天使に紛れた悲哀の悪魔

堕天使ラビッツ

第3章 ゼルの頼もしさ

「俺の頭の中では大よそ原因は見えてきている。それを確かめるために二つの情報が必要になってくる。だが四人で一つ一つ調べていては効率が悪い」
「お前……何者なのじゃ」
「何者でもないさ。ただ先の事を一手一手考えるのが好きなだけだ」

 こんな少ない情報だけで推理ができかけているなんて、流石だ。いつ聞いても信じられない。

「まず最初に前提として、国全体の草木が枯れた原因は何らかの兵器開発による環境汚染だ。見ればすぐにわかるさ」

 イオはそう言って灯篭に付いた塵を拭う。するとその指は真っ黒に染まった。

「もっと言おう、ここに来て寒気がしたのは錯覚だ。理由は二つ、草木が枯れ果てて霧がかっているからそう感じたのか、もしくはこの環境汚染で汚れた空気を吸い続けて体調が悪くなったのか、だ。実際は温暖化と同じ要領で温度は上がっている」
「……そう言えば環境が乱れ始めてから国全体で大規模な高熱が流行した事があったの」
「最初はそうさ。だがいずれそれはあたりまえの環境になり、人々はそれに慣れる」
「そういう事じゃったのか……」

 白露さんは思い当る事があるのか黙り込んでしまった。

 そんな沈黙を破ったのはイオ。静かに口を開いた。

「――あとはもう分かるな? 俺達は国民に鎌を掛けに行くゼルとサリーはその兵器を見つけて来てくれ」
「了解。やっぱお前の推理は頼りになるな! アイツをそれでぶっ倒すんだろ?」
「……お前は馬鹿か。国民が陛下を殺そうとしてるんだぞ?」

 理解していなかったのはゼルだけだったのか、ゼル以外全員は溜息をついた。

「あと、これは補助魔法の派生で、遠くにいる仲間と連絡が取れる遠隔魔法だ。皆にかけておく」

 イオはそっと目を閉じる。その瞬間わたし達四人の体は光を纏った。

『聞こえるか? これは今皆の頭に語りかけている。こういう事が出来るんだ』

 本当だ。その声の間イオは一度も口を開いていなかった。こんな補助魔法があったなんて……

『少し魔力を溜める感じで言葉を思い浮かべると、俺たち全員に伝わるようになっている』

 魔力を一点に集めて、周りの音を遮断する。そうすると――すべての音が聴こえる……

『こんな感じかな?』
『大丈夫だ、できている』

 この前よりかは簡単に集中できるようになった。やっぱり魔力が身体に馴染んできたのだろうか。

「よし、大丈夫そうだな! イオ、白露を頼んだ! 行くぞサリー!」
「うんっ! じゃあ行ってきます!」

 颯爽に走り出したゼルを追いかけて、わたし達は二人と離れた。

「取り敢えず俺らは怪しい人間を探そうぜ? サリーは魔法を使えるようになるために雑魚戦の時にでも混じってみな!」
「わたしも戦うの?!」
「実戦が一番効果的だって言うしな、イオよりかは教え方下手だけど魔法はあいつよりも強力なんだぜ?」

「じゃあ……召喚魔法も使えるの?」
「まあな、イオは俺の魔法を脳筋魔法って馬鹿にしやがるけど、召喚魔法の派生だと思ってる」

 そっか、あの戦いの時も剣を召喚してたし、わたしの使いたい魔法とそんなに変わらないのかな?

「召喚ってのはな、幻想の世界で契約を結ぶんだ。強い意志さえあれば絶対そいつは答えてくれる。でも、自分より目上の奴とは契約できないんだ」
「幻想の世界?」
「ああ、集中して魔力を集めたら無になるだろ? あれが幻想の世界だってイオが言ってた」

 あの何もかもが聴こえなくなる瞬間に精霊と契約するっていう事か……。集中力を保ちながら二つの事を同時に。そんな器用な事わたしに出来るのかな?

「わたしも戦いに参加してみる……でもちょっと怖いな」
「大丈夫だって、何かあったら俺がどうにかするって」

 ゼルはそう言ってニカッと笑った。彼の背中がこんなにも頼もしかったなんて思いもしなかった。イオとはまた違った類の信頼を彼に抱き始めた。
 ゼルは立ち止った。見るからに禍々しい雰囲気を放つ怪しい建物の前で。何百年単位で放置されたかのような不自然さ、犯罪から逃れるために放置されたとでも言うように。

「ま、とりあえず俺の後ろに隠れてろって!!」
「えっ?! もしかして!」
「ご明察! 突っ込むぞーーーー!!」

 その瞬間ゼルは禍々しい雰囲気を放つ建物に窓から突っ込んでいった。いつの間に剣を取り出したのか、さらに既にそれは炎を纏っていた。途端に聞こえるガラスの割れる音と爆発音。ここにわたしも突入しなくちゃいけないと思うと気が重い。こんな強行突破あんまりすぎる……。
 そんな甘えたことは言ってられず、続けて割れて跡形もない窓から侵入した。

「おー、おっせーぞ!」
「兵器は?! あったの?」
「いや、残念ながら。でも条例で禁じられてる薬物を隠し持った奴らだった。燃やす……」

 相手の男達は全部で六人。見事に揃って反省の色もないようだ。それどころかニヤニヤしたり威嚇したりだ。

「よくもまぁこんなにボロボロにしてくれましたねぇ! お前ら生きて帰れると思うなよ?」

 グループのボスの様な人が口を開く。それに合わせて全員が武器を構える。

「身体ん中ボロッボロのおめーらにはお似合いの有様だぜ? ま、今から身体もボロボロにしてやんよ!」

 ゼルも武器を召喚して構える。本気を出していないからか、まだいつもの様に炎は纏っていない。
 今回はゼルの魔法見れないのかな。少し残念な気持ちになった。


 睨み合うだけの時間がしばらく続いた。どちらも一向に手を出そうとしない。
 大ざっぱすぎるゼルもいつもに増して真剣な眼差しだ。でも何かおかしい……
 こんなにも真剣な眼差しをしているのに剣に魔法を付与していないのは何故だろう。

『おい、サリー。魔力を集中させるんだ。俺が戦い始めても構わず集中したままな? お前には指一本触れさせねぇから』
 突然遠隔魔法で話しかけてきたゼル。どうやらわたしに魔法を覚えさせるために時間を稼いでいたのであろう。
『……分かった』
『さっそく見つかったのか? 気を付けて、慎重にな』
 二人の会話を聴いて、イオが会話に交じってきた。わたしが初めての任務だからだろうか、不安の混じった声だ。

「――よし、サリー! あとは頼んだ」
 ゼルはニカっと笑って剣をかまえた。まだ笑えるほど余裕があるのだろう。まあ、属性を付与せずにも勝てると判断したのだろう。
「この女……! 何かやらかしてくんぞ! 気を付けろ!」
 どうやら敵さんにあらぬ誤解を招いてしまったようだ。ごめんなさい? いつもやらかすのはわたしじゃないの。
「――うん。わたしも集中するね」
 わたしもゼルのかけたハッタリに便乗して誇張してかまえてみせた。
 ……そして目を閉じて魔力を一点に集める。大丈夫、何も音は聞こえない。わたしは今独りで静かな森の中にいる……そう、この感じ。
「な……なんだこの女! 俺らの話に全く動じない……」
「そりゃ必殺魔法陣思い描いてんだもんなー」
 途端に激しくなる複数の足音。戦いが始まっみたい。剣を振るった時の微かに感じる風。怒りの込もった踏込の音……。声こそ聞こえないがハッキリと相手の動きが分かる。
 きっとわたしは今魔力とひとつになれているんだ。
 ――ここで語りかける。
「我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ」
 聞き覚えも、これまで言った覚えのないセリフが口からスラスラ出てくる。これが魔法? 不思議と詠唱が出来た。
≪貴様が我と契約を結ぶもの……だがまだ魔力が到底足りぬ。我を相手にして失礼も甚だしい≫
 突如頭の中に直接語りかけてくる掠れた女性の声。
 これがわたしの契約する精霊なの……?

「お願いします、わたしと契約して……」
≪貴様……何をほざいている? ――まあよい、いずれその時は来る≫
「契約……できたの……?」
 その声は問いかけに答えることなく消えていった。一体何の精霊なのか知る余地も無かった。と言うより、初めての契約でそんな余裕がなかったんだ。

「わたしも魔法が使える!」

 ふと口をついて出た言葉と同時に目の前が明るくなった。目の前にはわたしを隠して戦うゼルと半数以下に減った男達。男達は予想以上のゼルの強さにかなり梃子摺っているようだ。
「おっ! おかえり、何か分かったか?」
「契約できたの!」
「お! 召喚してみろよ!」
 ゼルはこっちを向いてニカっと笑った。あくまでも戦闘中だというのに凄い余裕だ。敵もそんなゼルに反抗するのを既に諦めていた。

「我の魔力に値する精霊……汝、我の元に姿を現せ」

 とは言ったものの、どうやって精霊を召喚するのか分かる訳もなく、試しにさっきと同じ詠唱をしてみた。……が、当然精霊は出てこず……
「おいおい……何やってんだよ! 本当に契約できたのか? 召喚系の魔法にはな、ちゃんとしたお手本の詠唱文は無いんだぜ? だからどんな呼びかけにでも契約した精霊は応えてくれるはずなんだ」
 そんな……さっきのは一体何だったの?わたしの魔力がまだまだ足りないとは言っていたけれど、いずれその時は来るって……それは今じゃないって事?

「でも……! ちゃんと精霊と話したの!! まだ魔力が足りないの……?」
「んなわけねーよ。お前の呼びかけに一回は応えてんだから魔力が足りないなんて事はねぇぞ」
 ゼルは荒々しく剣を振りかざしながら答えてくれた。もうまともに勝負するつもりはないらしい。
「じゃあどうして……」

 やっぱりわたしに召喚魔法は使えないのかな……?そんな感情が頭の中を埋め尽くす。
 ついにゼルは最後の一人を倒し終えた。辺りにはだらしなく伸びきった男達。結局わたしは何一つできなかった。いつも通り助けられてばかりだった。

「後でゆっくりイオに聞こう、大丈夫だ、ぜってー使えるから、な?」

 そう言ってゼルは子供を宥めるかのように優しく頭を撫でてくれた。でもわたしの曇った心はそれだけでは晴れなかった。心の中で沢山のモヤモヤが降り積もっている。そんな気さえする。

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