歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第203歩目 貴族邸の動乱①



前回までのあらすじ

ドールさん、マジぱねぇっす!

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評価・感想・ブクマ・誤字脱字報告ありがとうございます。

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□□□□ ~どこでも安心いちゃいちゃできるのは貴女が居ればこそ~ □□□□

 ナシーネさん、ニシーネさんに貴族の作法というやつを教わって2時間後、俺とニケさんはカイライ侯爵の屋敷の前へとやってきていた。

 そして、いま俺の目の前には豪邸とは言い尽くせない程の豪邸がそびえ立っている。というよりも、これは.....。

「いやいやいや。さすがにデカ過ぎだろ.....」

 正直、これを屋敷と呼んでいいのか迷う。
 いや、屋敷の外観は中世風の屋敷そのものではあるのだが、敷地面積というか屋敷含めての大きさや広さが尋常ではない。

 どれ程の大きさや広さかと言うと、引き合いに出して申し訳ないが、現地勇者の屋敷よりもカイライ侯爵の屋敷の方が遥かにデカい。いや、現地勇者の屋敷も立派だったけどさ?
 それでも、カイライ侯爵の屋敷は、かつて海都ベルジュで遠くから眺めた王城に勝るとも劣らぬ大きさである。

「へぇ。あっしの聞いた話じゃ、この国一番の屋敷って噂ですぜ」

 そんな驚いた様子の俺を見て、御者の男が話し掛けてきた。

 そうそう。カイライ侯爵の屋敷までは馬車でやってきた。
 これは旧都トランジュはかなり広いので、見た目が冒険者らしくないニケさんでは屋敷までの移動が大変だろうと、ナシーネさん、ニシーネさんが親切にも用意してくれたものだ。

 そもそも、当初は歩いて訪問する予定だった。
 だが、俺のその言葉を聞いたナシーネさん、ニシーネさんはまるで「こいつ、アホやろ.....」とでも謂わんばかりに顔を真っ青にして、俺達が貴族の作法を教わっている間に馬車を手配してくれたらしい。

 しかも、馬車の費用は緊急の指名依頼ということで、ギルド持ちとのこと。
 なので、ここはせっかく用意してもらったのを断る理由も無いということで好意に甘えることにした。

 と言うよりも、「「貴族が貴族を訪問するのに徒歩で伺うとか有り得ません!」」と、ナシーネさん、ニシーネさんに、それはもうきつく注意されてしまったので断るに断れなかったのが本音である。

「いくら大貴族とはいえ、侯爵.....様の屋敷が国一番はさすがにマズいだろ.....」

「トランジュはデカい町ですからね。その町一番の貴族とあっちゃ、必要なことなんでしょう。かー! こんなデカい屋敷に一度は住んでみたいもんでさぁ!」

 カラカラと朗らかに笑う御者に、俺は「そういうもんか?」と心の中でツッコミを入れておく。

 何事も分相応が一番だと思う。無駄に広いと落ち着かないというか.....。
 だから、俺としては無駄に広い家よりも、日本で住んでいた時のアパートのようなこじんまりとした空間の方が割りと好きだ。

 例えるのならトイレ。そもそも、トイレなんぞ1~1.5畳程の広さがあればいい訳だ。
 なのに、サクラ號のトイレは無駄に広い。トイレだけで、俺のアパートの一室と同等の広さとか笑えたものじゃない。下品な話になるが、あまりにも広過ぎて緊張してしまうせいか、出るものも出ないといった感じだ。


 閑話休題。


 とりあえず、御者が取り次ぎに行ってくれるというので、そちらは任せることにする。
 そして、それを見送った後、俺は隣に控えているニケさんに目を向けた。

「.....」

 ニケさんは屋敷などには一切目もくれず静かである。
 いや、カイライ侯爵の屋敷に向かう道中もひたすら無言を貫いていた。

「どうされました?」
「なんでもな───いえ、ニケさんの横顔に見惚みとれていました」
「ふふっ。ありがとうございます」

 ただ、こうして時折俺と目が合うと、にっこりと微笑んではくれる。

 そうそう。俺がキザったらしいことを言っているのは現地勇者の影響である。
 現地勇者曰く、「放った言葉は元には戻らない。だったら、嘘でもいいから誉めておけ!」とのことだ。

 だから、誤魔化すぐらいなら誉めておいた方が良いと判断した上での行動である。

 ・・・。

 話が逸れたが、ニケさんが静かなのには理由がある。

 別に、馬車酔いをしたとか、そういう訳ではない。
 いや、正解にはしていたのだが、勝利の力で酔いには打ち勝っている。

「歩様!? それは言わない約束ですよ!?」
「まぁまぁ。でも、驚きました。ニケさんは馬車が苦手なんですね」
「うぅ.....。そもそも私には乗り物など不要なのです。飛んだ方が効率的ですしね」
「それ、絶対にやらないでくださいね?」

【浮遊魔法】はレベル5相当の魔法らしい。
 だから、そんなものを気軽にやられてしまったら注目の的になるだけだ。


 はたまた、御者の態度に不満があったとか、そういう訳でもない。
 いや、正解にはあったみたいなのだが、俺が宥めて事無きを得ている。

「歩様は寛大過ぎます! 貴族うんぬんは置いといても、あの人間は歩様を敬うべきです!」
「まぁまぁ。俺はそういうのが苦手なんですよ。むしろ、あのフランクさを気に入っているぐらいです」
「うぅ.....。歩様がそう仰るのであれば、私は従いますが.....」
「ありがとうございます」

───なでなで

「あっ.....」

 ニケさんが不承不承納得してくれたのは見れば分かる。
 なので、そのお礼も兼ねてなでなでをしてあげた。

 さすがに、大人の女性にぽんぽんは失礼だろうしな。
 ちなみに、「なでなでもどうなんだ?」みたいなツッコミは遠慮して頂きたい。

 そして、こういう細かい配慮ができるようになったのも現地勇者の影響なのだが───。

「何かして頂けるなら、キスが良かったです.....」
「.....」

 どうやら、俺は女心というものをまだまだ理解してはいなかったらしい。


 では、ニケさんが静かな理由は何かというと、単純に警戒していたからだ。
 と言うのも、今回は相手が相手なだけに、ギルドを出てからずっと周囲の警戒をし続けてくれていたらしい。

「ここまでは何もありませんでしたね」
「俺を呼び出すぐらいですからね。本番は屋敷で、という腹積もりなのでしょう」

 正直、こうなるだろうとは予想していた。相手側が自分の素性を隠したい腹積もりなら、途中で何かを仕掛けてくる可能性は限りなく低いと思う。まぁ、何かあったら、素性がバレる危険性が増すしね。

 そして、俺のこの考えはドールも賛同してくれた。ドール曰く、「策士という者は自ら危険な手段を取らぬ。必ず己が用意した罠の中にかかるまでは手を出してこぬものなのじゃ」とのこと。
 所謂、『策士、策に溺れる』というやつなのだろう。.....ちょっと違うか?

 それでも、ニケさんが「どうしても!」と言うので、それで気が済むのならばとお願いしたまでだ。理由は教えてもらえなかったが、ニケさんはニケさんで何やら考えがあるらしい。

 それに『備えあれば憂い無し』とも言う。念には念を入れるのは大切だ。無いとは思うが、かの『正徳寺の会見』のように道中でこっそり.....なんてもことも無きにしも非ずだろうし。
 
「そう.....ですね。しかし、思った以上に大きい屋敷ですね」
「ですよねー。さすが大貴族とでも言うんですかね」

 屋敷自体には興味が無いのだろう。
 どこか虚ろげな眼差しを向けるニケさん。

「.....」
「?」

 しかし、その大きさや広さを見て、再び険しい表情に戻ってしまった。
 その表情の険しさは道中で見せていたそれとは比較にもならない程険しくなっている。.....あっ。眉間に皺が。

「ちょっ!? 見ないでください!」
「あはは。ちょっとぐらい、いいじゃないですか」

 何を考えているのか分からないが、そういう顔のニケさんも素敵だと思う。

 そして、危険な可能性がある貴族邸に今から赴こうとしている俺がここまでリラックスできているのは隣に───いいや、俺の身の安全を常に守ってくれているニケさんが側に居ればこそだ。

 だから、誇ってもいいと思う。
 名誉の表情けわしさ。ありがたい表情けわしさとも言える。

「そんなのを誉められても、ちっとも嬉しくはありません!」
「そうですか? 結構本気で誉めているんですけどね?」

 まるで「心外だ!」とでも謂わんばかりに、ぷりぷりと怒っているニケさん。
 こういう素に近いニケさんの表情を見れただけでも、めんどくさいと思っていた貴族邸にまでわざわざ足を運んだ甲斐があったというものだ。
 
 とりあえず、ノロケてばかりもいられないので、ニケさんの考えを聞こうと思う。
 恐らく、ニケさんの表情が険しくなったということは、それだけ厄介事───つまり、危険性が増したということに他ならないのだから。

「.....」
「ニケさん?」
「申し訳ありません。.....歩様。一つ、提案をしても宜しいでしょうか?」
「!?」

 驚いた。まさかあのニケさんが───俺の事となると暴走しがちなニケさんが、暴走する前に進退の是非を尋ねてくるなんて.....。明日は雪かな?

「むぅ。今日の歩様は意地悪です。これでも私は真剣なんですよ?」
「すいません。軽い冗談です」

 そう言って、少し涙ぐんだ瞳で(かわいく)キッ!と睨んでくるニケさん。

 さすがに、おふざけが過ぎたようだ。
 ニケさんと一緒だとどうしても安心してしまうから、つい.....。

「つい.....ではありません。歩様の命に関わることなのですよ?」
「分かっています。それでも、俺はニケさんを信頼しているからこそ落ち着いていられるんです」
「!!.....って、ちょっと待ってください。落ち着いた末が意地悪とか酷くありませんか?」
「あはは。素のニケさんは見ていて楽しいですからね。.....ごほんっ。では、その提案とやらを伺いましょうか」
「~~~~~ッ! 知りません! 歩様は私に勝手に守られていてください!!」
「えー」


 あっ。でも、勝手に守ってくれるのか。
 ニケさん、そういうところなんですよ?


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後書き

次回、本編『貴族邸の動乱②』!

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今日のひとこま

~貴族の作法~

「時間も惜しいですし、早速行ってきますね」
「「行く? どちらへ行かれるのですか?」」
「え? カイライ侯爵でしたっけ? 緊急なんですよね?」
「「確かに緊急ですが.....。まさか、このまま行かれるおつもりですか?」」

「そのつもりですが.....」
「「それではあまりにも礼を欠いております。まずは一度お伺いを立てませんと」」
「.....緊急なんですよね? でしたら、問題ないと思いますが?」
「「通常ならそうなのですが、貴族様というのはそういうことにこだわりますので」」

めんどくせー!
やっぱり断っちゃおうかな?

「「あっ。いま断ろうかな? とか思いませんでしたか?」」
「あんたらエスパーかよ!?」
「いや、主の場合は顔に書いてあるのじゃ」
「ヘリオドールの言う通りです。思いっきりめんどくさいと書かれていましたよ?」

「HAHAHA。.....じゃあ、そのお伺い(?)とやらをお願いしてもいいですか?」
「「畏まりました。それと───いえ、そちらのほうも手配しておきますね」」
「はぁ.....? あと、気を付けたほうがいいこととかありますか?」
「「そうですね。貴族様への礼を欠かないことでしょうか? 失礼ですが、竜殺し様はそちらは大丈夫ですか?」」

貴族への礼か.....。
やっぱり、そういうのが必要なんだな。

「ドール、知っているか?」
「そんなもの、妾が知っている訳なかろう? 貴族のバカどもに礼なぞ取るつもりもないしの」
「お、おぅ。ニケさんは.....知らないですよね?」
「申し訳ございません。存じ上げておりません。主神様への礼ならば知っているのですが.....」

「───という結果なんですが、ダメですよね?」
「「相手が大貴族の侯爵様となると問題になるかと思われます。あの.....宜しければ、お教えすることもできますよ?」」
「え!? いいんですか!?」
「「はい。私共は貴族様のお相手をすることもありますので、一通りのことなら」」

さすが五十音姉妹!
いや、さすがギルド嬢といったところか。頼りになるぅ!

「でしたら、お願いします。───あっ。ちなみに、時間はどれぐらいかかりますか?」
「「一時間程でしょうか? お伺いを立てるのにそれぐらいかかりますので」」
「一時間か.....。なら、用は全て済んだことだし、アテナ達は遊びにでも行くか?」
「そうさせてもらうかの。貴族への礼なぞ教わりたくもないしの」

「んー。それ、おもしろいー(。´・ω・)?」
「いや、面白くはないだろうな。作法みたいなもんだろうし」
「じゃー、一緒にやるー!」
「なんでそうなった!?」

「だってー、おもしろそーじゃーん( ´∀` )」
「いやいやいや。俺の話を聞いてたか? 絶対面白くはないと思うぞ?」
「我もアユムに教えてあげるのだ! 今日は我が先生なのだ!」
「モリオンが?───って、そう言えば、お姫様に教えてもらったんだったな」

「そうなのだ! こう───なのだ!」
「おぉ! カーテシーもなかなか様になってきたな。かわいい。かわいい」
「そ、そうなのだ!? あと、こういうのもできるのだ!!」
「うんうん。なんなのかは分からないが、それもかわいいな。モリオン、本当のお姫様みたいだぞ?」

「.....そこの二人。早く、その貴族の礼とやらを私に伝授しなさい」
「「───ひぃ!? か、畏まりました.....。」」
「.....ご、ごほんっ。わ、妾も頼もうかの? いずれ主とともに貴族の前に出る機会もあるだろうしの」
「なんかたのしそーだねー! 私にも教えてー☆」

「お前らな.....。これはお遊戯会かなんかじゃないんだぞ?」
「「お言葉ですが、小さい内に貴族への礼を覚えておくことは損ではありませんよ? 竜殺し様ならば、いずれは大貴族へとなられる可能性もございますし」」
「小さい.....?」
「小さいのぅ.....?」

「たのしみだねー( ´∀` )」         ← 推定10,000歳以上。
「モリオンには負けてはいられません!」    ← 推定10,000歳以上。
「今日は我がお姉ちゃん達の先生なのだ!」   ← 661歳。
「モーちゃん先生、よろしくお願いしまーす☆」 ← 推定10,000歳以上。

「「なにか?」」
「いえ、こちらの話です」
「「そうですか? でしたら、早速講習へと移りましょうか」」
「よろしくお願いします」

貴族の作法というやつはとてもめんどくさかった。
ただ、モリオンのかわいさだけは爆発していたことをここに追記しておく。

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