアルクもこれをかわすことも防ぎきることもできず、なす手段なく吹き飛ばされて地面に倒れ伏した。
再び驚嘆の声が周囲から上がる。第三界綴魔法の略式詠唱を使いこなしたワイトに対しての歓声である。
しかし、当然ながら当のワイト自身はそんなことを気にできる余裕はなかった。
(どうなっているのですか……今年の生徒は)
油断したら一瞬で持って行かれるレベルであった。まさか、生徒相手に界綴魔法を使う羽目になるとは夢にも思わなかったのである。
「まずいですねえ……」
小さくそう呟いたワイト。
思った通りに痛めつけることができず焦り出していた。先日、ペディック達教官を前に自分がやると言ってしまった手前、半端で終わらせてしまっては立つ瀬がない。
しかし、そんなワイトの前に。
「では、次29番。ヘンリー・フォルストフィア」
「は、はい」
前髪の長い気弱そうな少年が立った。訓練用の剣をいかにも重そうに持つその姿を見て、ワイトはニヤリと笑った。
……容易い。
リックのルームメイトの一人であるアルク・リグレットは学園長室にいた。
中央に置かれたテーブルに学園長と向かい合って座っている。
アルクの手がテーブルの上に置かれチェス板の上に伸びた。
「チェックメイトです」
澄んだ声が響く。
「おお、これはこれはまた負けてしまいましたね」
そう言って頭をかく学園長。
「しかし、いつも済まないねえアルク君。こんな老いぼれチェスの相手なんかさせて」
「いえ、こちらこそ。この学校に入れたのも学園長のおかげです」
アルクは言う。
「それに、こうして特別に時間をずらして貰ってるわけですからね」
「ははは、気にしないでくださいよ。アナタの才能には期待しているんですから。ぜひ主席の座を射止めてください」
「はい」
アルクは深く頷いた。
□□□
翌日の授業。校庭に集合するAクラスの面々にペディック教官は言う。
「今から貴様等Aクラスには主任教官による特別授業を受けて貰う!!」
「初めましてぇ皆さん。ワタクシが特別メニューを行うワイト・ワイダーワイズ一等騎士です」
ワイトの自己紹介にざわつくAクラスの面々。
致し方ないことである。一等騎士は騎士団と言う組織の実質的な最高ランクであり、教官達の中でもワイトを含め数名しかない。これから自分たちが騎士団員として積み上げていくキャリアの最終目標とも言える存在なのである。
その様子を見てワイトはほくそ笑んだ。
大変に気分がいい。自らの肩書きを語った時に学生達がする反応は、何度見ても愉快極まりないものだった。
ワイトは耳に絡みつくように間延びした声で言う。
「えー、今からですねえ、皆さんに私を相手に実戦訓練をしてもらおうかと思いましてねえ」
「そういう事だ。一等騎士であらせられるワイト主任教官が特別に貴様等に実践形式で手ほどきをしてくださる。感謝しろよ」
再びざわつくAクラスの面々。
「では、さっそく始めましょうかあ。そうですねえ。じゃあまずは504班、前に出てきてください」
ワイトの指示に従って4人の生徒が立ち上がる。その内の一人、年齢的に一人だけ浮いている男、リック・グラディアートルは「あれ? 番号順じゃないのか。それにしても何で俺たちから?」などと呟いていた。
「クククク」
ワイトの口から笑いが漏れる。
彼の選んだ手段は単純なものだった。一等騎士である自らの実力をもって実践形式の訓練で特別強化対象を皆が見ている前で徹底的に痛めつけるのである。
本人に耐え難い恥辱と肉体的ダメージを与えることができる上に、他の学生達にも教官という存在への恐怖を植え付けることができる。単純ながらまさに一挙両得の作戦である。
「では。まずは、27番のガイル・ドルムント君ですか。前に出てきてください」
まずは、同部屋の他の3人から痛めつけていく。ルームメイトが苦しむ様を見ながら、自分の番が回ってくる恐怖を存分に味わうといい。
「しゃあ!! 行ってくるぜ」
ガイルと言う体の大きい生徒は元気よく自らの胸をドンと叩いて、ワイトの前に立つ。
そして、ペディックから渡された訓練用の刃の無い剣を渡される。
「今回はお互いに訓練用の剣を使って行います。ワタクシがよしと言うまで自由に打ち込んできてかまいません」
ワイトも自らの剣を構える。
両者が構えたのを見てペディックが言う。
「では……始め!!」
「でりゃああああああああああああああああ!!」
開始と同時にガイルは思いっきり剣を上段から振り下ろしてきた。
(ふふふ、猪突猛進の体力バカですか。まだ『強化魔法』はおろか『身体操作』すらロクに使えないくせに愚かなことですねえ)
ワイトは自らの両腕と剣に魔力を流し強化を施す。細身の自分に自慢の腕力をはじき返され、絶望する姿目に浮かぶようである。
ガチィィィィィン!!
と、両者の剣が衝突した。
「ちっ、受け止められた。『強化魔法』って奴か!!」
「ほお」
感心したような声を上げるワイト。
一切強化を施していない状態でこれほどの威力。さすがに強化を施した自分には及ばないが、単純に腕力だけで言えば教官たちですら上回るだろう。なるほど皆が今年は当たり年だと言ったのも頷ける。
(大した体力的な資質ですねえ。仕方ありません、スタミナが尽きるまで適当に攻撃をあしらって、体力が尽きてからゆっくりいたぶることにしますか)
しかし、次の瞬間。
「だらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ガイルが咆哮と共に剣にさらなる力を込める。
「!?」
ギリギリと押し返されていくワイトの剣。
「くっ!! 強化魔法、『剛拳』『物質硬化』!!」
とっさに自らの腕力を瞬間的に何倍にも増幅するものと物質の強度を向上させる二種類の強化魔法を使うワイト。
バキン。という音と共にガイルの剣が折れた。
ワイトの剣はガイルの剣をへし折った勢いそのまま、訓練用として刃が研がれていない刀身をガイルの胴体に叩きつける。
「ごふうっ!!」
うめき声と共に、ガイルの体が15mほど吹き飛んだ。
「ぐっ、クソ……」
ガクリとそのまま地面に倒れ伏すガイル。
さすがの一等騎士と周囲から歓声が上がるが、ワイトはその賞賛を楽しむ余裕はなかった。
驚いた。
予想を遙かに上回る豪腕である。思わず痛めつける前に全力で反撃してしまった。
すぐに倒してしまっては、そこまで見ている人間の恐怖を煽ることができない。次こそはしっかりといたぶってやらねば。
「次、28番アルク・リグレット」
ペディックの指示に従い、ワイトの前に立ったのは少女とみまごうような美形の少年だった。
アレは確か、今年の主席合格生である。どれ、一体どれほどの手並みか。
「始め!!」
ペディックの声が響く。
「……」
「……」
半身で剣を構えたままワイトの動きを伺ってくるアルク。なるほど、さきほどの大男とは違い冷静に戦いを進めることができるようだ。
十秒ほどの静寂が過ぎた後だった。
アルクの体に魔力が循環するのをワイトは感じ取った。
(来る!)
身体強化を施したアルクの足が、地面を蹴り加速する。
「は、速い!!」
『身体操作』を使ったスピードだけで言えば一等騎士のレベルとほぼ同等である。
素早くかつしなやかな動きから繰り出されるアルクの袈裟切り。
ワイトはそれを間一髪で受け止める。
(くっ!! だが剣撃の重さ自体は先ほどの生徒よりも遙かに軽い)
ワイトはアルクの剣を上に弾くと、弾いた自分の剣をそのままアルクに向かって振り下ろす。
しかし、アルクは再び体を加速させワイトから遠ざかる。
空を切るワイトの剣。
その隙に再びこちらに向かって切りかかってくるアルク。
ワイトは大きく飛び退いて距離をとった。
しかし、アルクは間髪入れずに再び体内に魔力を循環させ、こちらに向かってくる。
まともな訓練をされていない人間が、全力での身体強化をこれほど連続で行えば、普通はあっという間に魔力欠乏症になるものだが、アルクは全くその様子がなかった。
そう言えばこの生徒は魔力量の測定で第一光級を叩き出していたことを思い出す。魔力量だけで言えばすでに一流の領域なのである。
ワイトは思わず剣を持っていない左手をアルクに向けた。
「西方の疾風、草原の獅子を穿て、第三界綴魔法「エアロ・ブラスト」!!」
ワイトの左手から圧縮された空気が砲弾のように猛スピードで放たれる。
「くっ……」
さすがのアルクもこれをかわすことも防ぎきることもできず、なす手段なく吹き飛ばされて地面に倒れ伏した。
再び驚嘆の声が周囲から上がる。第三界綴魔法の略式詠唱を使いこなしたワイトに対しての歓声である。
しかし、当然ながら当のワイト自身はそんなことを気にできる余裕はなかった。
(どうなっているのですか……今年の生徒は)
油断したら一瞬で持って行かれるレベルであった。まさか、生徒相手に界綴魔法を使う羽目になるとは夢にも思わなかったのである。
「まずいですねえ……」
小さくそう呟いたワイト。
思った通りに痛めつけることができず焦り出していた。先日、ペディック達教官を前に自分がやると言ってしまった手前、半端で終わらせてしまっては立つ瀬がない。
しかし、そんなワイトの前に。
「では、次29番。ヘンリー・フォルストフィア」
「は、はい」
前髪の長い気弱そうな少年が立った。訓練用の剣をいかにも重そうに持つその姿を見て、ワイトはニヤリと笑った。
……容易い。
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