異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

107話 「そろったPTメンバー」

そして1週間後、城の一角で書き上げた計画図を城のものに手渡す八木の姿があった。
何かしらトラブルが起こることが懸念された街の散策も護衛を多めに連れて行った事が功を奏したのか、これといって何が起こる事もなく完了し、八木は残りの期間を図面作成にあてる事が出来た。

「八木殿、ありがとうございます。二案も出して頂けるとは……本格的に計画が始まった際にはまた改めて設計の依頼を出させて頂きますね」

「ええ、お待ちしてます」

軽く握手を交わし笑顔で別れる二人。
八木は八木で特にトラブルもなかったし、エルフにも合えて珍しいものも見れて割と満足。
リッカルド側としてもエルフとの交渉はうまく行き、計画図も貰えた。
終わってみればトラブルもなく、お互い目的を無事果たすことが出来た。大成功と言えるだろう。


「あれ、なんか人増えて……あ、そっかこれで全員そろったのか」

フォルセイリアへと帰るため一旦馬車のガレージへと集合した八木達。そこには普段の宿のメンバーの他に見慣れる人物が馬車の周りに集まっていた。
仲よさげに話すその様子から残りのPTメンバーだろうと当たりを付けた八木、とりあえず挨拶をしに向かう。

「どうも、お待たせしました」

「おう?」

近づいてきた八木に一斉に振り返るとじろじろと観察するような視線を向ける初対面ノメンバー達。
その様子に若干引きつつも名を名乗り、護衛の対象であることを伝える。

「そうかそうか、あんたが例の……俺はルッス、ギュネイのPTメンバーの一人だ。よろしくな」

「よろしくお願いします、ルッスさん」

護衛の対象である事を伝えると最初の警戒する態度も消え、友好的に挨拶を交わすようになる。
八木も笑顔で答え、残りのメンバーをちらりと見る。

「ああ、こいつらはー……って、人数が人数だからな追々紹介するよ、夕方までには次の街入りたいしとりあえず出発しちまおう」

軽く手を振る程度で挨拶をすませ馬車へと乗り込む一同。
馬車は行きの二台に加え、追加でさらに二台増えていた。
これは人数も多い事と荷物もそれなりにある為だろう。

「そいじゃ、出発すっぞ。忘れ物ないな?」

その言葉を聞いて念のため荷物を確認する八木。
仕事道具はしまってあるし、着替えも袋の中だ、お土産もきっちりしまってある。
忘れ物がない事を確認し、他の人に混ざり自分も問題ない事を伝える。

やがてゆっくりと進みだした馬車は街道へとはいると徐々に速度を上げていく。
心地よい揺れに早速襲ってきた眠気に身をまかせ眠りに入る八木、フォルセイリアにつくのはまだ当分先の事である。



時は戻り、舞台は二手に分かれたトゥラウニの街へと変わる。
八木達と別れ南門そばの宿で泊まった加賀とアイネ、翌朝さっそく出発しようと南門を潜り抜けるが未だ徒歩である。
アイネが秘密といって教えてくれなかった為、加賀はこの後どういった手段で移動するのかまったく知らないでいた。

「それじゃ、よろしくね」

何者かに言付けるアイネ、そのものが離れて行ったのを確認すると門から少し離れた所でまつ加賀の元へと歩み寄る。

「いまお願いしてたのが昨日いってたやつですー?」

「ええ、もう少ししたら運んで来てくれるよ、それまで待ってね」

「おー……おー? あれ、なに」

少し待てば良いと聞いて壁にもたれかかる加賀、強めの風に目を細めつつなんとなく道の先を眺めるとそこに見慣れた……が、そこにあるのはおかしいものを見つける。

「……残念、驚かせようと思ったのに」

「あれ、船ですか……? え、でも街道を走ってる?」

加賀の視線の先にあったのは帆をはり地面を走る船ではない何かであった。
それはかなりの速度が出ているようで、門の方へとぐいぐい近寄ってくる。

「わー……帆のついた車?」

「そう、ここから南の国まで平坦な道なのと、ずっと海風が吹いている。だから陸を走る船が使われているの。海は魔物が多いし……陸路の方が安全だからね」

陸を走る船。
話に聞いたことはあった加賀であるが実物を見るのは初めてである。
しげしげと眺めているとやがて後ろから声を掛けるものが現れる。

「アイネ様、お待たせしました」

「ん、ありがと。 これ代金ね」

アイネから代金を受け取ると男は引っ張ってきた陸を走る船を置いて街へと戻って行く。

「それじゃ、乗って。運転席の横空いてるから……そう、そこ。その金具で固定するの忘れないでね」

さっそく乗り込んだ加賀は座席へ座るとシートベルトに似た何かで体を固定する。
加賀がきっちり固定されてるのを確認したアイネはそれじゃ行くよと声をかけそっとレバーを倒す。

「おーっ、帆が広がった!」

レバーを倒したことで帆が一枚だけ広がる。
帆は先ほどからずっと拭いている強めの横風を受け、前へ進む力へと変えていく。

はじめはゆっくりと進んでいたが街からある程度離れた所で残りの帆も展開する。
途端に加速しだす陸船、その速度は人間が全力疾走するより少し早いかどうかと言ったところである。
だが、車高が低いせいで体感速度は相当なものだったらしい。

「うあーっすごい早い! これならすぐ着いちゃいそうだねー」

予想以上の速度にはしゃぐ加賀。
アイネはそうねと呟くと少し考える仕草を見せ、加賀へと顔を向ける。

「24時間もあれば着くのだけど……休憩いる?」

「いる! 絶対いるからっ」

アイネ一人であれば休憩も取らず夜の走り続ける事で翌日の朝には隣国へ着くようである。
だがあいにく加賀は普通……というか若干貧弱である。休憩は適度にいるだろう、勿論睡眠もだ。
一日8時間は走れるとして到着するのは三日後になりそうである。

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