季節外れに咲いた黄色の百合は優しく微笑む

寝子

四.

四.
 五月十日。五十嵐の誕生日。
「おーっす。湊」
 教室で寝ていると早速五十嵐が声をかけてきた。
「ああ、おはよう五十嵐。あと、誕生日おめでとう。これ誕プレだ」
 そう言って僕は鞄の中から綺麗に包装された包みを取り出し、五十嵐に渡す。五十嵐は感激して泣き出しそうだった。
「みなとおおおお! ありがとうありがとう! めちゃくちゃ嬉しいよ!」
 そう言って五十嵐は僕に抱きつく。
「よ、喜んでもらえて何よりだ。あと、お礼を言うなら雫にも言ってやってくれ。あいつも一緒に考えてくれたんだ」
 そう言って僕は隣で編み物をする雫の方を見た。
「雫って、柚木さんか?」
 五十嵐が涙を止めて聞く。
「そうだ」
 僕がそう答えると五十嵐は雫の方へ百八十度回転し、編み物をしている雫の手を握った。
「柚木さん! ありがとう! あと、湊をよろしくお願いします! 無愛想だけど根はいい奴なんで!」
 五十嵐はそう言って涙した。
「何おかしな事言ってんだ。雫が困ってんだろ」
 僕がそう言うと五十嵐はこちらを向く。
「だって、だって遂に湊に彼女が!」
「付き合ってねえよ」
 僕が言うと五十嵐はきょとんとしてこちらを見ている。雫は苦笑いだ。
「変に先走るんじゃねえよ」
 一限の教科書を出しながら言う。
「五十嵐くんの手ってとてもしっかりしていますね」
 雫が口を開いた。
「そうか? まぁ野球やってるからな! 野球は面白くていいぞ!」
 そう言って五十嵐は笑う。
「お前どうしてそんな野球が好きなんだ?」
 五十嵐が小さい頃から野球をしているのは知っていたが、きっかけは知らなかった。
「それはな、俺のじいちゃんは違う県に住んでて、来年で還暦なんだけどな、高校教師で野球部の顧問やってんだよ! それで小さい頃にじいちゃんから野球教えてもらってからずっと続いてるんだ!」
 五十嵐は照れくさそうに頭をかいた。
「そうなのか。それはお爺さんも嬉しいだろうな。しかし、お爺さん教師なのになんでお前、そんなに頭が……」
 僕がそう言うと五十嵐は「うるせえ」と言って僕を叩く。雫はそれを見て笑っている。
「……ところで、相談なんだけどよ」
 五十嵐は小声でそう話し始めた。

「五月三十一日。何の日か知ってるか?」
 俺と雫には見当もつかなかった。
「その日はな、藤宮さんの誕生日なんだ」
 五十嵐が言う。
「お前まだ諦めてなかったのか」
「当たり前だ! 何としてもそこで他の男達より藤宮さんとお近づきになりてぇ」
 そう話す五十嵐の目は真剣だった。
「つってもなあ、無理だろ。藤宮さんと付き合いたい男子がどれほどいるか」
「そこをなんとかしたいんだ!」
 黙っていた雫が口を開く。
「確か、その週は二泊三日での修学旅行だったはずです。班別行動になるはずですから同じ班になれば……」
 五十嵐が再び雫の手を握る。
「班ってどうやって決まるんだ?」
 僕が聞くと雫は答えた。
「くじだと思います。例年四人一組に班分けされると家庭部の先輩が言っていました。今日のホームルームの時間に決められると思います」
「運か……五十嵐、今日の星座占いは?」
「十二位だったぜ……」
 弱々しい返事が戻ってきた。

 ホームルームの時間になった。雫の言う通り、今日は修学旅行の班分けをくじで決めることになった。男女がバランスよく混ざるように、男女別の箱からくじを引いていく。箱にはそれぞれ一〜九までの番号が書かれた紙が二枚ずつ入っており、同じ番号を引いた者たちが班になるというシステムだった。くじを一人ずつ引いていく。男子の大半は藤宮と同じ班を願っているだろう。全員が引き終わり、日向が口を開く。
「それでは一番から聞いていきたいと思いまーす。一番の人ー」
 さあ、運命の班分け発表だ。

「四番の人ー」
 四人が手を挙げる。未だに、藤宮や五十嵐は手を挙げていない。僕もまだ挙げていなかった。六番。それが僕の番号だった。
「五番の人ー」
 まだ、藤宮も五十嵐も手を挙げない。さて、次が僕の班か。僕は手を挙げる準備をした。日向が口を開く。
「六番の人ー」
 僕は少し、いや大分驚いた。僕の他に手を挙げたのは、雫、五十嵐、藤宮だった。五十嵐が信じられないと言った顔で僕を見ている。
「最高の誕プレだな」
 そう呟く。
「五十嵐くん、良かったね。私も湊さんや五十嵐くんと一緒で嬉しい」
 そう言って、隣の雫が笑顔を見せた。

 放課後の教室。珍しく部活のない五十嵐と雑談をしていた。
「神は存在した」
 五十嵐が椅子の上に立って言う。
「まさかこのメンツとはな」
 改めて班分け表を見る。
「お前もよかったな! 柚木さんと一緒で!」
「僕らはそんなんじゃねぇよ」
 そう言いながら僕は柚木雫の文字を指でなぞった。

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