心装人機使いのあべこべ世界旅行

えいせす

12.心装連結

 何匹の魔物を棍棒で砕いた
 何匹の魔物を魔法で焼き、切り裂き、潰した

 わからない……わからない……

 声が枯れて、「リリース」すら満足に言えなくなる
 どれだけ軽くても棍棒を振る腕は疲れる

 わからない……わからない……何でだ……

(俺はなんでこんな所にいる)

 ナンデ……知りたい……シりたい! シリタイッ!!

 何故ここにいる、何故コイツらと戦わなければならない、何故クオンたちと離れなければならない……

「知りたい……いや、知らなければならない……ここにいる理由、この世界に、転生した理由を……」

 エルフの長であるミカは「世界を周り、困っている者を助けろ」と天使に聞いたらしいが、本人からは聞いていない。

 少ししか一緒にいなかったが、ミカはいい人だ。もし、あの天使がもっと酷い命令をしていたとしても、柔らかく伝えてきてもおかしくはない。

 でもそれなら、天使は俺に何をやらせたいのかが分からなくなる……

《知りたいなら、聞けばいいんだよ》

 体感では久しぶりに感じる声がとても嬉しく感じる。

《ラティスか!! ……いや、違う?》

 ラティスならもっと明るく話しかけてくるはずだ!

《アハハッ! やっぱり分かるよね〜。アタシを表に出しちゃえるなんて、相当な知りたがりだもんね》

 チッ!! 魔物の数が一向に減る気配がない!!

《オイッ! お前が誰かは知らないが、精霊がいるなら、人機が使えるんだろ!》
《そうだけど、使う?》
《当たり前だろ! まだ知らなければならないことがいっぱいある!》

 クオンがあの後どうなったのかとか、棍棒持っていかなきゃとか、ヘレナのこととか、軽いものでいえば、あの屋台の肉の味とか。

 この世界には、俺が見たことないことや聞いたこともない文化、食事、その他考えられない様なことだって、いっぱいあるに違いない!

「それを知らずに死ねるもんかッ!! ────来いッ! 《ラスティール》!!」

 喉から鉄の味がする。それでも、声が出せただけラッキーだった。
 俺の目元に以前装着した緑縁のモノクルが出てくる。

 これならッ! と思って少し後ろに下がると、緑縁が黒く染まり始める。

《お前ッ! 何をしたんだ!》
《何って……セスがアタシを使ったんじゃん……安心してよ、対価の分の仕事はするからさ〜》

 話している間に、モノクルが溶け始める。
 この最悪な状況で唯一良かったことといえば、魔物が警戒をして攻めてこなくなったことだ。

 変化は続き、モノクルが溶け落ちた先の地面に魔法陣が広がる。

《ありがたく受け取っておきなよ〜こんなに美味しい『知識欲』は初めて食べたからっ、サービスしちゃうんだから♪》

 魔法陣が黒い瘴気を発し始め、俺の体を覆い隠した。
 周りが見えなくなる前に見たのは、周りを取り囲むように警戒しながら動く、多種多様な魔物の群れだった。

(結構殺したつもりだったんだけど、全然減ってなかった……やっぱり一人じゃ勝てなかった……もう、クオンの可愛い顔を見ることも、柔らかそうな胸を触ることも、綺麗な声を聞くこともない。ラティスはいないし、頼みの綱の心装人機は壊れた……勝てる案を考える気すら起きない)

《副作用とはいえ、君みたいに話を聞かずに絶望しちゃう人初めて見たよ……おかげであいつも来ちゃったし……》
《まるで来て欲しくなかったみたいに聞こえましたよ》
《会いたくなかっただけ! でも、今回は来てくれて助かるかも》
《あなたが協力を求めるのは珍しいですねぇ……では、せっかく出てこれたので僕も手伝わせていただきますよ》

 何かまた違う奴が喋ってんな……だが、どう足掻いたって、負けは負け……圧倒的な数には勝てない。

(クソッ! クソッ!! 俺が何したって言うんだよ……まだ死にたくねぇよ……クオンとまた手を繋ぎてぇよ)

《クククッ……いい塩梅の絶望の風味です。足掻いても負けることが分かっていて、どこか希望を求め、届かないことが分かっていても……幸せな過去を追い求める》

 クソッ!! 何なんだよ、頭の中で人のことを馬鹿にしやがって! なら、お前ならどうにか出来るって言うのかよ!!

(人を見下しやがって……前世の頃から、いっつもいっつも! 皆して────)
「俺をッ! 見下しやがってェェェェェ!!」

 周りを包んでいた瘴気が、黒から紫、紫から赤へと変わっていく。

《ちょっ!? アンタの馬鹿なテイスティングの真似事のせいで『アレクター』出てきそうなんだけど!!》
《呼んだかっ?》
《ゲゲっ!! マジで出てきてんですけど……まあ、今回はいいか!二人共、早くセスに力を貸してあげなさいよ!》
《言われなくても、感情はとうに頂いてますので、力も渡してますよ……それにしても『アレクター』と協力する日が来るなんてね》
《俺は一人でも構わなかったがな! まあ、邪魔をしないならなんでもいい……飯は食った!! まずはッ、皆殺しだッ!!》

 魔法陣から鈍い光が発生するのと同時に、喉が痛いのも関係なしに、勝手に声が出される。

─────我が心に宿るは《絶望》

───溢れる涙は地を濡らし、天をも覆う

──その力、渦となり、界を巻き込む鎖を放つ

────来れ、絶望の機人 《バスティーカ》

 どうやらまた人機が増えるらしいが、果たしてたった一つの人機で、この数の差を埋められるのだろうか……ん、アレッ? まだ、なんか喋るのだろうか。

「セス! ちょっとだけ口、借りるね!!」

 借りるねって、もう借りてんじゃねぇかよ……

(何をする気か知らないけど、好きにしてくれ。それで運よく生き残れれば、ラッキーだからな……)

 不思議なことに、さっきまでの暗く沈むような感情はなくなり、怒っていたことが馬鹿みたいに、冷静に状況を見ることができるようになった。

(さっきまで、何をあんなに弱気になってたんだろうか……あの黒い瘴気が出てからおかしくなった気がするが……)

 先程までのことを少し考えていると、俺の口がまた、勝手に動く。今回は了承を得ているので、驚くことはない。

「我、《欲望》の精、契約を交わした者の眼となる」
「我、《絶望》の精、契約を交わした者の背となる」
「……チッ! メンドクセェ……我、《怒り》の精、契約を交わした者の腕となる」

「「「我ら、これより契約者を主と認め、共に力となることを誓う!! 《《《心装連結》》》」」」

……!!!! ちょっ、まっ、口から三人の声が一斉に聞こえるとか、そんな事どうでもいいくらい、大仰なことしてませんかッ!!

 自分でも姿が見えなくなるくらい、暗い光が大きさを増し、唐突に消えた。
 ゆっくり目を開け、体を確かめると────

 前にも見た赤黒い装甲が、右腕と左腕で二つある。

 視界を覆うようなゴーグルは、モノクルと同じ緑色で、何やら色んな数字が変化し続けている。

 そして一番の変化が、胸元に何かの球が出来たことだ。色は少し青みがかっているけど、殆ど灰色に近い。

 球を守るかのように、鎖が背中から伸びてクロスしているが、これは何かに使えるのだろうか…

 未だに理解が追いついていないが、これだけ精霊たちが手を貸してくれたのなら、俺はまだ生きることを諦めるわけにはいかない!!

 コイツらを殲滅して……俺が生き残るッ!!

────────

《コレなら勝てそうだね〜》
《僕達が力を貸しているんだから当たり前でしょう》
《チッ! 俺が暴れられないのはつまらぬが、今回はいいだろう》

 精霊たちがなにか話をしているようだが、魔物の処理が忙しくて、聞いている暇がない。

 視界を全てを埋め尽くす魔物、その全ての攻撃の軌道をゴーグルが教えてくれている。初めのうちは分からなかったのだが、何回か攻撃をされた時から見えるようになったので、恐らくは学習しているのだろう。

 避けて殴る、受けては殴る。

 一見、多数からの攻撃を全方位からモロに受けているのだが、鎖が背中から伸びて攻撃を吸収してくれているようだ。
 恐らくだが背中に鎖を収納している何かがあるのだろうが……俺からは見えない。

 長い時間戦い続け、もう何体倒したのかが分からないが、どうやら終わりが見えてきたようだ……
 残りが大体50体くらいって所かな。

《セス〜あのくらいだったら魔法でも良いんじゃない? あたしの能力、忘れた〜?》
《お前はラティスじゃないんだろ? ていうか、お前の能力って攻撃軌道を学習することによる可視化じゃなかったのかよ》
《ぶぶぅ〜!! アタシはラティスと同じだけど違う存在……そしてアタシの能力は────》

 その時、ゴーグルに敵を飲み込むドラゴンの姿が映像が映し出される。

《────イメージの補助と可視化だよっ。さぁ、最後なんだからパーッとやっちゃえ!》

 ラティスだけどラティスじゃないし能力も違う、でも起動するのに呪文を唱えなかった。分からん、分からないけど、これで勝てるならなんでもいいか!

「り……リリィィーースッ!!」

 魔法を使った瞬間、空から爆炎を纏った龍が、真っ直ぐ降りてくる。
 着地地点にいた魔物を焼き潰して地につき、俺が見える範囲の魔物をブレスで焼き払っていた。

(最初からこれ使えばよかったんじゃ……)

 と、少し考えてしまったのだが、そもそもイメージしているだけの時間はなかったし、ドラゴンのイメージをいきなりすることも出来なかっただろう。

 あたりを見渡すと、そこには俺以外誰もいなかった。

 やっと……やっと終わった……

 思いっきり体を投げ出し、荒地に横になると。

「俺は……俺は生き残ったぞォォォーーー!!」

 腹から、心から、体の全てを使い声を上げる。
 前世では感じることが出来なかったであろう緊張感。
 その緊張感が断ち切れ、命があることを実感した。

 だが油断せずに考えるべきだった────

「そうだな、お前は生きている」

《《《……!!!?》》》
「……えっ……?」

────ここがどういう場所なのかを。

「だが、ここまでだッ!!」

 俺の目に映ったのは、ゆっくりと、ただ確実に迫る綺麗な緋色の大剣だった……

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