歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~
閑話 困惑する勇者達!①
前回までのあらすじ
やり過ぎと言えばやり過ぎだけど、それがとてもニケらしい!
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7/24 世界観の世界編!に一部追記をしました。
追記箇所は、『白皇学園』・『四瑞家』となります。
追記位置は『アイーナ特別総合病院』の下となります。
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□□□□ ~二人の間の約束~ □□□□
「ただいま戻りましたの」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
私はピコピコと揺れるそれを愛おしそうに見つめながら、お嬢様にゆっくりとお辞儀をしました。
ここはとある国。
世界の文化・教養・技術全てにおける中心地で、最も治安の良い国とも言われています。
国自体はそこまで大きくはありません。
大きくはないのですが、とある理由で国の保有する戦力は世界随一となっています。
故に、世界の中心地。
『全てが始まりし国』なんて呼ばれることもあります。
そして、この国に滞在中は主従の関係はともかくとして、一切の差別が認められていません。
仮にそれを破ろうものなら、問答無用の国外追放という厳しいペナルティーが待っているのです。
故に、差別のない国。最も自由で、公明正大な国。
それが高じて、人々からは『希望の国』とさえ言われているぐらいです。
そんな『希望の国』のある一室には、今私とお嬢様だけがいます。
私は『霊亀川  文乃』。
一応、あの四瑞家末席である『霊亀川家』に名を連ねる娘です。
四瑞家とは『鳳凰寺家』を筆頭に、『応竜淵家』・『麒麟崎家』・『霊亀川家』と続いていく、日本の四大財閥のことを指します。
一方、お嬢様は『鳳凰寺  姫華』様。
四瑞家筆頭である『鳳凰寺家』に名を連ねるお嬢様です。
そんな私とお嬢様の関係は、お嬢様は私のご主人様......とはちょっと違うのですが、お嬢様がご幼少の頃よりずっとお側にお仕えさせて頂いているお側係といったものです。
そして、私の大親友でもあります。
特徴的なのは、艶のあるきれいな黒髪を頭の高い位置にて一つに結っている───所謂、ポニーテール。それが事あるごとにピコピコと揺れる様は、見ていてなんだかほっこりとさせられます。
そんなお嬢様がデスクのイスにドカッと座り、大きい溜め息を一つ。
「ハァ............。本ッ当に疲れましたの」
「......はしたないですよ、お嬢様」
「文乃は細かいですの。これぐらいは見逃して欲しいですの」
「......」
デスクに体を投げ出すように突っ伏すお嬢様。
そんなだらしない姿のお嬢様を見て、私は再びたしなめようとするも、お嬢様が本当にお疲れのご様子だったので、これ以上はクドクドと言わないことにしました。
「それに文乃も文乃ですの。お嬢様なんて、そんな他人行儀は疲れるから止めて欲しいですの」
「ですが、今は公務中です。公私分別はしっかりしませんと......」
「公務中......ですの。でしたら......」
───パシッ!
「それこそ、今は本当に止めてください」
私はお嬢様から伸びてきた魔の手を払い除けました。
と言っても、どうやらお嬢様は私に払い除けられるのを分かった上でやっているようでしたが。
「あぅ!......ちょっとぐらい良いじゃないですの。文乃はケチですの」
「......本当に怒りますよ?」
「ご、ごめんなさいですの! 文乃は怒ると怖いから怒らないで欲しいですの!」
「..................お嬢様?」
「じょ、冗談ですの! 文乃は怒った顔も素敵ですの! かわいいですの! 食べちゃいたいぐらいですの!」
もう、お嬢様ときたら......。
謝るのか、からかうのか、どちらかにして欲しいです。
「とりあえず、ちゃんとしますの。でも、文乃も約束を守って欲しいですの」
「ですが、いつ誰が来るとも分かりませんし......」
「ダメですの! 姫華とした約束を忘れたとは言わせませんの!」
「......」
デスクをバンッ!と叩いて、真剣な眼差しで訴えてくるお嬢様。
私はお嬢様がここまで真剣になる理由をよく知っています。
それは、私とお嬢様との間で交わされた約束、これが起因します。
『二人っきりの時は家柄に関係なく、一人の女の子として、一人の友達として接して欲しい』
これがお嬢様の切なる願い。
形式的には四瑞家は平等となっていますが、長い歴史の中でそれは崩壊しました。
今でこそ誰も口にはしませんが、暗黙の了解として、四瑞家の中でも格付けはされています。
そして、お嬢様は四瑞家筆頭である『鳳凰寺家』の娘です。
当然、周りからはちやほやされ、興味と羨望、嫉妬の眼差しの対象に......。
それは何も大人達からだけではなく、同世代の人々からもです。
折りあらば取り入ろうと、見え透いた作り笑顔の追従と心にもないお世辞の日々。
お嬢様はそれがとても嫌で、とても悲しかったそうです。
あれは......私とお嬢様が白皇学園中等部に進学した頃でしょうか?
私がいつものようにお嬢様の身の回りのお世話をさせて頂いていた時に、お嬢様からこんなことを言われたことがありました。
「姫華のことを誰よりも知っているのは文乃だけですの! だから、姫華と友達になって欲しいですの!」
「え!?」
まさに青天の霹靂でした。
今の今まで考えもしなかったことです。
だって、四瑞家筆頭のお嬢様と四瑞家末席の私です。
格式、家柄、品性、全てがお嬢様に劣ります。
お嬢様と私では釣り合おうはずがありません。
(それなのに、私とお嬢様がお友達......)
当然、許されないことですし、許されていいはずがありません。
ですが......。
「どうしても、ダメ......ですの? 文乃は姫華の友達にはなって頂けませんの?」
「......」
結局、やむを得ず『二人きりの時だけ』という形で納得して頂くことになりました。
その真に迫る雰囲気と不安そうな表情、ふにゃと寂しそうに萎れてしまったポニーテールにはどうしても逆らい得なかったのです。
「文乃、ありがとうですの!」
その時のお嬢様の嬉しそうな笑顔と涙は今でもハッキリと覚えています。
そして、その日より私とお嬢様は切っても切れない間柄となりました。
そして今、その親友が約束を守って欲しいと訴えてきています。
となると、まだ公務中ではありますが、約束と仕事、どちらを取るかは言うまでもありません。
「......分かりました。姫華、これでいいんですよね?」
「そうですの! それでいいんですの!」
姫華は、にへらッと破顔一笑。
嬉しそうにピコピコと動くポニーテールがとてもかわいらしかったです。
□□□□ ~できるポンコツ姫?~ □□□□
さて、姫華が納得してくれましたので、公務に戻らないといけません。
片付けなければいけない問題と決裁を頂かなければならない書類が山積みなのです。
書類に関しては姫華に任せて、私は重要案件だけを手短に報告していきます。
「例の案件ですが、日増しに冒険者ギルドより報告が上がってきています」
「また......ですの。それでどうなんですの?」
「今のところは冒険者で対応できているらしいですが......」
「でしたら、手の空いている勇者を派遣しますの。それと、魔物の出現頻度が高い所や魔物のレベルが高い所には正統勇者を派遣したらいいですの」
「正統勇者をですか!?」
これは驚きました。
正統勇者とは魔王討伐や魔勇者討伐専門の手練れの勇者のことです。
それをいくら大問題になっているとはいえ、魔物討伐程度に派遣するとは......。
(......いえ。それだけ姫華がこの問題を重要視しているということでしょうか?)
ここ最近のことなのですが、各国の冒険者ギルドより『見たこともない魔物が出現している』という報告が度々上がってくるようになりました。
それも『ダンジョンの中』ではなく『ダンジョンの外で』ということです。
この世界の常識として、『ダンジョンの外にいる魔物は弱い』というものがあります。
一部、(魔物ではないですが)竜族のような例外はいますが、ほぼそのようになっています。
ですが、その常識が最近は破られつつあるようです。
「本当によろしいのですか?」
「構いませんの。治安第一、人々の生活を守るのが勇者としての務めですの」
即断即決。全ては勇者として人々を守る為に。
こういう正義感に溢れているところが非常に姫華らしいです。
(だからこそ、次の案件はとても報告しずらいんですよね......)
とは言え、報告しない訳にはいきません。
私は姫華の胸中を慮りつつも、努めて冷静に報告することにしました。
「先日のことですが、またしても十傑の一人が殺害されました」
「......」
物凄い勢いで山積みとなっていた書類を片付けていた姫華の手がピタッと止まってしまいました。
「誰......ですの?」
ここで言う誰とは『誰が殺されたのか』ということはではなく『誰が殺したのか』ということです。
姫華の幼少時より共にあった私です。
それぐらいは言われなくとも分かります。
「波瑠様です」
「そう......ですの。またですの。これで何人目ですの?」
「報告で上がっているのは、十傑で3人、正統勇者で10名以上です」
あくまで報告が上がってきていて、現状で確認できた人数だけです。
十傑はともかく、正統勇者の被害は10名に留まることはないでしょう。
「......十傑は誰がやられましたの?」
「最近ですと六席ですね。以前は九席、その前は三席と、これで3人目です」
「......もう半数近くがやられているんですの」
二席は空席。三席・六席・九席は死亡。
姫華の言う通り、もう十傑の半数近くが壊滅状態となっています。
となりますと、当然問題が出てくる訳でして......。
「それに、報告するのが大変心苦しいのですが......」
「構いませんの。どうぞですの」
「では......姫華と四席、詳しい事情を知らない八席と十席以外の十傑メンバーからは「(元二席を)早くなんとかしろ!」と日々突き上げが厳しくなってきています。このまま事態を放置していますと、状況次第では波瑠様同様離反する恐れが......」
「......もうッ! なんで波瑠は分かってくれないんですの!!」
───バンッ!
心の悲鳴とともに、デスクをおもいっきり叩き割って怒りを露にする姫華。
そして、デスクをおもいっきり叩き割ったことで散乱する、デスクの上にあった書類達。
それはまるで姫華の心境を表しているようで、なんとも言えない気持ちにさせられます。
ですが、本当の姫華はこれだけには留まりませんでした。
「......文乃」
「どうしました?」
「手が痛いですの......」
「......」
見ると、デスクを叩き割った方の姫華の手が赤く腫れ上がっていました。
当然ですよね。デスクを瓦割りの瓦のようにバキッと叩き割っていれば、手が腫れ上がるのは。
そもそも、デスクは叩き割るようなものでもないですし......。
「......ヒール」
私は呆れつつも、姫華の手とデスクにヒールをかけることにしました。
すると、赤く腫れ上がった手はみるみると回復し、姫華によって叩き割られたデスクも元の形へと元通りに。
私は『聖女』......いや、あの、勘違いしないでくださいね?
私がそう名乗っている訳ではなくて、私の加護が『聖女』なのでして......。
とりあえず、私の加護は『聖女』なのです。
それは人類では最高峰、幻の力とまで呼ばれているレベル4の治癒魔法を行使できる力。
そして、私も驚いたのですが、その治癒魔法の及ぶ範囲は生物だけには限りません。
いえ、もしかしたら、レベル4の治癒魔法だからでしょうか?
だから、姫華によって叩き割られたデスクも元通りにすることができたのです。
まぁ、だからと言って、毎度毎度デスクを叩き割ってもいいことにはなりませんが......。
ですが、真の姫華は更に勢いを増していきます。
「......文乃」
「まだ何かありますか?」
「書類がバラバラになっちゃいましたの......」
「......」
さすがに、こればっかりはどうしようもありません。
私はきっちりとお説教をした上で、半べそ状態になっている姫華とともに、散乱している書類を拾い集めることにしました。
「仕事が貯まっているんですから、早くしてくださいね?」
「ですの!」
ピコピコとポニーテールを揺らし、元気よく手を上げる姫華。
「......ですから、手を止めてないで早く仕事をしてください」
これが私の親友です。
天才児とも言われるその才能は、真面目にやれば仕事はかなりの優秀さ。
黙っていれば、誰もが見惚れてしまいそうになる程の愛らしさと凛々しさ。
戦場では敵味方問わず、そこに居るだけで目を奪われる程の勇猛さと卓越した指揮能力。
そして、私だけに見せる本当はポンコツな姿。
これが私の親友です。
ポンコツだからこそとても愛おしい、『勇者姫』である姫華なのです。
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後書き
次回、閑話『困惑する勇者達②』!
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今日のひとこま
~恥を忍んで、愛する人の為に~
「......ヘリオドール、相談があります」
「ほぅ。ニケ様が妾に相談とな? どんなことなのじゃ?」
「どうしたら良いのですか? どうしたら現状を良くできるのですか?」
「魔勇者のことじゃな?」
「その通りです。私の打った手が失策だったことは認めます。では、どうしたら良いのですか?」
「別に教えても良いが......なぜ姉さまに尋ねぬのじゃ?」
「これは私の失敗です。アテナ様のお手を煩う訳には参りません。この気持ち、分かるのではないですか?」
「それはそうじゃな。己の尻拭いを主人にさせるなど言語道断なのじゃ」
「ですから、恥を忍んで聞きにきました。歩様の為にも力を貸してください」
「くふふ。主の為にも、か。そう言われては力を貸さぬ訳にはいかぬのぅ」
「現状を簡単に説明しますと......(ごにょごにょごにょ)」
「......ふむ。ニケ様は少し楽観的過ぎるのぅ」
「どういうことですか?」
「ニケ様は魔勇者が動かぬはずがないと決め込んでおるようだがの、果たしてそうかのぅ?」
「斥候は情報を持ち帰るのが役目なのでは? でしたら、動かないはずがないでしょう」
「それはそうじゃが......それはいつなのじゃ? ニケ様の滞在期間中に動くのかの? 仮に動かぬ場合は魔勇者一人だけ排除して、ハイ終わり、とでも思うておらぬであろうな?」
「!!」
「良いかの? 失策は失策で仕方がないのじゃ。であるならば、その失策を少しでも活かすよう努めるのが筋ではないかの?」
「失策を活かす......ですか?」
「策とは常に最悪の場合を想定して立てるものなのじゃ。ここは、のんびりと魔勇者が動くのを待つのではなく、魔勇者を動かすよう働きかければ良いのじゃ」
「具体的にはどうすれば良いのですか?」
「魔勇者は既にニケ様の殺気には気付いておるのであろう?」
「それは間違いないでしょうね」
「であるならば、日々殺気を放ち続けてはどうじゃ? それも少しずつ強くしてな」
「少しずつ強く? なんでそんなめんどくさいことをするのですか? 動かすのが目的ならば死なない程度の圧力を一気にやれば良いのでは?」
「人間というのはの、臆病な生き物なのじゃ。一過性の恐怖よりも持続的かつ断続的な、それも徐々に増していく恐怖の方が怖いのじゃ。その分、想像力を働かせるからの」
「なるほど。そういうものですか」
「それに精神を極度にまで追い詰めた方が良いかもしれぬしの」
「と言いますと?」
「ニケ様の滞在期間は残り3日なのであろう?」
「その通りです」
「その期間に魔勇者が動かぬ可能性は十分にあるのじゃ。いくら殺気を放ち続けてもな」
「......続きを」
「その場合は魔勇者を強制的に動かす必要が出てくるのじゃ」
「強制的に動かす......ですか」
「何も難しいことではない。一旦、魔勇者を殺してしまえば良い。当然、本当に殺してはダメなのじゃ」
「どういうことですか?」
「人間は死を近くに感じるとの、本能のままに動くようになるのじゃ」
「ということは......つまり一度死の淵に追いやることによって、斥候としての役目を強制的に果たさせようと?」
「そういうことじゃな。その為にも魔勇者の精神状態を追い詰めておく必要がある」
「なるほど。その為にも少しずつ、ということですか」
「それでも動かぬようなら、魔勇者は己の職分を果たさぬ大馬鹿者なのじゃ。何をしてもダメであろうの」
「いくら人間とは言え、任された仕事を放棄する者はいないでしょう」
「であろうの。後は合流した時点で潰せば良い」
こうして、ニケによる町の住人をも含む魔勇者への無慈悲な神罰が下されることが決定した。
主人公以外の人間はどうとも思っていないニケと、過去の奴隷経験で人間嫌いになっているヘリオドール。
この二人の間で練られた策略という時点で、町の人々の運命は決まっていたのかもしれない。
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コメント
なつきいろ
コメントありがとうございます。
ヘリオドールは面倒な言い回しはあまりしない性格なんですよね。
基本的に、ニケ同様効率厨なところがありますので。
伝わりづらくて申し訳ありませんでした。
Qual
いえいえ、私の理解不足です(笑)
ドールの「本当に殺してはダメなのじゃ」に少々深読みし過ぎただけでしたねw
なつきいろ
コメントありがとうございます。
鷹乃鳴 美帆なら死亡していますね。
ニケのやり過ぎの部分を今日のひとこまで簡単に解説させて頂いたのですが、分かりづらくて申し訳ありません。
Qual
ん?やっぱりあの子(名前忘れたけど魔勇者の子w)生きてたんかな?(;-ω-)うーむ、考えさせられますな笑笑