異世界宿屋の住み込み従業員
102話 「神様は」
「一体感何がどうなったらそうなったんですか、八木」
「俺が知りたいっすよ……」
八木の貞操の危機から一夜明け、黒鉄の森へと向かう一同。
二日酔いが残っていることから馬車は遠慮して徒歩で向かっている。徒歩なので多少時間がかかるのと特にする事もないので会話で時間を潰す事となる。どうやら話題は昨夜の出来事のようだ。
「くっそ受けるんだけど。笑いすぎて頭いったいわ」
時折思い出したように笑い出し、二日酔いで痛む頭を押さえるヒューゴ。今朝八木から話を聞いて以来ずっとこんな様子である。
「貴族のお嬢様がだめってのをぼかして伝えたら女性がだめで……男好きと思われたと。災難だったねー……ぶふっ」
「…………」
あまり笑うのも悪いかと、できるだけ沈痛な面持ち慰めるように話しかけるシェイラであるが、最後で耐えきれず吹き出してしまう。
当の八木はと言うとどんよりした目で恨みがましくシェイラを見つめていた、その様子に気が付いたシェイラは慌てて八木へと謝罪する。
「ご、ごめんごめん……でもほら、無事で良かったよ。事情話したら特に何も無かったんでしょ?」
「…………」
「えっ、なんでそこで無言になるの。ちょっ無視しないでってば!」
シェイラの言葉をするーしすたすたと先に行く八木。
慌てて後を追うシェイラを見て一人平静を保っていたアルヴィンはやれやれと言った様子で八木へと声をかける。
「聞けばこちらに来てから女性関係であまり良くない事が続いたそうですね……神はきっと見ていてくれています、次は良い事がありますよ、八木」
アルヴィンの言葉を聞き、足をとめ今までにあったことを思い出す八木。
総合ギルドの受付嬢はあれだったし、貴族のお嬢様には皮を剥がれそうになり、今度は掘られそうになる。
さらには憧れてたエルフに至ってはゴリラである・
思い出せば出すほどろくな思い出がない、八木は涙目になりながら地面に手をつきがっくりと項垂れる。
「この世に神なんていないっ」
「おいまて、神の落とし子」
黒鉄の森との境界線。八木達が到着するとそこは既に人で溢れかえっていた。
集まった人の多くは手に斧を持っている事から恐らく木こりと呼ばれる人たちだろう。
さらには馬に曳かれた何かしら巨大な機械も見える。巨大な糸鋸のようなものが付いている事からあれも木を切るための道具なのだろう。
「八木様、お待ちしておりました……はて、何やらお疲れのご様子ですが……」
八木を出迎えたのは昨夜食事を共にした大臣の一人であった。
どうも、例の出来事はまだ耳に入ってない様子である。
八木は何でもないと言うように疲れた笑顔を浮かべ口を開く。
「大丈夫です……それで交渉は何時から始めるのでしょう? もうエルフの方は来ているんですか?」
「いえまだ来て居ません。いつも木を切り始めると様子を見にくるのでそろそろ始めましょうか……開始するよう伝えてくれ」
大臣に声を掛けられた兵士の一人が作業者に開始するよう伝えていく。
まず、斧をもった者達が木の周りに集まり、斧を叩きつけていく。鉄並みに硬い黒鉄へは中々刃が通らないようであるがそれでも徐々に傷がつき、深くなっていく。
斧を全力で振り続けるというのはかなりの重労働である。疲れて動けなくなったものは次の者へと交代し自分は休息をとる。それを交互に繰り返していく事で徐々に黒鉄に刻まれる傷が深くなっていった。
「そろそろ良いか……一旦作業者を下がらせなさい」
作業者に下がるよう指示を出し、代わりに馬に曳かせた機械を機の傍に持っていく。
機械からは煙……というよりは蒸気が上がっており。レバーを引くとゆっくりと糸鋸が前後に動きだし、やがて轟音を立てながらも凄まじい速度で動くようになった所で糸鋸を黒鉄に押し当てる。
ギャリギャリと耳障りな音が辺りに鳴り響く。糸鋸の力はかなりの物で木こりたちが切る速度の何倍もの速さで持って黒鉄を削っていく。
およそ30分ほどたった所で機械は動きをとめ木から離れていく。
それを見た八木があれ?といった表情で大臣へと話しかける。
「あれ、まだ途中ですけど……」
「これ以上やると機械が持ちませんからな、少し休ませてメンテもしなければいかんのです……それに、来たようですよ」
そう言って視線を上へと向ける大臣。それに釣られ八木も視線を上へと向ける。
視線の先には木の枝に腰かけこちらの様子をじっと見つめる人陰があった。
「それではお願いしても宜しいですかな? まずは八木様が神の落とし子である事と我々が交渉したい旨を伝えてくだされ」
「っと、了解です」
ゆっくりと警戒させないように人陰が腰かける木へを近づいていく八木。
そして十分近づいたところで、上へ向かい大きく声を上げた。
「私は神の落とし子の八木と申します。こちらの方がエルフの方達と交渉をしたいそうです、まずはお話だけでも聞いて頂けないでしょうか」
急に話掛けられた人陰がびくりと身を震わせる、まさか自分たちの言葉で話しかけてくるとは思っていなかったのだろう。
少し間をおいて枝の上から人陰が地へと飛び降りる。人陰が乗っていたのは高さ10m以上はありそうな枝である、とっさの事に驚き思わず駆け寄ろうとする八木であるが地面に降り立った人物がそっと手をあげた為ぴたりと静止する。
何事もなかったようにすっと立ち上がった人物は被っていたフードをぱさりとめくると八木へ話しかける。
「まさか神の落とし子とはな。それで交渉だったな……何してるんだお前?」
めくられたフードから現れたのは八木の中の一度は崩れ去ったエルフ像まさにそのものであった。非常に整った顔立ちに銀髪でシェイラ達より尖った耳、アーモンド型の猫科の動物を彷彿とさせる目。
そして何よりそのほっそりと慎ましい体。
八木は膝をつき両手を組み頭上を見上げると感極まった表情で声を上げる。
「神様ありがとうございます!!」
女性陣の冷たい視線が八木の背中へと突き刺さるのであった。
「俺が知りたいっすよ……」
八木の貞操の危機から一夜明け、黒鉄の森へと向かう一同。
二日酔いが残っていることから馬車は遠慮して徒歩で向かっている。徒歩なので多少時間がかかるのと特にする事もないので会話で時間を潰す事となる。どうやら話題は昨夜の出来事のようだ。
「くっそ受けるんだけど。笑いすぎて頭いったいわ」
時折思い出したように笑い出し、二日酔いで痛む頭を押さえるヒューゴ。今朝八木から話を聞いて以来ずっとこんな様子である。
「貴族のお嬢様がだめってのをぼかして伝えたら女性がだめで……男好きと思われたと。災難だったねー……ぶふっ」
「…………」
あまり笑うのも悪いかと、できるだけ沈痛な面持ち慰めるように話しかけるシェイラであるが、最後で耐えきれず吹き出してしまう。
当の八木はと言うとどんよりした目で恨みがましくシェイラを見つめていた、その様子に気が付いたシェイラは慌てて八木へと謝罪する。
「ご、ごめんごめん……でもほら、無事で良かったよ。事情話したら特に何も無かったんでしょ?」
「…………」
「えっ、なんでそこで無言になるの。ちょっ無視しないでってば!」
シェイラの言葉をするーしすたすたと先に行く八木。
慌てて後を追うシェイラを見て一人平静を保っていたアルヴィンはやれやれと言った様子で八木へと声をかける。
「聞けばこちらに来てから女性関係であまり良くない事が続いたそうですね……神はきっと見ていてくれています、次は良い事がありますよ、八木」
アルヴィンの言葉を聞き、足をとめ今までにあったことを思い出す八木。
総合ギルドの受付嬢はあれだったし、貴族のお嬢様には皮を剥がれそうになり、今度は掘られそうになる。
さらには憧れてたエルフに至ってはゴリラである・
思い出せば出すほどろくな思い出がない、八木は涙目になりながら地面に手をつきがっくりと項垂れる。
「この世に神なんていないっ」
「おいまて、神の落とし子」
黒鉄の森との境界線。八木達が到着するとそこは既に人で溢れかえっていた。
集まった人の多くは手に斧を持っている事から恐らく木こりと呼ばれる人たちだろう。
さらには馬に曳かれた何かしら巨大な機械も見える。巨大な糸鋸のようなものが付いている事からあれも木を切るための道具なのだろう。
「八木様、お待ちしておりました……はて、何やらお疲れのご様子ですが……」
八木を出迎えたのは昨夜食事を共にした大臣の一人であった。
どうも、例の出来事はまだ耳に入ってない様子である。
八木は何でもないと言うように疲れた笑顔を浮かべ口を開く。
「大丈夫です……それで交渉は何時から始めるのでしょう? もうエルフの方は来ているんですか?」
「いえまだ来て居ません。いつも木を切り始めると様子を見にくるのでそろそろ始めましょうか……開始するよう伝えてくれ」
大臣に声を掛けられた兵士の一人が作業者に開始するよう伝えていく。
まず、斧をもった者達が木の周りに集まり、斧を叩きつけていく。鉄並みに硬い黒鉄へは中々刃が通らないようであるがそれでも徐々に傷がつき、深くなっていく。
斧を全力で振り続けるというのはかなりの重労働である。疲れて動けなくなったものは次の者へと交代し自分は休息をとる。それを交互に繰り返していく事で徐々に黒鉄に刻まれる傷が深くなっていった。
「そろそろ良いか……一旦作業者を下がらせなさい」
作業者に下がるよう指示を出し、代わりに馬に曳かせた機械を機の傍に持っていく。
機械からは煙……というよりは蒸気が上がっており。レバーを引くとゆっくりと糸鋸が前後に動きだし、やがて轟音を立てながらも凄まじい速度で動くようになった所で糸鋸を黒鉄に押し当てる。
ギャリギャリと耳障りな音が辺りに鳴り響く。糸鋸の力はかなりの物で木こりたちが切る速度の何倍もの速さで持って黒鉄を削っていく。
およそ30分ほどたった所で機械は動きをとめ木から離れていく。
それを見た八木があれ?といった表情で大臣へと話しかける。
「あれ、まだ途中ですけど……」
「これ以上やると機械が持ちませんからな、少し休ませてメンテもしなければいかんのです……それに、来たようですよ」
そう言って視線を上へと向ける大臣。それに釣られ八木も視線を上へと向ける。
視線の先には木の枝に腰かけこちらの様子をじっと見つめる人陰があった。
「それではお願いしても宜しいですかな? まずは八木様が神の落とし子である事と我々が交渉したい旨を伝えてくだされ」
「っと、了解です」
ゆっくりと警戒させないように人陰が腰かける木へを近づいていく八木。
そして十分近づいたところで、上へ向かい大きく声を上げた。
「私は神の落とし子の八木と申します。こちらの方がエルフの方達と交渉をしたいそうです、まずはお話だけでも聞いて頂けないでしょうか」
急に話掛けられた人陰がびくりと身を震わせる、まさか自分たちの言葉で話しかけてくるとは思っていなかったのだろう。
少し間をおいて枝の上から人陰が地へと飛び降りる。人陰が乗っていたのは高さ10m以上はありそうな枝である、とっさの事に驚き思わず駆け寄ろうとする八木であるが地面に降り立った人物がそっと手をあげた為ぴたりと静止する。
何事もなかったようにすっと立ち上がった人物は被っていたフードをぱさりとめくると八木へ話しかける。
「まさか神の落とし子とはな。それで交渉だったな……何してるんだお前?」
めくられたフードから現れたのは八木の中の一度は崩れ去ったエルフ像まさにそのものであった。非常に整った顔立ちに銀髪でシェイラ達より尖った耳、アーモンド型の猫科の動物を彷彿とさせる目。
そして何よりそのほっそりと慎ましい体。
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