王女は自由の象徴なり

黒イライ

01.旅に出る

 こんな場所、さっさと出ていこう。私はこんな場所にいたらただの人形になっちゃう。



 ラーフェル王国第一王女ユリナ・エクセラ・ラーフェルは我慢の限界だった。今まで生まれてこの方自由はほとんどなく、1日のほとんどを剣や魔法の訓練、政治の勉強、王族としての心構え、作法などの勉強に費やされてきた。

 こんな自由がない場所、すぐに出て行ってやる。私は早く自由に生活したい。国民のことはもちろん大切だけど、それだからといって私が犠牲になる必要はないと思う。そんなのやりたい人に任せておけばいい。

 幸い私の力はこの世界では大分強い。今じゃあラーフェルの騎士団長なんて相手にならない。みんな弱過ぎ。
 だから多分家出がバレたらみんな追いかけてくる。だとしても捕まってなんてあげない。私は自由になりたいんだから。王女でも自由になれるんだっていう象徴になってやる。


 「……って勢いよく出てきたはいいんだけど…こっからどうしようかしら。」

 さっそく迷ってしまった。

 ユリナは今14歳だがあまり外を出歩いたことはない。一応一般常識諸々は知っているんだけど、あんまり詳しくはない。

 「…まず、この国に留まるのはよくないわね。早く他国に行かなきゃ。」

 服は王城の侍女の着ているメイド服を拝借している。それにローブを深めに被って顔と髪を見えないようにしている。ユリナの髪は翡翠色をしていて目立ちやすい。お金は幸い貰っていて、貯めてたのがあるのである程度は大丈夫だ。

 「じゃあ、馬車を探さないといけないわね。」

 確か馬車は関所で受け付けをしているはず。バレないように慎重にしなければ。

 王城から離れ国の外周に向けて10分程歩いた場所に馬車はあった。

 「あそこが馬車がある場所ね。そろそろ母様達もみんな私がいないことに気づく頃ね。急がなきゃ。」

 急いで受け付けの人と話をして、隣国のヴェルファイ皇国行きの馬車に乗せてもらえることになった。私が王女だとは気づいてないみたいだし、良かった。

 馬車が出るまであと30分程時間があるらしい。どうしようかなー…。

 ……あ。食べ物とか何も買ってない。ヴェルファイ皇国まで約2日程かかるのに何も用意してない…。早く買わないと。

 
 何を買おうかな…。あまり贅沢は言えないけど、普段食べない物が食べてみたい。

 「あの屋台に売ってあるのは何かしら…?」

 「あそこにあるのは串焼きです。オックスなどの肉から作られています。」

 「………!!」

 急に後ろから声を掛けられた。しかも何故か自分の聞き慣れた声が……。

 「あ、あなた、サリア……。」

 「はい。そうですよ。ユリナ、、、お嬢様。」

 なんと私専属メイド兼王室メイド長のサリアが後ろにいた。何で?バレないように朝早くに出たのに。

 「どうして私の場所がバレたのか、という目をしてますね。」

 「むむ……。」

 サリアは昔からこうだ。能力は私の方が上なのに考えがすぐ読まれるし何故か逆らえない。

 「私は毎日お嬢様がいつも起きる時間の3時間前に起きます。その時間は誰も起きていません。なのに窓からお嬢様が走って城を出て行くのが見えました。だとしたら私がお嬢様を追いかけるのは必然ですね。」

 何なんだこのメイドは。偶然のように話しているけど全くそうは聞こえない。絶対私がここに来ると知っていたんだ。

 「…それで?私を連れて帰るつもり?自慢じゃないけどサリアより私の方が強いから連れ帰るのは無理よ。絶対に帰ってたまるもんですか!」

 いくら昔からお世話してもらってるサリアだとしてもここだけは譲らない。私は自由になるんだから!



 「?……何を勘違いしてらっしゃるか分かりませんが…私は連れ帰るつもりはないですよ。」


 ………え?どうして?サリアは王城仕えなんだから連れ戻すんじゃないの?


 「…私は別に国に忠誠を誓っているわけではありません。私が忠誠を誓っているのは…ユリナ・エクセラ・ラーフェルお嬢様、あなただけです。」

 「…ということは、自由にして、いいの……?私の好きにしていいの……?」

 「いいもなにも、許可する権利は私には無いですよ。お嬢様の人生はお嬢様のものですから。」

 「……サリア、ありがとう。」

 「いえ、私はお嬢様お付きのメイドとして当たり前のことをしたまでです。」

 私は生まれて初めて、サリアのことを少し理解出来た気がした。
 

「…あ!もう馬車が出発する時間だわ!早く行かないと!」

 あ、サリアと話してたからご飯買えてない…。途中で休憩のために村や町に止まるだろうからその時に何か買うしかないかな…。少なくともお昼は抜きかな……。うう…泣きたい。

 「大丈夫ですよ、お嬢様。こちらにお食事は用意してあります。」

 「ええ!?何でそんなの準備してるの!?」

 「…こんなこともあろうかと?」

 何このメイド!怖い!

 「まあとにかくありがとうサリア、元気でね!」

 多分もうサリアと会うのは随分先になってしまうかもしれないから、お別れになる。でも私は旅に出るんだからこんなことで悲しんでたらいけないよね!頑張らないとね!



 「………?何を仰っているのですか?勿論私も同行させていただきますよ?」

 え…何で?

 「私はお嬢様のお付きだと言ったじゃありませんか。もう忘れたのですか?」

 「いや、確かにサリアはそう言ったけど…。本当にいいの?」

 「いいもなにも、これが私の決めた自由、、な人生の生き方です。」

 「本当に後悔しない?給料なんて無いわよ?」

 「そんなの承知しておりますよ。どうせお嬢様は冒険者にでもなってお金を稼ぐつもりですよね?」

 「…まあそうだけど。」

 「なら私も冒険者になれば良いだけです。お嬢様程ではないですけど、そこそこ強いですし。」

 ……確かに、多分私を除いたらお城で1番強いのはサリアかもしれない。戦ってるのはほとんど見たことはないけど。

 「……まあサリアなら頼りになるし私からしたら嬉しいけど。」

 「では早く馬車に乗りましょう。乗り遅れてしまいます。」

 そう言うとサリアは走り始めた。私も置いていかれないように並走した。

 「サリアは馬車の席とって……るに決まってるわよね…。」

 「勿論でございます、こうなることは分かっていましたから。もう王城の私の部屋には何も残っておりません。女王様にもお暇を頂きました。置き手紙で。」

 うわぁ…サリアひどい。母様、娘に逃げられ、王城のメイド長のサリアからも逃げられるなんて…少し可哀想になってきたわ。

 「そ。…じゃあ、もういっか。早く行こ?」

 「はい、お嬢様。どこまでもお供いたします。」


 こうしてメイドのサリアと共に自由を求める旅に出た。

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