歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

閑話 暗躍する勇者達!①


 貴族邸の動乱のその後のお話です。
 まずは軽く導入という感じで。

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 ブクマ・感想・評価、ありがとうございます。

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「はぁ......はぁ......はぁ......」

 私は駆けた。
 その場から少しでも遠くに逃れる為にも懸命に駆けた。

「はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......」

 髪は乱れ、動悸が激しくなって息苦しくなるも、とにかく駆けた。
 1分1秒でも遠くへ、魔力のことなどは気にせずに【疾走】スキルを使用して全力で。

「はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......はぁ......」

 その場に留まったら殺される。
 ううん。留まらなくとも殺される。

 そんな圧倒的な、絶望的な死の恐怖を感じて・・・。
 
(なんなのよ!? なんなのよ!!? なんなのよ!!!? あの女はなんなのよ!?!?)


 私にはとにかく逃げるという選択肢しか用意されていなかった。


□□□□ ~切っ掛けは単純に~ □□□□

 私、『鷹乃鳴たかのめ  美帆みほ』はあの有名な『白皇はくおう学園』の生徒だよ。

『白皇学園』はね、国が唯一認可している帝王学を学ぶことができる学園のこと。
 つまり、将来日本を背負って立つ人間を専門的に集中的に育成する国の特別機関だね。

 大物政治家や上場企業、一流企業のトップは大体がこの『白皇学園』の出身なんだよ。
 だから、そこに通う私達は日本の未来を牽引する国民の代表の卵みたいな、そんな感じ?

 学園の生徒数は約20名前後で、全員が『華族』出身。
『華族』そのものは昔解体されちゃったけど、『財閥』と名を変えて今も健在しているよ。

 だから、分かりやすく例えるなら、私達は『上級国民』だね。
 産まれた時から人生勝ち組で、貧しさとは無縁な人生が約束された特別な国民ってこと。

 そんな世間とは浮き世離れした『上級国民』である私達が、何の因果か学園丸ごと異世界召喚に巻き込まれたのが、今から12年前。

 当時は本当に困ったよ───だって、そうだよね? 
 私達が居なくなったら、日本の未来はこの先お先真っ暗になるしかないんだからさ。

 それに、私達は日本でなら何不自由なく生活できるのにさ、それを捨ててわざわざ不便な異世界に行けとか有り得る?
 しかも、勇者(?)とか訳の分からないものまでやらないといけないって言うんだもん。

 ハァ......。本当に嫌になる。
 だから、私は勇者なんて本当は断りたかったのにさ......。

 女神様からは「全員の意見が一致しないと、帰還は認められない」って言われたんだよ?

 それ、どんな罰ゲーム?
 しかも、よりにもよって、が出ちゃってさ。

 結局、私達は女神様の魔王討伐という要求を受け入れて勇者になったんだ。
 そして、ノブレス・オブリージュの精神のもとに、正義を執行していったわけ。

 でもさ、そんなのいつまでも続く訳がないよね?
 だって、私達は(承諾したとは言え)自ら望んで勇者になった訳じゃないんだからさ。

 それに、いくら特別な力を持った勇者と言っても、無敵って訳じゃないんだよね。
 私達が勇者活動をしていく内に、一人、また一人と知人が死んでいって、今では学園のメンバーの生き残りは半数ぐらいになっちゃったんだよ?

 となると、こんな状況を受け入れるのは難しいよね。
 嫌になるし、こうなった元凶である『バカな正義感を燃やした人』を恨みたくもなるよね。

 だから、私は......私達は......勇者を辞めたよ。

 ううん。勇者を辞めただけじゃない。
 私達の幸せ日常を奪った『バカな正義感を燃やした人』に復讐することに決めたんだ。

 あなたがあなたの身勝手な正義おもいを私達に押し付けた結果がこれなんだから、私達は私達の身勝手な復讐おもいをあなたに押し付けてあげるってね。

 だから、私達は『バカな正義感を燃やした人』に復讐する。

 ううん。それだけじゃない。
『バカな正義感を燃やした人』の目指すもの、求めるものも全て壊すし、邪魔をしなくちゃ。

 やられたらやり返す。ううん、倍返し───当然だよね?
 やられたまま黙っていたら、日本の将来を背負って立てないもの。
 

 そして、私達は『魔勇者』になった......。

 
□□□□ ~密命~ □□□□

波瑠はる君、呼んだ?」
「おっ。美帆か、急に呼び出したりして悪いな」

 私が扉を開けると、そこにはニカッと笑う愛しい人の姿が───。

「ごきげんよう。美帆さん」
「......なーんで、玖奈くいながここにいるのさ」
「......私が波瑠の側ここに居て、何か問題がありまして? それよりも挨拶がなくてよ? 美帆さん」
「..................ごきげんよう。玖奈」
「はっはははは! お前達はいつも仲が良いな! これも俺のおかげだなッ!」
「「ふんッ!」」

 と思ったけど、波瑠君だけじゃなかったよ......。
 玖奈お邪魔虫まで居た。ハァ......。もう本当に最悪!


 私達が学園のメンバーと袂を分かってから数年。
 私達は波瑠君を中心に着々と勢力を広げつつあったよ。

 波瑠君───『応龍淵おうりゅうえん   波瑠はる』君は私と同じ白皇学園の生徒の一人。
 ちなみに、玖奈───『佐渡島さどじま   玖奈くいな』も白皇学園の生徒の一人だね。

 つまり、私達は友達であって、同じクラスメートでもあるの。
 まぁ、玖奈については友達というよりかは波瑠君をめぐる恋敵(ライバル9の一人でしかないけどね。

 そんな波瑠君はあの四瑞しずい家の一つである『応龍淵家』の跡取り息子さん。

 四瑞家とは『鳳凰寺ほうおうじ家』を筆頭に、『応龍淵家』、『麒麟崎きりがさき家』、『霊亀川れきがわ家』と続いていく、日本の由緒ある四大財閥の総称のこと。

 稀に運良く大成した一般人が財閥である私達と同じ地位まで駆け上がってくることはあるけれど、どんなに大成しようとも、この四瑞家だけは別格、同じ地位にまで至ることは決して不可能とまで言われる程の大財閥のことだね。

 それにね! 波瑠君は家柄だけじゃなくて、波瑠君自身も凄いんだよッ!

 よく『天は二物を与えない』とかいうけれど、あれは全くの嘘。
 波瑠君は『お金はお金を呼ぶ』の例え通りに、あらゆる才能に恵まれているの。

 ジャニ○ズなんて歯牙にもかけない程のイケメンぶり。
 一を知れば十どころか百近くも理解してしまう頭の良さ。
 全ての競技スポーツの申し子とも言われる程の卓越した運動神経の持ち主。
 そして、波瑠君とは全てが釣り合わない私なんかでも優しくしてくれる温かい人間性。

 全てが完璧で、全てはこの人の為にあるような、そんな錯覚を覚えてしまう人───それが波瑠君。

 事実、波瑠君のことは女神様も認めているんじゃないのかな?
 なんたって、波瑠君の加護は勇者の中の勇者、『真の勇者』なんだからさ。
 
 そんな波瑠君から「至急、俺の部屋まで来て欲しい」なんて呼び出しがあったらさ、普通はちょっと期待しちゃうよね。かわいくおめかしだってしちゃうよね。
 私はあまりにも嬉し過ぎて、下着もそれ用のに取り替えちゃったよ?

 なのに、玖奈まで一緒に居るとなると......。

 これはお仕事ってことかな?
 ハァ......。期待して損したー。つまんないなー。

「......それで、なに?」
「......美帆さん。波瑠に対してその態度、失礼ではありませんの?」
「......そんなの知らないよ。そう思うなら、玖奈がこの部屋から出ていけばいいじゃん」
「きぃぃいいい! 美帆さん! なんですか、その言いぐさは!!」
「ふんッ!」

 私がぶすーっとした表情でむくれていると、こんなにも険悪な雰囲気である私達のことなど全く気にする様子もなく、波瑠君は淡々と話を進めていく。

「実はな、美帆に折り入って頼みがある」
「......私に?」
「あぁ、とある人物を調べて欲しいんだ」
「え? それぐらいのことなら玖奈でも良くない?」

 もちろん。私の力がそういうのに適しているからこその頼みなのは分かるよ?
 でも、それだったら玖奈も同じだし、むしろ現地に赴く必要のない玖奈の方が適してない?

(......え? なに? これってそういうことなの? 私はお払い箱ってこと?)

 私は唇を噛み締め、何とも言えない暗い気持ちで俯いた。

 波瑠君は玖奈を選んだ。
 その事実がとても悲しかった。

 でも、それは違ったみたいで・・・。

「姫華が動いた」
「!!」
「だから、美帆に直接頼みたい」
「そっか......。姫華ちゃんが動いたのなら仕方がないよね」

 姫華ちゃん───『鳳凰寺   姫華ひめか』ちゃんは私達と同じ白皇学園の生徒の一人。
 そして、私達の最も憎むべき相手でもあるの。

 だって、あの時、姫華ちゃんさえバカな正義感を燃やさなければ、私達が勇者になることなんてなかったんだからさ。
 
「対象は?」
「いま何かと話題の『竜殺し』だ」
「竜殺し? あの竜族を撃退したとかいう?」
「そいつだ。ちょっと危険かもしれないが、なら大丈夫だと信じている」
「波瑠君......」

 俺の美帆。

 もうこの言葉だけで、私のやる気はMAXファイアーになったよ!
 いい? この仕事は私のもの。玖奈が「やりたい」と言っても絶対に渡さないんだからね!!

「調べるだけでいいの? なんだったら、引き入れてこようか?」
「できたらそうしてくれ───なんでも竜殺しはロリコンらしいからな」
「あらあらあら。竜殺しはロリコンなんですの。でしたら、美帆さんにピッタリですわね」
「......玖奈、どういう意味よ?」
「どうこうもありませんわ。分からないのでしたら、ご自分のに手でも当てて考えてみたらいかがですの?」

 そう言って、服からこぼれんばかりの豊満な胸をグイッと強調する玖奈。
 対して、チーンという音さえ聞こえてきそうな、私のぺったんこな胸。

(こ、このくそ尼がぁぁあああ! ちょーっとばかし胸が大きいからって図に乗るなぁぁあああ!)

「......ごめんねー。私、でぶちんの玖奈みたいに体質みたいでさー」
「だ、誰がでぶちんですか!」
「胸なんて単なる脂肪の塊じゃん。だったら、でぶちんで合ってるでしょ!」
「脂肪すらない、つるぺたガリガリのみほさんに言われたくないですわ!」
「だ、誰が骨よ!......つるぺたは否定しないけど」

「......」

 ぎゃあぎゃあと私達が歪み合う中、そんなことには全く関心を寄せない波瑠君。
 私は波瑠君のこういうクールでストイックなところも本当に大好き!

「まぁ、美帆は無理しないようにな。玖奈は例のあれを引き続き頼む」
「うん! まっかせてー!」
「もちろんですわ!」

「そう言えば......私達が居ない間、波瑠君は何をするの?」

 気になる......。

 波瑠君の周りにはとにかく女性が多いんだよね。
 それは波瑠君が魅力的だから仕方がないんだけどさ。

 でも、ちょっと複雑なんだよね......。

(まぁ、私と玖奈がお気に入りみたいだし、大丈夫なのかな?)

 私達が仕事をしている間に、(玖奈はどうでもいいけど)飽きられても困っちゃうしね。

「お前達が居ないことだしなぁ。暇潰しがてら、正統勇者か十傑の奴でも狩ってくるかな」
「そっか。無理しないでね? と言うか、この前は誰をヤッたんだっけ?」
「確か、十傑で九席の......あら、嫌ですわ。名前が出てきませんわね」
「俺も知らん。弱すぎて名乗る前にヤッちまったからなぁ───いや、名乗ってたかな?」

 何の感慨もなく、そう呟く波瑠君。
 まぁ、真の勇者である波瑠君からしてみれば、十傑ですら雑魚扱いだもんね。

「じゃー、姫華ちゃんが動いたのは、もしかして......」
「空いた席の補充目的だろうな」
「そっかー。となると、割りと緊急を要する仕事になるね」
「そういうことだ。だから、美帆に頼みたい。お前なら任せられるからな」

 私なら任せられる。

 その言葉に、体中に力がみなぎってくる。
 今の私ならきっと神さえも殺せる、そんな不思議な高揚感。

(むふー! 波瑠君の為ならなんでもやっちゃうよー! まっかせてー!!)


 こうして、私は竜殺しを調べるべく、旅立つことになったんだ。


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後書き

 次回、閑話『暗躍する勇者達②』!

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 今日のひとこま

 ~それぞれの復讐理由~

 これは白皇学園メンバーが分裂する前のお話。

「え? 波瑠君と玖奈はみんなと別々に行動するの?」
「そのつもりだ。姫華の下に就くはないしな───美帆はどうする?」
「わ、私も波瑠君と一緒に行くよ!」
「ハァ......。美帆さん、そんなにあっさりと決めないで頂けます?」

「玖奈、どういう意味よ?」
「なぜ今になって別々に行動するのか、その意味を考えなさいと言っているんですの」
「え? なんか意味があるの?」
「簡単に言うと復讐だな。姫華に対してのな」

「復讐......? 玖奈もそうなの?」
「いいえ。私は姫華さんなどどうでもいいですわ」
「じゃー、玖奈はダメじゃん」
「私は波瑠の側に居たいだけですの。その為なら何でもしますわ。波瑠が姫華さんを殺せと言うのなら殺しますし、波瑠が魔王になると言うのならそのお手伝いもしますわ」

「玖奈......。それ本気なの?」
「当然ですわ。全てにおいて波瑠が優先される。私は愛に、波瑠の為に生きますわ」
「くっ......! わ、私だって、波瑠君の為だったら何だってするよ! それこそ姫華ちゃんだって、私が殺してみせるから!」
「いやいや。姫華は殺さないから」

「え? そうなの? 姫華ちゃんに復讐するんじゃないの?」
「美帆は姫華が俺の婚約者なのは知ってるよな?」
「うん。知ってるよ。四瑞家同士で婚約を結ぶのはしきたりなんでしょ?」
「そういうことだ。つまり、あいつの主人は俺なんだよ。俺に従うのが当たり前なんだよ」

「......姫華ちゃんと何かあったの?」
「別に何もないぞ?」
「え? じゃー、なんで復讐するの?」
「何もないからだな」

「うん?」
「四瑞家の妻たるもの、主人を満足させる義務がある。妻なら主人を立てる必要がある。主人が動く前に主人の望む結果をもたらすものが妻たるものの責務だ」
「姫華ちゃんにはそれが足りないの?」
「そういうことだ。異世界なんぞでくだらないヒーローごっこをしている暇があるのなら、その時間を俺に尽くすべきだろ? だから、あいつに復讐おしおきする」

「そっかー。それが四瑞家としての常識なら、それは姫華ちゃんが悪いよねー」
「だろ? だから、あいつの尊厳を粉々に打ち砕いて、誰が主人なのかをハッキリと分からせてやりたいんだよ」
「波瑠君の理由は分かったよ。だったら、私も協力する!」
「いいのか? あいつを懲らしめる為にも結構過激なことをするぞ?」

「いいよー。私も姫華ちゃんには思うところあったしね」
「美帆さん、本当にいいんですの? 悪魔に、波瑠に、魂を売る覚悟がないのなら止めたほうがいいわよ?」
「私はね、波瑠君が好きなの。その気持ちは玖奈にだって負けないよ! だから、私の魂は今から波瑠君に売るよ!」
「そんな重い魂はいらん。───じゃあ、手始めに今残っている学園メンバーを殺していくか。
「うん! まっかせてー!」
「波瑠の為に頑張りますわ!」


 こうして、私達は姫華ちゃんに反旗を翻したんだ。

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