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天使に紛れた悲哀の悪魔

堕天使ラビッツ

第1章 赤髪の男、ゼル


 わたしは必死に人混みから出て彼を追いかける。

「待って……! イオッ……!」
「どうした?」
「どうしてあんな事を言ったの? 下手したら殺されるかもしれないのに!」
「あんなハッタリを掛けたが、俺は一応護身用で人を殺める魔法も使える。ただ王子の元にいる人間として反乱を起こしかねない人間は放ってはおけない」
「あの男、人を殺す事に何も感じてない。そんな瞳をしてた……」
「――君も分かったか?」

 わたしはコクリと頷いた。言葉では表せないけど、直感でそう思った。

「魔法を使えないのに魔力に反応するとは……」
「魔力は分からなかった。でも、目が合ったら……何だか殺されそうな気がしたの」
「時に表情は魔力を物語る。魔力が全くない人間とそうでない人間とは表情が違う。しかしあの男……悍ましいほどの殺気だったな」

 イオは険しい表情をし、独り言をつぶやき始めた。そんなにさっきの男が気になるのだろうか。

 まあ、セラフィム王子もあんな邪悪な男が王国にいると知ったら心を痛めるに違いない。
 あの男とイオが戦ったらどっちが勝つのだろう。あの男が反乱を起こしたらきっとこの国は……

 ――きっとイオはそれを恐れているに違いない。
 わたしも微力ながら力になれるように魔法を使えるようにならなきゃ。

「イオ、わたし早く魔法使えるようになりたい」
「急ぐことはない、君にどうこうできる問題ではないぞ」

 やっぱりお見通しってわけね。

「イオ!!!」

 どこからともなく厳つい男の声が聞こえてきた。
 声のした方を見ると、そこには声通りの厳つい赤髪の男が立っていた。
 右目には傷跡があり、筋肉質で、いかにも強そうな男だ。

「ゼル、久しぶりだな。お目当ての剣は見つかったのか?」
「それが残念ながら嘘っぱちでな? 全く魔力のカケラも感じないただの鉄の塊だったんだぜ? 酷い話だよな」
「それは皮肉だったな。ところでちょっと目に付く男がいてな……」
「その前にこの女は?」
「ああ、この子は小国の捕虜だったんだが……攫ってきた」

 何そのアバウトすぎる説明。

「何だと?!」
「まあ、王子も歓迎してくれているのだから大丈夫さ」
「あの、サリーです。不束者ですがよろしくお願いします」
「俺はゼルだ! イオの相棒で王子の右翼ってもんだ!」
「……! この人がもう一人の方翼?」
「ああ。そうだ」

「ゼル。話を戻すが、ついさっき噴水広場の方で暗黒魔法を使う殺気に満ち溢れてる男がいたのだが」
「そいつは初めて見る顔か?」
「ああ、探してくれとまでは言わないが頭の片隅に置いておいてくれ」
「分かった。出くわしたら戦闘に持っていったらいいのか?」
「いや、今はまだ観察段階だ。手は出すな」
「ウッス、了解」

 見た目はかなーり厳ついのに子供っぽい性格なのだろうか。

「お前はどんな魔法使うのか?」
「わたし、魔法使えないの」
「お前まだ魔法覚えてないのか?!」

 その言葉はわたしの心に深く突き刺さった。
 ――普通じゃないんだ、おかしな子なんだ……。

 皆と一緒じゃないんだ……。

「子供の頃から捕えられていたのだ。無理もない」
「そりゃ失礼な事言ったな。まあ、魔法なんて気付いたら使えるようになってるって」
「コツとかあるんですか?」
「あ? んなもんバッってやってガッってやってドカーンってなるんだよ。あんま難しくないだろ?」

 バッ? ガッ?? ドカーン???
 ゼルは得意げにジェスチャー付きで説明してくれたけどわたしには到底理解できなかった。
 ――魔法って難しいのね。

 ふと隣を見るとイオは頭を抱えていた。

「お前は……魔法のセンスと体力は有り余るほどあるのにどうして語彙力が、こう……皆無なんだ?」
「んだと?! お前みたいに理屈で話しても理解できるわけないだろ?! シンプルが一番なんだよ!」
「擬音だらけがシンプルとは、困ったものだな」
「ほら!! こいつだって理解してるぜ? な?」

「へ?! 魔法の事はさっぱりです……」

「サリー、聞く耳を持ってはならん。こいつは語彙力が皆無なゆえ、到底理解できまい。それに、ゼルが使うのは魔法剣だ。全くジャンルが違う」
「ちっ、つまんねーの。はーらへった!!! 早く戻ろうぜー?」
 城に戻ると、心配そうな顔をした王子が駆け寄ってきた。
「中庭に居なかったから心配していたんだ。無事でよかった!」
「それが、途中でゼルと合流しましたので街をぶらぶらしていました」

 まったく、嘘が上手いこと。

「お久しぶりです! 王子!」

 ゼルは跪いた。初めて見る真剣な眼差し。王子の事を本当に慕っているのだろう。

「ゼル、探していた伝説の魔法剣は見つかったか?」
「いえ! それが出鱈目でございまして……無駄足でした」
「そうか……それは残念だったな」

 正直な性格の表れなのだろうか、王子はいつも感情が顔に出る。
 心から嬉しそうに笑ったり、寂しそうな表情をしたり。そうやって感情を出せるのは羨ましかったりする。

「サリー! 魔法は使えるようになったか?」
「まだ……です」
「気に病むことはない。僕もまだ魔法は使えないんだ……」

 王子も……魔法を使えないのか。
 不謹慎だが何故か少し親近感が沸いた。王子はわたしとは正反対だと感じていたからだろう。

「まあ、みんなで食事でもしようか」

 彼が立ち去ったのを見計らって、イオはわたしの耳元で囁いた。

「王子からは全くと言っていいほど魔力が感じられない。生まれつき魔力を持ち合わせていないのか、魔力が限りなく低いか……」
「魔力を持ち合わせていない? もしかしたらわたしも……」
「いや、君は無意識に魔力を感じ取っている。だから必ず魔力は宿っている。やはり子供の頃からその魔力を秘めていた為、まだ魔法が使えないのだろう」

 イオはそう言い残して立ち去った。

 わたしの中にも、魔力はある。
 たったそれだけの事が、今はとても嬉しかった。

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