異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

160話 「割と好評らしいですよ?」

「なんか変わった匂いするっすね!」

「……そうかの?」

夕方になり宿の探索者達がちらほらと戻ってくる。
少し前まで食堂では従業員らがコーヒーを飲んでいたが、今となっては全て綺麗に片付けられている。
だが鼻の良いものは食堂に漂うコーヒーの残り香に気が付き鼻をひくひくと動かしていた。

「まあ、なんでもええわ。加賀ちゃんや腹が減ったで飯にしておくれ」

「はいはーい」

注文を受け次々と厨房から料理が運び出されテーブルの上へと並べられていった
何時も通りの豪勢な食事を前にした探索者達に遠慮などあるわけも無く運ばれてきた料理はテーブルに並べたそばから探索者達のお腹に納まっていく。

「ふぅ、今日も腹いっぱいだわい……ん? これはなんぞ?」

「あ、これっす。最初食堂に入ったとき匂いしてたの!」

「コーヒーっていう飲み物です。今日はいったばかりなんですよー」

探索者達の前に並べられていくコーヒーの入ったカップ。
もちろん中には砂糖が多めに入れられている。さきほどの味見にで砂糖を入れなければどうなるかしっかりと分かっているのだ。

「香りはええがの……ほっ、少し苦いが悪くないぞい」

「んー……俺はちょっと、苦手っす……え、牛乳っすか? ……あ、これならいける!」

砂糖を入れれば大抵の人はいけるのと苦手な人は牛乳を入れれば問題ない事がわかり少しほっとした表情を見せる加賀、もし皆が苦手となれば大量のコーヒー豆をどうするか頭を悩ます事になっただろう。

「……どうしたんじゃ?」

「……にっげぇ」

皆笑顔でコーヒーを堪能する中、一人だけものっすごく渋い顔をするものがいる。
今にも胃の中を吐きそうな雰囲気で手を振るわせながらコップの中身を凝視している。
それを見た加賀は何でもないような態度を装い近づいていった。

「ヒューゴさんがコーヒーだめでしたか。確かにちょっと苦みありますからねー」

「いた、これちょっとってレベルじゃないやろっ」

そう言ってカップをぐいと加賀に見せつけるヒューゴ。
飲んでみろと言う事だろう。加賀はぽりぽりと頬をかきコップを受け取ると中身をためらう事なく飲んでみせた。

「うん、ちょっと苦いけどいけるよー」

「う、うそだろおい……え、いや皆おかしい! なんで平気で飲んでんだっ!?」

皆が平気で飲むなか一人コーヒーが苦すぎて飲めないヒューゴ。
もちろん彼のコップには砂糖はいっさい入っているわけも無くブラックである。しかも結構濃い目の。

「慣れれば飲めるようになりますよー」

そう言って軽く手を振りヒューゴ達の席を後にする加賀。
ヒューゴが一人だけ砂糖の入ってないコーヒーを飲まされていた事に気が付くのは大分先になりそうである。

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