歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

閑話 暗躍する勇者達!②


 前回までのあらすじ

 正義感も押し付けたら、ただの迷惑でしかない!

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□□□□ ~調査開始~ □□□□

 玖奈より借りた使役獣の情報から、竜殺しは現在トランジュにあり。
 ということで、私は早速竜殺しの調査に乗り出すことにしたよ。

(ふーん。あれが竜殺しなんだー)

 相手は特別な力を持った勇者さえも殺せてしまう、あの竜族を撃退した竜殺し。
 となると、実力は確かだろうから、その人間性を把握できるまでは姿を隠すのが賢明だよね。

 私は自分の加護『盗視』を使い、小鳥を介してギルド内にいる竜殺しの様子を窺ったよ。

(うーん。なんというか普通のおじさん?)

竜殺しドラゴンスレイヤー』という偉業を果たした割には、波瑠君のように目に見えて特別な存在といったオーラがある訳でもないみたい。
 それこそ、大勢の人の中に紛れでもしたら、その存在自体が埋もれてしまいそうになる程の平凡な印象。

(一般人ならこんなものなのかな?......それとも、敢えてそうしているとか?)

 特別な存在なのに平凡な印象。
 このミスマッチがとても不気味。

 だって、特別な存在には特別な存在にしか持ち得ないオーラが必ずあるんだよ?
 それは波瑠君しかり、あの玖奈にだって当然ある。......まぁ、私はどうか知らないけどね。

 だとしたら、『竜殺しドラゴンスレイヤー』などという偉業を果たした竜殺しに、それが無いのは余りにも不自然。

(......怪しいなー)

 私の中で、ソッと竜殺しの警戒レベルを一段階上げることにしたよ。

 ・・・。

 そう、実際に監視しているのに、警戒レベルを上げただけに過ぎないんだよね。不気味な存在である竜殺しを危険人物だと断定せずにさ。
 と言うのも、それもこれも全部、私の加護『盗視』の特性だから仕方がないんだー。

 私の加護『盗視』はね、『触れた対象の視覚を共有・拝借・利用できる力』なんだよ。

『共有』はそのまんまの意味。
『盗視』を使用している者に気付かれることなく、同じ光景を見ることができるの。

 例えば、今のように小鳥と視覚を同調しているのが『共有』だね。

『拝借』もそのまんまの意味。
『盗視』を使用している者の現在の状態に関係なく、自由に光景を見ることができるの。

 例えば、寝ていても、その人の瞼を開いて視覚を同調させるのが『拝借』だね。

『利用』もそのまんまの意味。
『盗視』を使用している者の瞳を介して、そこから様々な情報を得ることができるの。

 例えば、相手の情報などを利用者の瞳から介して【鑑定】したりするのが『利用』だね。

 だから、今回のような調査には持ってこいの力なんだ。波瑠君が『使役獣を駆使した広く浅くな情報網の玖奈』よりも『ピンポイントで調べものができる狭く深くな特化型の私』を指名したのは当然のことだよね。

 でもね、この便利な力にも制約があるんだよ?
 それは『正確に調べたい場合には、それに比例する対象を使わなくてはならない』こと。

 つまり、『盗視』を使った状態で相手の見た目以外の情報を得る為には、『盗視』使用者を必ず人間にしなければいけないんだー。もう、めんどくさいよね。

 でも、私が竜殺しの前に直接姿を晒すのは論外。竜殺しが私達の仲間になるようなら良いけれど、敵対するようなら、その時点で私は一巻の終わりだしね。
 腕には自信があるけれど、本物の『竜殺しドラゴンスレイヤー』相手じゃ、絶対に敵いっこないよ。

 そこで、私の身代りとして用意したのが、まだ私達が正統勇者だった頃に知己を得たエロ貴族おやじ

 このエロ貴族おやじ、当時は玖奈の体をジロジロと喰い入るように視姦していて、本当に気持ち悪かったんだよね。
 玖奈のことは好きじゃないけど、さすがにちょっとかわいそうかなとは思ったよ。

 私? 私なんて「ふっ」って鼻で笑われたよ?......これだから巨乳好きはさー!!
 
 そんな訳で、私の『盗視』の本番は......名前忘れた。エロ貴族おやじの屋敷ってわけ。
 だから、今は遠くから竜殺しの身辺を探るだけに留めているよ。派手にやって、万が一にでも竜殺しにバレでもしたら元も子もないもんね。

 そして、その結果分かったことは・・・。

(......うわー。本当にロリコンじゃん)

 確認できただけでもロリっ子が4人とか、竜殺しやばすぎでしょ。
 いくら強大な力を得たからって、どんだけ異世界を満喫しているの?......さすがに引くよ。

 私は、竜殺しの性癖に付き合わされているロリっ子達にちょっと憐れみの感情を抱きつつ、引き続き竜殺しの監視を継続したよ。

(......あれ?)

 すると、気になる点を幾つか発見。
 それと同時に、竜殺しが本物の『竜殺しドラゴンスレイヤー』である一端を垣間見たんだよね。悪い意味でさ。

 それが・・・。

(うっそ!? なに、あの子!? あんなにかわいい子、初めて見たよ!?)

 小鳥わたしの瞳に映っているのは一人の少女。

 陽の光でキラキラと輝く金髪をツインテールに結い、かわいらしくにぱー☆と微笑むその笑顔は、同性である女の私でも思わず見惚れてしまいそう。
 更には、透き通ったきれいな碧眼に、反則級な程のグラマラスな肢体を併せ持つロリ巨乳。

 思わず、「どんだけ属性を盛ってるの!? ズルいよ!」と叫んでしまうところだったよ。

(あ、あの子は危険。危険過ぎるよ......)

 私は心の底からおののいた。

 例え、竜殺しを私達の仲間に引き入れることに成功したとしても、『あの子だけは絶対に波瑠君には会わせてはいけない』と、私の本能が激しく警鐘を鳴らしているんだよね。

(あんなにかわいいなら、きっと波瑠君も気になるはず。そうなったら、私なんて......)

 そう考えるだけで悲しくなるし、怖くもなる。
 もはや考えたくもないレベルだね。

 だから、私の中で、明確に竜殺しの警戒レベルを三段階上げることにしたよ。

 ・・・。

 その他にも気付いたことは、(=モリオン)を除くロリっ子達のレベルが異常に高いことかな。
 ロリコンはロリコンでも、凄くこだわりを感じるロリコンで吐き気がしそう。

 とは言え、獣人の子もかわいいんだよ?

 でもね、他のロリっ子3人組に比べると、一段も二段も霞むレベルなんだよね。
 あくまで、テレビとかで活躍しているような一般人アイドル的なかわいさってやつかも。

 だから、ロリっ子3人組や私達のような選ばれし特別な存在スターとは元より格が違うってわけ。

 ただ、そんなロリっ子動物である竜殺しの周りに、一人だけ異質な存在がいたんだよね。
 極道の妻みたいな黒色の着物を着た女性で、明らかにロリっ子ではない妙齢のおばさんが。

 思わず、「え? おばさんも守備範囲なの?」と、あまりの節操の無さに呆れちゃったよ。

 それに、おばさんは凄くきれいという訳ではない(うーん。一般人アイドルレベルぐらい?)し、玖奈みたいに男好きしそうな体でもないんだよね。

(......となると、竜殺しは女だったら誰でもいいのかな?)

『英雄、色を好む』なんてのは有名だけど......実際、波瑠君もそうだしね。
 けどさ、その範囲がロリコンからおばさんまでOKとなるとどうなんだろう?......うーん。

 ただ、これで波瑠君に伝えるべき情報が増えたことは確かだよねッ!

『竜殺しの容姿は至って平凡なおじさん』
『竜殺しの周りには5人の女性あり』
『竜殺しは真性めんくいのロリコン』
『竜殺しはおばさんも可な女好き』
 

(うん! 大収穫だねッ! 波瑠君、喜んでくれるかなー?)


□□□□ ~後悔~ □□□□

「はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......」

 あらかじめ用意していた潜伏場所に駆け込んだ私は、静かに息を整える。

 呼吸するだけでも胸が苦しいよ。
 ガンガンと頭痛はするし、ズキズキと体もきしむしさ。

「はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......。こ、ここまで来れば大丈夫かな?」

 少しずつ息が整い始めると、真っ白になっていた頭の中がクリアになってくる。
 
 こんなに疲弊したのはいつぶりかな。
 ううん。初めてのことかもしれないね。

「はぁ......はぁ......はぁ......」

 頭の中がクリアになってくると、今の私の姿がいかに酷いものか露になってくる。

 本当に逃げることに無我夢中だったからね。
 もう魔力はスッカラカンだし、体も凄くダルいよ。

「......」

 しばらくして一息つけるようになると、嫌でも現状を理解させられる。

 息が整っても、体の震えは止まらない。
 動悸が収まっても、心の怯えは止まらない。

「うぅ......。波瑠君、怖いよぉ......。助けてぇ、波瑠くぅぅん......」

 そして、私は子供のように泣きじゃくった。

 私はいま凄く後悔している。
 波瑠君に嫌な顔をされてでも、こんな仕事は断れば良かったよ......。
 
 思い出されるのは、エロ貴族おやじの屋敷での出来事。

 そして、そこで私は見た。

 真の恐怖というものを。
 本当の意味での特別な存在というものを。

(あ、あの女は普通じゃないよ......)

 私達だって、魔勇者となった以降はたくさんの人の命を奪ってきたつもりだよ?
 正義を掲げる姫華ちゃんに復讐するんだもの、それぐらいは覚悟していたからね。

 結果、最初は躊躇いや戸惑いもあったけど、慣れてからは何とも思わなくなったかな。

 別にね、命を奪うことが悪いことだとは思っていないんだ。そういう世界ばしょだしさ。
 それにね、波瑠君に頼まれたら喜んで殺すし、姫華ちゃん関連なら喜んで殺したい。

 でもね、楽しみながら命を奪ったことなんて一度たりともないよ。

 波瑠君や玖奈はどうか知らないけど、私は楽しいだなんて思ったことは一度もない。
 あくまで、波瑠君の為に、復讐の為に、心をからっぽにして殺すだけだからさ。

 でもね、あの女は明らかに違ったんだよ?

 あの女は明らかに殺すことを楽しんでいた。
 多分、人のことなんて何とも思っていないんじゃないかな?......良くて、殺せるおもちゃとか?

 そう、あの女を一言で例えるのなら、『真性ほんものの殺人鬼』。 
 人を殺すことに価値を見出だし、人を殺すことで喜びを得る。そんな印象。

 多分、あの女の見た目や強さからして、私達と同じ人間───ううん。同じ勇者なのは間違いないんだろうけど......。
 でもねー、なんかそうとは到底思えない程の不気味さだったんだよね。

 まるで三日月のように口角を吊り上げ、嬉しそうにエロ貴族おやじ達の目を問答無用で切り裂いていく様子。
 まるで人をゴミでも見るかのように冷徹な目で見下ろし、一瞬の躊躇もなく殺していく光景。

 思い出すだけでも、心が悲鳴をあげそうになるよ......。

 結局、あの女が何者なのかは分からない。
 でもね、確かに言えることは『あの女は魔勇者わたしたち寄り』であるということ。

 目的の為には人を殺すこともいとわない。
 むしろ、それを楽しんでやる精神の持ち主。

 そんな危ない女が竜殺しの側にいる。
 となると、竜殺しもそうである可能性は非常に高いよね。朗報だよね。

 なのに、なのにさ......。

 私はエロ貴族おやじの屋敷から一目散に逃げ出したんだよ?
 あの女の目の前から、「一刻も早く逃げなくちゃ!」と思ったんだよ?

「波瑠君......波瑠君......」

 いまだにね、体の震えが止まらないんだ......。
 いまだにね、心の怯えが止まらないんだ......。

 目を瞑ればあの女の姿が思い出され、目を瞑らなくともあの女の恐怖に縛られる。
 
 私は断言するよッ!

 あの女は魔勇者わたしたち寄りだけど、魔勇者わたしたちとは全くの別物。
 ううん。それどころか、絶対に関わっちゃいけない人物だとも思う。

(......そ、そうだ! 伝えなくちゃ! この事を波瑠君に伝えなくちゃ!!)

 波瑠君への想いでようやく立ち直ることができた私は、早々に玖奈から連絡用として借りたハトのような使役獣に調査結果をしたためた手紙を託すことにしたよ。

 そして、調査結果にはこうしたためたんだー。

『竜殺しへの接触はとても危険だよ! あれは仲間にしても危険だし、敵にしたらもっと危険! だから、竜殺しには関わらないでスルーが一番だよ!』と。

 竜殺しに関わらなければ、あの女に関わることもないよね?
 それにね、あの女の存在は私達にとって害こそあれど、きっと利にはならないはず。

 だったら、竜殺しはいらないよ。
 だって、あの女が近くに居ると思うだけでさ、私は怖くて枕を高くして寝れないもん。

 だから、竜殺し関連はこれでおしまい。
 多分、姫華ちゃんだって最初は良くても、いずれはもて余すに違いないしね。

 そう結論付けた私は「手紙をよろしくね」と一言告げてから、使役獣ハトを大空に放った。
 ようやく大空を羽ばたけるという自由を得、くるくると嬉しそうに旋回する使役獣ハト

 その姿はさながら、今の私の心境ととてもよく似ていたんだよね。

(......ふー。怖い目にはあったけど、これでやっと波瑠君の所に戻れるよ......波瑠君。私、頑張ったよ? だから、いっぱい愛して欲しいなー!)
 
 まだ、あの女への恐怖は残っているけど......。
 今はそれよりも、ようやく解放されたことへの嬉しさの方が勝っていたかな?

(だから、使役獣ハトさんよろしくね! 私の明るい未来の為にも、1分1秒でも早く手紙を届けてよね!)

 それは明るい未来への希望だったんだー。
 輝ける将来を引き寄せる為の大切な切符だったんだよね。

 そう、その瞬間を見るまでは・・・。

───ピカッ!

 使役獣ハトが、私の明るい未来へ向けて今まさに大空を飛翔しかようとしたその時。
 突如、目も眩らやむ程の眩しい一筋の閃光が、私のすぐ目の前をほとばしったんだー。

「......え?」

 そして、そこに残ったのは元は使役獣ハトだったと覚しきものが、プスプスとまるで何かを暗示でもしているかのように無慈悲な音を立てて、真っ黒に焦げ上がった炭らしきものだけだったよ。

「......」

 私はしばらく呆けていたね。
 何が起こったのかは見ていて分かっていたけど、それでも理解が追い付かない的な?

(雷雲は───うん。無いよね?......なのに、なんで雷?)

 しかも、その謎の雷が私の放った使役獣ハトに偶然直撃だってさ。
 ねー。そんな偶然って有り得るの?......と言うかさ、それ、どんな確率?

 と、私がようやく現実に戻ってきた時に、更にそれは起こったよ。
 
───!?

 突如、得体の知れない何かが、私の体を問答無用に呑み込んでいく終末的な、この感覚。 

「あ......あ......あ......」

 私はもう訳が分からなくて涙が零れたし、ただただそれが怖かったよ。
 それに、体が金縛りにでもあったかのように全く動かないし、考えることすらもまともにできない。

 それはまるで、私が私じゃ無くなっていくような.......。私の存在が私の元から離れていってしまいそうになるような......。ただただフワッとした不気味で恐ろしい不思議な感覚。


 そして───この日、私は死んだ。










(───って、あれ? 私、生きてる......の?)

 どうやら私は生きていたみたい。
 よくは分からないけど、頭も体もバッチリと動くよ。

 でもね、生きていたことに「ホッ」と安心することも、「良かった......」と感激を覚えることも、特には無かったかな。
 それは、頭がバッチリと動くようになったせいで、私は全てを理解しちゃったんだよね。

(......そっか。私はあの女から逃げられた訳じゃなかったんだね......)

 謎の雷も、得体の知れないあの感覚も、全てはあの女が仕組んだこと。

 証拠は何もないよ?
 でもね、あの女の仕業なのは間違いない。それだけは確かだよ。

 私は一度臨死体験をしたことで、そう確信している。

(じゃー、私が今も生きられているのは......)

 答えは簡単だよね? 
『私はあの女に生かされている』って、こと。

 使役獣ハトの一件からしても、私を殺そうと思えば、あの女ならいつでも殺せるはず。
 じゃー、あの女は何の為に私を生かしているんだろう?
 
(......波瑠君達なかまの存在を疑っている?)

 多分、これなんだろうね。
 そして、私を使って、波瑠君達なかまの居場所を炙り出そうとしているのかも。

(......となると、私が波瑠君達なかまと合流した所で一気に殲滅というシナリオなのかな?)

 うーん。非常に困ったことになるね。
 私が波瑠君達なかまと合流する訳にはいかなくなったよ。

 だってさ、あの女の思惑通りに、わざわざ従ってやる必要はないしさ。

 それに何よりも、あの女に波瑠君の存在を知られる訳にはいかないよ。
 あの女からは、既に私は敵だと認識されているようだしさ。

 別に、波瑠君があの女に負けるとは思っていないんだよ?
 でもね、あの女が負ける姿も全く想像ができないんだよね......。

 だけど、衝突すれば、いずれはどちらかが倒れるよね?
 それがあの女ならいいけれど、波瑠君である可能性も否定できないとなれば......。

 だから、私が波瑠君達なかまと合流するという選択肢はないかな。

 でもさ、波瑠君には情報を伝えないといけないんだよね。
 ただ、使役獣ハトなどを使った伝達手段もダメなんだと思う。

 どうやっているのかは知らないけどさ───ううん。多分、私と同じような力なのかな? 
 それで、既に私はあの女から監視されているのは確かだと思う。

 となると、さっきの使役獣ハトのように全てを撃ち落とされる可能性が非常に高いはずだよね。

(残る手段は冒険者ギルドを介しての手紙なんだろうけど......これも恐らくはダメかな?)
 
 あの殺人鬼キチガイな女のこと。
 私が集団に合流した時点で、きっと始末にかかってくるよ?

 それがどういう集団なのかに関わらずさ。
 多分、少しも考えることや躊躇うことなんてないんじゃないかな?

 別に、町の人達が私に巻き込まれて死ぬのはどうでもいいんだ。私に関係ないしね。
 でもね、私は死ぬのは嫌なの! 死にたくないの! まだ波瑠君に愛され足りないの!

 だから、冒険者ギルドを介しての手紙も無しかな。

 ・・・。

 結局、『波瑠君達なかまとの合流もダメ』、『使役獣ハトもダメ』、『ギルドを介しての手紙もダメ』ともなると、後は時間が解決してくれるのを待つ他ないんだよね......。
 あの女は私を利用しようとしている以上、そう簡単には私を殺そうとしないだろうしさ。

 だから、後は時間との勝負。
 私とあの女の根比べなんだけど......。

「......(ガチガチガチ)」

 えっとね、あんまり考えないようにはしていたんだけどさ?
 さっきの得体の知れない感覚以降、あの女の存在がより身近に感じられるようになったんだよね。

 あの女に常に監視されているような......。
 あの女が常に側にいるような......。

 そんなどうしようもできない程の圧倒的な、絶望的な死への恐怖。

「......(ガチガチガチガチガチガチ)」
 
 体の震えが収まるどころか、より一層激しさを増したよ?
 心の怯えが収まるどころか、より一層激しさを増したよ?

 確かに、後は時間との勝負。
 私とあの女の根比べなんだけど......。私(の精神が)もつのかな......。
 
「死にたく......死にたくないよぉ......。波瑠君......」

 私はいま、本当に後悔している。
 こんな仕事に関わるんじゃなかったと、心の底から本当に......。

 
 こうして、私とあの女の静かなる戦いがひっそりと幕を開けたんだー。


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後書き

 次回、閑話『暗躍する勇者達③』!

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 補足を・・・。

 美帆がニケの雷魔法の存在を知らないのは、実際にその光景を見たことがないからです。

 実際は、ニケが【雷槍】や【雷燦】などを使って美帆の『盗視』加護を撃退していますが、その時美帆は『盗視』を使っている最中です。

 ですので、加護を使用している対象が潰されたというのは分かっていますが、どうやって潰されたのかまでは分からないという感じです。

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