異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

123話 「ほぼ満員」

「加賀さん? に質問があります。あ、私フランクと申します」

手を上げたのはフランクと言う人物。
探索者達の中では比較的若く、例にもれず筋肉質ではあるが他と比べると大分細い。見た目はいかにも好青年といった感じである。

「あ、どうも加賀です……それで質問とは何でしょう?」

フランクと名乗った男は加賀を上から下までじっと眺め軽く首を振り、そして口を開いた。

「信じらない……あのあなたは男性と言うのは本当でしょうか?」

「あ、はい」

額を手で押さえ天を仰ぐフランク。
周りでは嘘だろやざまぁと言った呟きが聞こえる。

(久しぶりだなーこのやり取り)

フォルセイリアに来た当初やダンジョンが復活し探索者が増えたあたりでは、加賀に対してナンパしようと声をかけ男と知り撃沈するものが後を絶たなかった。
今のフランクのように男と噂で聞いても信じられず直接聞きに来るものもそれなりにはいた。が、半年や一1年もたつとそういった者は鳴りを潜めていた。

「嘘だ……見た目ドストライクなのに」

「えぇと……じゃ、夕飯の支度するのでボクはこれで」

あまりの落ち込みっぷりに引きつつ、身の危険を感じた加賀はひとまず厨房に引っ込む。

「おう、がんばってな。んじゃ、残りの質問は俺が受付ようかね……なんか嫌な予感がするけどシェイラさんどうぞ」

「八木っちと加賀っちて付き合ってるの?」

「今の会話でなんでそういう質問に行きつくんですかねえ?!」

思わず声を荒げる八木、どうやら当分このネタは引っ張られそうである。


「やー、久しぶりに聞いた」

「たまに聞かれるの?」

「最近は無かったんだけどねー、初対面だとどうしてもね。っと、まあそれは置いといて」

手で物を横に置く動作をしてアイネさんの考えって何なのでしょ?と話を振る加賀。
アイネは顎先に指をあてそうね、と呟く。

「見てもらったほうが早いね、今準備するから少し待ってて」

「ほいほい」

そう言ってごそごそと厨房を漁りだすアイネ。
加賀はアイネの準備が終わるまで買ってきた食材を冷蔵庫へと詰め込んでいく。
そして待つこと数分、アイネの準備が整う。

「そっかー……そっちきたかあ」

「どう?」

アイネの考えは加賀の予想からは外れ以前やったように腕を増やすと言ったものであった。
確かに腕が個別できっちり動かせるのであればその気になれば数人分の作業を一人で賄う事が出来るだろう。調理してる姿は絶対お客さんに見せられないが。

「予想はずれたけど確かに作業量ぐっと増えそう。アイネさんの負担はどう? ずっとやると厳しそう?」

ぐるぐると生やした腕を回すアイネ。調子は良いようで軽く頷くと加賀の問いに答える。

「問題ないよ。一日中使ってても平気」

「ん、それならよかったー」

「ところで、加賀の予想は何だったの?」

使う食材だけど冷蔵庫から取り出し、並べていた加賀。
外した予想を聞かれると思ってなかったのか、うっかり芋を転がしそうになる。

「わっと……あぶあぶ。ボクの予想は……デーモンさん呼び出して手伝わせるのかなーって」

「……なるほど」

「ぁ」

ぽんと手を打つアイネとしまったと言う表情を見せる加賀。
アイネを止めようとする加賀であるが、すでに魔法陣が出現しており手遅れであった。


「そう言う訳だからこれ刻んでおいて」

「…………ハイ」

ものすごく悲しそうな顔をするデーモン。
だが召喚主の命令には逆らえないのか大人しく玉ねぎを刻んでいく。
目にたまった液体はきっと玉ねぎのせいに違いない。

「デーモンさん助かります……あとでご飯用意しますね」

デーモンに悪いと思いつつも人手は欲しい。
とりあえず加賀も送還するようアイネには言わずそのまま手伝って貰う事にしたようだ。

「まさかデーモンと一緒に料理する日が来るとはな……」

「……私も召喚されて料理作らされたのは初めてだよ」

そう言いながらひたすら黙々と手を動かすバクスとデーモン。
人とデーモン、まったく違う生物であるが。達観した目をしていると言うあたりは共通していたりする。


「定食5つと燻製セット3つ追加ねー」

「はーいっ」

そう話している間にも次から次へと追加の注文が入る。
現在厨房では加賀、アイネ、バクス、デーモンの計4人が作業中である。うーちゃんが今日は客側となるので実質一人足りない状態ではあるが一応は回せている感じである。やはりアイネの作業量が増えたのとデーモンが追加になったのが大きい。うーちゃんが加わればさらに余裕も生まれるであろう。

「オムレツと卵サンドとグラタンスープの卵いり追加ね。これラストオーダーだよ」

「ほいー」

「卵多いね」

「ラヴィだろ。しばらく卵食べれなかったんだろうし……」

最後にどさっと卵料理のオーダーが入り、その日はそれでオーダーストップとなる。
軽く片づけをし、遅めの夕食を取ろうとしたところで厨房に入ってくるものがいる、うーちゃんだ。

「お、うーちゃん。賄い食べるかい?」

うっ(ええのかの)

「いいよいいよ、多めに作ったしねー」

うーちゃんが来ることを見越して賄いは多めに作られていた。そしてうーちゃんの方も賄いが入る分はお腹を空けていたりする。

うー(うましうまし)

「うーちゃんリンゴ好きだよね。今度リンゴ使ったレパートリー増やしておくよー」

加賀と出会って初めて美味しく食べれたのがリンゴである。
その記憶は強烈でうーちゃんの中でリンゴ=美味しいものでがっちり固定されていたりする。


今日の宿の客数はうーちゃんを除いて31人、何やら一人多い気がしなくもないがほぼ満員の状態でもなんとか宿を回せていける事がこれで判明した。
宿には残り6人分の客室が空いている、今後はこれらも開放し探索者以外の客も受け入れて行く事となるだろう。

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