歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~
第266歩目 これが私の力です!
前回までのあらすじ
蛇はきらーい。でもー、Gのほうがもーっときらーいヽ(`Д´#)ノ
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「ポセイドンお兄ちゃんの勝ちー(`・ω・´) 」
ようやく始まった腕相撲。
まず初戦はポセイドン様が見事勝利を果たされた。
「どうした、筋弟よ。そんなことではワシに勝つことなぞ夢のまた夢だぞ?」
「ふッ。ポセイドン様、勝利を確信されるにはまだ早いのではないですか?」
「ぬ?」
「まさか、この勝負のルールをお忘れではないですよね?」
「そんなことは分かっておる。さぁ、もう一勝負だ!」
再び、ポセイドン様と対峙する。
そして、静かにアテナの合図を待つことに。
「はじめー(o゜ω゜o)」
「くッ!」
「ふんッ!」
ポセイドン様の腕に力がみなぎる。
それに負けじと、俺も腕に心血を注いでいく。
ゴーッと奔流する血液に、ボコッと浮き上がる血管はまさに戦いの証。
キンッと迸る汗に、むわぁと立ち込める臭いは男が放つ絶品のフェロモン。
それを見て、まるで「はぁぁあああ。素敵ぃぃいいい♡」とでも言っているかのように顔を上気させ、その場に崩れ落ちるメドゥーサ様。
「ぐぬぬぬッ!」
「ふぬぬぬッ!」
戦場はギシギシと激しく音を鳴らし、ガタガタと際限なく揺れている。
腕相撲の良いところは、実力が均衡していようとも直ぐに決着がつくところだ。
故に、勝負は一進一退のようにも見えたが───。
「まだまだ筋弟に負けるワシではないわ!」
「おわあ!?」
ダーンと無情に鳴り響く決着の音。
「またまたポセイドンお兄ちゃんの勝ちー(`・ω・´)」
「うぅむ」
「どうされました?」
しかし、勝利したはずのポセイドン様はどこか浮かない表情。
しきりに手の平をグーパーグーパーしては落ち着かないご様子だ。
(悩んでる、悩んでる。見事、術中に嵌まってくれたようだな)
そんな一人ほくそ笑む俺の姿を、じーっと見つめる少女の姿が───。
「(´・ω・`)」
「......なんだよ?」
「なんでもなーい。小賢しい歩らしいなーってー ┐(´ー`)┌」
「う、うるせえな!」
どうやら、アテナは俺の作戦を見抜いているようだ。
まぁ、作戦と言っても大したものではないのだけれど。
しかし、今敷いているルール上では十分な効力を発揮するものではある。
(まさか、それを見抜くとは......)
腐っても、そこは『智慧』の女神。
その神眼は伊達ではないということだろう。
さてと、茶番はここまでだ。
「やりますね、ポセイドン様。王手ですよ」
「それはそうなのだが」
「さあさあ、お早く。そう簡単には負けませんからね?」
「う、うむ」
そして、三度始まる腕相撲勝負。
二連勝を果たし、王手となったポセイドン様。
もはや後がなく、崖っぷちに立たされた絶体絶命の俺。
その結末はいかに───。
「はじめー(o゜ω゜o)」
「どっせぇぇえええい!!」
「うおおおおお!?」
開始の合図とともに、ダーンと台上に鳴り響く決着の音。
「はい、歩の勝ちー(`・ω・´)」
「これでポセイドン様の勝利はリセットですね」
「!?!?」
こうして、三戦目は余裕綽々で俺の勝利となったのだった。
■■■■■
時は少し前に遡る。
ポセイドン様の奥さんであるメドゥーサ様は『魔眼』というスキルを持っているらしい。
正確には『呪眼』というらしいのだが、メドゥーサ様が『呪い』という言葉を気にされるようで、敢えて『魔眼』と呼んでいるみたいだ。かの石化の呪いも『魔眼』の能力とのこと。
「それでな、妻の『魔眼』には石化以外の能力もあってだな。とても重用しておる」
「あの......まさか、また自慢話ではないですよね?」
「そうしたいのは山々なのだが......これ以上は小妹に怒られそうだわい。また今度にしよう」
「感謝してよねー、歩! わ・た・し・の・おかげだからねー! あーははははは( ´∀` )」
あれだけ自慢しておいて、まだしたいのかよ!?
というか、アテナのドヤ顔が非常に鬱陶しい。
何だったら、その『魔眼』とやらで石化させちゃってもいいんじゃないかな?
「それで、それが準備とどう関係があるのですか?」
「まぁ、見ておれ。妻よ、頼む」
コクリと頷いたメドゥーサ様の瞳が妖しく光る。
元々、違った意味で目を引くご容貌のメドゥーサ様。
だが、今はそんなもの全てが気にならないほどに瞳が爛々と輝いている。
そう、瞳だけならば美しい宝石のようだ。
その美しくも妖しい眼差しの先にはポセイドン様が───ではなく、え? 俺?
(ま、まさか!? 俺が石化されちゃうの!?)
当然そんなことはなく、メドゥーサ様の視線に晒されるが何の変化も見られない。
ただ、何かを探られているような感じがして、妙に居心地が悪い。
「あ、あの、メドゥーサ様は何をされているのですか?」
「じっとしておれ」
しばらくすると、メドゥーサ様からは「お前はもう用済みだ」とでも言わんばかりに興味を失った眼差しを向けられた。
俺に興味なさそうなのはある程度察していたが、そこまで露骨にされると結構辛い。
というか、メドゥーサ様は本当に何をされていたのだろうか?
しかし、その疑問はすぐさま解決することとなる。
「待たせたな、筋弟よ。早速始めようぞ」
「はぁ......って、気持ちわる!? ポセイドン様、その腕は!?」
思わず、二度見してしまうほどの強烈なインパクト。
ポセイドン様の肩から先が別の生き物───いや、人間(?)の腕となっていた。
他のパーツは太くムキムキなのに、腕だけは細くストーンとしている。
ちぐはぐというか、アンバランスというか......いや、本当に気持ち悪いんですけど!?
「何を言っておる。これは筋弟の腕ではないか」
「えー」
そう言われても困る。
まるで、出来の悪い人形を見ているようで目を逸らしたくなる。
「これは『魔眼』の能力の一つでな。見た者の一部をそっくりそのまま複写するものなのだ」
「そっくりそのまま、ですか?」
「うむ。故にワシの腕は今、筋弟の腕そのものとなっておる。そうだな、筋弟の第三の腕といったところか」
「は、はぁ......。では、ポセイドン様が仰っていた考えというのは......」
「これのことだな。どうだ? これならば文句はあるまい? ガーッハッハッハ!」
「......」
俺の腕、俺の第三の腕か......HAHAHA。
ポセイドン様がそう仰られるのなら、恐らくその通りなのだろう。
筋肉にだけは嘘をつかない神様だろうし。
だがしかし、ビジュアル的にどうなんだろう?
とてもじゃないが、公共の電波で流して良いものではないような気がする。
え? 流れないから安心しろって? あー、はい。そうですか。
ともかく、ポセイドン様の準備も完了したようだ。
そこで勝負を始める前に、俺は今回のルールを提案することにした。
「ポセイドン様。先に三連勝したほうが勝ちということにしましょう」
■■■■■
場面を冒頭へと移す。
「ハァ......ハァ......ハァ......。や、やるではないか、筋弟よ」
「ハァ......ハァ......ハァ......。お、お誉めに与り光栄です」
あれからも勝敗はつかずに、俺とポセイドン様は延々と勝負を続けていた。
倒しては倒され、倒しては倒され......ずっとそれの繰り返しだ。
「どうです? 筋肉は喜んでいますか?」
「大喜びよ! 見よ、筋肉が喜びで打ち震えておるわ! ガーッハッハッハ!」
「それは何よりです」
見たところで、さっぱり分かりません。
始めからピクピクしていたようにも思えますがね。
筋肉はともかく、お約束頂いた報酬はどうなのよ?
「約束通り、望みの報酬を授けよう」
「おぉ! ありがとうございます!」
よっしゃあ! まずは一つ!!
とはいえ、これはあくまで想定内のことだ。ポセイドン様が『先に三連勝したほうが勝利』のルールを採用してくれた時点で、望みの報酬の件はもはや確定していたようなものだからな。
そもそも、実力が均衡している者同士の勝負で『先に三連勝』など到底不可能な話だ。
難しい計算は賢い人に任せるとして、三連勝できる確率はおおよそ12%前後という。
この12%という数字、低いように見えて案外そうでもない。
むしろ、ガチャに慣れ親しんだ者なら「へー、意外と高いじゃん」と思うことだろう。
99%が思った以上に外れるのと同じで、12%は予想以上に当たったりするものだ。
しかし、これはあくまで計算上の数字であって、実際はそう上手くいくものではない。
恐らく、三連勝出来る確率は12%もないだろう。収束うんぬんの話ではない。
仮にそれがなされた場合、そこには必ず『人の意思』が存在するはずだ。
第一、連勝出来る時点で、既に実力が均衡しているとはとても言えないと思う。
故に実力が均衡している以上、勝負が長引くのは当然である。
そして、それこそが俺の狙いだったという訳だ。
緊迫した戦いの数々に、ポセイドン様が満足されているのが良い例だろう。
「だがな、もう一つの願いはそうはいかん。ワシは負けぬからな」
「それは、やってみなければ分かりませんよ?」
しかし、この勝負にも終わりの時がきた。
いい加減、腕が痺れてきたのだ。
それに、時間がなくなってきたというのもある。
更には「歩、まだー?(´・ω・`)」と、アテナが焦れ始めてきているのもある。
(......そろそろ潮時か?)
ポセイドン様には十分楽しんで頂けたことだろう。
既に報酬の一つは確保している以上、決着をつけても問題ないはずだ。
ならばご機嫌取りは終わりにして、当初の目的を果たそうと思う。
「ポセイドン様。そろそろ本気を出させてもらいますね」
「本気、だと? まるで今までは手を抜いておったような口振りだな?」
「いいえ、今までも本気でした。ですが、今からお見せするのは本気も本気なのです」
「歩、小鳥用意するー? ひつよーでしょー(。´・ω・)?」
「いらんわッ!」
何もスーパー歩2になったりしないから!
飽きてきたのは分かったから、(余計な茶々を入れないで)大人しく待ってろよ!
「じゃー、早くしてよー(´-ε -`)」
「ハイハイ......ということで、今から一気にケリをつけさせてもらいますね」
「ほぅ。ワシを前にしての大言壮語、これは楽しみだわい」
「あッ! でしたら、見事その通りになりましたら報酬を3つに───」
「それはできぬ相談だな」
「ですよねー」
チッ。そうそう旨い話はないか。
報酬を2つにしてもらっただけでもありがたいことだしな。
残念ではあるが、こればっかりは仕方がない。
俺は気を取り直して勝負に挑むことに。
「みあってみあってー( ´∀` )」
「なんでいきなり相撲になった!?」
掛け声はともかく、ポセイドン様に対峙する。そこまでは先程と一緒。
そして、互いに健闘を祈るかのように手を握り合う。ここまでも先程と一緒。
しかし、そこから先は先程までとは少し違った趣向をこっそりと行う。
「はじめー(o゜ω゜o)」
「ぬぬ!?」
アテナの合図とともに勝負が始まった。
しかし、開始直後に素っ頓狂な声を上げるポセイドン様。
まさに俺の狙い通り。
これこそ、俺がポセイドン様に『腕相撲』を提案した理由であり、秘策でもある。
「どうされました? もう始まっていますよ?」
「こ、これはどうしたことだ!?」
「言いましたよね? 本気を出すと。これが私の力です」
「喝采せよーヽ(o・`3・o)ノ」
「お前が言うのかよ!?」
そう言いたくなる気持ちはよく分かる。
あのポセイドン様を圧倒しているのだから。
ただ、別に俺の力でも何でもないので、調子に乗り過ぎるのは注意が必要だ。
そう、これは俺の力でも何でもない。単なる『技術』や『技』に過ぎないのだ。
競技であるアームレスリングならば『技』の一つではあるが、腕相撲では『反則技』の───。
「では、失礼をば」
「うおおおおお!?」
「歩の勝ちー(`・ω・´)」
それでも、俺はポセイドン様を薙ぎ倒していく。
DAN、DAN、DANと容赦なく。
そして、長き戦いは幕を下ろした。
「見事だ、筋弟」
「お疲れ様です、ポセイドン様」
お互いの健闘を握手で称え合う。
それは神様と人間の迎合、義兄と義弟の交流、男と男の友情の証だ。
しかし、そんな感動的な雰囲気をぶち壊す一人の少女。
「歩、歩! 心魅かれてくよねー( ´∀` )」
「やかましいわッ!」
こうして、俺はポセイドン様との勝負に見事勝利したのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
今日のひとこま
~楽々必勝法~
「言った通りの結果になりましたね」
「うむ。見事の一言だ。ただ気になることがある」
「どうして『力が入らなくなったのか』ですか?」
「そ、それだ! やはり訳があるのだな?」
「えぇ。端的に言うと、技を使いました」
「技、とな?」
「『噛み手』という技ですね。手を九の字に巻き込むだけで、相手は力を入れづらくなるというものです」
「ほぅ。そのようなものがあったのか」
「他にも色々ありますが、『噛み手』は誰にでも簡単にできる技なんです」
「うぅむ。単なる力比べかと思うたが、存外奥が深いものだな」
「そこが、この『腕相撲』の魅力ですね」
「気に入った! 妻とよくよく鍛練に励むとしよう」
「そ、そうですか(......まだやるんかーい!)」
「それと、もう一つ聞きたい」
「なんでしょう?」
「勝負の間に感じた違和感の正体を知りたい」
「あぁ、あれですか。あれは『力の配分』をしていただけですよ」
「力の配分?」
「仮に、力の最大を10としましょう。三戦行えば30となるとします」
「うむうむ」
「ポセイドン様は全ての勝負に全力で、10の力できていたでしょう?」
「それはそうだ。筋弟もそうではないのか?」
「違います。私は一戦目・二戦目は6の力を出していました」
「ぬ? なぜ全力を出さなかったのだ?」
「三戦目で18の力を出すためですね」
「ぬぬ。ワシが三戦目に必ず負けてしまうのはそういうことだったのか」
「そういうことになります」
「だが、なぜそのような面倒なことをしたのだ? 力は対等であったろう?」
「それは..................に、人間の浅はかな知恵だと思って頂ければ」
「どういうことだ?」
「ポセイドン様は神様ですので、仮に戦いの場があったとしても常に格上として戦ってこられたのでは?」
「ぬ? そのようなこと考えたこともないな」
「でしょうね。ですが、私達人間はそうもいかない時があるのです。そういう時に大切なのが『力の配分』なのですよ(......本当の理由は違うけどね?)」
「なるほど。生きていく上で身に付ける技術という訳だな」
「そんな感じです」
「うぅむ。人間なぞ何とも思うておらなんだが、なかなかに興味深い生き物なのだな」
ふぅ......。なんとか誤魔化せたかな?
脳まで筋肉で出来ているというのも考えものだよな。
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