新米オッサン冒険者、最強パーティで死ぬほど鍛えられて無敵になる。
第20話 とある新人冒険者の一日
ルーク・ルーカス15歳は、ついこの前冒険者になったばかりのFランク冒険者である。
「はあ、また薬草拾いかぁ」
傷は無いが汚ればかり目立つ防具が彼の今の生活、ひいては『見習い冒険者』の仕事事情を如実に表していた。
ギルドに登録された冒険者は最初にFランクを与えられる。このFランクというのは「見習い」の証であり、「見習い」ゆえに受けられるクエストに厳しい制限が課されることになる。
Fランク冒険者は危険度10段階の内、危険度2までのクエストしか受けられないのである。この2というのは「落とし物捜し」や「薬草拾い」といった便利屋レベルの依頼であり、一般的な冒険者のイメージからは遙か遠い。
壮大な冒険と戦いの日々を夢見て、田舎から出てきたルークが溜息をつくのも仕方ない話である。
ルークは一度ギルドマスターに直訴したことがある。「少しは危険なクエストも経験させてくれなければ、お金も稼げないし強くもなれないと」。
しかし、そのルークの訴えはギルドマスターに「ガキンチョが一丁前のこと抜かすな、まっとうに薬草拾いでもできるようになってからそう言う生意気は言うんだな」と一蹴されてしまった。
いや、一丁前に薬草拾いも何もあんなもの失敗しようもないし、極めようもないではないか。
そんなルークの思いも空しく今日も今日とて、クエストと呼べるのかもわからないような仕事をするのである。
「……一応、ランクが上の冒険者とパーティを組めば、危険度の高いクエストも受けられるんだけどなあ」
残念なことにそんなアテはなかった。半年後にあるEランク昇格試験はなんとしても受かりたいところである。
そんなことを思いながら、ルークは依頼の書かれた掲示板から「薬草拾い」の依頼を選び、受付に持って行こうとする。
その時だった。
「……ふむ、どうしても我々はこのクエストを受けられないのか?」
受付の方から、肺まで響くような野太い声が聞こえてきた。
気になってそちらの方を見るルーク。
「確かに危険度の高いクエストではあるが我々の実力なら問題ないと思うのだが」
オークがいた。
肩に少女を乗せた2mを優に超える筋骨隆々のオークがいた。
「なんだ、オークか……って、んん!?」
驚きの声を上げるルーク。
いや、だって、おかしい。なぜオークがこんなところにいるのか。そして、なぜ普通に言葉をしゃべって受付で依頼を受けようとしているのか。
「えー、あの、申し訳ありません。あなた方の実力は十分に、それはもう十分に、十分に、じゅうううううぶんに承知しているのですが。なにぶん、依頼の条件が4人以上での挑戦なもので。ギルドの規則としては許可を出す訳には……」
よく見ると対応しているのは、このギルドのギルドマスターである。普段は成金趣味臭い椅子にふんぞり返ってたばこをふかしているだけの男が、今は頭髪の薄くなってきた頭をものすごい勢いで下げている。
「そうか……ならば、こちらも交渉の方法を変えよう。アリスレート」
「よっと」
オークの肩に乗っていた少女がそういって飛び降りた。赤い髪の10歳ほどの少女だった。ルークは別にそういう趣味がある訳ではないが、思わず頬がゆるんでしまうほどに愛らしい容姿をしている。
少女はテクテクと頭を下げ続けるギルドマスターの元に歩いていくと、その足をツンツンとつつく。
「な、何でしょうか……」
ギルドマスターは震える声で少女に尋ねる。
「アリスね。今ここで魔法使いたくなってきちゃった(ニコニコ)」
ガクン。
ボロボロボロボロ。
床に膝を突き、涙を流し始めるギルドマスター。
(ええぇ!?)
普段の傲慢な態度など見る影もないその姿を見て、開いた口が塞がらなくなるルーク。
「せ、せめて遺書を……妻と娘に、遺書を書く時間をください……」
いったい、過去に彼らと何があったというのだろうか……あえて恐ろしい思いをしたい訳でもないので、ルークは深く考えないことにした。
「ブロストンさんにアリスレートさん。ギルドはこういうところではシビアですから、一度戻ってミゼットさんかリーネットを連れてくるしか……」
そう言ったのはオークの隣に立っている、30代くらいの冒険者だった。どうやらオークたちの仲間らしい。
その割には、どうにも普通のオッサンという雰囲気である。冒険者というよりも、むしろ受付の口の向こうで事務作業をしている方がしっくりくる気がする。
「あ、でも、この条件『Aランク以上の入った4人編成以上のパーティ』だから、臨時で誰かに同行を依頼すれば大丈夫じゃないですかね」
普通っぽいオッサンの言葉を聞いて、オークが頷く。
「ほう、なるほど。ではギルドマスターよ。誰か助っ人を頼めるものを出してもらいたい」
ギルドマスターが縋るような目を、周囲に向ける。
皆一斉に目を背けた。この怪しさと危険な臭いのフルコースのような連中に関わりたい物好きなど、国中探しても滅多にいるまい。
「そ、そうだ!! おい、ルーク。お前、前々から危険度の高いクエストを受けてみたいって言ってたな。ちょ、ちょうどいいからこの人たちとパーティを組んでみたらどうだ? うん、そうだ。それがいい」
「ひょえっ?」
急に放たれた超弩級の白羽の矢にルークは素っ頓狂な声を上げた。
「……え、あの」
「ありがとおおおおおおおおおお!!!」
そう言ってルークにすがりついてくるギルドマスター。
「いや、俺、今日はこの「薬草拾い」を」
「ありがとおぉルークうううううう。今までガキンチョとか言って悪かったなあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
どうやらギルドマスターの脳味噌からは、返事を聞くという機能が消失したようである。
確かにルークは危険度の高いクエストに出たくはあるが、別に怪しげな連中に巻き込まれたいわけではない。
そんなルークの元に、巨漢のオークがズンズンと近づいてきた。
「ふむ。お前が助っ人か。俺の名はブロストン・アッシュオークだ。よろしくな」
「え、いや」
「よろしくな」
「は、はい……」
鋭い双眸で一睨みされたルークは、差し出された巨岩のような手を取って握手せざるを得なかった。
なぜか、普通っぽいオッサンがルークに向けて合掌していた。その意味が「助っ人にきてくれてありがとう」なのか「ご冥福をお祈りします」なのかルークは非常に気になるところであった。
「はあ、また薬草拾いかぁ」
傷は無いが汚ればかり目立つ防具が彼の今の生活、ひいては『見習い冒険者』の仕事事情を如実に表していた。
ギルドに登録された冒険者は最初にFランクを与えられる。このFランクというのは「見習い」の証であり、「見習い」ゆえに受けられるクエストに厳しい制限が課されることになる。
Fランク冒険者は危険度10段階の内、危険度2までのクエストしか受けられないのである。この2というのは「落とし物捜し」や「薬草拾い」といった便利屋レベルの依頼であり、一般的な冒険者のイメージからは遙か遠い。
壮大な冒険と戦いの日々を夢見て、田舎から出てきたルークが溜息をつくのも仕方ない話である。
ルークは一度ギルドマスターに直訴したことがある。「少しは危険なクエストも経験させてくれなければ、お金も稼げないし強くもなれないと」。
しかし、そのルークの訴えはギルドマスターに「ガキンチョが一丁前のこと抜かすな、まっとうに薬草拾いでもできるようになってからそう言う生意気は言うんだな」と一蹴されてしまった。
いや、一丁前に薬草拾いも何もあんなもの失敗しようもないし、極めようもないではないか。
そんなルークの思いも空しく今日も今日とて、クエストと呼べるのかもわからないような仕事をするのである。
「……一応、ランクが上の冒険者とパーティを組めば、危険度の高いクエストも受けられるんだけどなあ」
残念なことにそんなアテはなかった。半年後にあるEランク昇格試験はなんとしても受かりたいところである。
そんなことを思いながら、ルークは依頼の書かれた掲示板から「薬草拾い」の依頼を選び、受付に持って行こうとする。
その時だった。
「……ふむ、どうしても我々はこのクエストを受けられないのか?」
受付の方から、肺まで響くような野太い声が聞こえてきた。
気になってそちらの方を見るルーク。
「確かに危険度の高いクエストではあるが我々の実力なら問題ないと思うのだが」
オークがいた。
肩に少女を乗せた2mを優に超える筋骨隆々のオークがいた。
「なんだ、オークか……って、んん!?」
驚きの声を上げるルーク。
いや、だって、おかしい。なぜオークがこんなところにいるのか。そして、なぜ普通に言葉をしゃべって受付で依頼を受けようとしているのか。
「えー、あの、申し訳ありません。あなた方の実力は十分に、それはもう十分に、十分に、じゅうううううぶんに承知しているのですが。なにぶん、依頼の条件が4人以上での挑戦なもので。ギルドの規則としては許可を出す訳には……」
よく見ると対応しているのは、このギルドのギルドマスターである。普段は成金趣味臭い椅子にふんぞり返ってたばこをふかしているだけの男が、今は頭髪の薄くなってきた頭をものすごい勢いで下げている。
「そうか……ならば、こちらも交渉の方法を変えよう。アリスレート」
「よっと」
オークの肩に乗っていた少女がそういって飛び降りた。赤い髪の10歳ほどの少女だった。ルークは別にそういう趣味がある訳ではないが、思わず頬がゆるんでしまうほどに愛らしい容姿をしている。
少女はテクテクと頭を下げ続けるギルドマスターの元に歩いていくと、その足をツンツンとつつく。
「な、何でしょうか……」
ギルドマスターは震える声で少女に尋ねる。
「アリスね。今ここで魔法使いたくなってきちゃった(ニコニコ)」
ガクン。
ボロボロボロボロ。
床に膝を突き、涙を流し始めるギルドマスター。
(ええぇ!?)
普段の傲慢な態度など見る影もないその姿を見て、開いた口が塞がらなくなるルーク。
「せ、せめて遺書を……妻と娘に、遺書を書く時間をください……」
いったい、過去に彼らと何があったというのだろうか……あえて恐ろしい思いをしたい訳でもないので、ルークは深く考えないことにした。
「ブロストンさんにアリスレートさん。ギルドはこういうところではシビアですから、一度戻ってミゼットさんかリーネットを連れてくるしか……」
そう言ったのはオークの隣に立っている、30代くらいの冒険者だった。どうやらオークたちの仲間らしい。
その割には、どうにも普通のオッサンという雰囲気である。冒険者というよりも、むしろ受付の口の向こうで事務作業をしている方がしっくりくる気がする。
「あ、でも、この条件『Aランク以上の入った4人編成以上のパーティ』だから、臨時で誰かに同行を依頼すれば大丈夫じゃないですかね」
普通っぽいオッサンの言葉を聞いて、オークが頷く。
「ほう、なるほど。ではギルドマスターよ。誰か助っ人を頼めるものを出してもらいたい」
ギルドマスターが縋るような目を、周囲に向ける。
皆一斉に目を背けた。この怪しさと危険な臭いのフルコースのような連中に関わりたい物好きなど、国中探しても滅多にいるまい。
「そ、そうだ!! おい、ルーク。お前、前々から危険度の高いクエストを受けてみたいって言ってたな。ちょ、ちょうどいいからこの人たちとパーティを組んでみたらどうだ? うん、そうだ。それがいい」
「ひょえっ?」
急に放たれた超弩級の白羽の矢にルークは素っ頓狂な声を上げた。
「……え、あの」
「ありがとおおおおおおおおおお!!!」
そう言ってルークにすがりついてくるギルドマスター。
「いや、俺、今日はこの「薬草拾い」を」
「ありがとおぉルークうううううう。今までガキンチョとか言って悪かったなあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
どうやらギルドマスターの脳味噌からは、返事を聞くという機能が消失したようである。
確かにルークは危険度の高いクエストに出たくはあるが、別に怪しげな連中に巻き込まれたいわけではない。
そんなルークの元に、巨漢のオークがズンズンと近づいてきた。
「ふむ。お前が助っ人か。俺の名はブロストン・アッシュオークだ。よろしくな」
「え、いや」
「よろしくな」
「は、はい……」
鋭い双眸で一睨みされたルークは、差し出された巨岩のような手を取って握手せざるを得なかった。
なぜか、普通っぽいオッサンがルークに向けて合掌していた。その意味が「助っ人にきてくれてありがとう」なのか「ご冥福をお祈りします」なのかルークは非常に気になるところであった。
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