天使に紛れた悲哀の悪魔

堕天使ラビッツ

第3章 雲のように咲き乱れる桜

「という訳で、一刻も早く魔法を使えるようになってほしいのだが……」
「おいおい、まさか依頼に行くとか言い出すんじゃないだろうな?」

 ゼルは信じられないと言うような表情で問いかけた。

「そのまさかだ。何事も“慣れ”が大切だ!」
「ハッ! よく言うぜ、いつもはちゃんと戦略を練れだの何だの口うるさいヤツがよ!!」
「何とでも言え、こればかりはプランをいくら練っても無駄だ。魔法も運の様な物だからな」

 まーた始まった。
 こういうのを何ていうんだっけ……夫婦漫才だったかな?

「夫婦漫才はそれくらいにして。――どうすればいいの?」

 わたしの言葉に二人は凍りついた。
 何、この雰囲気。――もっと険悪になった?

「サリー、どこでそんな言葉覚えてきたんだ?! 俺がこいつと夫婦めおと?? フッ、まっぴらごめんだね!」
「あんだと?! そりゃこっちのセリフだ! ふっざけんじゃねぇ!!」
「ごめん、夫婦めおとってなんだっけ?」
「……。文字通り夫婦――結婚している男女二人の事だ」

 ……やらかした。
 最近街で色んな言葉話聞いては使ってみてってことが多かった。ちゃんと意味を考えて使うようにしていたのにこんな所で知ったかぶりが出るなんて。


 ――不覚だわ。

「そ、そうだ! 依頼って何?」
「アンジュには支配国と言うものがあって、そこの住民から助けを求める手紙が日々送られてくる。それに応えに出向いて助けるのが依頼だ」

 簡単に言うと国民の人助けって事か。
 ――魔法を使う練習って事はそんな生ぬるい人助けではなさそうだけど。

「ところでイオ、何の依頼に行くつもりなのかよ」
「桜雲帝国へ行く。詳しい詳細は送られてこなかったようだ」
「どんな依頼なんだろうね」
「桜が一面に咲き誇り、まるで雲のように見える国。そんな所が依頼をしてくるとは摩訶不思議だろう?」
「桜雲か……俺の故郷の隣国だけどな」

 ゼルはぶっきらぼうに呟いた。
 まるで行きたくない理由があるかのように。

 明らかに嫌そうなゼルを半強制的に連れて、わたし達は桜雲帝国へと向かった。
 初めて乗る馬車に興味津々のわたしと、静かに本を読んでいるイオと……

「なんで俺がついて行かなきゃいけねえんだよ、めんどくさいったりゃありゃしないぜ」

 ゼルはとても不機嫌そうに吐き捨てる。自分の故郷の隣国なのに何がそんなに気に入らないのか、過去に何か彼を嫌にさせる出来事があったのか……

「俺もサリーも桜雲帝国に行くのは初めてなんだ。だから詳しいお前がいた方が助かる。それに、王子もサリーが魔法を使えるようになる事を楽しみに待っておられるんだ」
「それは分かってるけどよ、強引すぎるだろ?」
「どうしてそんなに嫌がるんだ? お前の故郷といっても過言ではないだろう?」
「言い過ぎだ! 教えてやるよ、あそこには俺の幼馴染でもあり……許嫁がいる。十分な理由だろ?」

 ゼルには許嫁がいたのか。でも、幼馴染なのに会いたくないなんてどうしてだろう。

「俺は結婚なんて考えてねぇ。ずっと王子のお傍で国を支えるって決めてんだ」
「そんな……ゼルのお父様は反対しないの? きっと心配してるはず」
「心配、か。俺はとっくに縁を切られてる。見合いを受ければ話は別だけどな」
「話は聞いていたが酷いものだな。見合いをしなければ縁を切る……か」

「イオの親はどうなの……? イオにも許嫁が?」

 興味本位の質問とともに空気は静まり返った。何か聞いてはいけない事を言ってしまったのは目に見えて分かる。

「俺の両親は幼いころに亡くなった。だから許嫁もいない」
「そう、だったんだ……」

 ――両親が亡くなっていた。そうだったんだ、イオも小さいころから両親の顔を見れなかったんだ。

「そんでお前の事を育ててくれたのが王子の一家来だった。だろ?」
「ああ、だから両親があの時亡くなっていなかったら、今ここにはいなかっただろう」
「わたしも、親がもっと普通の人だったら……」
「人生とは何があるか分からないものだ」

 イオは溜息をついて本を閉じた。

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