心装人機使いのあべこべ世界旅行

えいせす

19.着せ替え人形

 外国では、男子でも普通にスカートを履いている国があると、昔テレビで見たことがある。
 正直スカートくらい別にどうってことないし、騒ぐことでもないと当時は思っていた。

(自分で体験してみないとこういうことは分からないもんだな)

 突然スカートの話から始めてしまったが、今の俺の状況下では仕方の無いことだと思う。
 目の前の鏡に、スネ毛が剃られてしまった俺の足が映し出される。

(何故こんなことになってしまったんだろうか……)

 レストの旅についての話し合いが終わった後、舞踏会の衣装についてレストと俺は揉めていた。

────────
『えぇ〜っ!! セスはドレスは嫌なの?』
『当たり前だッ! 勘弁してくれ……』
『んっ〜どうしても舞踏会で着たくないんだったら……仕方ないか……』
『あぁ、ありが『だけどっ!』とぅ……』
『一回だけ着て見せて欲しいなぁ。絶対似合うから! お願いお兄ちゃん!』
────────

 折角真面目な話をして、これから頑張るぞ! みたいな感じだったのに、舞踏会の話になった瞬間これだった……

 まあ、レストの旅立ちに相応しくなるようにしたいとは思っているから、可能な限りは手を貸していこうとは思うが。

「んー、やっぱり毛は剃らなきゃダメだよ、お兄ちゃん! まるで女の人みたいに伸びてたよ!」

 俺が今まで会ってきた女性陣はそんなに毛が生えてたイメージはないんだが、まあ実際に脇とか胸元とかをしっかり見た訳では無いから、もしかしたら生えていたのかもしれないな。

……クオンはオナベだったから剃ってると思うんだけど、旅の最中にはそういう行動は見なかったなぁ。

 とまあ、毛の話はここまでにして、鏡に映る自分をよく見る。

(馬子にも衣装っていうのはこういう事なのだろうか……前世と少しデザインが違うのは、ベースが男だからだろうか)

 自分で言うのもなんだが、よく似合っていた。

 二の腕の脂肪こそ隠れなかったが、筋肉質な太ももはしっかりと隠れているため、体全体のバランスがとても整って見えている。

「うーん、おばあちゃん……脚も一緒に見えるドレスはないの?」
「ワシも脚を一緒に見せた方がいいと言ったんじゃが、この若造が断りおってのぉ……もったいないのぉ」

 俺がこの世界でイケメン認定を貰っているのは、顔単体ではなく、体全体のバランスだということを忘れていた。

 顔だけだと、「そこら辺にいる人より少しカッコイイ」くらいの認識だからなぁ。
 バランスが悪い脚を隠してしまうと、ほとんど平凡になってしまうわけだ。

「俺の意識がない状態だったら、どんなドレスでも着てもいいんだけどなぁ……」

 別に見られることに抵抗がある訳じゃない。人のブサイクさを見るのは別に構わないが、自分のを見るっていうのはかなり辛いものがあるというだけだ。

 つまり────

「お兄ちゃんっ、魔法……かけていい?」

────記憶に残らなければいいのだ。

「お好きにどうぞ……ちゃんと普通の服に戻してから意識戻してくれよな」

「やった!! 任せてっ、とっておきのドレスがあるのー。おばあちゃん!」
「はいはい、持ってきてあげるから、レストは魔法をかけておいてあげなさい」
「はーいっ! それじゃお兄ちゃん、おやすみなさーい」

 レストが踊り始めると俺の意識は段々と薄くなっていった。


────────

「セスっ! 久しぶりに直接会ったね〜」
「おうっ、久しぶりだなラティス!」

 意識を失った後、俺は精霊の部屋に来ていた。
 対面しているのはラティスと、金髪ロングウェーブで長身……胸はないが、へそ出しクビレが魅力的な女騎士だった。

(今度はなんの精霊なんだろうか……)

 最近失った感情は特にないと思っていたのだが……いやっ、まだ力を使ってないから食われてないだけか。

「あ、あのっそんなにおへそを見ないでくださいぃ……」

 そう言うと、女騎士はへそを手で隠してしまう。

(キャラが予想していたのと全然違うが……これはこれでいいなっ!)

 どうやら俺は庇護欲を感じるキャラが好きなようだ。
 ショタコンとかロリコンじゃなくて良かった……

「すまないっ、見ていたのは事実だから謝る。後で煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「ひぇっ、セスさんを焼いて食べたりなんてしませんよぉ」
「あっはははっ! 食べるなんてセスは言ってないよ〜」

 食べるの発言には驚いたが、ラティスは笑いすぎだ。

「あぁ、食べるのは勘弁してくれなっ、知ってるとは思うが俺はセス、よろしく。騎士さんはどういう精霊なんですか?」
「わっ、わわっ……わたしは庇護欲の精霊ですぅ。レストさんのことを守りたいっていう強い匂いがしたので、ついつい来てしまいましたぁ」

 なるほど、やはり庇護欲だったか。
 それにしてももう少し格好いい呼び方は無かったものだろうか…

「セス〜! この子に名前を付けてあげなよ〜、いつまでも騎士さんだと呼びづらくない?」
「ふぁぁぁっ! な、名前ですか? 初めてなので緊張してしまいますぅ」

 やはり名前をつけることになるとは思っていたが、ラティスから話題を振られるとは思わなかった。

「アタシが暇な時の話し相手になるし、いずれ連結することにもなるだろうからね〜。今のうちに仲良くなっておいた方がいいでしょ?」
「確かに、言われてみればそうだな。少し待っててくれ考えるから」
「はっ、ハイ!!」

────────


「あぁ〜、なんにも思いつかねぇ」
「ねぇ〜セス〜! 一回ナイトとか騎士とかから離れて考えた方がいいんじゃないかな〜」

 ラティスの言う通りだ。そもそも女の子に騎士とかをモチーフにして名前をつけようとしたのが間違いなのだ。

 特徴は何も騎士だけではない。
 ミハクの時は、彼女の白い肌から美白→ミハクとなった。
 ならば今回も身体的特徴を使って……「ヒラムネ」


 ゴッッッッ!!!!!!


 頭から凄まじく鈍い音が聞こえた。

「あっ、ゴメンナサイィ!! 頭にウジ虫が付いてた様だったので、ついッ! 潰してェッ!! しまいましたァァァッッ!!」

 ゴッッゴッッゴッッ!!
(そん……そんなに怒ることなのかよっ! なにこれクソ痛いんだけどぉぉぉっ!)

「セス……アタシと一緒にいてくれる精霊たちにとって、『名前』って結構大事なんだぁ。だから、思いつかなくてもいいから真面目に考えてあげて欲しいな……お願い」

(ラティス……)

「とりあえず今回はここまでだね〜。次に騎士ちゃんに会うまでには考えておいてくれると嬉しいなっ。それじゃ、またね」

 ガッッッッ!!!!

 激しい痛みと共に現実に戻っていくのを感じる。
   
(名前が大事な理由……ラティスと一緒にいた精霊にとって……あっ)

 精霊には元々名前が無い、命名するのは主である人間。
 だが、ラティスは他の精霊達とは違って、名前をつけてくれるような主には出会わなかった。
 そして、ラティスと一緒にいた精霊達もそれは同じことだ。

 子供が親に名前をつけてもらう。
 その瞬間に、俺は自身の手で泥を塗ってしまったのだ…

「……約束するよ、次会う時までにしっかり考えておく」

 今の俺にはそれしか言えなかった。

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