歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第271歩目 あたしのほうが彼女っぽくないかい?


 前回までのあらすじ

 とのー(´;ω;`)

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「ふっざけんじゃないよ!! ちょっと、アユムっち! これはどういうことだい!? あたしだけ理不尽じゃないかい!!」

 毎度のことながら、アルテミス様のわがままが爆発した。

 原因はニケさんとヘカテー様との間で交わされた約束で、『今後ニケさんが降臨する際はヘカテー様も同伴する』という内容によるものだ。

「ヘカテーだけズルいじゃないかい! アユムっち!」
「......」

 アルテミス様は腹が立ってどうしようもないらしい。
 しきりに「ズルい! ズルい!」と、自分だけが理不尽を被っていると主張して止まない。

(というか、俺に言われてもなぁ......。ニケさんとヘカテー様との間で交わされたものだしさ?)

 そもそも、どういった経緯でニケさんとヘカテー様がこのような約束を交わすことになったのかは知らないが、あの規定バカのニケさんが規定を曲げてまで取り付けた約束だ。余程のことがあったに違いない。

 だから、全く関係のない、部外者である俺に不平不満をぶつけられても対処に困る。
 しかし、アルテミス様からすれば、そんなことは知ったこっちゃないのだろう。

「......あたしの言うこと分かるだろ? アユムっち」
「ひゅッ!?」

 アルテミス様の獰猛な視線に射竦められて肌が栗立った。
 そこには「同意しないと許さない」という明確な意思が汲み取れる。

(ど、同意を求めるという体の脅迫とか勘弁してほしい。俺、この女神様ヒトに本当に好かれているのか?)

 自惚れる訳ではないが、これが惚れている男に対する態度だろうか。
 あの神界での一幕イチャイチャは何だったのだろう。
 まるで、俺だけが夢まぼろしを見ていたかのような錯覚に囚われる。

「..................どうなんだい? アユムっち。黙ってないで何とか言いな」

 一方、無言という態度が気に喰わないのか、アルテミス様からの圧が更に強まる。

「え、えぇ。そうですね。俺もそう思いますよ?」
「じゃあ、何とかしておくれよ」

 無茶振り過ぎんだろ!?

 しかし、この場で出来ることなど限られている。
 出来る人、実現可能な人に相談すれば良いだけのことだ。
 
「で、では、この世界の管理者であるアテナにお願いしてみたらどうですか?」
「それもそうだね。アテナっち、別に良いだろ?」
「いーよー( ´∀` )b」
「あー。聞くだけ無駄でしたね」
「サンキュー、アテナっち! さすがあたしのかわいい妹だよ!」

 これぞ、アテナクオリティ。
 あっさりと許可を貰えてしまった。
 それはそれでどうなんだろうとも思うが、別にいいか。

 あくまで最優先事項はニケさんとのデートだ。
 いつまでもアルテミス様のわがままに付き合っている暇はどこにもない。
 更に言うなら、アルテミス様がご機嫌ならば、それに越したことはないのだから。

 しかし───。

「ダメです。規定違反です」

 凛とした威厳のある声がピシャリ。
 ニケさんにより、拒絶という名の宣告が無情にも言い渡されてしまった。

「......」
「......」
「(´・ω・`)」

 思いも掛けない展開に、場が静まりかえる。

 ただ、ある意味では、これも予想通りと言えなくもない。
 ニケさんはバカがつくほど規定にうるさい。故に、なるべくしてなった感じだ。
 まぁ、「ニケさんも規定違反しているのでは?」との指摘は敢えてしないつもりだが。
 え? 規定違反させている俺がそれを言うなって? HAHAHA。

 それにしても───。

「歩君、ちょっとしつれー☆」

 俺の背後に隠れるように、こっそりとこの場から存在感を消そうとしているヘカテー様は実にちゃっかりしている。この危機管理能力の高さはアテナとは比べ物にならない。

(さてと、どうしたもんかな......)

 チラッとニケさんの様子を窺うに、キリッとした済まし顔。
 これは俺が愛して止まない『できるお姉さんモード』のニケさんだ。

(う、うーん。この状態のニケさんを説得するのは骨が折れそうだな......)

 正直、この時点で諦めたい。
 スパッと諦めて「ニケさん、デートしましょう」と言い放ちたい。
 しかし、それが許されないことぐらいは十二分に理解しているつもりだ。あー、無情。

 そんな俺とは対照的に、アルテミス様は猛然と食い下がる。

「いやいやいや。ニケちゃん、そういう訳にはいかないだろ?」
「どういう訳であろうとお受け兼ねます」
「これはアテナっちの、主神の決定だよ?」
「いくらアテナ様の仰せであろうともお受け兼ねます。明確な規定違反です」

 頑として譲らないニケさんと、そんなニケさんに困惑するアルテミス様。

 なんというか、これはこれでハラハラするというか不安になる。
 まさかとは思うが、下界で神vs神なんてことにでもなったりしたら......。

(な、なるほど。ヘカテー様が早々に避難したくなる気持ちがよく分かった)

 ・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。

 その後も、アルテミス様が懸命に説得を試みるも成果は出ず。
 ニケさんの「規定違反です」の一言にあえなく撃沈するばかり。

「あー! もう! どんだけ真面目なのさ! アテナっちからも何とか言っておくれよ!」
「ニ、ニケーr(・ω・`;)」
「ダメです。多少のことは大目に瞑りますが、アテナ様の御名を傷付けるような行為だけは断じて認められません」
「......」

 ニケさんは本当にぶっとんでいる。
 アテナごときに、ここまで狂信的なのはある意味凄い。

(なのに、なぜだ?)

 こんな狂信的な姿を見せられても、ちっとも動じない俺がいる。
 普通なら、たとえ好きな人であっても多少なりとも引いて然る姿だと思うのだが......。

(あッ! そうか! ドールと重なるからか)

 うん。とてもスッキリ。
 スッキリついでに、アテナの頭をぽんぽんしてあげた。

「なにー(。´・ω・)?」
「お互い、(忠義に厚すぎる部下を持つと)苦労するな?」
「だねー! にへへー(*´∀`*)」

 八重歯を覗かせながら「にぱー☆」と微笑むアテナ。かわいい。

 恐らく、言ったことの半分も理解してはいないと思う。アテナだしな。
 それでも、そういうものだと簡単に受け入れてしまう能天気さはとても救われる。

「よーしよし。お前はいつまでも能天気なままでいてくれな?」
「こらー! 誰がのーてんきよーヽ(`Д´#)ノ」

 お前だよ、お前。


 ■■■■■


 さて、アテナと戯れていても事態が進展するものではない。
 というよりも、悪化する未来しか見えないので、ここは早々に解決を図りたい。

「アユムっち! アテナっちと遊んでないで手伝っておくれよ! アユムっちはあたしの味方なんだろ?」
「歩様? そうなのですか?」
「うッ......」

 どうやら既に手遅れだったようだ。
 呆れるアルテミス様と能面な表情のニケさんから突き刺すような視線が注がれる。

(なんでこうなるの!?)

 この場合、どちらに付いたところで録な結果にならないことは明白だ。
 仮にアルテミス様側に付いたら、ニケさんは激怒するだろう。いや、失望か?
 仮にニケさん側に付いたら、アルテミス様はまず間違いなく憤怒されることだろう。

 だったら、答えは自ずと決まってくる。

「ニケさん。そろそろデートをしたいのですが、折れて頂くことはできませんか?」
「さすがアユムっちだね! 話が分かるじゃないか!」
「......つまり、歩様はアルテミス様の肩を持たれる、ということですか?」

 ニケさんの端正な眉がピクリと動いた。
 声色もどこか刺があるというか、無機質っぽく感じる。

 そんなニケさんの様子にビクビクしつつも、俺はきっぱりと言い放った。

「違います。アルテミス様の肩を持つ訳ではないですよ」
「ちょっと! ちょっと! どういう意味だい!? それじゃ、話が違うじゃないかい!」
「......」

 アルテミス様、少し黙っててくれませんかね!?

 猛然と抗議してくるアルテミス様を「大丈夫ですから」との意味を込めて手で制す。
 そして、ニケさんの肩を持つ訳でもないことを告げた後に、俺の意図を明かすことに。

「俺はどちらの肩を持つ訳でもありません」
「ねー! 歩は私の肩を持つんだよねー( ´∀` )」
「黙れ。誰がお前の肩なんて持つか。持つのはおっぱいだけだ! わきまえろ、この駄女神がッ!!」
「ニ、ニケー(´;ω;`)」
「全く。いちいち余計な口を挟むなよ」

 俺はニケさんに泣きつこうとしたアテナをむんずと猫掴み。
 そのまま、「にゃー( ´∀` )」とアホ面晒しているアテナを俺の背後へと移動させた。

(そこで、こっそりと存在感を消しているヘカテー様と遊んでいればいいさ)

 お邪魔虫を追い払ったところで仕切り直しだ。

「俺はどちらの肩を持つ訳でもありません(キリッ!)」
「ですが、歩様はアルテミス様の意向に賛同されるのですよね?」
「いいえ。もう一度言いますが、俺はアルテミス様の肩を持つ訳ではないですよ」

 俺の返事に、揃って首を傾げる女神様達。

「申し訳ありません。理解しかねます。どういうことでしょうか?」
「はぁ? アユムっちはさっきから何を言ってるんだい?」
「歩さー。バカなのー? 死ぬのー?r(・ω・`;)」
「そうだよ。バカだよ。お前と一緒だな?」
「てれるー(*´∀`*)」
「照れる要素あった!?」

 仕切り直しだって言ってんだろ! 邪魔するな!!

「......」
「......」
「い、いやー。HAHAHA」

 場を和ませようと、ちょっとしたお茶目のつもりだったのだが......。
 どうにもこうにもニケさんとアルテミス様の目が怖いので、ここからは真面目にいこう。

「そうですね。端的に言うと、「折れてください」というのは俺からニケさんへのお願いであって、アルテミス様に賛同した訳ではないということです」
「お願い、ですか。しかし、結局は同じことなのでは?」
「本当にそう思いますか? 俺は違うと思います」

 いやいや! ニケさんの言う通り、同じなんですけどね!

 しかし、ここでそれを認める訳にはいかない。
 たとえ詭弁だろうとなんだろうと、ニケさんには受け入れてもらう他はないのだから。

「違う、のですか? 私には全く同じようにしか......」

 俺の返事に、ニケさんは困惑顔。
 生真面目だからこその反応だと言えるだろう。

「ふーん」

 一方、アルテミス様はニチャァといやらしく口角を吊り上げている。
 俺の意図をどこまで理解したのかは不明だが、どこか楽しげな雰囲気が窺い知れる。

 そして、「ここからはあたしの出番だね」と言わんばかりに身を乗り出してきた。

「ニケちゃん。あたしも違うと思うけど? まさか分からないのかい?」
「アルテミス様?」
「あー。これは本当に分からないみたいだね。だったら、ニケちゃんはアユムっちの彼女を名乗る資格はないと思うけどねぇ」
「なッ!? ど、どういう意味ですか!?」
「知りたいかい? あひゃひゃ......おっと。そりゃあ、知りたいよねぇw」
「......」

 笑いを懸命に堪えているアルテミス様を見て、俺はほとほと呆れるばかり。

 正直、俺はそこまで言うつもりはなかった。
 人間の尺度でもって、ニケさんを穏やかに説くつもりでいたのだから。

 しかし、アルテミス様の様子から察するに、概ね俺の意図を理解しているものと思われる。

 本当ずる賢いというか、奸智に長けた女神様だ。
 ポセイドン様の寵愛がアテナに移ったのも納得せざるを得ない。

 俺が深い溜め息を吐いて見守っている間に、アルテミス様の悪戯せっとくは続く。

「ニケちゃんはね。わがまま過ぎるのさ」
「わ、私がわがまま過ぎる?」
「そう。求めるだけで何も与えちゃいない。こんなの彼女とは言えないだろ? 主人と奴隷の関係さ」
「そ、そんなことは決してありません!」

 ニケさんの悲痛な叫びが俺の耳にこだまする。

 それでも俺はどうすることもできない。
「その通り。そんなことはないですよ」と強く弁護したいが、それも叶わない。

 なんたって俺が口を開こうとすると、「あたしの遊びを邪魔するなんて......死にたいのかい?」と、アルテミス様から凍てつく視線が発せられるからだ。故に、口が恐怖で縛られていて静観する他ない。

「そうかねぇ。じゃあ、なんで叶えてあげないんだい?」
「叶える? 何をですか?」
「アユムっちのお願いさ。ニケちゃんは彼女なんだろ?」
「そ、そうですが?」
「だったら、なんで叶えてあげないんだい? さっきさ、ニケちゃんだって何やらお願いしようとしていただろ? 自分は求めるくせにアユムっちのお願いはダメとか、あまりにも都合良すぎはしないかい?」
「!?」

 言い方はあれだが、俺の言いたいこととほぼほぼ合致する。

 夫婦円満の秘訣は『互いが互いを思い合って、譲歩できることは譲歩すること』にあるらしい。
 そう早くに結婚した俺の親戚が、やけ酒あおいつつ溜め息吐きながら愚痴っていた。

 つまり、今回は(恋人関係だけど)それにあたる。

 譲歩ではないけれど、お願い事も同様であって然るべき。
 求めるなら与える、(円満な関係を築くためには)当然のことだ。

「良いかい? アユムっちはあくまで自分のお願いを言っただけだよ? それが、たまたまあたしの言うことと似通っていただけの話さ。結果論に過ぎないんだよ。だけど、どうだい? ニケちゃんは「規定が、規定が」と、彼氏であるアユムっちの話を全く聞こうともしない。こんなことで彼女であるとか言えるのかい?」

「!!! わ、私はなんてことを......」
「そ、そこまで大事に捉えなくても......」

「アユムっちは黙ってな! あたしはいま、ニケちゃんが如何に愚かなことをしているのかを悪戯しんせつ心で教えてやっているんだからさ。ニケちゃんのことをおもう、あたしの気持ちを無下にするつもりかい?」

 絶望に打ちひしがれるニケさんの姿を見て興に乗ってきたのか、アルテミス様はとても饒舌だ。もはや、この場はアルテミス様の独壇場と化している。

「そうだろ? ニケちゃん」
「......仰せの通りです。歩様、ご心配くださりありがとうございます。ですが、それには及びません。全ては私に原因があるのですから。アルテミス様、どうぞお続けください」
「だってさ、アユムっち。あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「......」

 アルテミス様は心の底から悪戯が好きなのだろう。実に生き生きとしている。
 その姿を見て、思わず「うーん。美しい」と感じた俺は後でニケさんに謝罪しようと思う。

(だってさ、生き生きとしている姿が一番良いと感じるのは仕方がないよな?)

 俺が心の内で言い訳をしている間に、アルテミス様は話の核心へと駒を進める。

「ニケちゃんは知らないんだろうけどさ」
「何をでしょう?」
「あたしとアユムっちは既にそういう関係を築けているんだよ? ねぇ、アユムっち?」
「え?......まぁ、そうですね」
「歩様!?」

 嘘でも何でもないので首肯する。
 俺とアルテミス様は(理不尽込みだが)良いビジネスパートナーだ。
 ギブアンドテイク、win-winな関係を(理不尽込みだが)築けているのは間違いない。

 そして、アルテミス様は遂に止めの一撃を放つことに───。

「なんかさ。これじゃあ、あたしのほうがアユムっちの彼女っぽくないかい?」
「い、いやぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
「これだよ、これ! この手玉に取る感覚が堪らないのさ!! あひゃひゃひゃひゃひゃw」
「ハァ..................」

 この瞬間、アルテミス様の6日間滞在が決定したのだった。

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