異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

8話 「丘向こうの城壁」

「おい、加賀起きろ……起きろってば、おい……」

すやすやと気持ちよさそうに寝続ける加賀。
八木は起こそうと加賀の体をゆするが一向に目を覚まさない。
そんな加賀をみて八木はため息をひとつ付くと加賀の頬つまみ軽くひねる。

「っ!? いだだだだっ!?」

「おう、おきたか」

「ちょっ、八木なにす……んの? ってそちらはドナタ!?」

揺すられてもおきない加賀であったが、さすがに頬をつねられては起きるほかなかったようだ。
頬をさすりながら八木に文句を言おうとするが、その隣に知らない人物が立っていることに気づき驚きの声を上げる。

「俺はバクス、通りすがりの宿屋の主人だ」

「えっ宿屋の主人……? そんなムキムキなのに?」

「元探索者だそうだ、てか俺らを助けてくれたんだぞ、礼いっとけよー」

とても宿屋の主人には見えないバクスを前に惚けた表情をしていた加賀だが、八木の言葉にはっとした表情をすると姿勢をただしバクスへと向き合うと地面に手を付き、頭を下げ礼の述べた。
いわゆる土下座スタイルという奴である。

「この度は危ない所を助けて頂き……」

「いや、そういうのは良いから、なんかもう申し訳ない気持ちでいっぱいになるから、そんな格好で礼をいうのはやめてくれ……」

加賀の土下座スタイルをみてバクスは泣きそうな顔でそう言った。



「おし、それじゃーバクスさん。加賀も目をさました事だしこいつ運んじまいましょう」

「お、おう そうだな……」

バクスはいまだ先ほどのダメージから立ち直っていないようだが、八木はバクスに声をかけると背負子のほうへと向かう。

「はっ そういえばさっきの猪どうなったの?───ほぎゃあ!?」

八木の言葉に反応した加賀があたりを見回す。
……そして視界にはいったのはごろんと地面に転がる猪の頭と背負子に乗せられた猪肉の姿であった。
切断された生き物の頭部を不意に目にしたのだから加賀が思わず悲鳴をあげてしまったのは無理もない事だろう。

「え、何これさっきの猪? これをバクスさんが?」

「そうよ! すごかったぜーあのぶっとい首を一撃よ、一撃」

「……なに、どうってことないさ。ほら日が暮れる前にさっさと運んじまうぞ」

加賀のキラキラした尊敬の眼差しを受け、ややぶっきら棒にそう言うバクス。
バクスの頬がひくついて見えるのは思わず顔がにやけてしまうのを耐える為だろうか。
加賀のように若い子(実年齢は別として)にそういった眼差しで見られるのに慣れてないのかも知れない。



「よし、運ぶか。八木はこれを肩当て代わりにしとけ、皮がずる剥けになっちまうぞ」

「ありがてえ、ありがてえ……おし、それじゃ行きますか」

八木はバクスから受け取った厚手の布を肩にあて背負子を背負う。
軽い掛け声と共に背負子を背負う八木、ふらつく事もなくしっかりと立っている。
身体能力向上が多いに役立っているのだろう。

「大丈夫そうか?」

「んん、街までの距離によるけど…このぐらいの重さなら行けると思う。」


バクス曰わく、このペースで歩き続ければ街まで1時間ほどで着くとの事。
イリアが言ってたとおり森の近くに街があるようだ。


「そういや、さっき道具があれば色々作れるって言ってたが八木は木工職人か何かなのか?」

「いや、これでも建築家なんだ。木工もやるけどそっちは半分趣味みたいなもんかな…家具とかそのへんも自分で作りたくなってちょこちょこ作っててそれなりには作れるよ。もちろん本職にはかなわないけど」

「そいつあすごいな」

「お礼といっちゃなんだけど、良ければ何か作りますぜ……宿屋なら家具とか?」

「ははっ。そうかそいつは楽しみにしとくよ。つっても今宿は改築中だがな」


街に着くまでの間は特に何事もなく、八木たちは世間話がてら街とバクスについて情報を集めていた。

まずバクスだが、なんと元はSランク……つまりはトップレベルの探索者だったらしい。
現役から離れてしばらくたつが日々のトレーニングはかかしてなく、さきほど猪を狩ったように暇をみては狩りに出てるそうだ。

ちなみに猪の正式名称はウォーボアーといい。ランクCの魔獣だと言う。
安全な場所とはなんだったのだろうか。

街の名前はフォルセイリア、今から80年ほど前に街のすぐそばにダンジョンの入り口が現れ、ダンジョン目当ての探索者や商人で賑わっていたとの事。
だが15年ほど前にダンジョンが攻略されてからは人が徐々に離れていき、人口20000人以上だったのが今では人口10000人程まで落ち込んでる。

それでも結構な人数が残ってるのには理由があり。
ダンジョンが攻略されても数は少ないがモンスターは湧き続ける、ダンジョン内のモンスターからは外にいるモンスターよりも高確率で魔石がとれる為これ目当ての探索者や商人がそれなりにいる。
さらには土地が肥沃であり農業が盛ん、広大な土地を利用しての酪農も盛ん、港町と王都を結ぶ経路に街が位置するため商人の出入りが多い……要は仕事がたくさんあるので自然と人が集まると言うことらしい。


そんなこんなで話しながら道を進んでいると彼等の前方に、小さな丘が見えてくる。

「あれを超えると街が見える。もうすぐつくぞ」

残りあと少し、そう言い聞かせて坂を上る八木。
登り切ったところで顔を上げ思わず感嘆の声を上げる……八木の視線の先には城壁に囲まれた街が姿を現していた。

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