歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

特別編 異世界と愉快な住人達!⑦ side -ニケ- 後編



前回の異世界編のあらすじ

元魔王のお姉さんを強敵と認めたニケ!
そして、遂に二人の戦いはクライマックスへと差し掛かる!!

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□□□□ ~神魔対決・決着編~ □□□□

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『マリー・ゼルガルド』 レベル:9999★ 危険度:必勝

 種族:魔族(淫夢種)
 年齢:21
 性別:♀

 職業:元魔王/魔幻師
 称号:魔王/大魔王/魔神殺し/神殺し魔王

 体力:9,999,999★
 魔力:9,999,999★
 筋力:9,599,999
 耐久:9,999,999★
 敏捷:9,699,999

 装備:なし
    敬愛のブレスレット
    サキュバスドレス
    オラクロアのエンゲージリング

 技能:なんかいっぱい

 加護:『即興魔法リアライズ・マジック』 Lv.9999★ 9999/9999
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 マリー・ゼルガルド。
 それが、私の初めての『強敵』の名前です。

 当然、この魔族に興味はありませんので、名前を覚えるつもりは一切ありません。
 しかし、私がそうでも、この魔族同様いつまでもしつこく付きまとってきそうな感じがしますので、もしかしたら忘れたくても忘れられそうにないかもしれませんね。

 さて、あれからもずっと私と魔族の戦闘は続いていました。
 代わり映えの無い戦闘が延々と───いいえ、いつの間にか動きの勝利すらも突破されてしまいましたので、若干危うい攻撃も出てくるようにはなりました。

 そして、遂に.....。

───ドン!

「ぐッ!!」

 私の一撃が見事お腹に刺さり、吐血して苦しむ魔族。

───バシュ!

「!?」

 一方、魔族の鋭い貫手が私の頬を掠めていきます。

(つ、遂に、この領域まで来たというのですか.....)

 正直、攻撃を喰らったところで微々たるダメージも受け付けないことは理解しているのですが、それでも驚愕を禁じえません。

「き、貴様は何だ? なぜ我の動きに対応できる? 既に貴様の限界を超えているはずなのに!」

「.....だから、何度も言っているでしょう? あなたがどんなに強化されようとも、私に勝てるものではありません。それが神である私なのですから」

 これは紛れもない事実。
 しかし、魔族の言う通り、既に(全力に対する10%台の)勝利の力を突破されてしまっている以上は、手加減を加えつつ容易に勝ちを収めるのは至難の技となってしまいました。

(ここはいっそのこと殺してしまうという手も.....)

 それなら本当に容易いのです。ちょっと力を入れた【パンチ】一発で済んでしまうのですから。
 いいえ、ここは鬱憤晴らしに蹴りでもいいかもしれませんね。どんなにスッキリとするでしょうか。うふふふふふ。

(.....とは言え、それは絶対にできないんですけどね)

 それというのも、歩様は私に殺さない方向での勝利を望まれています。となれば、私はその方針に従わざるを得ません。

 そもそも、私には歩様の期待に応える義務ひつようがあります。
 そして、期待に応えるのならば、期待通りではなく期待以上の成果を披露しなければならないのです。


 ・・・。


 それからも、それからも、延々と私と魔族の戦闘は続いていきました。
 私としても色々と試みてはいるのですが、どうしても大胆な一手が打てないまま、結局膠着状態となってしまったのです。

(ッ! 急ぎませんと!!)

 そして、同時に急いで決着を着けないといけないという焦りも徐々に生まれてきました。

 それは『時間の問題』です。

 それと言うのも、私としてはこの戦闘において負けることは絶対に有り得ませんので、良い機会だと無理矢理に言い聞かせて(経験も兼ねて)気長に挑むつもりでいました。
 そう、神界に居る時と同じように時間のことなど一切気にはしていなかったのです。

 ですが、私には滞在期間というものがありました。
 歩様の「こちらにも事情がありますので.....」の一言で思い出すことができたのです。

 つまり、それほどまでに、私はこの魔族に力だけではなく精神的にも追い詰められていたということになるのです。

 一応、説明するまでもないと思いますが、この場合の追い詰められているというものは、全力のことではなく手加減している状態でのことを指します。
 そうですね。加減している状態での最高のパフォーマンス状態(全力に対して20%中の100%状態)だとイメージすると簡単かもしれませんね。

 これを『地力に勝利』した状態と言います。
 一応アクティブ系なので、

 ちなみに、全力に対するパーセンテージを上げ過ぎると魔族を殺しかねません。
 故に、自然と私の動きも20%台に留まることになるのです。

 そもそも、動きが速まれば速まるほど、与えるダメージ量も増えてしまいますので仕方がないですよね。

 そして、早く終わらせたいのに、なかなか終わらせられないこのジレンマ。この焦燥。
 その逸る気持ちが、私のちょっとした油断を誘うことになりました。

 ただ、それが切っ掛けで、この延々に続くかと思われた戦闘が一気に終息へと向かうことになるのです。

───フッ!

 性懲りもなく、再び攻勢をかけてくる魔族。
 それに呼応するかのように、私も再度『勝利』の神護を発動させました。

 あらゆるものが超加速している次元せかい軸で、私の焦燥もまた超加速していきます。
 廻るめく解決策への模索に、どうしようもならないほどの焦りと焦燥.....。

 そして、それは起こったのです。

───ブンッ!

(.....はっ! 力を入れ過ぎてしまいました!!)

 私は今まで何度とも繰り替えされたように、何気なく【パンチ】を振るったつもりでした。
 しかし、この時ばかりは考え事に注意が向いてしまっていて、手加減が疎かになってしまっていたのです。

「避けてください!」
「......」

 しかし、私の切なる願いは魔族には届きませんでした。
 当然ですよね。私とは居る次元せかい軸が全く異なるのですから。

(くッ! 申し訳ありません、歩様!)

 そうですね。力の配分的には50%台の力と言ってもいいでしょう。

 まず間違いなく魔族は死ぬと思います。
 下手したら、跡形もなく吹き飛んでしまう可能性すらも.....。

 ですが、投げられた賽は───振られた拳は元には戻りませんでした。

 そして.....。

───パァァアアアン!

 ひと際大きな衝撃音を上げて、私の【ちょっと強いパンチ】は炸裂してしまいました。
 この小気味よい炸裂音は───まず間違いなくクリーンヒット級のものです。正直、ちょっとスッキリしてしまったことは内緒ですが、魔族にとってはひとたまりもないことでしょう。

 そう思っていましたら.....。

「もう止めよ?」
「!?」

 なんと、そこには私と魔族の間に割って入り、私達二人の攻撃をそれぞれ片手で防いでいる元女神の娘の姿があるではないですか! 

「い、いつの間に.....?」
「ん? 普通だよ?」
「普通?.....いえ、そうでしたか。私の敵ともなりえる存在がいたということですね」
「私は敵じゃないよ?」
「.....そういうことにしておきましょうか」

 そこで、改めて私は動きの勝利を解除することにしました。

 すると、元のあるがままの姿に戻っていく世界。
 それは、私も含め元女神の娘や魔族も例外ではありません。

「き、貴様! いつの間に!!」
「マリーちゃんももう止めよ?」

 世界の流れが元に戻って、事態を把握した魔族。
 そして、元女神の娘に向けられたその目つきの鋭さは、私に向けられたそれとはまるで違うものでした。

 ただただ憎悪の塊のような視線。
 ただただ怨念の籠った憎しみの眼差し。

 そういった言葉が正しい、それはもう鋭い視線さっきです。
 そして、その視線さっきだけでも、耐性を持たない者ならば殺せそうな程の憎しみが籠っていました。

(.....なるほど。これが二人の間にわだかまっている確執というやつですか)

 あまり興味がありませんでしたので聞き流していましたが、この二人の間にはそれはもう言葉では言い表せない程の怨恨があるとかなんとか。
 そして、そのせいで、この魔族は神に対してあまり良い印象を持ってはいないらしいのです。

 つまり、私やアテナ様に不敬を働いていたのは単なる八つ当たりということも.....。

「止めて欲しいのなら貴様が死ねッ! 今すぐ死ねッ!」
「ごめんね? 私の命は私だけのものじゃないの。だから死ねないよ?」
「ふざけるなッ! 貴様が居なくとも我さえ居れば問題ない!」
「それはね。マリーちゃんが決めることじゃないの。ユウジ(=現地勇者)が決めることなんだよ?」
「貴様がぁぁあああぁぁぁああ! 貴様がユウ君の名を口にするなぁぁあああぁぁぁああ!!」

 何やらヒートアップしていく魔族と、冷静に対処しているかのように見えてメラメラと静かに闘志を燃やしている元女神の娘。

 正直、私には現地勇者のどこがそこまで魅力的なのかさっぱり分かりませんので、ここまで熱くなれる二人の気持ちが全く理解できません。ただ、一つだけ言えるとしたら.....。

「申し訳ありませんが、時間も惜しいので痴話喧嘩なら後でお願いします」
「「!?」」

 私の突然の横槍に、「え? 今ここで?」みたいな驚きの表情を向ける元女神の娘と魔族。

 あれ? もしかして、これが『空気を読む』とかいうやつなのでしょうか?
 私としては、この無駄な時間こそ何とかして欲しい気分でしたので声を掛けただけなのですが.....。

「ちょうどいい。貴様も我を手伝え。この憎たらしいゴミを我とともに滅するぞ」

「.....はい? あなたは何を言っているのですか? そもそも協力して欲しいのなら、まずは今までの非礼を詫びなさい。話はそれからです」

 この魔族は何を言っているのでしょうか。
 いえ、魔族ですから───この世界の魔族がどうか知りませんが、目的の為ならば手段を選ばない魔族ですから、目的元女神の娘を殺すことの為ならば有効な手段私との共闘を選択するのは当然のことでしたね。

「貴様ら神というやつはッ!」
「マリーちゃん、ごめんなさいしよ? みんなで仲良くするの」
「貴様にだけは言われたくないッ! 仲良くしたいというのなら、まずは貴様が我に謝罪しろ!」
「どうすればいいの?」
「死ねッ! 貴様が死ぬこと以外に他はない!」
「それは無理だよ?」

「.....」

 またしても、痴話喧嘩の堂々巡り。
 何とも効率の悪い説得方法だと思います。

(そもそも、この元女神の娘は私達の戦闘を止めにきたのですよね? その方法が、これということなのでしょうか?)

「どうあっても止めるつもりはない?」
「当たり前だッ! 我は貴様ら神の指図は絶対に受けない!」
「じゃあ、仕方がないね?」

───ドドンッ!

「「!?」」

 元女神の娘のその言葉を合図に、魔族の体が大きくぶれましたように見えました。
 それは例えるのなら、何か形無いものが掴まれたままの手から一瞬にして魔族の体内を駆け巡るようなとても大きな衝撃波。

(このとてつもない衝撃波はもしかして.....)

「かふっ..............................」

 そうそう。この私でさえとてつもないと感じた衝撃波です。
 当然のことながら、魔族に耐えきれるものではないでしょう。

 すると、今の今まであんなにも苦労させられていた魔族が、元女神の娘のそれだけでゆっくりとゆっくりと膝から崩れ落ちていき───そのまま気を失ってしまいました。

 ちなみに、気絶している魔族のその姿は、まるで今までの非礼を謝罪するかのように土下座のようなポーズを取っていたことをここに明記しておきます。

「マリーちゃん、ごめんね? 後でちゃんとお話しよ?」
「.....」

 既に気を失っている魔族に対して、慈愛の眼差しを向ける元女神の娘。

 どうやら現地勇者が言っていた通り、憎しみの感情を抱いているのは魔族だけのようです。
 ともすれば、元女神の娘と魔族の二人の間にあるわだかまりもいつかは解消できる日が来るかもしれない───いえ、無理そうですかね?

 ですが、それでも同じ女神として、元女神の娘には頑張って欲しいところではあります。
 少なくとも、私達の世界に魔族を解き放つことが無いようにはして欲しいところです。とは言え、そうなったら、その時は魔族を遠慮なく殺しますが.....。

「ニケちゃんもごめんね?」
「いえ、困っていましたので助かりました。ありがとうございます」
「そう? どういたしまして?」
「本当に助かりました。あのままだと魔族を殺していたのは確実でしょうから」

 最悪、魔族を殺してしまった場合はどうにかするつもりではありました。
 それでも、私が魔族を殺すことを何度も躊躇ったのは、偏に歩様から失望されるのが怖かったからです。

 一度失ってしまった信頼は取り戻すのにとても時間が掛かってしまいますからね。
 いいえ、一度失ってしまった信頼は二度と取り戻すことはできないでしょう。『覆水盆に返らず』とも言いますし。

 とりあえず、私のピンチを救ってくれたことに感謝をしつつ、気になることを尋ねてみました。

「一つ伺いたいのですが、よろしいですか?」
「うん。いいよ?」
「魔族に放った衝撃波はもしかして.....」
「そうだよ。ニケちゃんからこうげきを、私がちょっと利用したんだよ?」
「貰った.....。いえ、やはりそうでしたか。お見事なものです。さすがは原初神様ですね」
「え!? 見えるの!?」

 この場合の元女神の娘の驚きは、私が元女神の娘のステータスを見えているからではないでしょう。
 恐らくは、元女神の娘が意図的に隠していたものすらも、私が見えてしまっていることへの驚きが近いと思われます。

 ただ、私にはこの元女神の娘が何を秘匿していたのかまでは分かり兼ねます。
 それと言うのも、私の『勝利』の神護は、この異次元世界に到着したその瞬間に世界を含めあらゆるもの全てに自動的に勝利してしまっているのですから確認の仕様がありません。

 つまり、私達の世界に居る時と何ら変わりのない状態となってしまったのです。
 故に、この『勝利の女神』である私に隠し事は不可能。

 ちなみに、アテナ様もまた、この元女神の娘の真の姿を看破していたと思われます。
 だからこそ、アテナ様ご自身で率先して友好を結ばれたのでしょう。

(さすがはアテナ様! お美しくもその賢明なる判断に、このニケただただ感服するばかりでございます!)

 今は屋敷にて眠ってしまわれている素晴らしき主人に尊敬の念を捧げながら、私は同僚第二の強敵とも言うべき元女神の娘のステータスを覗くことにしました。

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『ヘイネ』 レベル:9999★ 危険度:小

 種族:神族(人間族)
 年齢:3851
 性別:♀

 職業:元女神/神闘士
 称号:豊壌の神/子宝の神/万物クリエイター
    唐揚げ女神/てんぷら女神/餃子女神
    原初の神

 体力:9,999,999★
 魔力:9,999,999★
 筋力:9,999,999★
 耐久:9,999,999★
 敏捷:9,999,999★

 装備:なし
    勇者の片イヤリング
    誓いの指輪
    オラクロアのエンゲージリング

 技能:なんかいっぱい

 加護:『原初』 Lv.9999★ 9999/9999
    『豊穣』 Lv.9999★ 9999/9999
    『子宝』 Lv.9999★ 9999/9999
    『万創』 Lv.9999★ 9999/9999
    『暴食』 Lv.9999★ 9999/9999
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 既に分かってはいたことですが、やはり素晴らしい力を有していますね。
 特に目を見張るものが『危険度』でしょうか。

 これまで私と者の多くは、ほぼ必ず『必勝』と表示されていました。
 これはつまり、何があろうと私の勝ちは絶対に揺るがないという表示でもあるのです。

 しかし、この元女神の娘は『小』の表示。

(なるほど。『極小』では無い辺り、私に多少なりとも警戒心を抱いているようですね)

 そうそう。「『小』では大したことがないのでは?」と思われるかもしれませんが、これは私に対して敵愾心があまり無いからこその表示であって、実際はどうなるか分かったものではありません。

 少なくとも、50%の力では全く歯が立たないことは、私の攻撃を先程防いだ点でも確実でしょう。
 恐らくは、私が全力で持ってようやく勝てるレベルの相手と踏んで間違いは無いかと思います。

 特にそれを根拠付けるのは『原初の神』であることです。
『原初の神』とは創世記の神、この世界を創り上げた最初の神であることを指します。

 そうですね。私達の世界で例えるのなら、ゼウス様とヘラ様でしょうか。
 少なくとも、ゼウス様とヘラ様を除く他の主神様達よりも神格はずっと上の神となる訳です。

 ただ、それにしては.....。

「若過ぎますね。.....もしかして、転生神ですか?」
「!?」
「いえ、複雑な事情が有りそうですから語らずとも結構です。あなたに興味も有りませんので」

 こうは言いましたが、元女神の娘の驚いた表情を見れば、この元女神の娘が転生神であることは一目瞭然です。

(そう.....ですか。そうですよね.....。でなければ、その若さでそこまでの力は手に入らないものですしね。気持ちは凄く分かりますよ?───それを語りなく気持ちもね)

 正直、ようやく魔族との戦闘から解放された後だけに、ここで無用な詮索をした結果、藪をつついて蛇を───いいえ、虎もしくは竜を出すのだけは控えたいところです。

(私は一刻も早く歩様に誉めてもらいたいのです!)

 結果は元女神の娘の助力ありきとはいえ、終始圧倒的だったことは間違いありません。
 これならば、私達の強さを異世界の者達に十分に知らしめることができたと言えましょう。

 その上、魔族を殺さないというノルマを達成した状態での完全勝利。

 これは、まず間違いなく誉められるに違いありません。
 もしかしたら、その場で初めてのキスを頂けてしまうという可能性ごほうびも.....。

「ニケさーん。もう大丈夫なら、ちょっと来てもらってもいいですかー?」

 事実、とてもにこやかな笑顔で歩様が私を手招いています。

 そうです。私は歩様のこの笑顔が見たかったのです。
 その為に、わざわざ不敬で鬱陶しい魔族の相手をしたのですから。

「随分とお待たせしてしまいました、歩様。申し訳ありません」
「いやいや。凄い戦いでしたよ。.....まぁ、俺は何も見えてはいませんでしたが。それでも、さすがはニケさんです」
「ありがとうございます! 嬉しいです! 結構頑張らせて頂きました!」
「うんうん。確かに頑張っていたみたいですね。.....だからこそ、一言いいですか?」
「!?」

 き、気のせいでしょうか?
 歩様を包むオーラが、穏やかなものから何か別のものへと.....。

(.....ごくっ)

 とても嫌な汗が頬を伝います。
 分かります。何か良くないことがこれから起こる気がします。

「な、なんでしょうか?」
「ニケさん、アウトー!」
「えぇ!? ど、どういうことですか!?」

「頑張り過ぎです。見てください。現地勇者なんて亜空間の維持だけでヘトヘトになっていますよ? これ、ほとんどニケさんが原因らしいですね?」

 確かに、私の目の前では現地勇者がテーブルに突っ伏しています。
 そして、歩様の言う通り、肩で荒々しく息をしていてとれも疲れきっているようです。

「ハァ.....。なんて脆弱な勇者なのでしょうか。これしきのことぐらい───」
「ニケさん?」
「は、はい!」
「だから、その原因の元凶がニケさんなんですよね?」
「.....」

 歩様からの視線がとても心苦しいです。
 まるで責められているような、そんな感じの視線で.....。

 とは言え、歩様の言う通り、確かに私が原因なのでしょう。

 それと言うのも、この現地勇者が創ったとされる亜空間は色々と制限が掛けられていたのです。
 恐らくは、この亜空間内での戦闘を考慮に入れた安全システムみたいなものだと思われますが、それを私が片っ端から全て勝利させて頂きました。

 しかも、厄介な事に自動修復機能までも付いていましたので、修復不可能なレベルにまで徹底的に勝利はかいさせてもらったのです。
 そうでもしなければ、あの魔族に圧倒的な力量差を見せつけることはできませんでしたから.....。

 だから、これは必要なことだったのです。
 そう、これは必須項目とも言えるでしょう。

「認めるんですね?」
「で、ですが.....」
「認めるんですよね?」
「.....は、はい。申し訳ありません」

 うぅ.....。そんな怖い目で睨まないでくださいよぉ、歩様ぁ。

「驚いたのぅ。あのニケ様が、主の前では借りてきたな"ーのようになるとはの」
「黙りなさい! ヘリオドール!」

 誰がな"ーですか、誰が!
 せめて、借りてきた猫と言って欲しいものです! 

 それに、私はな"ーみたいに太っては.....。

「ニケさん?」
「は、はい!」
「どうやらニケさんには反省の色が無いみたいですね。だから、反省の意味も込めて罰を与えます」
「ば、罰ですか!?」
「.....今日一日、俺はニケさんと口を利きません。それがニケさんへの罰です!」
「そ、そんな! それはあまりにも酷いです!!」

「俺は言いましたよね? 「いい加減にしないと本気で怒りますよ?」と。それを破ったのはニケさんですからね? だから、反省してください。.....いいですね?」

(ああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁあああああああ。あの魔族! 絶対に許しません!!)


 こうして、私と魔族の戦いは終焉を迎えたのです。

 私は今日一日歩様とのおしゃべり禁止という罰を、そして魔族は一週間ローテアウトという罰を課せられ、双方喧嘩両成敗という辛い結果を残して.....。

 その結果、翌朝の膝枕に繋がったという訳なのです。少しでも歩様の心証を良くしたい一心で───。

        
                     異世界編 異世界住人との交流会  完


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後書き

次回、本編『新たな朝』!

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これにて、全ての特別編が終了となります。
約一ヶ月の間お付き合い頂きましてありがとうございました。お楽しみ頂けたでしょうか?

そして、お待たせ致しました。
次話より本編へと戻らせて頂きます。よろしくお願い致します。

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