異世界宿屋の住み込み従業員
151話 「被り物」
「おっしゃ、やるぞー!」
「うわっ、危ねえ! ふりまわすなっての!」
「わりーわりー」
雑貨屋で必要なものを粗方補給し新たに追加されたダンジョンへと入った探索者達であるが新人らのはしゃぎっぷりに思わずこめかみを押さるのであった。
「ゴブリンか……まあ基本っちゃ基本だな。まずお前だけで戦ってみろ」
「……はい」
いい加減ぶち切れたヒューゴ達の物理的な教育により大分大人しくなった新人達、大人しく武器を構えると少し離れたところでうろうろしているゴブリン達へ襲い掛かる。
ほぼ初戦であるにも関わらず攻撃するのにためらいが見られない。わり普段から狩りなどをして動物を殺すのにはなれていたのかも知れない、それにゴブリンらが彼らに比べるとガタイも大分小さく武器も棒切れ程度であったのも大きいだろう。
「まぁ……やっぱ素人だよな」
新人達の戦闘を見て探索者の内の誰かがポツリと呟く。全員の表情を見るに口には出さないものの思っていることは同じであるようだ。
ゴブリンに斬りかかるも刀筋が立っていない為切ると言うより殴るといった感じになってしまっている。それでもゴブリンに取ってみれば鉄の棒で殴られたようなものであり、ダメージとして見れば十分ではあるのだが。
「あっ」
ゴブリンが苦し紛れにはなった棍棒が新人の体を捕らえていた、かろうじて腕で受け止めた為内臓を痛めるといったような事にはなっていないようだが、それでも腕に痣や最悪ヒビぐらいは入っているかも知れない。
「腕大丈夫か?」
「まあ、こんぐらいなら平気っすよ」
「折れちゃいなさそうだが……オルソン頼むわ」
「任されました」
見ていてハラハラする戦闘が終わったところでさきほどゴブリンの一撃を受けた新人へヒューゴが声をかける。
ぱっとみでは折れてないし新人も平気だと言うがそれを無視してオルソンに治療を頼む。
「……お前確か盾持ってたよな、なんで使わない?」
雑貨屋で新人の荷物を確認した際の事を思い浮かべるヒューゴ。
目の前の新人は確か盾を持っていたはずと言うことを思いだし、話しかける。
「あー、あれっすか。一応家にあったの持ってきたんすけど……あれなら合っても無くても同じかなあって」
そう言ってちらりと荷物のほうへと視線を向ける新人。
ヒューゴは一言怖ってから荷物から盾を取り出しじっと見つめていたかと思うとはあと息を吐いた。
「こりゃただの板っきれに取ってつけただけじゃねーか……」
「そーなんすよね」
「んー……新人には早いが……まあいい、こいつ使え。中古だがまだ十分使えるぞ」
ヒューゴが手渡したのは一見黒く薄汚れた縁を金属で補強された木製の盾であった。
「おいおい……なんだよ勿体ぶって結局あんたのだってただ木の盾じゃねーかよ」
「いや、これ──」
それをみて急に声を荒げたのはさきほどヒューゴから集中的に物理的な教育を受けたものであった。
今にもかみつきそうな目つきでヒューゴを睨んでいる。
一方盾を受け取った新人はそれが何であるか知っているようで、噛みつこうとしたそいつを止めようとするが。
「ただの木の盾だあ? 何いってんだお前のなまくら受けたぐらいじゃびくともしないぐらい頑丈だぞこれ、なんなら試してみるか?」
それを遮るようにヒューゴが新人を煽りだす。
「はあっ? 脳みそ腐ってんじゃねーのおっさん。いくらなんでもそんな木の盾どうにか出来ないと思ってんの?」
「思ってるぞ。ほれ、置いたから好きに切り付けてみろや。俺らはその間飯くって見学しててやっからよー」
ぷるぷると全身を震わせる新人を置いて食事の準備を始めるヒューゴ。
どうやら本気で食いながら見るつもりらしい。
「つうかよ、せめて剣の扱い方の講習とか受けないわけ? 初めに説明あっただろ?」
「……いえ、何もその手の説明はなかったです」
「まじ? ……まさかその時担当したのって今朝の受付嬢?」
こくりと頷く新人たちを見て一様に額を押さえる探索者達。
あの受付嬢以外から話聞いとけとだけ言い、視線を盾と格闘し続ける新人のほうへと向ける。
「おーい、負け犬君。気はすんだかね?」
「…………」
ヒューゴに反論する気力もつきたのか、ただ肩で荒く呼吸をする新人。
盾はと言うとひたすら食事の間殴り続けたにも関わらず、割れるどころか表面に傷がついた程度である。
「……な、何なんだよこの盾……おかしいだろっ」
「はい、そこのお前。説明したげな」
「えっ俺っすか!? ……ええとその盾な黒鉄ってすっげえ丈夫な木で出来てるんだ。軽いから分厚くつくれるし下手な金属性よりずっと頑丈……見た目はただの木だし。すっげえ高いけどな」
黒鉄性の盾は木の特性上一枚板で作ると割れやすいため、複数の薄板を張り合わせて作っている。
黒鉄は木にしては異常に堅く、薄く加工するのが難しい為その分お値段もお高めとなっている。
どうやら最初につっかかった新人は黒鉄の存在そのものを知らなかったようで呆然とした表情をしている。
「まー、見た目で判断すんなって事だ。んじゃ次いくぞー」
顔を真っ赤にする新人とは対照にすごく楽しそうに先を行くヒューゴ。
時刻はまだ昼過ぎ、新人教育と言う名のいびりはまだ続きそうである。
場面は変わって宿の食堂の一角。
咲耶がひたすらちまちまと何やら作っているようである。
その作業は昼前から始まり、間もなく夕飯だと言うのにまだ続いていた。
「ん、出来た……被り心地はどうかな……すっごいふかふか!」
咲耶の加護もフル動員したこともあって、なんとかご飯前に完成させることが出来たようだ。
手に持ったそれをかぶり、被り心地を確かめる咲耶であるが上々の様である。
と、そこに玄関の扉をあけ、食堂の扉へと手をかけるもの達がいた。
「たでーまー……っうぉおおおぁあああっ!?」
ダンジョンから戻ったヒューゴ達であった。
扉をあけるなら悲鳴を上げるヒューゴを見て後のものも何かあったのかと食堂へと入ってくる。
「え、何どしたのうわあああっ!?」
「二人共うるさいでええぇええっ!?」
あとから入ってきたものもヒューゴ同様に悲鳴をあげ床にへたりこんでしまう。
そんなみんなを見て咲耶は困った様に首をかしげとりあえず挨拶をするのであった。
「おかえりなさい」
「うぅうあああ……あ? そ、その声咲耶さんっ!?」
「そうよー」
そういって被っていたものを脱ぎ手をひらひらと振る咲耶。
ヒューゴは震える手で咲耶が手に持ったものを指さし口を開く。
「そ、それは……?」
「あ、これ? うーちゃんの毛で作ってみたの。可愛いでしょ?」
「怖いわっ!? まじで寿命縮まったかと思ったよ!」
咲耶が作ったもの。それはうーちゃんの顔と瓜二つ見た目なも大きさも瓜二つな兎の被りものであった。
扉をあけたら目の前には顔だけ巨大な兎の女性がいたのである。そのあまりにもリアルな出来に思わず本物かと思い悲鳴を上げてしまうのも無理はない。
「そう? ……命が喜ぶかと思ったのだけど。困ったわねえ」
「泣くわそんなんっ」
「一体何の騒ぎ……?」
騒ぎを聞きつけて厨房から顔を覗かせるアイネ。
その視線は咲耶の手元へと注がれている。
「……そうーちゃんの毛ね」
「てか、どうやったこの量確保したんす? そりゃたまに毛が抜けてるなとは思ったけど、こんだけの作るには相当いりますよね
「半年前のも取っておいたの……でもどうしようかしらこれ。命が被ってくれるかと思ったんだけど……
そう咲耶が口にするのを聞いて、アイネが興味深げにうーちゃんの被り物を手に取り触感を確かめるように触りだす。
そして、ふいに顔を咲耶に向けると口を開く。
「これ、私がもらってもいい?」
「それは構わないけど……」
「ありがとう……これがあれば寝れるかも知れない」
その言葉を聞いてああ、と納得する様子を見せる一同。
うーちゃんの被り物は見た目はともかく触感はとても良い。普段睡眠を全くとる必要がないアイネだが、一度ぐらいは寝てみたいのだろう。
「それじゃ、しまってくるね」
そう言って珍しく機嫌よさげな表情を浮かべ自室へと向かうアイネ。
とりあえずは加賀に見せる事なくすみそうである。
「うわっ、危ねえ! ふりまわすなっての!」
「わりーわりー」
雑貨屋で必要なものを粗方補給し新たに追加されたダンジョンへと入った探索者達であるが新人らのはしゃぎっぷりに思わずこめかみを押さるのであった。
「ゴブリンか……まあ基本っちゃ基本だな。まずお前だけで戦ってみろ」
「……はい」
いい加減ぶち切れたヒューゴ達の物理的な教育により大分大人しくなった新人達、大人しく武器を構えると少し離れたところでうろうろしているゴブリン達へ襲い掛かる。
ほぼ初戦であるにも関わらず攻撃するのにためらいが見られない。わり普段から狩りなどをして動物を殺すのにはなれていたのかも知れない、それにゴブリンらが彼らに比べるとガタイも大分小さく武器も棒切れ程度であったのも大きいだろう。
「まぁ……やっぱ素人だよな」
新人達の戦闘を見て探索者の内の誰かがポツリと呟く。全員の表情を見るに口には出さないものの思っていることは同じであるようだ。
ゴブリンに斬りかかるも刀筋が立っていない為切ると言うより殴るといった感じになってしまっている。それでもゴブリンに取ってみれば鉄の棒で殴られたようなものであり、ダメージとして見れば十分ではあるのだが。
「あっ」
ゴブリンが苦し紛れにはなった棍棒が新人の体を捕らえていた、かろうじて腕で受け止めた為内臓を痛めるといったような事にはなっていないようだが、それでも腕に痣や最悪ヒビぐらいは入っているかも知れない。
「腕大丈夫か?」
「まあ、こんぐらいなら平気っすよ」
「折れちゃいなさそうだが……オルソン頼むわ」
「任されました」
見ていてハラハラする戦闘が終わったところでさきほどゴブリンの一撃を受けた新人へヒューゴが声をかける。
ぱっとみでは折れてないし新人も平気だと言うがそれを無視してオルソンに治療を頼む。
「……お前確か盾持ってたよな、なんで使わない?」
雑貨屋で新人の荷物を確認した際の事を思い浮かべるヒューゴ。
目の前の新人は確か盾を持っていたはずと言うことを思いだし、話しかける。
「あー、あれっすか。一応家にあったの持ってきたんすけど……あれなら合っても無くても同じかなあって」
そう言ってちらりと荷物のほうへと視線を向ける新人。
ヒューゴは一言怖ってから荷物から盾を取り出しじっと見つめていたかと思うとはあと息を吐いた。
「こりゃただの板っきれに取ってつけただけじゃねーか……」
「そーなんすよね」
「んー……新人には早いが……まあいい、こいつ使え。中古だがまだ十分使えるぞ」
ヒューゴが手渡したのは一見黒く薄汚れた縁を金属で補強された木製の盾であった。
「おいおい……なんだよ勿体ぶって結局あんたのだってただ木の盾じゃねーかよ」
「いや、これ──」
それをみて急に声を荒げたのはさきほどヒューゴから集中的に物理的な教育を受けたものであった。
今にもかみつきそうな目つきでヒューゴを睨んでいる。
一方盾を受け取った新人はそれが何であるか知っているようで、噛みつこうとしたそいつを止めようとするが。
「ただの木の盾だあ? 何いってんだお前のなまくら受けたぐらいじゃびくともしないぐらい頑丈だぞこれ、なんなら試してみるか?」
それを遮るようにヒューゴが新人を煽りだす。
「はあっ? 脳みそ腐ってんじゃねーのおっさん。いくらなんでもそんな木の盾どうにか出来ないと思ってんの?」
「思ってるぞ。ほれ、置いたから好きに切り付けてみろや。俺らはその間飯くって見学しててやっからよー」
ぷるぷると全身を震わせる新人を置いて食事の準備を始めるヒューゴ。
どうやら本気で食いながら見るつもりらしい。
「つうかよ、せめて剣の扱い方の講習とか受けないわけ? 初めに説明あっただろ?」
「……いえ、何もその手の説明はなかったです」
「まじ? ……まさかその時担当したのって今朝の受付嬢?」
こくりと頷く新人たちを見て一様に額を押さえる探索者達。
あの受付嬢以外から話聞いとけとだけ言い、視線を盾と格闘し続ける新人のほうへと向ける。
「おーい、負け犬君。気はすんだかね?」
「…………」
ヒューゴに反論する気力もつきたのか、ただ肩で荒く呼吸をする新人。
盾はと言うとひたすら食事の間殴り続けたにも関わらず、割れるどころか表面に傷がついた程度である。
「……な、何なんだよこの盾……おかしいだろっ」
「はい、そこのお前。説明したげな」
「えっ俺っすか!? ……ええとその盾な黒鉄ってすっげえ丈夫な木で出来てるんだ。軽いから分厚くつくれるし下手な金属性よりずっと頑丈……見た目はただの木だし。すっげえ高いけどな」
黒鉄性の盾は木の特性上一枚板で作ると割れやすいため、複数の薄板を張り合わせて作っている。
黒鉄は木にしては異常に堅く、薄く加工するのが難しい為その分お値段もお高めとなっている。
どうやら最初につっかかった新人は黒鉄の存在そのものを知らなかったようで呆然とした表情をしている。
「まー、見た目で判断すんなって事だ。んじゃ次いくぞー」
顔を真っ赤にする新人とは対照にすごく楽しそうに先を行くヒューゴ。
時刻はまだ昼過ぎ、新人教育と言う名のいびりはまだ続きそうである。
場面は変わって宿の食堂の一角。
咲耶がひたすらちまちまと何やら作っているようである。
その作業は昼前から始まり、間もなく夕飯だと言うのにまだ続いていた。
「ん、出来た……被り心地はどうかな……すっごいふかふか!」
咲耶の加護もフル動員したこともあって、なんとかご飯前に完成させることが出来たようだ。
手に持ったそれをかぶり、被り心地を確かめる咲耶であるが上々の様である。
と、そこに玄関の扉をあけ、食堂の扉へと手をかけるもの達がいた。
「たでーまー……っうぉおおおぁあああっ!?」
ダンジョンから戻ったヒューゴ達であった。
扉をあけるなら悲鳴を上げるヒューゴを見て後のものも何かあったのかと食堂へと入ってくる。
「え、何どしたのうわあああっ!?」
「二人共うるさいでええぇええっ!?」
あとから入ってきたものもヒューゴ同様に悲鳴をあげ床にへたりこんでしまう。
そんなみんなを見て咲耶は困った様に首をかしげとりあえず挨拶をするのであった。
「おかえりなさい」
「うぅうあああ……あ? そ、その声咲耶さんっ!?」
「そうよー」
そういって被っていたものを脱ぎ手をひらひらと振る咲耶。
ヒューゴは震える手で咲耶が手に持ったものを指さし口を開く。
「そ、それは……?」
「あ、これ? うーちゃんの毛で作ってみたの。可愛いでしょ?」
「怖いわっ!? まじで寿命縮まったかと思ったよ!」
咲耶が作ったもの。それはうーちゃんの顔と瓜二つ見た目なも大きさも瓜二つな兎の被りものであった。
扉をあけたら目の前には顔だけ巨大な兎の女性がいたのである。そのあまりにもリアルな出来に思わず本物かと思い悲鳴を上げてしまうのも無理はない。
「そう? ……命が喜ぶかと思ったのだけど。困ったわねえ」
「泣くわそんなんっ」
「一体何の騒ぎ……?」
騒ぎを聞きつけて厨房から顔を覗かせるアイネ。
その視線は咲耶の手元へと注がれている。
「……そうーちゃんの毛ね」
「てか、どうやったこの量確保したんす? そりゃたまに毛が抜けてるなとは思ったけど、こんだけの作るには相当いりますよね
「半年前のも取っておいたの……でもどうしようかしらこれ。命が被ってくれるかと思ったんだけど……
そう咲耶が口にするのを聞いて、アイネが興味深げにうーちゃんの被り物を手に取り触感を確かめるように触りだす。
そして、ふいに顔を咲耶に向けると口を開く。
「これ、私がもらってもいい?」
「それは構わないけど……」
「ありがとう……これがあれば寝れるかも知れない」
その言葉を聞いてああ、と納得する様子を見せる一同。
うーちゃんの被り物は見た目はともかく触感はとても良い。普段睡眠を全くとる必要がないアイネだが、一度ぐらいは寝てみたいのだろう。
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