歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

閑話 変わりゆく人々!①

 
 場面は勇者達から一般市民へと移ります。

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□□□□ ~ある兵士の冒険譚~ □□□□

 今日は待ちに待った給金日。
 俺こと『王国兵士A』はある事を決意していた。

(やっと貯まった。これでようやく......)

 決して贅沢はできないが、それでもちょっと豪勢には遊べる給金を手にした俺は、改めてある事への気持ちを確認していく。

(もう決めたことだ。諦めることなんてしたくはない!)

「おぅ! A、飲みにでもいかないか? 給金出ただろ?」
「B先輩......。すいません。今日はちょっと寄りたいところがありますので」

 こちらは『王国兵士B』先輩。
 一等兵士であり、二等兵士である俺の先輩だ。

 簡単に説明するが、王国兵士にも階級が存在する。
 階級は【騎士】を頂点としたピラミッド構造となっており、【一等兵士】・【二等兵士】・【三等兵士】と続いていく。

 具体的な役割としては・・・。

【騎士】   → 将軍位。冒険者ランクS~SS換算。全体の一割未満。
【一等兵士】 → 部隊長。冒険者ランクA~SS換算。全体の一割程度。
【二等兵士】 → 小隊長。冒険者ランクA~S換算。全体の二割程度。
【三等兵士】 → 一兵卒。冒険者ランクB~A換算。全体の六割程度。

 つまり、俺も兵士としてはそこそこエリートな方ではあるが、B先輩は俺すらも超える騎士候補生の超エリート兵士であるということだ。

 そんなB先輩は俺の大恩人でもある。それは・・・。

「寄りたいところ? と言うか、気合いの入ったその顔。......まさか、行くのか?」
「はい! ようやく十分なお金が貯まりましたので」
「おぉ! そうか! 遂にか!......で、どうなんだ?」
「分かりません。でも、全力でいこうと思います!」
「よし、頑張ってこい!」
「ありがとうございます!」

 B先輩に背中を押された俺には、もう怖いものなど何もない。
 俺は緊張した足取りで、とある場所に向かって愚直に突き進んだ。

 駆ける。駆ける。
 夕闇の中、俺は暴走する魔動駆輪のように。

(落ち着け。落ち着け。後もう少しだろ)

 決して遠い道のりではないが、逸る気持ちが俺を焦らせる。
 手には汗を掻き、緊張した足取りは重くなり、足がもつれそうになる。

 翔る。翔る。
 混雑する市場の中、俺は一陣の風となって。

 ・・・。

 門を抜け、中央区を疾走し、やがてとある場所へとたどり着いた。

(ハァ......ハァ......ハァ......。やっと......やっと着いた)

 そこは他の施設よりも一際華やかで、とにかく異彩を放っている。
 レンガ造りの頑丈な施設に、まるで昼間のように煌々と照らされた店内。
 店の入り口には精強な男がそびえ立ち、まるで周囲の人々を睥睨しているかのようだ。

 ただ、ちょっと入りづらそうな雰囲気はあるものの、人の出入りは割りと活発だ。
 割合的には裕福そうな人が多く出入りしていて、俺なんかは場違い感が非常に強い。

 しかし、今日の俺には、俺の懐には、裕福そうな人達にも劣らない程の資金が収まっている。

「......(ごくッ)......行くか」

 俺はその店に向かって大きく一歩を踏み出した。

 その一歩は確かな軌跡。
 俺の将来を明るく照らし出す道標。


(俺の物語は今ここから始まるんだ!)


□□□□ ~運命的な出会い~ □□□□

 時は数ヵ月程前に遡る。

 B先輩がとある村の調査に赴いていたことは知っていた。
 そのとある村はここ最近多大な影響を村に、国に及ぼしていたので調査は必須だった。

 そこで、騎士候補生のB先輩が選ばれた訳なのだが......。

 調査の任務帰還後、B先輩は程なくして結婚を決めた。
 調査任務前には浮いた噂など全く無かったB先輩がいきなりだ。

 正直、ショックだった。

 血の繋がりはないが、実の兄のように慕っていたB先輩である。
 自惚れかもしれないが、B先輩もまた俺を実の弟のようにかわいがってくれていたとは思う。

 そんなB先輩がいきなり結婚を決めてしまった。
 いや、結婚自体はとても喜ばしいことなのだが、せめて一言ぐらいは相談して欲しかった。

 だから、俺はB先輩が赴いたそのとある村で何かあったんじゃないかと秘かに思っている。

 故に、それを調べるべく、俺はB先輩の結婚前祝いも兼ねて酒を奢ることにしたのだが......。

「あの、B先輩。ここって......」
「いいから。いいから。今日は奢ってくれるんだろ? とりあえず中に入ろうぜ」

 B先輩に案内されてやってきた店は『アニマール 王都支部店』。
 最近、アテナ教なる新興宗教とともに王都に進出してきた獣人が働くキャバクラ店だ。

 と言うか、そういう存在があることは風の便りで知ってはいたのだが、まさか自分がこんなところに来るとは思いもしなかった。

 いやいや。それ以前に、なぜB先輩はこんなところを......?

「「「「「いらっしゃいませ~」」」」」

 B先輩に促されるまま店内に入ると、そこかしこから聞こえてくる黄色い声。

 俺も男だ。こういうのは嫌いじゃない。
 嫌いじゃないのだが......。

(でも、獣人なんだよなぁ......)

 これがせめて人間やドワーフだったらどんなに良かったことか......。

「どうだ、A。なかなかきれいどころがいるだろ?」
「はぁ......そうっすね」
「いずれはここを本店にするつもりらしくてな。かなり力を入れているらしい」
「ふーん。そうなんですか」

 ぐるっと見渡すと、確かに見た目だけならきれいな獣人達が忙しなく働いている。

 本当はあってはならないことなので、あくまで例え話をするのだが......獣人を人として見るのなら、キャバ嬢のレベルは相当高いと言っても良いのではないだろうか。

 なるほど。B先輩の言う通り、かなり力を入れているのは間違いないのかもしれない。

(......でも、結局は獣人なんだよなぁ)

 いまいち盛り上がりに欠けるところだ。
 どんなにきれいなキャバ嬢であっても、相手が魔王の手下だと思うと尚更である。

「なんだなんだ? いまいちって顔をしてるな」
「だって、獣人ですよ? 魔王の手下ですよ?......盛り上がれというほうが難しいですよ」
「分かってないな、Aは。獣人だからいいんだよ。食わず嫌いは良くないぞ?」
「いや、まぁ、今日はB先輩の結婚前祝いですから? 付き合いはしますけどね」
「まぁ、騙されたと思って付き合ってくれや。絶対に後悔はさせないからよ」

(後悔はさせないねぇ......)
 
 B先輩を信じない訳ではないけれど、それでもキャバ嬢は獣人だ。
 B先輩には悪いが、ここは過度な期待はしないで酒だけを楽しむことにしよう。

(いや、獣人のキャバクラ店だし、酒すらも期待できないなんてことも......)

 俺が戦々恐々としている間に、B先輩は手慣れた感じでボーイに色々と注文をしていく。

「A。好みの娘のタイプは?」
「いやいや。獣人の好みって......。B先輩にお任せしますよ」
「本当に良いのか?」
「構いませんよ。まぁ、誰が来ても、そう大差ないでしょうが......」
「言ったな? じゃあ、この店のNO.1を指名するからな? いいんだな?」
「NO.1!?」

 軽くショックを受けた。
 いや、キャバクラ店だからNO.1嬢がいてもおかしくはないのだが......。

 NO.1という人気が出る程には指名されていることが......いいや。もっと言えば、俺の知らないところで、ここ『アニマール』が意外と利用されていることに驚愕を禁じ得ない。
 
(俺が知らないだけで、意外と人気のあるお店なのか......?)

 改めて周りを見渡すと、客の入りはなかなかに上々なようだ。
 これだけでも十分に驚いたのだが、更に驚かされることがあった。

(なん......だと!? 楽しんでいるだと!?)

 客全員がもれなく笑顔になっている。
 いいや、笑顔どころかメスを狙うオスの顔になっている。

(......ここはキャバクラ店だよな?)

 しかし、客の顔のそれはまるで出会いを求めているかのような、キャバ嬢を品定めしているかのような、そんな必死さと懸命さが垣間見える。

 どう考えても異常だ。
 それとも、ここは娼館なのだろうか?

「違う。違う。ここは歴としたキャバクラ店だぞ」
「でも、この雰囲気は......戦場にも近いものを感じますよ?」
「戦場か......。いや、確かに間違ってはいないな。ここは戦場といえば戦場だ」
「B先輩、それはどういう───」

 と言い掛けたところで、どうやら指名した娘達が席にやってきた。

「ご指名ありがと~。ちゅんだよ~。Bさん、久しぶり~」
「久しぶり、ちゅんちゃん。今日はこいつについてくれ。俺の後輩のAだ」
「は~い。お兄さん、今日はよろしくね~」

 この娘が、この店のNO.1嬢である『ちゅん』ちゃん。

 雀人の獣人で、身長は100cm前後。丸々としたおめめに、黄色い嘴。
 きれいに切り揃えられたショートボブはハツラツとしたこの娘にはとても似合っている。
 背中には小さな羽があるが、退化し過ぎていて飛ぶには多分厳しいだろう。
 手は人間とそう変わらないのだが、足は鳥類らしいカギ爪のような形をしている。

(おぉ。これはなかなか......)

 ぶっちゃけ、かなりかわいい。
 いや、でも、この娘も所詮は獣人であることは変わらない。

 それに、見た目からして、どうしても子供にしか見えない。
 一応、キャバクラ店で働いているぐらいだから、大人15歳以上なのは間違いないだろうが......。

「Bさん、聞いたわよ。ご結婚されるんですって? こんなところに来ていていいの?」
「大丈夫、大丈夫。あいつはそういうのに寛容なんだよ」
「あら、そう。じゃあ、今後とも私を贔屓にしてくれたら嬉しいわ」
「ま、参ったなぁ......ははは」

 ちなみに、B先輩につくキャバ嬢はらしい。
 こっちは色気がむんむんと漂っていて、大人の女性を思わせる。

(あっ......)

 いやいや。獣人を人として見るのは御法度だった。
 いくらスタイルの良いお姉さんであっても、獣人は獣人でしかない。

 それ以上でもそれ以下でもないのだ。
 とは言え、ちゅんちゃんには悪いが、俺は犬の獣人について欲しかった。

(どうせなら、お子様よりかは色気漂うお姉さんと一緒に酒を楽しみたいよなぁ......)
 
 俺がそんな失礼なことを考えていたら、ちゅんちゃんから声が掛かる。

「お兄さん、お兄さん。ちゅん、お兄さんの膝の上で抱っこされたいな~」
「!?」
「ね~? いいよね~?」
「いや、でも......」
「え~。ダメ......なの~?」

 ちょっと泣きそうな顔をしつつ、上目遣いでそう懇願してくるちゅんちゃん。

「......」

 破壊力はバツグンだ。
 恐らくはちゅんちゃんなりの接客テクニックなのだろうが、これは断れそうにない。

 俺は了承して、ちゅんちゃんに座ってもらうことに。

「やった~! お兄さん、ありがと~」
「おぉ!?」

 座ってもらって初めて分かったことがある。

 ちゅんちゃんの体重をまるで感じない。
 いや、違う。膝の上がほんのり暖かくて、程よい重さが絶妙に気持ちいい。

 まるでマッサージを受けているような、そんな心地好さだ。

「お兄さん、ぎゅってして~」
「い、いいの?」
「うん。いいよ~。こうだよ~」

 ちゅんちゃんの手にいざなわれて、俺の手はちゅんちゃんのお腹付近を押さえることに。
 薄絹一枚を隔てた向こう側にある、ちゅんちゃんのスベスベしたお腹の感触がダイレクトに伝わってくる。

「......(ごくッ)」

 いくらちゅんちゃんが獣人と言えども、一人の女性であることを強く意識させられる。
 とは言え、ちゅんちゃんは子供にしか見えないんだけどさ......。
 
「そのまま、ぎゅ~ね~」
「わ、分かった」

───ギュッ!!

「!!......お、お兄さん~。すごくいい感じ~。これ好き~」
「ちょっ!? ちゅ、ちゅんちゃん!? どうしたの!?」

 まるで溶けたスライムのようにくてーんと脱力し、しなだれ掛かるように体を俺に預けてくるちゅんちゃん。

「......ふへへ~。......好き~」

 その目は焦点が定まらずに虚ろで、頬は淡く染まり、喜悦の表情。
 口はだらーんとだらしなく開いており、体はピクピクと痙攣している。

(おいおいおいおいおい。な、なんだこれは!?)

 正直、すごいことになっている。
 人にはあまり見せられない光景かもしれない。

 と言うか、これではまるで......。

「お、おいおい、A。お前、ちゅんちゃんに何やったんだよ......」
「え!? お、俺はただ「抱っこしてくれ」って言われたから、しただけなんですが......」
「それでここまでなったのか? 本当か?」
「ほ、本当ですって! B先輩、信じてくださいよ!」

 B先輩の隣に座っている犬の獣人が、俺をまるでヤバい人でも見るかのような眼差しを向けながら「うわぁ......」と言っているのが余計に居たたまれない。

 いや、本当、俺は抱っこしただけなんですって!

「だとしたら......お前ら、よほど相性がいいんだな」
「相性......」

 考えてもみないことだった。

 だが、正直嫌な感じはしない。
 ちゅんちゃんは確かに獣人ではあるけれど、女性だと感じられる瞬間があったからだ。

(ちゅんちゃんか......)

 この頃から、俺の中での意識が
 獣人も案外悪くはないのかもな、と。

(......いや。でも、獣人は魔王の手下だぞ?)

 しかし、どうしても獣人というのがネックになっていた。
 どうしても、B先輩のようにおおらかな心を持つことができそうになかった。


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後書き

 次回、閑話『変わりゆく人々②』!

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 今日のひとこま

 ~叶わない想いは形を変えて~

「え~? 王都に支部~?」
「そうだ。アテナ教が各地に伝播して以降、王都でもアニマールの需要が高まっている」
「そうなんだ~。良いことだね~」
「そこで支部にはちゅんが行ってもらいたい」

「なんでちゅん~? たまのほうが良いんじゃないの~?」
「王都にはな、竜殺し様がいらっしゃる可能性がある」
「パ、パパが~!? ほんと~!?」
「可能性だ。そして、竜殺し様はどうやらロリコンらしい。だとしたら、ここはたまよりもちゅんのほうが良いだろう」

「そ、そっか~。パパはたまよりもちゅんのほうが良いんだ~」
「そうだ。だから頼むぞ、ちゅん。いずれは本店を王都に───って、ちゅん?」
「......ふへへ~。またパパに会えるんだ~」
「これは聞いていなさそうだな......」

───『アニマール 王都支部店』着任後。

「ハァ......。パパはもう王都にはいないんだね~」
「なに? ちゅんさんは竜殺し様とお知り合いなの?」
「知り合いっていうかね~。ちゅんを良く指名してくれたんだ~」
「あぁ、本店の話。でも、なんだか分かるわ。竜殺し様はロリコン。ちゅんさんはピッタシよね」

「そ、そうかな~? そう言われると嬉しいかも~」
「なになに? ちゅんさんったら、竜殺し様のことが好きなの?」
「どうなんだろ~? でも~、パパは人族なのに優しかったし~、一緒にいて心地よかったよ~」
「まだ気持ちがあやふやってこと? それじゃあ、竜殺し様に会えなくて残念よね」

「うん~。パパに会いたかった~」
「でも、会えなくて良かったとも言えるのかしら?」
「どういうこと~?」
「竜殺し様の周りにいる子は凄くかわいい子が多いのよ。私達なんか足元にも及ばないぐらいにね」

「そ、そうなの~?」
「えぇ。あれはちょっとやそっとじゃどうにもならないレベルね」
「そ、そっか~。そうだよね~。パパは竜殺し様だもんね~......うん~。分かってた~」
「元気だしなさいな! 出会いなんていくらでもあるわよ」

───『アニマール 王都支部店』着任数ヶ月後。

「ちゅんさーん。指名入りましたー!」
「ご指名ありがと~。ちゅんだよ~。Bさん、久しぶり~」
「久しぶり、ちゅんちゃん。今日はこいつについてくれ。俺の後輩のAだ」
「は~い。お兄さん、今日はよろしくね~(......あれ~? この人~)」

「.......」
「.......(やっぱりそうだ~。この人......)」
「.......」
「.......(パパに雰囲気が似てるかも~!)」

「.......(良いよね~? ちょっとぐらい甘えても良いよね~?)」
「.......」
「お兄さん、お兄さん。ちゅん、お兄さんの膝の上で抱っこされたいな~」
「!?」

「ね~? いいよね~?(......あれ~? パパなら喜んでくれるのにな~)」
「いや、でも......」
「え~。ダメ......なの~?」
「い、いいよ」

「やった~! お兄さん、ありがと~」
「おぉ!?」
「お兄さん、ぎゅってして~」
「い、いいの?」

「うん。いいよ~。こうだよ~(初々しい~。初めてパパに指名された時と一緒だ~)」
「こ、こう?」
「そのまま、ぎゅ~ね~(お兄さんには悪いけど~、パパの代わりに───)」
「わ、分かった」

───ギュッ!!

「!!......(な、なななななに、これ!! き、気持ちいいよ~)......お、お兄さん~。すごくいい感じ~。これ好き~」
「ちょっ!? ちゅ、ちゅんちゃん!? どうしたの!?」

 頭のてっ辺から足の爪先まで痺れるような心地よさ。
 体の芯から染め上げられてしまいそうになる蕩けるような快感。

「......ふへへ~。......好き~」

 お兄さんにギュッとされただけでイッてしまったちゅんはそのまま意識を失った。

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