歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~
特別編 異世界と愉快な住人達!⑥ side -ニケ- 前編
タイトル通り、前後二編に分割します。
異世界編終話となる物語は明日UPします。
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□□□□ ~切っ掛けは愛ゆえに~ □□□□
切っ掛けは本当に些細なことでした。
そう、それは歩様がお手洗いの為に席を立たれ、現地勇者も家族を迎えに行く為に少し離席した時に起こったのです。
「そのハレンチな服装を何とかしなさい」
「.....」
「もう一度言います。そのハレンチな服装を何とかしなさい」
「うるさい! 神ごときが我に意見をするなッ!」
それと言うのも、異世界住人達との交流が始まってからはずっと、歩様の視線がこの魔族の胸にロックオンされていたのです。
当然、歩様は紳士なお方ですからマジマジと見ていたという訳ではなく、誰にも気付かれないようちらちらっと窺う程度ではありましたが。
それでも、ずっと見ていたことには変わりありません。
となると、これは非常に腹立たしいというか許されざることです。
どうしてかと言うと.....。
歩様の瞳には私さえ映っていればいいのです。
歩様の興味は私にだけ注がれていればいいのです。
故に、これは許されざる大罪。
「早く着替えなさい。私の歩様を惑わすなど万死に値します」
「はぁ? 誰も貴様の軟弱な男などに興味はない」
「私の歩様が軟弱?.....死にたいのですか?」
「軟弱を軟弱と言って何が悪い。第一、女としての魅力がない生娘とはお似合いの軟弱野郎だと我は思う。良かったではないか、お似合いで。なぁ、未通女神?」
「.....」
同性である私から見ても美しいと思うその端正な顔を、端正なりに歪めましたとでも言わんばかりに醜く歪め、醜悪な表情で嘲り笑うこの魔族。
───ぶちッ!
正直、もう我慢の限界でした。
私は今の今まで耐えがたきを耐えてきましたが、もう我慢なりません。
元より、この魔族が神である私に不敬な態度を取っていたことに関しては気にしないようにはしていました。
ですが、私の尊敬するアテナ様までもを見下した態度.....。
あれはマジックキャンディーなるマジックアイテムを献上させた時のことです。
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「歩様。それはマジックアイテムだそうです。なんでも言語を理解するものだとか」
「へ~。それはまた便利なアイテムもあったもんだな」
「ねぇーねぇー。私も食べていいー(。´・ω・)?」
「お前は自分の『智慧の女神(笑)』の力でなんとかしろよ」
「いやー! 私も食べるのーヽ(`Д´#)ノ」
「ハァ.....。分かった。分かった。───じゃあ、3つ貰ってもいいですかね?」
歩様は言葉が伝わらなくとも、魔族にも分かるよう指で3という数字を示しました。
本当なら私が魔族に伝えても良かったのですが、歩様のそれは私がでしゃばる必要も無い程の完璧な伝達方法だったと言えましょう。
(さすがは歩様───いいえ、さすがは私の歩様です!)
しかし、それは起こったのです。
───ポイッ。
「「え?」」
「ん(。´・ω・)?」
何が起こったのか理解できずに───いいえ、本当は理解しているのですが、その状況が信じられずに固まる私と歩様。
それと状況を全く理解していない───いいえ、もはや全てを理解して尚も寛容な姿を見せているアテナ様。
(さすがはアテナ様。その御心の深さに、このニケただただ感心するばかりでございます)
それというのも、この魔族はこれからアテナ様も口にされるというマジックキャンディーなるものを、まるでゴミをゴミ箱にでも投げ捨てるかのように放り投げてきたのです。
そして、一言。
「恵んでやる。そこのちび神にはこれがお似合いだろう?」
「こ、これはどういうつもりですか! 答えなさい!」
さすがの私もこればかりは許せませんでした。
自分の尊敬する主人になんたる無礼。
その神をも畏れぬ腐りきった性根を今すぐにでも叩き直さねば気が収まりません。
そう思っていたのですが.....。
「お姉さん、ありがとー! おしそーだよねー! あーははははは( ´∀` )」
アテナ様からは「気にしてないよー!」とでも言わんばかりのかわいらしい笑顔。
つまり、アテナ様からこの魔族にお許しが出た以上、私にはどうこうする権利が無くなってしまったのです。
「.....ふん。プライドもないのか、この神は? つまらない」
「あなたはッ!」
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と、こんな出来事があった上での更なる無礼な発言。
これが、まだ私だけを侮辱したのなら神の名の元に慈悲を与えたかもしれません。
ですが、尊敬するアテナ様だけではなく、愛する歩様を侮辱されたとあってはもはや我慢できるものではありません。
いいえ、ここで我慢などしようものなら、それこそ私の歩様への愛を疑われてしまいます。
と、今になって冷静に考えてみたら、これが戦いの切っ掛けだったのかもしれません。
しかし、あの時の私は怒りに燃えていて.....。
「.....面を貸しなさい。制裁をしてあげます」
「いいだろう。お前はユウ君(=現地勇者)には関係ない奴だからな。遠慮なく殺してやる」
こうして、私と魔族の戦闘が始まることとなったのです。
□□□□ ~神魔対決・前哨編~ □□□□
───ヒュン!
───ヒュン!
───ヒュン!
「?」
いま私の目の前では、目にも止まらぬ速さで槍を振り回している魔族の姿が見えます。
(あれは.....何をしているのでしょうか?)
私にはその行動の意味するところが全く分かりません。
これだから魔族は───いいえ、人間という種族は理解し難いのです。
対して、私は何もすることはありません。
特にこちらから仕掛けることもありません。
そもそも、これは戦闘という名の単なる教育でしかないのですから。
ちょっとやんちゃな魔族に、私との徹底的な力量差を見せつけて絶望してもらえばいいだけなのです。
「何をしているのかは分かりませんが、早くかかってきなさい。軽く捻り潰してあげま───」
「.....」
───フッ!
私が言い終わらない内に、魔族の姿が私の視界から一瞬で消え失せました。
なるほど。神である私の視界から一瞬とはいえその姿を眩ますなど、人間にしては見事なスピードだと言えましょう。思わず「まさか逃げられた?」と思ってしまいましたよ。
「早くきなさい。あなたごときに、そう時間を割いている暇はないのです」
隙を窺っているのか何か分かりませんが、私の周りに蠢く禍々しい殺気の数々。
この、まるで心を射抜かれてしまいそうになる程の殺気が、仮に魔族のものではなく歩様のものだったならどんなに良かったことでしょう。ハァ.....。本当に残念です。
───ブオッ!
そんなことを嘆いている間に、私の背後から迫り来る魔族の殺気。
「.....」
なんというか浅はか過ぎてちっとも面白味がありません。
所詮、魔族と言えど人間に過ぎないようですね。こんなバレバレな小細工を弄するようでは.....。
───ガチ。
「これは回収させて頂きます。歩様に誉めて頂いた着物に、万が一傷でも付けられようものなら堪ったものではないですからね」
「!?」
驚いた表情をしている魔族を無視して、私は魔族が放った殺気及び上下左右斜め8つの幻影全てに勝利して、これを叩き潰しました。
そして、三段構えの本命だろうと推測できる正面からの魔族の攻撃を、私は親指と人差し指でポテトチップスを摘まむかのような要領で軽く受け止め、素早く深紅に染まったセンスの悪い槍を回収させて頂くことに。
当然ですよね。
私は槍で刺されようと無傷で済みますが、着物はそういう訳にはいきませんしね。
ちなみに、魔族の行ってきた三段構えの概要はこんな感じです。
まず第一段の構えは、私の背後に殺気を放つことで私の注意をそちらに逸らす目的があったのでしょう。とは言え、バレバレでしたが。
そうそう。この殺気自体も攻撃魔法の一種だったようで、その光景を見た現地勇者が思わず『カイザ○フェニックスだ!』と叫んでいましたね。
そして第二段の構えは、殺気が囮だと気付かれた際に更なる陽動として、上下左右斜め8つの方向から同時に魔族の幻影をけしかけてくる攻撃でした。
そう言えば、この8つの幻影は攻撃力のみなら魔族と同等の能力を持ち合わせていて、その光景を解説してもらった歩様が思わず『多重影分身○術だ!』と叫んでいましたね。
最後の第三段の構えは、目にも止まらぬ速さでの正面からの突きで、まさか正面から攻撃が来る訳はないだろうとの私の油断を誘うつもり目的だったのでしょう。
ちなみに、『背後の殺気』+『8つの幻影』+『正面からの突き』の9つの同時攻撃の光景を見た現地勇者と解説してもらった歩様が思わず『九○龍閃だ!』と叫んでいましたよ。
さすがに、この時ばかりは私とヘリオドールも「9つではなく10なのでは?」と(私は心の中で)ツッコミを入れてしまいました。
そして、そのことで現地勇者と歩様からは「これだから女の子は.....。ロマンが無いなぁ」などと落胆されてしまう羽目に───ヘリオドールが、ですが。
(ごめんなさいね、ヘリオドール。この私が歩様から落胆される訳にはいきませんからね)
第一、殺気などというものを放っている時点で三流なのです。
そして、幻影などというつまらない小手先を弄することも、これまた三流なのです。
「覚えておきなさい。真の強者とは殺すべき相手に殺気など放ちません」
「.....」
そもそも、真の強者からしてみれば相手を殺すこと自体が目的ではないからです。
相手が死んでいる、これが事実であり決まった将来なのですから、わざわざ殺気を放つ理由などどこにもないのです。
「これで彼我の戦力差が分かったことでしょう?」
「.....」
「謝罪しなさい。いまこの場で誠心誠意謝罪するのならば、格別の恩情を持ってその罪を見逃しましょう」
「.....もう我に勝ったつもりか? 本番はこれからだッ!」
やはり、この程度では振り上げた手を引っ込める段階には至らないようです。
とは言え、私としても、この愚かな魔族が二度と神に楯突かないよう徹底してその身に恐怖を植え付ける予定でしたので、今更この程度で謝罪されても困るところでした。
「小細工など弄していないで全力で来なさい。その全力すらも叩き潰して上には上───いいえ、この世には絶対に敵わない存在がいると───そして、あなたの目の前にいる私がそうだと悟らせてあげましょう」
「.....いいだろう。我の全力で持って、貴様を殺してやる」
私の語る真理に、殺気と闘志をみなぎらせる愚かな魔族。
あ~。なんて心地好いのでしょう。モリオンとは比較にならない程のそれに、いくら私の完全勝利という結果が分かりきっているとはいえ、微かばかりの期待に体が疼くのを抑えきれません。
・・・。
さて、どんどんヒートアップの様相を見せる私と魔族でしたが、そこに待ったを掛けてきた人物達がいました。
そして、その人物達は私と魔族の間に割り込んできては強引に戦いを止めさせるつもりのようです。
「お姉様! これ以上はユウ様(=現地勇者)に怒られますの! もう止めるんですの!」
「セリーヌ(=お姫様).....」
「二.....。二.....。.....お姉ちゃん、止めるのだ! ド.....。ド.....。.....お姉ちゃんがお姉ちゃんを止めるよう我に言ってきたのだ! だから、止めて欲しいのだ!」
「モリオン.....」
この際、いまだにモリオンが姉である私達の名前を覚えていないことについては不問としましょう。
第一、モリオンの日々の教育は歩様のお仕事だと言われておりますので、これについてとやかく言うのは越権行為となります。
しかし、この場においてはそういう訳にはいかずに.....。
「モリオン。下がっていなさい」
「でも、お姉ちゃんが.....」
「私の───いいえ、姉の言うことが聞けないのですか?」
「!!」
すると、先程まで使命感に燃えて「キリリッ!」としていたモリオンの表情が、途端に「んにゅっ!」といった感じに歪み慌て始めました。
やはり、『姉』というキーワードは効果てきめんでしたね。
それと言うのも、私には家族というものがありません。
ですので、実は家族愛や姉妹愛というものを今までよく分かってはいませんでした。
厳密にはアテナ様にもご兄弟姉妹様はいらっしゃいますが、何も私はアテナ様のご兄弟姉妹様だから尊いなどとは認識していませんでした。
単なる神格の理由上、アテナ様のご兄弟姉妹様は尊い存在なのだと認識していたのです。
要はご兄弟姉妹様はそういうものだと、一種の設定みたいなものだと認識していた傾向が今までは強かったということなのです。
しかし、アテナ様と歩様の異世界旅行を拝見させて頂くようになって少しずつ少しずつですが、それが分かるようになってきました。
つまり、姉は妹よりも偉い。
「う、う~ん。我はどうすればいいのだ.....? お姉ちゃんは止めろと言ったのだ。でも、お姉ちゃんは下がっていろと言ったのだ」
「私はヘリオドールの姉でもあるのですよ。私の言うことを聞きなさい」
「そう.....なのだ? じゃあ、お姉ちゃんのほうがお姉ちゃんよりも偉いのだ?」
「そういうことです。だから、危ないから下がっていなさい。───いいですね?」
「分かったのだ! 邪魔してごめんなさい、なのだ!」
故に、この場を邪魔してくるモリオンを下がらせる為には、私自身をヘリオドールやモリオンの姉であるとキッチリ分別させることこそが、何よりも重要だと理解したのです。
一方、魔族の方はというと.....。
「ちょうどいいかも~。セリーヌちゃ~ん、手伝って~。一緒に~、憎き神を殺そう~?」
「.....え? で、でも、ユウ様に怒られてしまいますの。それに.....この女神様は関係ないですの」
「所詮ね~、神は神だよ~。我達の~、憎むべき神に~、変わりはないよ~」
「で、ですが.....」
「.....セリーヌ。姉の言うことが聞けないの?」
「ひ、ひぃ! お、お付き合いさせて頂きますの!」
どうやら妹である狼の娘を仲間に引き入れて共闘するつもりのようです。
それについては別に私から何も言うことはありません。「卑怯です!」とか「ズルいです!」なんて、微塵も感じないですしね。
(そうですね、それでも敢えて何かを言うのなら「ご自由にどうぞ」とかでしょうか?)
そもそも、私にとって『数』とは脅威にもならない単なる烏合の衆に他ならないからです。
どういうことかと言うと、恐らく人間の間では『1(人)+1(人)=2(の力)』という図式が成り立つのでしょう。
しかし、私の場合は『1(人)+1(人)=1(の力)』でしかないのです。
いくら『1』の力が大勢集まろうとも、所詮『1』の力でしか有り得ないのです。
ですので、人間が言うところの『数は力。数は暴力』が全く当てはまらないということになります。
そして、それはこの狼の娘も例外ではなく.....。
「よろしいのですか? 私に敵対すると言うのなら、あなたも同罪としますよ?」
「女神様。申し訳ないですの。.....ですが、お姉様の言い付けは絶対ですの」
「そうですか。ならば仕方がないですね。では、しばらく休んでいなさい」
「それはどういう───がッ!?」
「セリーヌ!」
その場で、糸が切れたマリオネットのように膝から崩れ落ちていく狼の娘。
今更説明するまでもないと思いますが、モリオンの時と同じように狼の娘の意識に働きかけて勝利させて頂きました。これをもって、神からの慈悲と致しましょう。
そもそも、この狼の娘は神に不敬を働いた訳ではありませんからね。
しかも、参戦の理由が魔族からの強制とあっては情状酌量の余地はあると見てもいいでしょう。
しかし、罪は罪。故に、然るべき罰は受けてもらいました。
信賞必罰は神としての威厳を示すにはとても重要なことですしね。
「貴様! 我の妹に何をしたッ!」
「制裁です」
「慈悲.....だと?」
「そうです。その者に含むところは一切ありませんが、それでも神に楯突いた時点で罪となります。いいですか? 本来なら反逆罪で極刑になるところを、その程度で済ませてあげたのです。もっと感謝して欲しいところですね」
第一、これを神の慈悲と言わずして、何を慈悲と言うのでしょうか?
それに考えてみてください。仮に私やアテナ様以外の神々だったとしたら、逆らったその時点で、この狼の娘は恐らく殺されていたはずなんですよ?
それを私の裁量ではありますが、愚かな魔族とは違って気絶程度で済ませたあげたのです。
ここはいくら愚かな魔族とは言えど、妹の命を助けてあげた神に感謝すべきではないのでしょうか?
(それに、姉妹愛とはそういうものではないのですか?)
結局、感謝されるどころかより一層怒気を増している魔族を見て、私は人間の感情という複雑怪奇なものにほとほと困り果ててしまいました。
そして、更なる困惑する事態に遭遇することになるのです。それは.....。
「あー! お姉ちゃんが我の友達をいじめたのだ!」
「?」
「お姉ちゃん、何してるのだ!! 友達をいじめるのはお姉ちゃんでも許さないのだ!!」
ここにきて、まさかの展開です。
私と狼の娘のやりとりの一部始終を見ていたモリオンが、まさかの離反。しかも、対立へと.....。
「何を言っているのですか? 私に楯突いたのですから当然の結果なのですよ」
「よく分からないのだ! でも、友達をいじめるのは悪い子なのだ! 悪い子はお姉ちゃんでも許さないのだ!!」
「ですから、その悪い子がその者だったのです」
「我といっぱい遊んでくれたのだ! だから、そいつは良い子なのだ! 悪い子じゃないのだ!」
「.....」
怒りに体をわなわなと震わせ、血走ったような眼で私に殺気を飛ばしてくるモリオン。
どうやら、本気で私に怒っているようです。
それに、ここでは姉の威厳も功を奏しませんでした。
(えっと.....? 家族愛及び姉妹愛というものはそういうものなのでしょうか?)
よくは分かりませんでしたが、モリオンが邪魔なことだけはハッキリとしています。
そして、私に楯突くと言うのなら、例え仮染めの妹であろうと容赦はしません。排除するのみです。
「ハァ.....。邪魔です。あなたも大人しく休んでいなさい」
「何を言ってるのか分から───がッ!?」
「.....」
友達である狼の娘のように膝から崩れ落ちて気を失うモリオン。
その光景を私は氷の如く冷たい眼差しで見つめていました。
それと言うのも、歩様曰く「モリオンはバカかわいい」とのことですが、私にはさっぱり理解できません。
所詮、バカはバカでしかないと思うのですが.....。
本当、人間は複雑怪奇です。
「さて、邪魔者は全て潰しました。覚悟はいいですか?」
「.....あ、あいつは貴様の仲間ではないのか?」
「まぁ、そういうことになってはいますが、それが何か?」
「神には血も涙もないのかッ!」
「何を怒っているのですか?」
いや、本当に人間という種族は複雑怪奇過ぎて理解し難い存在です。
□□□□ ~神魔対決・私怨編~ □□□□
歩様がお手洗いから戻って来られました。
こうなると、魔族といつまでも戦闘をしている訳にはいきません。
一刻も早く制裁を終えて、歩様の側に行かなくてはならないのです。
それというのも、油断ならない相手は何もこの魔族だけではないからです。
どうやら現地勇者の専属メイドとか名乗っている小娘もまた、私の歩様に色目を使っている(※完全な被害妄想)節が見られますので油断も隙もあったものではないのです。
「.....お遊びはここまでです。時間も惜しいので、こちらから行きますよ?」
「返り討ちにしてやるッ!」
「では、行きますよ───ん?」
そこまで言って、魔族が不思議な構えを取っていることに気付きました。
それは足を肩幅ぐらいに開き、片手を天へと掲げ、もう片方の手を地へと翳す構え。
正直、私もそこまで武術に詳しい訳ではないのですが、それでも見たこともない構えです。
となると、ここは慎重に───とはなりません。その構えが何なのかは分かりませんが、やる事は決まっているのです。
(別にアレを倒してしまっても構わないのでしょう?)
そう、盛大な死亡フラグというやつを残して、私はゆっくりと魔族に近付いていきます。
「.....」
「.....」
そして、至近距離にて互いに見つめ合う私と魔族。
一方は感情の籠った眼差しで相手を見つめ、もう一方はまるで遠くに対峙した相手を睨むかのような焦点の合っていない眼差しで見つめています。
「.....これですね。この胸が───この胸が、私の歩様を惑わすのですね!!」
───バシンッ!
───バシンッ!
目の前にいる魔族の大きな胸を憎らしげに叩きます。
1回だけに止まらず、2回、3回と何度も.....何度も.....何度も.....何度も.....。
───ぶるんっ!
───ぶるんっ!
「.....」
その度に、左右に大きく脈打つかのように振られる憎っくき暴乳。
この忌まわしき胸こそが私の様を惑わしているのだと考えたら、もはや居ても経ってもいられません。憎しみが.....羨ましさが.....募っていくようです。
(ハァ.....。歩様はやはり大きいほうがお好きなんでしょうか?)
そう思うだけで溜め息が出ます。
そして、自分の胸に手を当てて現実を直視すると、とても悲しい気持ちになります。
以前、歩様はこう仰っていました。
「俺はおっぱいなら、大きくても小さくても好きです! 大きいのは言わずもがな、小さいのは小さいので魅力があるんですよ!」と.....。
そして、そのお言葉に嘘や偽りは無いのでしょう。
ですが、歩様の日々を監視していますと、大きい胸に関心を寄せている傾向が強いように思えてならないのです。
実際、魔族だけではなく、狼の娘を除く異世界住人全員の胸に関心を寄せていたことは事実ですし.....。
とは言え、一番関心を寄せていたのは魔族に、ですが。
だから、私は.....。
(憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い)
憎くくて、憎くくて、仕方がないのです。
私の歩様の関心を、私から奪うこの魔族が。
私の歩様の御心を、私から奪うこの魔族が。
そして、同時に.....。
(羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい)
羨ましくて、羨ましくて、仕方がないのです。
私の歩様の関心を、私から奪うこの魔族を。
私の歩様の御心を、私から奪うこの魔族を。
だから、これは戦いでも何でもありません。単なる私怨なのです。
どうしようもない怒りを、ただただ怒りに任せてぶつけているだけなのです。
「.....ふぅ。少しはスッキリしました。感謝します」
「.....」
「では、そろそろ制裁の時間と行きますかね」
───パンッ!
私が軽く手を叩いたことを切っ掛けに、全ての時間が動き始めました。
それは私の時間だけではなく、魔族を始め歩様達やこの異次元世界そのものの時間がゆっくりと、ゆっくりと、まるで息を吹き替えしたかのように静かに動き始めました。
これは『時への勝利』です。
それはありとあらゆるものの時に勝利する力。
当然、その対象には私も含まれます。
しかし、『勝利』の神護効果によって私は『引き分け』判定となり、時に勝利した時間軸でも動くことが可能となるのです。
正直、少し疲れてしまうので、あまり多用したくは無い技の一つですね。
「痛ッ!?」
「痛い.....? そんなに強く(胸を)叩いた覚えはないのですが?」
「何を言っている?.....いや、まさか貴様、我に攻撃したとでも言うのか?」
「攻撃だなんてとんでもない。軽く撫でただけですよ?」
「い、いつの間に.....」
「あなたに教える義理はありません」
しかし、妙ですね。本当に軽く叩いたつもり.....そう魔族に言った通り、撫でた感じ程度の力で叩いただけなのですが、それにしては魔族の忌まわしき暴乳が妙に赤く腫れているようにも見受けられます。
(.....あれ? 私、何かやっちゃいました?)
ただ、魔族の暴乳の腫れが一瞬で引いていくのが見えましたので、問題は無さそうです。
正直、この程度のことで降参されてしまってはあまりにも制裁しがいが無いので、もうちょっと頑張ってもらいたいところです。
せめて、死の間際を体験するぐらいのところまでは行ってもらわないと.....。
そうそう。言うまでもないと思いますが、この愚かな魔族を殺すつもりなどは一切ありません。
ここはアテナ様達オリンポス12神様とは異なる神々が管理する世界です。
そんな世界で、私が思慮に欠いた行動に出ることはオリンポス12神様達にご迷惑を掛けるどころか、素晴らしい主人であるアテナ様の御名を穢す行為にもなってしまいます。
とは言え、本音を言えば、歩様に言い寄る怨敵どもは一人残らず殺してしまいたいところではあります。
ですが、いくら神格の低い私と言えど、公私分別ぐらいはキチンと弁えているつもりです。
「では、早速制裁をしてあげます」
「ふざけるなッ! 貴様が何をしたのか知らないが、もう我には効かない! その高慢な鼻っ柱をへし折ってやる!」
□□□□ ~神魔対決・驚愕編~ □□□□
「こ、これは驚きました。.....あなた、ただの魔族ではないですね?」
「お、お前は何者だ? 神ごときが、なぜ我にダメージを与えられる?」
私は口から滴り落ちる血を拭いながらも、努めて冷静に振る舞いました。
そもそも、自分の血を見るなんていつ以来でしょうか?
少なくとも、神としての成人である成神を迎えて以降には記憶がありません。
いや、それだけではありません。
───フッ!
再び、私の視線から魔族の姿が消え失せました。
(くッ! 速い!!)
正直、もはや素の状態の私では、その姿すらも確認できない程の高速移動です。
しかも、恐らくは先程よりもずっと速い動きなはず.....。
(驚きました.....。まさか人間がこれほどまでに.....)
しかし、この私にスピードなんてものは意味を為しません。
ただ、たかが魔族程度.....たかが人間程度に『勝利』の神護を使わざるを得ないというのは実に癪です。
(ですが、そうも言っていられませんね。───『勝利』発動!)
【『勝利』を発動しました。これより全ての動きに勝利します】
私の『勝利』の神護が発動したことで、私の動体視力はぐぐ~んと大幅に上がりました。
現在、なかなかお目にかかれない超加速フィールドになっていますが、恐らくこれこそが魔族が見ている世界と同等又はその上の世界ということなのでしょう。
では、肝心の魔族はというと.....。
「!!」
「.....」
お、驚きました。
まさか、こんなにもすぐ目の前にまで迫られていようとは.....。
現在、魔族はスローモーションのような動きをしつつ私に襲いかかってきています。
しかも、あの変な構えをしながらです。
確か、歩様達の話を小耳に挟んだところ、【天地魔鏡の構え】とかいう名前のカウンター技だったとか。
そう、この魔族はカウンター技とか言いつつ、普通に攻撃技にまで昇華しているようです。
とは言え、私からすれば、それは単なる三回攻撃に他なりませんが.....。
───パンッ!
だからと言って、迫りくる攻撃をわざわざ待つ必要も、受けてあげる義理も全くありません。
私は魔族の【天地魔鏡の構え】が発動する前に、手短にお腹に一発普通の【パンチ】を喰らわせてその場から下がりました。
どんなに優れたカウンター技であっても、発動前にヒット&アウェイしてしまえば何の問題もないですしね。
「.....ふぅ」
「.....」
【『勝利』を解除しました。これより全ての動きを世界軸に合わせます】
私が『勝利』を解除したことで、世界の全ての動きが元の姿に、あるがままの姿に戻っていきます。
当然、それは私と敵対している魔族も例外ではありません。
「がはッ!?」
「.....」
急激な動きの制限及び唐突なボディへの攻撃に苦しそうな呻き声を上げる魔族。
ただ、やはり気のせいではなく、確実に魔族へのダメージ量が減っているようです。
そして.....。
「.....ごふっ」
「はぁ.....。はぁ.....。がっふ。はぁ.....。はぁ.....」
私に反射されてくるダメージ量が徐々に増えてきてもいます。
とは言え、ダメージというダメージ程でも無いので、全く脅威とはなりませんが.....。
【『勝利』が発動されました。これより全てのダメージに勝利します】
さて、既にメッセージ内容が少し違うことにお気づきになられましたでしょうか?
それと言うのも、私の『勝利』の神護は【アクティベートパッシブ加護】となります。
【アクティベートパッシブ加護】とは、その力をアクティブスキルのように自由に使用できる事とパッシブスキルのように自動で使用される効果の事を指します。
主に攻撃面(ex.時や動きに勝利など)はアクティブ効果で、補助や回復面(ex.ダメージに勝利など)はパッシブ効果で発動されます。
話を戻しまして.....この間、僅か10秒にも満たない刹那的な戦いです。
恐らく、歩様やヘリオドールの目には何も映ってはいないことでしょう。
ただ、現地勇者は賢しくも歩様に解説している辺りから、私達の動きを見えてはいるのだとは思います。
あ~。歩様の「こいつ、すげー!」的なキラキラした尊敬の眼差しがとても心地良さそうです。今すぐ、その場を私と交替して欲しいものです。.....いいえ、今すぐ交替しなさいッ!
と言いたいところですが.....。
「どこへ行くつもりだ? 我との勝負はまだ着いてはいないはずだぞ?」
「ハァ.....」
私同様、すっかりと体力を全快しきった魔族が、その道を阻んできました。
正直、彼我の戦力差は明白だというのに───そして、絶対に勝ち目が無いというのに、この衰える事なき闘志には感服するものの少し辟易してきました。
既に、圧倒的実力差というやつは、魔族のその身に十分に刻むことができたと思われます。
確証はありませんが、この魔族の強さからすれば、それは十分に感じ取れたことでしょう。
故に、後は魔族が不敬な態度さえ改めるというのなら、制裁の時間は終わりにしてもいいとさえ思っています。
「ふざけるなッ! 我はまだ貴様に負けてなどいない!」
「.....あなた程の者です。これ以上戦ったところで、勝ち目が無いことなど当にお分かりでしょう? それでも、まだ戦う必要がありますか?」
「そんなことを偉そうに言ってきた神を我は今まで殺してきた。そして、それは貴様も同じだッ!」
「.....」
訂正します。どうやらこの魔族は頭がおかしいようです。頭おむつライオンでした。
これは徹底的に、それこそ問答無用に黙らせる必要があるようです。
そうなると手段は限られてきます。
つまり、『一瞬で意識を刈り取るか』又は『一瞬で殺すか』ということですが.....。
「貴様こそ、余裕が無いのは分かっている」
「.....え?」
「痩せ我慢がいつまで続くか見物だな」
───フッ!
そうトンチンカンな事を言い残すと、再び魔族は私の視界から消え失せました。
この繰り返される代わり映えの無い戦いはいつまで続くことやら.....。
正直、殺すだけなら何の問題もありません。
それがOKだと言うのなら、今すぐにでも跡形もなく瞬殺して見せましょう。
ですが、それができない理由は先にも申し述べましたし、何よりも歩様がそれを望んでいないことが判明しましたので絶対に不可です。
故に、私ができることはこの魔族を生かすこと。
即ち、魔族の意識を一瞬で刈り取って、この果てしない戦いに終焉をもたらすのみということです。
(全ては私次第ということですね。それはそれで困りましたが.....)
そして、私も再び『勝利』の神護を発動させて、超加速ワールドへとその身を投じました。
私を包み込む次元軸が一気に加速されていきます。
いくら『勝利』の神護のおかげといえど、これは少し常軌を逸した次元軸と言えるでしょう。
(なるほど。先程よりも更に速い次元軸ですか.....)
やはり、回を増すごとに徐々に───いいえ、これは先程の私の力を上回る力が反映されていると考えるべきでしょう。
それはつまり、魔族がまたパワーアップしたことを指します。
(この者はどこまで強くなるというのでしょうか? この強さ.....もはや主神様すらをも越えていますね)
人を、神をも超越せし、その力と存在。
そして、恐らくですが、徐々にパワーアップしているところから察するに、私がこの魔族の力をどんどん引き出しているものだと思われます。
となると、当然この魔族を野放しにしておくのはあまりにも危険。
ですが、ここはオリンポス12神様の管理外世界。
それはつまり、私が守るべき世界では無いということ。
となれば、多少無責任な気はしますが、私の知るところではありません。
私が守るべき世界は愛する歩様と尊敬すべきアテナ様がいらっしゃる世界だけなのですから。
そう、結論付けたところでゆっくりと迫りくる魔族にもう何度目かも分からない【パンチ】を一発お見舞いします。
「氷砕○牙ッ!」
───パァンッ!
はい。さすがにふざけすぎましたね。
いえ、別に技名をふざけたとかではないんです。
そもそも、私には技と呼ばれるものがあまりありませんので、勝手に拝借させて頂いたに過ぎません。
ちなみに、拝借先は当然のことながら現地勇者と歩様を置いて他にはいません。
ただ、ヘリオドールが「また主達の文化で、まんがかげえむからかの?」と呆れていましたが、実際その通りらしいです。
なんでも、私のただ踏み込んで殴る様が元ネタにそっくりなんですとか。
とにもかくにも、一発お見舞いしたらすかさず距離を取ります。
これも、今まで何度も行われたシーンです。
正直、この果てしない戦いに終焉をもたらすつもりなら、何か変化が欲しいところなのは重々承知です。
ですが、これがまた非常に難しいのです。
例えば、お見舞いする【パンチ】を一発追加して、合計二発としてみましょう。
すると.....。
「がはッ!?」
「.....」
「ぜぇ.....。はぁ.....。ゴホッ、ゴホッ。ぜぇ.....。はぁ.....」
「.....ごふっ」
恐らくですが、魔族は死んでしまうことでしょう。
たった一発。そう、たった一発でこんなにも苦しそうに呻いているのですから。
かと言って、一発の威力を上げるのもそう簡単なことではありません。
それと言うのも、既に徐々に上げていっている状態だからです。
それに加えて、なんでも魔族の『即興魔法』とかいうものが全ての元凶らしいのですが、それのせいで魔族の耐久力も敏捷に劣らず爆増中となっています。
つまり、拳を合わせれば合わせるほど、回を増していけば増していくほど、前回よりも更に強い一打が必要となるのです。
その上で更に力の調整ともなると、これがなかなかに骨が折れる作業となります。
そもそも、神界においてはそんな力の調整とかは必要無かったことですし、ここにきて経験不足感が否めないのも正直なところです。
・・・。
───ドン!
───ドン!
───ドン!
いつ終わるとも知れない飽くなき戦闘。
もう既に、何度も同じことがずっと続けられています。
「はぁ.....。はぁ.....。がはッ!? はぁ.....。はぁ.....」
「.....まだ続けるのですか?」
「うるさいッ! これしきのダメージ、我には何ともない!」
「そうです.....ごふっ」
「貴様こそ辛そうではないか」
「ご心配には及びません。全くダメージは受けておりませんので。そうですね、もし本当に私が辛そうに見えているのであれば、それはあなたという愚か者に付き合ってあげているからだと思いますよ?」
「口の減らない奴だ! 殺してやるッ!」
「ハァ.....」
正直、もううんざりです。あまりにもしつこ過ぎです。
ただ、ここまでしつこくて、ここまで強い敵というのは生を賜ってからは初めてかもしれません。
(なんでしょうか、この嫌な感じは.....)
今までは、どんな相手にもどこか戦う楽しみみたいなものを感じてはいたのですが、この魔族からはそれをどんどん感じなくなっていきました。
まるで『遊び相手』だと思っていた相手がそうではなくなった不思議で嫌なこの感覚。
(.....これが『敵』と呼ばれるものの正体なのでしょうか?)
だとしたら.....。
そうだとしたら、意識を改める必要がありそうです。
「いいでしょう。あなたを強敵と認めます。その上で、覚悟を持ってかかってきなさい」
「いちいち上から目線で語るなッ!」
こうして、私と魔族の制裁の時間は戦闘の時間へと変貌し、いよいよ最終局面へと向かっていくのでした。
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後書き
次回、異世界編『ごめんなさい!異世界さん⑦ 終話』!
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今日のひとこま
~本当にごめんなさい!異世界さん!!~
これは異次元世界から戻ってきてすぐのお話である。
「うーん。やっぱりダメかぁ.....」
「歩様、どうされたのですか?」
「えっとですね、これを見てください」
「これは? あまり見掛けない魔道具ですね」
「実は現地勇者に便利そうな魔道具を色々と譲ってもらったんですよ。こっちの世界でも使えないかと思ってですね」
「なるほど。ということは、先程の声から察するに───」
「はい。ニケさんの予想通り、全部ダメでした」
「そうですか。あちらの世界とは魔力の質が異なりますので仕方がないですね」
「魔力さえあれば使えるという訳でもないんですね」
「魔道具は創られる際に、その世界の魔力を取り込んで生み出されるとかなんとか聞いたことがあります」
「なるほど。そうなるとどうあっても無理な話ですね。.....いや、待てよ? ニケさんの『勝利』の力で何とかなったりしませんか?」
「私の『勝利』で、ですか?」
「はい。えっと、異次元世界の魔道具に勝利したとかなんとかで」
「そうですね。恐らくはできると思います」
「おぉ! さすがはニケさん!!」
「ただ.....」
「ただ?」
「私の『勝利』力に耐えきれるかどうか.....。恐らくは、高確率で破損してしまうかと」
「そこは加減してもらって───って、あー.....」
そうだった。ニケさんは加減が苦手な女神様だったんだ。
しかも、魔道具ともなると人間以上に繊細な加減が必要となるだろう。
「とりあえず、試してみますか?」
「そうですね。ダメ元でやってみましょう。ものは試しです」
「あ、あの.....。もし壊してしまったら、すいません」
「大丈夫です。全責任は俺にありますから。ニケさんは気軽にどうぞ」
「.....」
「.....」
「す、すいません.....。やはりダメでしたね」
「そ、そうですね。いや、仕方がないですよ。気にしないでください」
結果はダメだった。
というか、『勝利』の力が凄すぎるのか、はたまたニケさんがぶっ飛んでいるのか、全く成功する気配が見られなかった。
それと言うのも、恐らく、全ての魔道具に完全勝利してしまったのだろう。
『勝利』を発動させたニケさんが触れるだけで、どの魔道具もまるで気化でもしたかのように蒸発してしまうのである。
「そう言えば! 魔道具で思い出したことがあります」
「なんでしょうか?」
「これを見てください」
「これは?」
ニケさんが取り出したるは一本の槍。
それも深紅に染まった、いかにも敵キャラが使いそうな禍々しい槍である。
「魔族との戦闘中に回収した槍です。すっかり返すのを忘れていました」
「ちょっ!? 何やってるんですか!?」
「せっかくですし、戦利品として頂いてしまいましょう。性能は保証しますよ」
「えぇ.....。というか、そもそもその槍はこちらの世界でも使えるんですか?」
「武器単体として使うのなら問題なさそうですが、魔力を込めるとなると厳しいでしょうね」
「あっ。武器単体としては使えるんですね」
「武器ですしね。刺突や薙ぎ払い辺りなら可能かと思います。なんでしたら、これも『勝利』で試してみますか? 多分、消失してしまうかと思いますが」
「ダメに決まってますよね!? いずれ返す機会があるかもしれませんから止めてください!」
テレテレテッテッテ~。
俺は魔神槍『ゲイ・ヴォルグ』を手に入れた!
・・・。
異世界さん、本当にごめんなさい!
うちのニケさんが、今現在もなおご迷惑をお掛けしています!!
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