歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第230歩目 はじめての大戦!



 前回までのあらすじ

 5万もの魔物の大軍襲来!
 
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「それで? その「らくしょーだねー(・ω・´*)」とやらの策を伺おうか」
「えっとねー、ぶっ放すだけの簡単なお仕事だねーo(≧∇≦)o」
「ぶっ放すだけ?」

 5万もの大軍を相手に、簡単な仕事だと自信満々に言い放つアテナ。
 俺は全く予想だにできないが、これは余程の策とみていいだろう。

 策への期待感と背中にあたる柔らかい果実の感触にドキドキしながら、その「ぶっ放すだけの簡単なお仕事だねーo(≧∇≦)o」とやらの詳細を伺うことにする。

「【マテパ】でどーん! だよー( ´∀` )」
「【マテパ】?」
「【マテリアルパースト】に決まってるじゃなーい( ´∀` )b」
「お兄様かよ!?......というか、本当にやめろッ!」

 権利関係うんぬんでめんどくさくなるからやめてほしい。
 というか、せめて伏せ字で隠すなり何なりの努力はしてほしいところだ。

(まぁ、確かに? かの【マテリアルバ○スト】なら5万程度の魔物なんて一瞬だろうけどさ?)

 しかし、当のアテナは悪びれる様子など一切なく───。

「チッチッチー!」
「な、なんだよ?」

 まるで「ぜーんぜん分かってないねー┐(´ー`)┌」とでも謂わんばかりに、右手の人差し指を立てて得意気に左右に振っている。
 しかも、「落ちちゃうでしょー! 支えてよーヽ(`Д´#)ノ」との注文付きで。

(......くっそウゼェ! 落ちるというのなら、そのくだらない仕草をやめろ!)

 俺はアテナの態度に歯噛みしながらも、言われた通りに駄女神の体を支えるべく無駄に肉付きの良いデカい尻を鷲掴んだ。もみもみ。

「ひゃん!?」
「......それで? なんだって言うんだ?」
「ど、どこ触ってるのー!?Σ(・ω・*ノ)ノ」
「お前のデカいケツ。それで?」
「揉むなーヽ(`Д´#)ノ」

 うるさいなー。
 早く話せよ、満更でもないくせに。

「別に隠す必要なんてないじゃーん! 歩が言ってるのは【マテリアルバ○スト】でしょー? 私のは【マテリアル”パ”ースト】だしねー! べつものべつものーヽ(o・`3・o)ノ」

「そうきたか......」

 確かに、【マテリアル”パ”ースト】なら権利関係うんぬんは問題ない。
 まぁ、その場合は意味が全く異なるものとなってしまうが......。

(そもそも、「パーストってなんやねん!」という話になるしな)


 ※※※※※


 冗談はさておき、魔物が迫っていることから真面目な話に移りたい。
 要約すると、アテナは「魔法なららくしょーだよーヽ(o・`3・o)ノ」と、そう言いたいらしい。

「マテパのくだり、全然いらなかったな?」
「雰囲気も大事でしょー! あーははははは( ´∀` )」
「ハァ......」

 以前、アテナは言っていた。
 敵によって戦い方を変えればいい、と。

 つまり、この場合はかつての魔物部屋のように、魔法でもって魔物の大軍を殲滅するのが最適解ということになる。

「......」
「どうしたのー(。´・ω・)?」

 正直な話、それは分かっている。
 恐らく、その方法しかないだろう。

 しかし、それでも疑問は残る。

「......本当に勝てるのか? 相手は5万だぞ?」

 かつての魔物部屋ではせいぜい100匹前後の魔物しかいなかった。

 しかし、今回はその500倍近くにあたる大軍勢である。
 アテナは余裕だと言うが、正直殲滅できるどうか定かではないし、自信も全くない。

「なぁ? やっぱり、ここは逃げたほうが賢明じゃないか?」
「んー? おじいちゃんとの約束やぶるのー(。´・ω・)?」
「うぐッ!? い、命あっての物種とも言うし......」

 俺はできないことをできないというのは悪いことだとは思わない。

 諦める訳じゃない。
 投げ出す訳じゃない。
 単に適任ではなかった、ただそれだけだ。

(ハァ......。所詮、苦しい言い訳だな)

 そもそも、こういうのは『付き人』である俺じゃなくて、『勇者』の仕事なのではないだろうか。
 いや、確かに『紫の三連星』という三人組の正統勇者は派遣されてきてはいるが......。

(なんでこんな大ピンチに戦闘能力のない正統勇者を派遣してくるんだよッ!)

 この人選に悪意というか秘められた思惑を感じるのは俺だけだろうか。
 近くに『竜殺し』が居るから戦闘能力のない正統勇者で良いじゃない、みたいな。

(やめてくれよぉぉおおお。俺は勇者じゃないんだからさぁ......)

 正直、俺は大勢の人々の命よりも自分とアテナ達の命のほうがよっぽど大事だ。

 勇者としての使命感なんてものは全くない。
 というか、そもそも俺は『付き人』であって『勇者』ですらないし。

 当然、俺が逃げたことで被害に合う可能性のある人々が出ることには申し訳なく思う。
 できることならなんとかしたいと思うし、してあげたくもある。

 だが、それも命があってこそ、というのが本音だ。
 
 お金や使命感、プライドよりも、俺は命を優先することこそ重要だと思う。
 死んで得られる達成感や名声、栄光なんてものは何の意味も成さないと思っている。

 だから、今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
 アテナやドール達を連れ出して、一刻も早くこの場から立ち去りたい。

(HAHAHA。本当、俺は勇者には向いていないよなぁ......)

 きっと、多くの人々から無責任な奴だと言われることだろう。
 きっと、多くの人々から蔑まれ、『竜殺し』の名声も失墜することだろう。

 だが、無理した結果、取り返しのつかない事態に陥るよりかはずっとマシだ。
 だったら、逃げられるチャンスがある今こそ───。

「歩はねー、魔法を軽視しすぎだよー(´・ω・`)」
「え?」
「魔法の力をなめすぎって言ってるのー(o゜ω゜o) 」

 もはや戦意喪失しかけていた俺に、アテナの言葉がグサッと突き刺さる。

「しかたないなー。智慧を貸してあげるよー┐(´ー`)┌」


 そこから智慧の女神アテナの降臨こうせつが始まることとなった。


 ※※※※※


 某アニメの「戦いとは数だよ、兄貴」とはよく言ったものだ。
 基本的に、戦いとは戦力の多いほうが勝つのが当然の結果である。

 もちろん、古来では寡兵をもって大軍を撃ち破った例はいくつもある。

 日本なら、4千の兵で2万5千の兵を撃ち破った桶狭間の戦いしかり。
 世界なら、3万の兵で20万の兵を撃ち破った赤壁の戦いや、1万5千の兵で12万の兵を撃ち破ったアルタクサタの戦いなどなど。
 
 しかし、それらは様々な要因があわさった奇跡の勝利であり、稀有な例に他ならない。

 つまり、戦いとは戦力の多いほうが勝つのが自然の理なのである。
 そして、それはここ異世界でも変わらない事実だと思う。

「歩はさー、戦いに必要なものは情報となんだと思うー(。´・ω・)?」
「戦力......数だろ?」
「ほーんと歩はバカだねー! そーんなこと言ってるからトーシロなんだよー! あーははははは( ´∀` )」
「業界用語!?」

 しかし、それを真っ向から否定してくる女神が目の前にいる。

 どうやら、戦いに必要なのは数ではないらしい。
 そんなことを言ってる内は、プロであるアテナからすれば素人同然なんだとか。

「......というかな? 俺は戦いについては素人なんだけど?」
「(´・ω・`)」
「「あー、なるほどー!」みたいな顔してんじゃねぇぞ、くそ駄女神!」

 バカにされ損な気もするが、戦いのプロとやらのご高説に耳を傾ける。
 
「戦いにおいて重要なのはねー、優れた個武なんだよー(・ω・´*)」
「こぶ?」
「個人の武勇だねー! そもそもさー、最初から数なんか必要ないのーヽ(o・`3・o)ノ」
「ええ!?」
「優れた武人一人さえいればー、戦局も戦場も意のままになるんだよー(`・ω・´)」

 戦いのプロ曰く。

 烏合の衆は、所詮烏合の衆に他ならないらしい。
 そんな烏合の衆が1万人集まろうが、100万人集まろうが、優れた武人一人の前では無力にも等しいものなんだとか。

「いやいやいや。さすがに1人で100万人を相手にするのは無理があるだろ」
「できるよー(。´・ω・)?」
「できるの!?......た、例えば誰だよ?」
「ニケならよゆーだねー! 例え、1億人や10億人相手でも息一つ乱れないよー(・ω・´*)」
「なんだ、ニケさんかよ。ニケさんは女神様だし、勝利の神護もあるから特別だろ......」

 引き合いに出している例が悪すぎる。
 そりゃあ、女神様からすれば人間なんてものはいくら集まろうと烏合の衆だろう。
 もっと身近な存在で具体例を挙げてもらわないと納得はできない。

「んーr(・ω・`;)」
「ほら、いないんだろ?」
「そーじゃなくてー。歩が想像以上に頭悪くて困ってるんだよー(´-ε -`)」
「ぶほッ!?」

 かつて、ここまでアテナにバカにされたことはあるだろうか。
 しかも、ふざけている訳ではなく真面目に、困り顔のおまけ付きで......。

 ドールには俺の浅慮が原因で色々と指摘されることはある。
 ただそれは、俺の至らない点を埋めてくれる、という目的あって故だ。
 だから、指摘されても卑屈な気分にはならないし、素直にありがとうとさえ思える。

 しかし、アテナの場合はナチュラルにバカにしてくるので......。

「ど、どういう意味だ?」

「私が言いたいのはねー、突き詰められた究極の個武はそれを可能にするってことー。ニケがどーのこーのとか関係ないんだよー? 歩が誰とか言うからー、わざわざニケを出しただけだもーん(´-ε -`)」

「お、おぅ......」

 ぐうの音も出ない。

 どうやら、アテナの言いたかった本質を見落としてしまっていたようだ。
 優れた武人は1人で100万人を相手にできると言われて少し意固地になっていた。

(うーん。だけどなぁ......)

 しかし、それでも疑惑は残る。1人で100万人を相手にするとか、女神様ならともかく、人の身で本当にそれが可能なのだろうか。

「可能だねー( ´∀` )」
「マジで!?」
「マジマジー! ちなみにー、今の歩だとー、1万人ぐらいならよゆーだねー(o゜ω゜o)」
「100匹で苦戦してたのに!?」

 確かに、あの頃から比べれば段違いにステータスはUPしているが......。
 いつの間にか、俺は一騎当万の武人になっていたらしい。

 しかし、本当にいつの間に......?

「ステータスの恩恵だねー( ´∀` )」
「あー、なるほど......体も強化されていると」
「そだねー! 歩は地球式でモノを考えてるからダメなんだよーΣヾ(´∀`*」
「......」

 これで全てに合点がいった。

 例えば、地球ではどんなに突き詰めた究極の武人であっても、1人で100万人を相手にすることは絶対にできない。まず間違いなく討ち取られることだろう。

 だが、ステータスという恩恵がある、ここ異世界では少し事情が異なってくる。

 ステータスがあって、スキルレベル絶対至上主義という原則がある以上、1人も100万人もそう大差はないことになる。よほどのことがなければ討ち取られる可能性はまずないだろう。

 つまり、自分よりも雑魚はいくら集まろうと脅威にすらならないということだ。

(あー、だからあの時もそうだったのか)

 思い出すは、ニケさんとサキュバスなお姉さんの戦いのシーンだ。

 実際、サキュバスなお姉さんは相当な実力者だった。
 その世界の神をも殺していたし、世界の理を無視できる力もあった。

 そんな神をも殺してしまう程の実力者であるサキュバスなお姉さんを相手に、最後まで息一つ乱さずに完勝してしまったのが、あのニケさんである。

 自分よりも劣る者を相手にして疲れることなど全くない。
 まるで、そう謂わんばかりの美しくも圧倒的な勝利だった。

「わかったー(。´・ω・)?」
「あぁ。つまり、俺の個武そのものが魔法だってことだろ?」
「そのとーりー! また一つ賢くなったねーo(≧∇≦)o」

 普通に戦って1万相当の実力なら、魔法はそれ以上だと考えるべきだろう。

 特に、レベル3の初級魔法で大魔法扱いされるこの世界においては、俺の持つ切り札は圧倒的な武力を誇る。
 恐らくだが、5万程度の魔物など、ものの数にも入らないのではないだろうか。

「あーははははは( ´∀` )」

 アテナは「もう用は済んだよねー(o゜ω゜o)」と謂わんばかりに、俺の首にぶら下がってきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいる。

(よしッ!)

 そして、俺もようやく決心が着いた。
 もはや、不安な気持ちなど全くない。

「さーて、【マテパ】いくかッ!」
「でーっかい戦の花火を打ち上げちゃえーo(≧∇≦)o」


 こうして、最高潮のアテナとともに、俺は遂に戦場へと踊り出ることとなった。


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