心装人機使いのあべこべ世界旅行
5.名乗りの覚悟
突然だが、俺の前世の話をしようと思う。
俺が自殺したのは22歳の時だ。
高校卒業と同時に田舎から都会に出て、工場で働き。片親だった母に仕送りをしていた。
先輩に酒、タバコ、ギャンブルを教えられ、仲良くやっていたかのように思えた。
いつからだったのか、その先輩に理不尽にキレられることがとても増えていた。 肉体的にも精神的にも弱かった俺は、その工場を辞め、逃げ出した。
タバコも酒も、教えられたが馴染めなかった……だけど、ギャンブルだけは止められなかった。
仕事を辞めたのにギャンブルだけはやる、負けたら借りる。勝てば勝った分だけ風俗に使い込む。
ギャンブルを抜け出した時にはもう、返せないところまで来ていた。
借金取りから逃げ、半ば人生諦めながら、公園のベンチで携帯をいじる。
暇つぶし系ゲームの主人公、ネームは『セス』
学生の頃からこのネームを使い続け、異世界に行ったら、これを名乗ろうと、二次小説を読みながら決めていた。
その後、真夜中の地下鉄に最後に残されていた金で入っていき────天使様に出会ったという訳だ。
前のクズの俺は……光の鉄クズに喰われて消え去った。だから────
こっちなら、俺は生きられると思えた。
初めて戦って、心の底から生きたいと思えた。
「俺はセス、これからよろしく頼むよ」 
────俺は、異世界で『セス』になる。
今度こそ生きる。その為の覚悟、この名前に誓う。
────────────
「ホントにいいのかい?」
そう聞いてきたのは、腰まで届く緑の髪を、雑に後ろでまとめた、美形の女性だった。
一方的にボコボコにされた後、抱きつかれ、脅しのような告白をされた。
普段の俺なら、ボコられたらどんな女性であろうと嫌いになるだろう。
だが、怒りの心装人機で精神を消耗してしまったのか…怒りが全く湧いてこなかったのだ。
女好きの俺から怒りを抜いた所に、美人からの告白────受けないわけないだろ。
「ハイッ、これからよろしくです────あっ、ただ……エルフの長に聞きたいことがまだあるので、待っててもらえませんか?」
「……駄目だ、そう言って逃げるに決まってる!! いつもいつも、男はそう言って、私の顔を見た瞬間に逃げていくんだ!! 君は逃がさないよ……」
そう言いながら、俺が抱きしめていた手を掴み、痛くもないが、抜け出せない力で掴んできた。
「……分かりました! なら、一緒でもいいので長と話をさせてほしいです。あなたにも知っておいてもらわないといけない話もあるので」
「うーん……手を繋いでてもいいなら……いいよ」
……可愛い。
「んじゃあ、手を繋ぎましょうか。────エルフの皆さん!! もう大丈夫なので近くにいる人の拘束を外してあげてください!!」
全員に聞こえる声で言うと、皆顔を合わせ驚いた後、笑いながら首輪を外し合う。
俺も長と門番の所に行き、口に入っていた詰め物をゆっくり取ってあげた。
「……うえぇ……この布、喉の奥まで入ってて、吐きそうだった……ありがとう」
「……ゲホッゲホッ!!ハァ……ハァ……助かった、感謝する」
「いえ、俺ももっと早く来ていれば……それより長にまだ聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「構わないけど……そっちの女も来るのか?」
そう言うと、警戒した目線を向ける。 まあ、さっきまで、皆殺しにされそうだったので仕方ないともいえる。
「警戒してても無駄ですよ。この子がやろうと思えば、皆倒されちゃいますから……」
「この男の言う通り、それくらいはできるよ」
「悔しいけどその通りだね……ならいいか。 では、私の家に戻ろうか」
その後、長は村人達に、これから何をするかなどの具体的な行動プランを話してから、俺たちと一緒に家に向かって行った。
「────ハァ……なるほどねぇ。 それで私を見ても嫌がらなかったのか……にわかには信じ難いが……」
俺達は長の家に入り、緑髪の子にこれまで話していた内容────つまり、俺が転生者だということを話した。
別に秘密にすることでもないからな。
その後の話をするために、俺の特典内容も全て話したのだが、どうやら秘密にしなければいけないこともあったようだ…
「お前、特典になんてもの選んでるんだよ!?」
「いや、確かにチート過ぎるけど、そんなに怒るか?」
「バカッ!! この世界において、魔力とは生命、生命の根源は……その、あ……アレ……だょ」
「……生命の……あっ! 精子の事か!!」
「折角ぼかしたのになんで直球で言っちゃうかなッ!!」
顔を真っ赤にして怒るロリババア……尊い。
だが……要は俺の種がほぼ無限製造になっただけだから、そんなに怒ることはなさそうなんだけどな。
「その顔は分かってないでしょ……いい? この世界は前世とは逆だと言ったでしょ、あんた……いくらでもエッチができる、綺麗なビッチ娘がいたとして、誘ってきたら……いや、誘ったら絶対のってくるとしたらどうする?」
「いただきます」
「でしょうね!! 今あんたがその状態なのッ!! 気づけ!!」
んむぅ……なるほど、そういう見方をした方がいいのか。
極端な話、俺みたいな変態が歩き回ってるってことか。
「今の流れ的に、もう一つ付け加えなければいけないことがあるね」
話を聞いて固まっていた緑髪の子が、納得したのか、話に入ってきた。
「ん……何かあったっけ?」
「ふむ、これは人族の特徴なんだけどね。 異性と肌を密着すると、魔力の自然回復量が上がるんだ。勿論、触れ合う面積が広い程、人数が多い程、その効果は高まる。これを利用している人が多いから、街の冒険者達は男の子のことを……魔力缶とか、補給者とかって呼んだりしてるんだよ」
「つまり冒険者において、男の地位はかなり低いと……」
「というか、男の冒険者なんてほとんどいないよ」
なるほど……いないなら、地位が上がる上がらない以前の問題だもんな。
そして、恐らくだが……いないなら奴隷かなんかで手に入れ、それこそ道具の様に扱うのだろう。 
だからこその魔力缶か……
「だけど俺は、この世界を回らなければならない。誰かを幸せにするためとかじゃなくて、それがこの世界で与えられた俺の仕事だからだ」
そう俺が言うと、二人共しばらく考える。
そして、先に口を開いたのは長だった。
「そうね……転生と能力付与される条件は、絶対に守らなければいけない。そうでなければ、あなた自身だけでなく、周りにも悪いことが起こる」
「周りに迷惑かけるのは……流石に嫌だな」
「なら、私が一緒に行こう」
考えがまとまって、決意が固まったような表情で緑髪の子が言う。 
「俺としては助かるが……いいのか?」
「私は、これでも冒険者ギルドに登録しているし、知ってのとおり強い。それと……せっかく見つけたいい男だからね。ついて行かないわけがないよ」
そういうと、喉奥で鳴らすような笑い声と共に、腕を絡めてきた。どうやら、俺が本当に、こちらの世界でいう『ブス好き』だということを、理解してもらえたようだ。
「それに、まだ私は君のことを少ししか知らない。 世界中を一緒に歩いて、君のことを知り、そして、今度は脅しなんかじゃなくて、本気で君に婚約を申し込むよ」
……なるほど、男女逆ならプロポーズする方も逆なのか。悔しいが俺よりもカッコイイ…
さらっとプロポーズできるところを見ると軟派っぽい気もするが、彼女が受けてきた扱いを考えると、涙が出そうになる……出ないけど。
「うん、ありがとう。────よし! それじゃあ、方針も決まったことだし、早速行きますか!!」
「バカモノッ!」
「ポカッ」と長が軽く叩いてきた……何か忘れてたっけ?
「心装人機と魔法の使い方は知らなくていいのか? それに、もう日が暮れているし、旅の準備もしてないだろ。今日は泊まっていくといい」
言われて外を見ると、空の色がオレンジ色になっていた。異世界にも太陽ってあるんだな……多分名称は違うんだろうけど、どうでもいいや。
「そうですね、お言葉に甘えて泊まらせてもらいます」
「私も一緒でいいか?」
「まあ、あなたも話してみたら悪い人じゃ無いみたいだし、いいよ」
こうして、俺の異世界転生一日目は、三人で魔法や人機の話をしながら終わった。
俺が自殺したのは22歳の時だ。
高校卒業と同時に田舎から都会に出て、工場で働き。片親だった母に仕送りをしていた。
先輩に酒、タバコ、ギャンブルを教えられ、仲良くやっていたかのように思えた。
いつからだったのか、その先輩に理不尽にキレられることがとても増えていた。 肉体的にも精神的にも弱かった俺は、その工場を辞め、逃げ出した。
タバコも酒も、教えられたが馴染めなかった……だけど、ギャンブルだけは止められなかった。
仕事を辞めたのにギャンブルだけはやる、負けたら借りる。勝てば勝った分だけ風俗に使い込む。
ギャンブルを抜け出した時にはもう、返せないところまで来ていた。
借金取りから逃げ、半ば人生諦めながら、公園のベンチで携帯をいじる。
暇つぶし系ゲームの主人公、ネームは『セス』
学生の頃からこのネームを使い続け、異世界に行ったら、これを名乗ろうと、二次小説を読みながら決めていた。
その後、真夜中の地下鉄に最後に残されていた金で入っていき────天使様に出会ったという訳だ。
前のクズの俺は……光の鉄クズに喰われて消え去った。だから────
こっちなら、俺は生きられると思えた。
初めて戦って、心の底から生きたいと思えた。
「俺はセス、これからよろしく頼むよ」 
────俺は、異世界で『セス』になる。
今度こそ生きる。その為の覚悟、この名前に誓う。
────────────
「ホントにいいのかい?」
そう聞いてきたのは、腰まで届く緑の髪を、雑に後ろでまとめた、美形の女性だった。
一方的にボコボコにされた後、抱きつかれ、脅しのような告白をされた。
普段の俺なら、ボコられたらどんな女性であろうと嫌いになるだろう。
だが、怒りの心装人機で精神を消耗してしまったのか…怒りが全く湧いてこなかったのだ。
女好きの俺から怒りを抜いた所に、美人からの告白────受けないわけないだろ。
「ハイッ、これからよろしくです────あっ、ただ……エルフの長に聞きたいことがまだあるので、待っててもらえませんか?」
「……駄目だ、そう言って逃げるに決まってる!! いつもいつも、男はそう言って、私の顔を見た瞬間に逃げていくんだ!! 君は逃がさないよ……」
そう言いながら、俺が抱きしめていた手を掴み、痛くもないが、抜け出せない力で掴んできた。
「……分かりました! なら、一緒でもいいので長と話をさせてほしいです。あなたにも知っておいてもらわないといけない話もあるので」
「うーん……手を繋いでてもいいなら……いいよ」
……可愛い。
「んじゃあ、手を繋ぎましょうか。────エルフの皆さん!! もう大丈夫なので近くにいる人の拘束を外してあげてください!!」
全員に聞こえる声で言うと、皆顔を合わせ驚いた後、笑いながら首輪を外し合う。
俺も長と門番の所に行き、口に入っていた詰め物をゆっくり取ってあげた。
「……うえぇ……この布、喉の奥まで入ってて、吐きそうだった……ありがとう」
「……ゲホッゲホッ!!ハァ……ハァ……助かった、感謝する」
「いえ、俺ももっと早く来ていれば……それより長にまだ聞きたいことがあるのですがいいですか?」
「構わないけど……そっちの女も来るのか?」
そう言うと、警戒した目線を向ける。 まあ、さっきまで、皆殺しにされそうだったので仕方ないともいえる。
「警戒してても無駄ですよ。この子がやろうと思えば、皆倒されちゃいますから……」
「この男の言う通り、それくらいはできるよ」
「悔しいけどその通りだね……ならいいか。 では、私の家に戻ろうか」
その後、長は村人達に、これから何をするかなどの具体的な行動プランを話してから、俺たちと一緒に家に向かって行った。
「────ハァ……なるほどねぇ。 それで私を見ても嫌がらなかったのか……にわかには信じ難いが……」
俺達は長の家に入り、緑髪の子にこれまで話していた内容────つまり、俺が転生者だということを話した。
別に秘密にすることでもないからな。
その後の話をするために、俺の特典内容も全て話したのだが、どうやら秘密にしなければいけないこともあったようだ…
「お前、特典になんてもの選んでるんだよ!?」
「いや、確かにチート過ぎるけど、そんなに怒るか?」
「バカッ!! この世界において、魔力とは生命、生命の根源は……その、あ……アレ……だょ」
「……生命の……あっ! 精子の事か!!」
「折角ぼかしたのになんで直球で言っちゃうかなッ!!」
顔を真っ赤にして怒るロリババア……尊い。
だが……要は俺の種がほぼ無限製造になっただけだから、そんなに怒ることはなさそうなんだけどな。
「その顔は分かってないでしょ……いい? この世界は前世とは逆だと言ったでしょ、あんた……いくらでもエッチができる、綺麗なビッチ娘がいたとして、誘ってきたら……いや、誘ったら絶対のってくるとしたらどうする?」
「いただきます」
「でしょうね!! 今あんたがその状態なのッ!! 気づけ!!」
んむぅ……なるほど、そういう見方をした方がいいのか。
極端な話、俺みたいな変態が歩き回ってるってことか。
「今の流れ的に、もう一つ付け加えなければいけないことがあるね」
話を聞いて固まっていた緑髪の子が、納得したのか、話に入ってきた。
「ん……何かあったっけ?」
「ふむ、これは人族の特徴なんだけどね。 異性と肌を密着すると、魔力の自然回復量が上がるんだ。勿論、触れ合う面積が広い程、人数が多い程、その効果は高まる。これを利用している人が多いから、街の冒険者達は男の子のことを……魔力缶とか、補給者とかって呼んだりしてるんだよ」
「つまり冒険者において、男の地位はかなり低いと……」
「というか、男の冒険者なんてほとんどいないよ」
なるほど……いないなら、地位が上がる上がらない以前の問題だもんな。
そして、恐らくだが……いないなら奴隷かなんかで手に入れ、それこそ道具の様に扱うのだろう。 
だからこその魔力缶か……
「だけど俺は、この世界を回らなければならない。誰かを幸せにするためとかじゃなくて、それがこの世界で与えられた俺の仕事だからだ」
そう俺が言うと、二人共しばらく考える。
そして、先に口を開いたのは長だった。
「そうね……転生と能力付与される条件は、絶対に守らなければいけない。そうでなければ、あなた自身だけでなく、周りにも悪いことが起こる」
「周りに迷惑かけるのは……流石に嫌だな」
「なら、私が一緒に行こう」
考えがまとまって、決意が固まったような表情で緑髪の子が言う。 
「俺としては助かるが……いいのか?」
「私は、これでも冒険者ギルドに登録しているし、知ってのとおり強い。それと……せっかく見つけたいい男だからね。ついて行かないわけがないよ」
そういうと、喉奥で鳴らすような笑い声と共に、腕を絡めてきた。どうやら、俺が本当に、こちらの世界でいう『ブス好き』だということを、理解してもらえたようだ。
「それに、まだ私は君のことを少ししか知らない。 世界中を一緒に歩いて、君のことを知り、そして、今度は脅しなんかじゃなくて、本気で君に婚約を申し込むよ」
……なるほど、男女逆ならプロポーズする方も逆なのか。悔しいが俺よりもカッコイイ…
さらっとプロポーズできるところを見ると軟派っぽい気もするが、彼女が受けてきた扱いを考えると、涙が出そうになる……出ないけど。
「うん、ありがとう。────よし! それじゃあ、方針も決まったことだし、早速行きますか!!」
「バカモノッ!」
「ポカッ」と長が軽く叩いてきた……何か忘れてたっけ?
「心装人機と魔法の使い方は知らなくていいのか? それに、もう日が暮れているし、旅の準備もしてないだろ。今日は泊まっていくといい」
言われて外を見ると、空の色がオレンジ色になっていた。異世界にも太陽ってあるんだな……多分名称は違うんだろうけど、どうでもいいや。
「そうですね、お言葉に甘えて泊まらせてもらいます」
「私も一緒でいいか?」
「まあ、あなたも話してみたら悪い人じゃ無いみたいだし、いいよ」
こうして、俺の異世界転生一日目は、三人で魔法や人機の話をしながら終わった。
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