新米オッサン冒険者、最強パーティで死ぬほど鍛えられて無敵になる。
第18話 夢
「さあ立て。『千の術を操る男』。俺はまだお前をぶっ飛ばし足りねえ」
「ふ、ふざけるな……」
俺の言葉にキタノがよろよろと立ち上がる。
「ふざけるなよぉ!! たかが二年修行したくらいで貴様のような出遅れがここまで強くなってたまるかぁ、一体どんな修行をしてきたって言うんだ!!」
「どんな修行だって? それはな……オボロロロロロロロ」
いかんいかん。修行のことを思い出したらつい。
「……いや別に特別なことじゃない。普通に『体力』を始めとした基礎の訓練、それと強い相手との実践訓練だ」
「嘘をつくんじゃない!! 思い出しただけで嘔吐するような普通の修行があるかぁ。具体的にどんな修行したか言ってみろ!!」
「具体的に? そうだな……例えば実践訓練で言えば、まだ修行初めて一か月の俺を古龍の巣に放り込んで、倒すまで入口塞ぐとか」
「え? それもうその時点で死んでない?」
「体力訓練だと、例えばたった数グラムで馬車馬を完全に絡めとるダークスライムの捕獲液の中で窒息死するまで泳ぐとか」
「窒息死って言ったよね? 今確かに死って言ったよね?」
「破壊と回復で体は負荷に適応して強くなっていくからな。んでもって、俺が死んだらブロストン先輩の『死んでもすぐなら生き返る謎ヒール』で強引に回復して、また死ぬまで鍛えて、また回復しての繰り返し……まあだいたい、そんな『普通』の修行だ!!」※良い子はマネしないでね。
「ただのえげつない拷問じゃねえか!? 物理的にできるできない以前に、どんな神経してたらそんなもの耐えられるというんだ!!」
「どんな神経か……いや別に特に特別なことはねえよ。お前がボロボロにしたローロットさんと同じだ。俺には夢があるんだよ。夢があるから耐えられたんだ」
「夢だと!? 毎日死を体感するような修行をそんなことで乗り切ったというのか? いったいどんな夢だそれは」
俺は胸を張って堂々とした態度でキタノの問いに答える。
「伝説の隠しボス『カイザー・アルサピエト』を倒すこと、それが俺の夢だ」
「……」
ラスターは自分の耳がおかしくなったのではないかと疑っているような様子だった。
伝説の隠しボス『カイザー・アルサピエト』。それはこの世界の全ての人間が知っていると言っていい冒険譚『英雄ヤマトの伝説』の最後に登場するモンスターのことである。この世の最果てにあると言われる究極のダンジョン『根源への螺旋』の最深部に住み、その強さはまさに究極。世界中に存在する全てのモンスターを圧倒的に凌駕する力を持っている。ヤマトとの最終決戦の末に決着がつかずに未だ『根源の螺旋』の最深部に眠っていると言われている。
『カイザー・アルサピエト』の打倒は全ての冒険者を目指す子供たちの憧れであり、冒険者になった大人たちがその途方もなさに忘れていく夢であった。
「誰も倒せなかったモンスターをこの年から冒険者始めて倒すってんだ、無茶も無謀も承知の上だぜ。時間と年齢の差は年甲斐もない熱意と意地で埋めてやるさ。まあ、たまーに、ごくごくたまーーーーに逃げ出そうとした時もあったがな!!」
「クソが、クソが、クソが、クソがああああああああああああああああああああああ!! わけの分からないことを言うなあああああああああああああ!!」
ラスターが右手をリックに向けてかざす。
「絡めとれ深緑の罠、第七界綴魔法『フォレストロープ』!!」
ラスターのその言葉と共に、地面から数百本ものしなやかで頑丈なツルが飛び出しリックを雁字搦めにした。
「第七界綴魔法の無詠唱か。器用なもんだ」
「そんなもので驚いてもらっちゃあ、困るねえ!!!」
ラスターの体から膨大な魔力が溢れだす。
「『戦慄の森、慟哭の林、悲劇の大樹、悲壮の芽、森羅万象無常の理の前に面を下げよ』」
「その詠唱は……」
「ははははっ、貴様のような三流以下でも知っていたかぁ。そうだ、これが『千の術を操る男』である僕の必殺技!! 人類の扱える最高位の魔法、第八界綴魔法の全文詠唱だあ!!」
ラスターの膨大な魔力が地面に流れ込む。
そして現れる巨大な樹木の魔人。全長100m級の禍々しい化け物であった。
会場中の客は(一部を除いて)その恐ろしさに悲鳴を上げる。普通に生きていれば人生のうちでお目にかかることなどまずないであろう最高位の界綴魔法を前に、自分に向けられたものでないにせよ本能的な恐怖を感じているのだろう。
それに対して、俺は。
拳を握った。
その手の周囲に小さな空気の塊が現れる。手にまとった空気の塊をぶつける、恐ろしくポピュラーな風系統魔法である。
ラスターはそれを見て高々と笑う。
「はははは、そんな基礎中の基礎魔法で何をする気だぁ?」
「決まってるだろ……真正面からぶち抜くんだよ!!」
ラスターは信じられないことを聞いたと言わんばかりの顔で、目をパチパチと動かした。
「な、何を言ってるか分かっているのか? 第八界綴魔法だぞ!? それも全文詠唱の」
「おい、元神童。お前今までその必殺技とやら、練習も含めて何回撃った?」
「は? ははは何を聞くかと思えば。悪いが僕は天才でねぇ。たった数回打っただけでマスターしてしまったのさあ。感謝するがいいよ。実践ではめったに使ってやらないんだからね!!」
「そうか、それは大層器用で結構なことだ。ちなみに俺はこの技を二年間で一億回以上撃ってる」
「フッ、それはまた地味な技を随分と丁寧に覚え……って、はぁ!? いや、おかしいだろ! 二年で一億回って一日に何回打つ気だよ!?」
ラスターの言葉に俺は遠い目を、それはそれは遠い目をして答えた。
「ちょっと秘密の特訓法でな。なんというか、まあ、おっそろしい特訓法だった……ホントかどうかは食らってみて判断しろ」
「高貴なる僕を舐めるんじゃないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ラスターの叫びと共に樹木の巨人が、その巨大な拳をリックに向けて放つ。
俺も空気をまとった拳を、体中にまとわりついたツルを引きちぎりながら巨人の拳に向けて放った。
「第八界綴魔法『ユグドラシル・ゴット・インパクト』!!」
「第一界綴魔法『エア・ショット』!!」
激突する両者。
巨大な拳と小さな拳。第八界綴魔法と第一界綴魔法。全文詠唱と略式詠唱。
結果は一瞬にして現れた。
木の枝を折る音を何千倍にもしたような轟音が響き渡る。
俺の空気をまとった拳は、樹木の魔人をまるで飴細工か何かのように木っ端みじんに粉砕し、その余波でラスターを吹き飛ばし闘技場の壁に深々とめり込ませたのである。
「ご……はぁ。バ、バカ……な……、一体なぜ……天才で、エリートで……高貴な僕が……貴様のような出遅れに……」
「技の完成度の違いだ。俺は出遅れだからな。お前と違って時間がたっぷりあったわけじゃないから、やることを徹底的に絞るしかなかったんだよ」
俺は服についた樹木の巨人の欠片をはらいながら言う
「器用さに胡坐かいて千も二千も派手な技ばかりに手を出すとろくなことないと思うぞ。どんな地味なモノだっていい。たった一つでも迷いを振り切って極めに極めたモノだけが本物の武器になるんだと俺は思う。人生の先輩からのアドバイスだ、覚えておいて損はないぜ冒険者の先輩」
こうして、俺は二次試験の模擬戦を受験者の中で唯一試験官に対する勝利という形で終えたのである。
「ふ、ふざけるな……」
俺の言葉にキタノがよろよろと立ち上がる。
「ふざけるなよぉ!! たかが二年修行したくらいで貴様のような出遅れがここまで強くなってたまるかぁ、一体どんな修行をしてきたって言うんだ!!」
「どんな修行だって? それはな……オボロロロロロロロ」
いかんいかん。修行のことを思い出したらつい。
「……いや別に特別なことじゃない。普通に『体力』を始めとした基礎の訓練、それと強い相手との実践訓練だ」
「嘘をつくんじゃない!! 思い出しただけで嘔吐するような普通の修行があるかぁ。具体的にどんな修行したか言ってみろ!!」
「具体的に? そうだな……例えば実践訓練で言えば、まだ修行初めて一か月の俺を古龍の巣に放り込んで、倒すまで入口塞ぐとか」
「え? それもうその時点で死んでない?」
「体力訓練だと、例えばたった数グラムで馬車馬を完全に絡めとるダークスライムの捕獲液の中で窒息死するまで泳ぐとか」
「窒息死って言ったよね? 今確かに死って言ったよね?」
「破壊と回復で体は負荷に適応して強くなっていくからな。んでもって、俺が死んだらブロストン先輩の『死んでもすぐなら生き返る謎ヒール』で強引に回復して、また死ぬまで鍛えて、また回復しての繰り返し……まあだいたい、そんな『普通』の修行だ!!」※良い子はマネしないでね。
「ただのえげつない拷問じゃねえか!? 物理的にできるできない以前に、どんな神経してたらそんなもの耐えられるというんだ!!」
「どんな神経か……いや別に特に特別なことはねえよ。お前がボロボロにしたローロットさんと同じだ。俺には夢があるんだよ。夢があるから耐えられたんだ」
「夢だと!? 毎日死を体感するような修行をそんなことで乗り切ったというのか? いったいどんな夢だそれは」
俺は胸を張って堂々とした態度でキタノの問いに答える。
「伝説の隠しボス『カイザー・アルサピエト』を倒すこと、それが俺の夢だ」
「……」
ラスターは自分の耳がおかしくなったのではないかと疑っているような様子だった。
伝説の隠しボス『カイザー・アルサピエト』。それはこの世界の全ての人間が知っていると言っていい冒険譚『英雄ヤマトの伝説』の最後に登場するモンスターのことである。この世の最果てにあると言われる究極のダンジョン『根源への螺旋』の最深部に住み、その強さはまさに究極。世界中に存在する全てのモンスターを圧倒的に凌駕する力を持っている。ヤマトとの最終決戦の末に決着がつかずに未だ『根源の螺旋』の最深部に眠っていると言われている。
『カイザー・アルサピエト』の打倒は全ての冒険者を目指す子供たちの憧れであり、冒険者になった大人たちがその途方もなさに忘れていく夢であった。
「誰も倒せなかったモンスターをこの年から冒険者始めて倒すってんだ、無茶も無謀も承知の上だぜ。時間と年齢の差は年甲斐もない熱意と意地で埋めてやるさ。まあ、たまーに、ごくごくたまーーーーに逃げ出そうとした時もあったがな!!」
「クソが、クソが、クソが、クソがああああああああああああああああああああああ!! わけの分からないことを言うなあああああああああああああ!!」
ラスターが右手をリックに向けてかざす。
「絡めとれ深緑の罠、第七界綴魔法『フォレストロープ』!!」
ラスターのその言葉と共に、地面から数百本ものしなやかで頑丈なツルが飛び出しリックを雁字搦めにした。
「第七界綴魔法の無詠唱か。器用なもんだ」
「そんなもので驚いてもらっちゃあ、困るねえ!!!」
ラスターの体から膨大な魔力が溢れだす。
「『戦慄の森、慟哭の林、悲劇の大樹、悲壮の芽、森羅万象無常の理の前に面を下げよ』」
「その詠唱は……」
「ははははっ、貴様のような三流以下でも知っていたかぁ。そうだ、これが『千の術を操る男』である僕の必殺技!! 人類の扱える最高位の魔法、第八界綴魔法の全文詠唱だあ!!」
ラスターの膨大な魔力が地面に流れ込む。
そして現れる巨大な樹木の魔人。全長100m級の禍々しい化け物であった。
会場中の客は(一部を除いて)その恐ろしさに悲鳴を上げる。普通に生きていれば人生のうちでお目にかかることなどまずないであろう最高位の界綴魔法を前に、自分に向けられたものでないにせよ本能的な恐怖を感じているのだろう。
それに対して、俺は。
拳を握った。
その手の周囲に小さな空気の塊が現れる。手にまとった空気の塊をぶつける、恐ろしくポピュラーな風系統魔法である。
ラスターはそれを見て高々と笑う。
「はははは、そんな基礎中の基礎魔法で何をする気だぁ?」
「決まってるだろ……真正面からぶち抜くんだよ!!」
ラスターは信じられないことを聞いたと言わんばかりの顔で、目をパチパチと動かした。
「な、何を言ってるか分かっているのか? 第八界綴魔法だぞ!? それも全文詠唱の」
「おい、元神童。お前今までその必殺技とやら、練習も含めて何回撃った?」
「は? ははは何を聞くかと思えば。悪いが僕は天才でねぇ。たった数回打っただけでマスターしてしまったのさあ。感謝するがいいよ。実践ではめったに使ってやらないんだからね!!」
「そうか、それは大層器用で結構なことだ。ちなみに俺はこの技を二年間で一億回以上撃ってる」
「フッ、それはまた地味な技を随分と丁寧に覚え……って、はぁ!? いや、おかしいだろ! 二年で一億回って一日に何回打つ気だよ!?」
ラスターの言葉に俺は遠い目を、それはそれは遠い目をして答えた。
「ちょっと秘密の特訓法でな。なんというか、まあ、おっそろしい特訓法だった……ホントかどうかは食らってみて判断しろ」
「高貴なる僕を舐めるんじゃないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ラスターの叫びと共に樹木の巨人が、その巨大な拳をリックに向けて放つ。
俺も空気をまとった拳を、体中にまとわりついたツルを引きちぎりながら巨人の拳に向けて放った。
「第八界綴魔法『ユグドラシル・ゴット・インパクト』!!」
「第一界綴魔法『エア・ショット』!!」
激突する両者。
巨大な拳と小さな拳。第八界綴魔法と第一界綴魔法。全文詠唱と略式詠唱。
結果は一瞬にして現れた。
木の枝を折る音を何千倍にもしたような轟音が響き渡る。
俺の空気をまとった拳は、樹木の魔人をまるで飴細工か何かのように木っ端みじんに粉砕し、その余波でラスターを吹き飛ばし闘技場の壁に深々とめり込ませたのである。
「ご……はぁ。バ、バカ……な……、一体なぜ……天才で、エリートで……高貴な僕が……貴様のような出遅れに……」
「技の完成度の違いだ。俺は出遅れだからな。お前と違って時間がたっぷりあったわけじゃないから、やることを徹底的に絞るしかなかったんだよ」
俺は服についた樹木の巨人の欠片をはらいながら言う
「器用さに胡坐かいて千も二千も派手な技ばかりに手を出すとろくなことないと思うぞ。どんな地味なモノだっていい。たった一つでも迷いを振り切って極めに極めたモノだけが本物の武器になるんだと俺は思う。人生の先輩からのアドバイスだ、覚えておいて損はないぜ冒険者の先輩」
こうして、俺は二次試験の模擬戦を受験者の中で唯一試験官に対する勝利という形で終えたのである。
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