心装人機使いのあべこべ世界旅行

えいせす

2.森での出会い

 痛い痛い痛い!! 痛い……!! ……いた……い?

 気がついたら全身に痛みがはしっている。
 正確に言えば幻痛である。なにせこの体には何一つ傷など無かったからだ。

「死ぬ……かと……思った……」
 実際死んでいる……しかも十回轢かれて。
 嫌な汗が全身から吹き出してきて、息がとても荒く、とても気持ちが悪い。
 気分を紛らわそうと、深呼吸をして適当なことを呟く。

「スー……ハァー、なんか副産物で痛覚耐性とか付きそうだよなぁ、せっかくだからステータスでも見てみるか」

 右手を上から下に滑らせる……何も起きない。左手も同様。

「恥ずかしいからやりたくなかったけど仕方ないか、ステータスオープン!!」



「────ふう」

 俺はそこで冷静に周りを見て、周りが森で誰もいないことを確認した後、ゆっくりため息をついた。

「ステータスはまた今度にしよう。それより街か村に行かなきゃだな」

 声に出すことで自分の気持ちを整理して、次の目標を明確に定めていく。

────ガサガサ……

(おいおい、マジかよ。早速魔物か?! 武器もねぇのにどうすれば……イヤイヤイヤ、俺の運は普通よりも高くなってるはずだから……)

 無駄に考えていると、目の前の草むらからほふく前進の姿勢でゾンビの様な奴が現れた。

「ドゥワァァァァァ!! 無理無理無理無理!!」

 森の中を走り、小川にたどり着き一息して気づく。
(なんか、疲れづらいな)
 本来の俺の体なら今頃「コヒュー、コヒュー」と息継ぎをしていてもおかしくないのだが、今は軽く息づかいが荒くなるだけですんでいる。
 もしやと思い、小川の水面を覗いて見るとそこには────


 とても見慣れた顔があった。


「ああぁ!! イケメンにしてもらうの忘れてたぁぁ!!」

 そこに居たのは顔だけで言うなら「中の下」くらいのフツメンであった。

「ま、まさか体も……」

 少し膨れたお腹、ぷにぷにの感触の二の腕、ガッチリとした太もも。

「あぁぁ……俺の体、そのままだぁ…」

 近くのスーパーに行くため、自転車に乗り、坂道を走り続けた結果太ももだけがガチガチになり、上半身はぷよぷよのぷにぷにというアンバランスになってしまった。
 そんな俺の周りからの評価は「顔は中の下だけど全部合わせると下の中」というものだった。 見ていてとても不快になるバランスだそうだ。

「クソ!! クソ!! ────はぁ……まあいいや、とりあえず人と会わなきゃならないしな。こういう時はとりあえず川下に向かうんだったっけな」

 昔なんかのTVで見たことがある程度の知識で川下に降りていく。
 しばらく歩き続けていると、木が生えていない所が遠目に見えてきた。

「よしっ!! やっとこの森を出られる」

「そこの者、止まれ!!」

 突然声が上から聞こえてきた。 声質的にはどうやら女性のようだ。

「はい! はい! はい! 止まりますっ、止まります!!」

 驚いた衝撃でそう言いながら両手を上げる、すると上から、いくらか緊張を解いた様子の声で、

「いや、驚かせてすまなかった。お前はここで何をしていたんだ?」

「お、俺は……」

 そこで、なんと言おうか迷った挙句に、村とか街を探していたと答えた。

「ふむ…何故この森にそんな妙な格好でしかも1人で探しに来たんだ」
「もしかして、ここってやばい所なんですか?」
「質問をしているのはこっちだ!!」

 さっきより攻撃的な声になっている。怒らせないようにしなきゃな。

「待ってくれ、気がついたら森の中で倒れてたんだ。なんとか小川を見つけて、それを降ってきたらここに着いたんだ。信じてくれ!!」

「……わかった、どうやら嘘はついていないようだから信じてやる。とりあえずうちの村に招待したい所だが、お前、物凄くブサイクなやつがいても耐えられるか?」

 見た目くらいで耐える耐えないの話になるとか、逆に気になるなぁ。まあとりあえず

「全然大丈夫ですよ」
 と、頭上で大きく丸のサインを出しておく。
 すると上から何かが落ちてきた。

「うぅわわわっ……ぶつかる!!」
 咄嗟に丸を作っていた手で頭を防御し、その場でうずくまった。 

「何をしているんだ? やはりブサイクなエルフの顔は見られないか?」

 ……え、えるふ?
「エルフ!?」
 頭を防いでいた手を解き目の前を見ると、金髪セミロングで色白のスレンダー美人がそこにいた。

 俺の声に驚いたのかビクッと体を浮かせ、こちらを心配そうに見つめる。

「なんだ、初めて見たのか? それはさぞかし気持ち悪いだろうな」

 ……??
「なにが気持ち悪いんですか?」
「いや、私が……?! 逆に見てて平気なのか?」

 お互い首を傾げて見つめあい、先に立ち直ったのはエルフの女性だった。

「と、とにかく!! 私を見ても平気なら村に行っても平気だと思うから、案内する……こっちだ」

 そう言うと彼女は、俺の手を取り歩き始めた。
 なんて柔らかい肌なんだ!! ずっと触っていたくなる……はっ!?いかんいかん、邪な考えはきっと見透かされるに違いない、なんたって、言ったことが嘘かどうかわかるんだからな。心頭滅却……心頭滅却……

「着いたぞ、ここが私達エルフの村だ」

 頭から邪念を発散させている間にどうやら着いた様だ。パッと見ると、ツリーハウスとか見えているので、早く見学しに行きたいところなんだけど……どうやらそうはいかないらしい。

「まずは長の所に行ってもらう。正直嘘をついてないとはいえ信じきれる内容の話ではないし、私の顔を見ても平気なだけじゃなく、発情したような目で見てくるなんて、普通じゃないからな」

……ヤベェェ!! バレてるゥゥ!! エッチな目で見てたのバレてるよ……
 いや仕方ないだろ。 目の前にセクシーな脚があったら見るし、美乳があればそれを見る。当たり前のことだもんな。

 ……それにしてもなんかさっきからおかしい、言ってることが噛み合っていないような気がする。
 この子がすっごい自虐的な考えの子ならおかしいことは無いが、それで村の人たちのことまでもブサイクって言うのはおかしいもんな。

 まぁ、いいや……この村の長にあってから考えよう。

 そう考えをまとめてから村を見回す、一番目に付くのはやはりツリーハウスだが、その他にも畑やら牛っぽい何かがいる小屋なんかもあった。よほど手入れが良いのか、素人の俺が遠目に見ても動物の毛並みはサラサラであった。

 そして村のエルフたちは、俺のことを警戒したような目で見ていた。まさか、子供にまであんな目で見られるのは予想外であり、少々気落ちしてしまう。
 もしや……人から嫌な目で見られる呪いとか!? ……そうなんですか天使様ぁ。

 ゴンッゴンッ!!
「長〜!! 私ですっ開けてください!!」

 そうこうしてるうちに到着したようだ。それにしても……こっちの世界では扉とはそんなに強く叩くものなのだろうか。

「う〜るさい!! 扉が壊れるだろッ!!」

 やはり常識ではないらしい……

「トウ!! いつも言ってるでしょ、扉は静かにノックしても聞こえるから強く叩かないでくれと……ふう、とりあえず風変わりなお客さんもいるようだから、とりあえず中に入るといいよ」

 そう言うと中に入って行ってしまった。

「何ボーッとしてるんだ? 早く行くといい」
「あの、今の女性が長……何ですか?」
「そうだが……何かおかしかったか?」
「あ、いえ……見た感じ子供っぽいなぁ〜なんて思ったり……しまして」

 怒られそうな質問なのでボカして言おうと思ったができなかった。もう少し言葉の引き出しが欲しいものだと自分でも感じてしまう。

「見た目の事とか、お前が警戒されている理由とかも、長から聞いた方が早い。私は説明が苦手なのでな」

 どうやら村で俺が疑問に思ってたことを気づいていたようだ。 それなら全部、長に聞いてしまおう。

「それじゃあ、私はここまでだ。じゃあな、青年! 今度は私が仕事外の時間で会いたいな」

 エルフのお姉さんはそう言うと、笑いながら来た道を戻って行った。

 俺は振り返り、解放しっぱなしの扉の中に入って行くのだった。

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