歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第270歩目 理不尽に理不尽を重ねる女神!


 志村けんさん、心よりご冥福をお祈り致します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 無事成長痛が治まった俺は、時間9時より少し早めに教会に行くことにした。
 ニケさんは規定じかん通りに降臨するだろうが、アルテミス様もそうであるとは限らないからだ。
 いや、まず間違いなく規定で定められた時間など守られる方ではないだろう。

「な"ーちゃんといーっぱい遊ぶんだー(〃ω〃)」
「......世話をするのはドールだけどな?」

 今回のお供もアテナだけだ。
 ドールは自身が発明した酔い止め府『ア符ロン』のお世話になっている。

 そもそも、「お二人を出迎えぬと何をされるか分かったものではないのじゃ!」と総毛立ちで震えていたドールなのだが、魔動駆輪サクラより外に出たら国中に充満している酒気の影響で、「うあー、あー、世界が回るー..................妾と主の子でいっぱいなのじゃー」とか戯言を抜かしつつ酩酊ダウンしてしまったのだ。

 そんな訳だから、姉の看病ということでモリオンもお留守番となっている。

「お前、ドールが心配じゃないのか?」
「モーちゃんがいるからだいじょーぶ( ´∀` )b」
「......最愛の妹なのでは? それを末妹モリオンに看病を押し付けてもいいのか?」
「だからだよー(。´・ω・)?」
「ん? どういう意味だ?」
「大好きなコンちゃんの為にもねー、私がコンちゃんの分まで楽しまなくちゃー! よく言うでしょー? その人の分まで強く生きなさいとかってやつー。それだよー(`・ω・´)」
「全然違うわッ!」

 アテナの超理論はともかく、いつも貧乏くじを引かされるモリオンには同情してしまう。
 ダメな姉を持つと、その皺寄せは全て妹にいくのだから妹というのは苦労しそうだ。

「モーちゃんはお姉ちゃん思いだよねー( ´∀` )」
「お前は妹思いになれ」

 その後もアテナと他愛もない会話をしつつ、昨日ぶりの教会へと到着した。

「アルテミス様は......っと、まだいないか。ニケさんは予想通りだな」
「だねー(・ω・´*)」

 教会の中を見渡すも、ニケさんとアルテミス様の姿はなし。
 何やら一心不乱に祈りを捧げている信者達の姿しか見受けられない。

(それにしても、朝っぱらから熱心なことで。どの世界でも信者ってのは本当に凄いよな)

 何を信じるのも個々人の自由だ。そういう俺は無宗教。
 しかし、この信者達は一体どなたに、どんな祈りを捧げているのだろう。 
 いや、この世界の神はアテナらしいから、アテナに祈りを捧げているということに?

(......こんな駄女神に!? 一心不乱に!?)

 そう考えると、今真剣に祈りを捧げている信者達が酷く滑稽な存在に見える。

 俺は信者達に声を大にして言いたい。
 アテナなんかに祈るだけ無駄ですよ、と。

 それはそうと───。

「ちょっと意外だな。あのアルテミス様が規定を守るだなんて」
「ほーんとにねー! アルテミスお姉ちゃんのくせに笑っちゃうよねーヽ(o・`3・o)ノ」
「......怖くて笑えないけどな?」

 こいつ、アルテミス様のことは好きみたいだが......。
 姉への尊敬の念が微塵も感じられない。それでいいのか、お前ら姉妹は!?

「あーははははは( ´∀` )」
「いや、本当に笑うなよ!」

 アテナの馬鹿笑いが教会内にこだまする。
 そんな状況にも関わらず、我関せずを貫き通し、祈りを捧げる信者達。

 それはまるで俺の今後を暗示でもするかのようで───。

「怖くて悪かったね」
「ア、アルテミス様!? いつの間に!?」
「さてと、ニケちゃんが来る前に、どういう意味か話してもらおうじゃないか......ねぇ、アユムっち?」
「ひぃ!」

 何故か俺が怒られた。理不尽だ!


 ■■■■■


「ふっざけんじゃないよ!! ちょっと、アユムっち! これはどういうことだい!? あたしだけ理不尽じゃないかい!!」
「えー。アルテミス様がそれを言いますか?」

 理不尽な上に、更に理不尽を重ねてくるアルテミス様。
 このお方は本当に神様神様していて素敵げんなりです。

 ともあれ、アルテミス様がここまでわがままを言っている理由、それは───。


 ■■■■■


 アルテミス様が降臨されて直ぐのこと。

「お待たせしました、歩様」
「やっほー! 歩君、おっひさー☆」
「ヘカテー様!? どうして!?」

 時間通りに降臨してきたニケさんだが、まさかのまさかでヘカテー様もご一緒だった。

 俺は規定の詳細を知らないので何とも言えないが......。
 これは規定バカなニケさん的には『あり』なのだろうか?
 まぁ、仮に『なし』であっても、いつものように軽く誤魔化してしまうんだろうけど。

(......あのさ、もはや規定とか必要あるか?)

 ちなみに、ヘカテー様同伴の件で、アルテミス様がどうこう言っているのではない。

「なんでヘカテーまでいるんだい?」
「アル姉もきてたんだー! おっひさー☆」

 相変わらず、ヘカテー様のノリは軽い。
 さすがアテナの友人というか、瓜二つの女神様だ。
 とはいえ、似ているのは髪型やパッと見の容姿であって、所々は結構異なる。
 たとえば、極端に異なる大小の部分や綺麗な碧眼と深淵を思わせる昏い瞳などなど。

「挨拶なんかどうでもいいよ。あたしはどうしてヘカテーまで一緒にいるのかを聞いているのさ」

 一方、挨拶をされたのにも関わらず、アルテミス様はどこか仏頂面。

 面倒ごとや厄介ごとを嫌い、即断即決を好むのがアルテミス様の特徴。
 そういう意味では、実にアルテミス様らしい反応だ。

「そーいう約束だからねー☆ ねー、ニケ姉?」
「仰る通りです、アルテミス様」
「約束だって?」

 アルテミス様が首を傾げるのと同様、俺も初耳だ。

「ニケさん。ヘカテー様とどんな約束をしたんですか?」
「そ、それはその......」
「?」

 ニケさんの様子がどうにもおかしい。
 いつもは毅然とした態度なのに、今はおろおろと何かを憚っているようにも見える。
 それにしても、こんなおっかなびっくりな姿を見せるニケさんもまた新鮮なものだ。

(でも、一体なにが?)

 その原因はニケさんの視線の先にあった。

「(´・ω・`)」

 なるほど。原因はアテナにあると。
 恐らく、この件はアテナに内緒で独断によるものなのだろう。
 まぁ、ニケさんにしても報連相の仕様が無かったんだろうけどさ?

 とはいえ、彼女が困っているのだから、ここは彼氏の出番だ。

「おい、アテナ。よく分からんが、ダメなのか?」
「だーいじょーぶだー┐(´ー`)┌」
「お、お前な......」

 しかし、心よりご冥福をお祈りします。

「だそうですよ? 良かったですね、ニケさん」
「私の為に歩様自ら......嬉しいです」
「彼氏として当然のことですよ」
「歩様......」

 感動のあまり、うるうると瞳を潤わせるニケさん。

 思った通り、効果は抜群だったようだ。
 俺への好感度は間違いなくうなぎ登りなことだろう。ひゃっほ~い!

「歩様!」

 更には、まるで吸い寄せられているかのように、ニケさんが抱き付いてきた。
 みんなの前で少し恥ずかしいが、ここは彼氏としてしっかりと抱き止めるべきだろう。

(......くんかくんか。ニケさんといったら、やっぱりこの香りだよな!)

 ハシッと抱き止めたニケさんから漂う、着物とニケさんのかほり。
 着物独特のお香の匂いは故郷である日本を思わせ懐かしく感じる。
 ニケさん(のうなじ)から漂う甘いミルクのような香りは俺の心をドキリと弾ませる。
 アルテミス臭とは全く別種の匂いだが、これはこれで大好きな匂いの一つである。

「歩様? どうされました?」
「気にしないでください」
「し、しかし......」
「気にしないでください」
「そ、そうですか?」

 本当に気にしないでください!
 あくまで趣味。そう、趣味のレベルですから!
 こうすることで、お姉さんに包まれている、という安心感を得ているだけですから!! 

 下心なんて少しもありませんよ? げへへへへへ。

「歩様? 私、歩様に大切なお話があるのです」

 それはともかく、俺の胸の中に顔を埋めたニケさんが、ポツリポツリと言葉を綴っていく。
 それはまるでお願いごとをねだる少女のように、甘く切ない声で。

「大切な話、ですか?」
「はい。聞いて頂けますか?」
「伺いましょう。えぇ、伺いましょうとも」

 ニケさんからのお願いごとは決して多くはない。
 それが、こんな甘く切ない声で囁いてきているのだから、聞かないという選択肢は当然ない。

「他でもありません。歩様、私と───」

 しかし、そこから先が綴られることはなかった。

 とても重要なシーンだと思われるこの瞬間を邪魔する空気の読めなさ。
 当然、そんなやつはこの場に一人しかいない。それは......。

「あぁ、話の途中で悪いんだけどさ。それは後にしてもらっていいかい?」

 駄女神ことアテナ───ではなく、意外にもアルテミス様だった。
 ただ、話を途中で寸断したばかりか、あろうことか放置気味だったのが不味かった。
 少しお冠なご様子で、腰に手をあて、ズビシッと向けられた指先には威圧的なものを感じる。

(気取らない、とにかく飾らない、ありのままのアルテミス臭が俺は一番大好きです! だから、お許しを!!)

 いや、空気を読めないのは何もアルテミス様だけではなかったようだ。

「ヘーちゃん。ヘーちゃん。アイーン(´Д`_)」
「アーちゃん、変なかおー! あーははははは☆」
「お前らも遊んでいないで、冥福を祈れよ!」

 分かってはいたが、自由奔放な女神様達だ。

「歩、歩(o゜ω゜o)」
「なんだよ?」
「だっふんだ(・ε・)」
「だっふんだー☆」
「だから、冥福を祈れっての!」

 本当に自由奔放な女神様達だな!!


 ■■■■■


「そ、れ、で?」
「......」

 これ以上の放置はアルテミス様を益々怒らせるだけだ。
 遊びに興じているちびっこ女神達は放っておいて、話の本筋を進めていきたい。

 俺とアルテミス様の視線がニケさんに注がれる。

「じゃあ、ニケちゃん。悪いけど、話してもらっていいかい?」
「......畏まりました」

 あまり話したくはないという印象を受けるが、それでも話してはくれるようだ。
 
 しかし、この場の雰囲気はなんというか......。
 まるでニケさんを責めているような気がしてなんとも落ち着かない。

「ニケさん、無理しなくてもいいんですよ?」
「アユムっちは黙ってな。これはあたしにとって、とても大事なことなんだよ。一生に関わる問題さ」
「そんな大袈裟な......」

 こんなのが一生の問題って、アルテミス様の一生軽過ぎだろ!

 ただ、当のアルテミス様は至って真剣な眼差しだ。
 その獰猛な瞳には鬼気迫る何かをハッキリと感じさせる。

「......アルテミス様がそこまで仰せとあらば話さない訳には参りません」

 対するニケさんも、それを肌で感じているのだろう。
 メラメラと燃え盛る灼眼には並々ならぬ決意の色が浮かび上がっている。

 その様、まさに龍虎相討つ!
 神界の龍に、神界の虎。その行く末はいかに───!?

 みたいなオーラがバリバリと出ている。

(......なんだこれ!? もう一度言うけど、なんだこれ!?)

 どう考えても、そこまで重要な案件だとはどうしても思えない。
 それなのに、今俺の目の前では一触即発と言っても過言ではない状況が繰り広げられている。

 そして、遂に戦端が開かれた。

「とある理由で、私が降臨する際はヘカテー様もご一緒に、と約束しました」
「とある理由?」

 俺の疑問に、ニケさんが少し気まずそうにコクリと頷いた。

「理由なんてどうでもいいよ。問題はその約束のほうさ」
「えー」

 ニケさんの様子から察するに、言い出しにくい原因は約束に至った理由にあるのだと思う。
 重要だと言うのなら、これこそ聞き出しておく必要があるのではないだろうか。

 しかし、アルテミス様からすれば、その理由などどうでもいいらしい。

(......うーん。それはそれでどうなんだろう?)

 ただ、今回の言い出しっぺはアルテミス様だ。
 ここはアルテミス様の指示に従うのが一番無難なところだろう。
 何よりも、アルテミス様の怒りの矛先が俺に向かうのだけは絶対に避けたいところだ。

 それに、ニケさんの主人であるアテナより既に「おとがめなーし( ´∀` )b」との許可が下りているのだから、言いたくないことを無理に吐かせるのも気が引ける。まぁ、興味はあるけどさ?

 そんな訳で『約束に至った理由』はスルーされることとなった。

「じゃあ、なんだい? ヘカテーも、ニケちゃんと一緒に下界に滞在するっていうのかい?」
「仰る通りです」

 ニケさんの返事に、アルテミス様の美しい顔がぐにゃっと歪んだ。
 その表情は、まるで某RPGゲームのドロヌ○バのよう。

 相当、悔しいのだろう。
 こんな表情のアルテミス様など、いまだかつて見たことがない。

「......それも、今後ずっと?」
「仰る通りです」
「............何日も?」
「仰る通りです」
「そ、そんな......」

 衝撃の事実を告げられると、血の気が失せ、今にも倒れそうになるアルテミス様。
 産まれたばかりの小鹿のようにふらふらと揺れ、ぷるぷると震えている。

「ふ......ふ......」
「ふ?」

 しかし、辛うじて正気に戻ったアルテミス様の顔色はみるみる内に紅潮し出していく。
 その様はドロヌ○バからド○スンのように劇的に変化をしている。

 そして、怒髪天を衝いた言葉が───。

「ふっざけんじゃないよ!! ちょっと、アユムっち! これはどういうことだい!? あたしだけ理不尽じゃないかい!!」
「なんで俺!?」

 あぁ、女神様はいつも理不尽。
 というか、俺にどないせいちゅーねんッ!


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品