異世界宿屋の住み込み従業員
105話 「思ってた以上に優秀なようで」
リッカルドとエルフの交渉が終わった翌日、黒鉄の森の中に入っていく幾つかの人影あった。
人影の正体は八木と護衛の探索者達に案内役の黒鉄のエルフである。先日エルフの住処を見たいと申し出て許可が貰えた八木は早速とばかりにエルフの住処に向かうことにしたのだ。
「お、おおおおっおちっ」
「落ち着け、落ちても死にはしない」
八木の震えた声が辺りに響いていた。
生まれたての子鹿のように震える脚を抑え、かろうじてと言った様子で立ちあがる八木。
それを後ろで見ていた探索者達から野次が飛んでくる。
「おいおい、八木びびりすぎだぜー」
「うむ、恐れずにしっかり目を開けるとええぞ。いずれ恐怖に打ち勝てるわい」
そんな野次を飛ばすヒューゴとアントンをさらに後ろから呆れた目で見る者が居た。
「四つん這いで何言ってんのあんたら……」
シェイラである。彼女の視線の先ではヒューゴとアントンが四つん這いの姿勢で必死に枝へとしがみつく光景が繰り広げられていた。二人とも表情だけはキリッとしているので中々に滑稽な姿である。
「うるせー、怖いもんは怖いんだよ! 文句あっか!」
「まったくだわい……と言うかうーちゃんは別としてシェイラ、おぬしはなんでそう平気そうにしとるんだ?」
皆がいるのは黒鉄の枝の上だ、地上から100mにもなる高さに加えて黒鉄の枝はそこまで太くはない、とは言え立ってその上を歩くことは問題なく出切るだろうが……それは地上であれば、という条件が付く。
慣れているだろう黒鉄のエルフと色々とおかしいうーちゃんはともかく、シェイラまでもが平気そうにしているのは些か疑問が残る。
「だって、私が生まれたとこもこんな感じだったしー」
「くっそ、そう言うことかよ……てかアルヴィンの野郎分かってて護衛役を降りやがったな! 何が面倒ごとはこちらでやっておきます、貴方は八木一緒に行ってはどうですか? だ! あの性悪エルフがっ!」
アルヴィンに対して文句を言いまくるヒューゴを見てやれやれといった様子で肩をすくめるシェイラ。
そばにいたうーちゃんに声を掛け、先に進もうとする。
そして前に進むと言うことは四つん這いで蹲る二人が邪魔になるわけで。
「ちょっまて! 待てってばあ! 頼むから押さないでくれっ」
「私なにもしてないよー」
四つん這いで動けない所を後ろからぐいぐい押され思わずやめるよう懇願するヒューゴであるが、シェイラから返ってきた言葉はわたしではないであった。
では誰がと思いヒューゴはそっと後ろを振り返り、赤い瞑らな瞳と目が合った。
「ちょっこの糞うさぎ! やめっ落ちるぅっ!?」
「ヒュウゴオオオオオ!!」
うーちゃんに突かれ焦って手を滑らせたヒューゴはそのまま真っ逆さまに落ちていく。
アントンの悲痛な叫びと声にならないヒューゴの叫びが虚しく辺りに響いた。
「……大丈夫か? まだ半分ぐらいまでしか来てないのだけど」
「なんとか……」
案内約にしがみつきながら何とかと言った様子で枝の上を歩く八木。
その後ろでは虚ろな瞳をしたヒューゴとアントンがふらふらとした足取りで二人の後をついて行く。
黒鉄のエルフが落ちても死なないと言った通り、皆には落下速度を減速させる魔法が掛けられており、その為何度か足を踏み外した二人であるが、いずれも地面に着く前にロープで引っ張り上げて貰うことが出来ていた。
ただ、落ちる瞬間の恐怖はかなりのものであるらしく、二人とも徐々に目が死んでいっている。
八木はエルフにしがみつく事で落下事態は免れている。
とはいえやはり怖いものは怖い、エルフの女性にしがみつくという八木であれば大喜びしそうなシチュであるのに、それが意識に上る余裕すらないようだ。
だが、それでも次第になれてくるものである。
エルフに掴まりながら顔を赤くする程度には慣れたころ、一同はエルフの住処へとたどり着いていた。
「うぉぉ……すっげえ、これ黒鉄の木の中丸ごと家になってるんだ」
エルフの住処はある意味イメージ通り、木を丸々使ったものであった。
想像したことはあるが実際に木がまるまる家になっているのを初めて目のあたりにした八木、感動のあまり時が立つのも忘れ建物を眺めるのに夢中になる。
これは戻ってくるまで時間がかかりそうだと、護衛の探索者達はその辺りに座り込むと疲れた体を休めるのであった。
「八木、そろそろ昼にするが」
「はっ……あ、もうそんな時間?」
声を掛けられ振り返る八木。
他の者はすでに席に着き、食事が開始されるのを待っている所であった。
八木は気づかなかった事を詫び、食事を用意してくれた事に礼を言うと椅子へと腰掛けた。
「えっと、これは……」
「黒鉄の実だ。熟した奴を塩ゆでしたもので私たちの主食だよ、みんなの口に合うかは分からないが……」
エルフの言葉を皆にも伝えた八木。
塩ゆでにされた黒鉄の実をしげしげと眺める。
ぱっとみはニンニクの形をしたジャガイモのように見える、色も大体そんな感じである。
違う部分としては若干甘い匂いが漂っているという所であろうか。
「あ、おいしい」
「栗とは違うし、少し甘味のあるじゃがいもって感じだね、おいしいよこれ」
ほくほくした食感がじゃがいもを彷彿とさせるそれは皆の口にもあったようで、すぐに皆の胃に収まる事になる。
聞けば熟していれば今食べたようにほくほくとした食感となり、若いうちはまた食感や味が異なる。
料理に合わせて使い分けていると聞いて感心した様子を見せる八木。
黒鉄の木は思ってた以上に優秀な木であるようだ。
人影の正体は八木と護衛の探索者達に案内役の黒鉄のエルフである。先日エルフの住処を見たいと申し出て許可が貰えた八木は早速とばかりにエルフの住処に向かうことにしたのだ。
「お、おおおおっおちっ」
「落ち着け、落ちても死にはしない」
八木の震えた声が辺りに響いていた。
生まれたての子鹿のように震える脚を抑え、かろうじてと言った様子で立ちあがる八木。
それを後ろで見ていた探索者達から野次が飛んでくる。
「おいおい、八木びびりすぎだぜー」
「うむ、恐れずにしっかり目を開けるとええぞ。いずれ恐怖に打ち勝てるわい」
そんな野次を飛ばすヒューゴとアントンをさらに後ろから呆れた目で見る者が居た。
「四つん這いで何言ってんのあんたら……」
シェイラである。彼女の視線の先ではヒューゴとアントンが四つん這いの姿勢で必死に枝へとしがみつく光景が繰り広げられていた。二人とも表情だけはキリッとしているので中々に滑稽な姿である。
「うるせー、怖いもんは怖いんだよ! 文句あっか!」
「まったくだわい……と言うかうーちゃんは別としてシェイラ、おぬしはなんでそう平気そうにしとるんだ?」
皆がいるのは黒鉄の枝の上だ、地上から100mにもなる高さに加えて黒鉄の枝はそこまで太くはない、とは言え立ってその上を歩くことは問題なく出切るだろうが……それは地上であれば、という条件が付く。
慣れているだろう黒鉄のエルフと色々とおかしいうーちゃんはともかく、シェイラまでもが平気そうにしているのは些か疑問が残る。
「だって、私が生まれたとこもこんな感じだったしー」
「くっそ、そう言うことかよ……てかアルヴィンの野郎分かってて護衛役を降りやがったな! 何が面倒ごとはこちらでやっておきます、貴方は八木一緒に行ってはどうですか? だ! あの性悪エルフがっ!」
アルヴィンに対して文句を言いまくるヒューゴを見てやれやれといった様子で肩をすくめるシェイラ。
そばにいたうーちゃんに声を掛け、先に進もうとする。
そして前に進むと言うことは四つん這いで蹲る二人が邪魔になるわけで。
「ちょっまて! 待てってばあ! 頼むから押さないでくれっ」
「私なにもしてないよー」
四つん這いで動けない所を後ろからぐいぐい押され思わずやめるよう懇願するヒューゴであるが、シェイラから返ってきた言葉はわたしではないであった。
では誰がと思いヒューゴはそっと後ろを振り返り、赤い瞑らな瞳と目が合った。
「ちょっこの糞うさぎ! やめっ落ちるぅっ!?」
「ヒュウゴオオオオオ!!」
うーちゃんに突かれ焦って手を滑らせたヒューゴはそのまま真っ逆さまに落ちていく。
アントンの悲痛な叫びと声にならないヒューゴの叫びが虚しく辺りに響いた。
「……大丈夫か? まだ半分ぐらいまでしか来てないのだけど」
「なんとか……」
案内約にしがみつきながら何とかと言った様子で枝の上を歩く八木。
その後ろでは虚ろな瞳をしたヒューゴとアントンがふらふらとした足取りで二人の後をついて行く。
黒鉄のエルフが落ちても死なないと言った通り、皆には落下速度を減速させる魔法が掛けられており、その為何度か足を踏み外した二人であるが、いずれも地面に着く前にロープで引っ張り上げて貰うことが出来ていた。
ただ、落ちる瞬間の恐怖はかなりのものであるらしく、二人とも徐々に目が死んでいっている。
八木はエルフにしがみつく事で落下事態は免れている。
とはいえやはり怖いものは怖い、エルフの女性にしがみつくという八木であれば大喜びしそうなシチュであるのに、それが意識に上る余裕すらないようだ。
だが、それでも次第になれてくるものである。
エルフに掴まりながら顔を赤くする程度には慣れたころ、一同はエルフの住処へとたどり着いていた。
「うぉぉ……すっげえ、これ黒鉄の木の中丸ごと家になってるんだ」
エルフの住処はある意味イメージ通り、木を丸々使ったものであった。
想像したことはあるが実際に木がまるまる家になっているのを初めて目のあたりにした八木、感動のあまり時が立つのも忘れ建物を眺めるのに夢中になる。
これは戻ってくるまで時間がかかりそうだと、護衛の探索者達はその辺りに座り込むと疲れた体を休めるのであった。
「八木、そろそろ昼にするが」
「はっ……あ、もうそんな時間?」
声を掛けられ振り返る八木。
他の者はすでに席に着き、食事が開始されるのを待っている所であった。
八木は気づかなかった事を詫び、食事を用意してくれた事に礼を言うと椅子へと腰掛けた。
「えっと、これは……」
「黒鉄の実だ。熟した奴を塩ゆでしたもので私たちの主食だよ、みんなの口に合うかは分からないが……」
エルフの言葉を皆にも伝えた八木。
塩ゆでにされた黒鉄の実をしげしげと眺める。
ぱっとみはニンニクの形をしたジャガイモのように見える、色も大体そんな感じである。
違う部分としては若干甘い匂いが漂っているという所であろうか。
「あ、おいしい」
「栗とは違うし、少し甘味のあるじゃがいもって感じだね、おいしいよこれ」
ほくほくした食感がじゃがいもを彷彿とさせるそれは皆の口にもあったようで、すぐに皆の胃に収まる事になる。
聞けば熟していれば今食べたようにほくほくとした食感となり、若いうちはまた食感や味が異なる。
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