歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第172歩目 暴走の女神!女神ニケ⑧


前回までのあらすじ

初めての十連ガチャに挑んでみたら、まさかの!!

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第171歩目の次回予告を変更しました。

変更前『共同作業』 → 変更後『暴走の女神』 となります。

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□□□□ ~暴走の始まり~ □□□□

「歩様。お待ちしておりました」

 ぃぃぃぃぃいいいいいよっしゃぁぁああああああああああ!!


 俺はガチャに必要な攻略の証を揃え、早速神様十連ガチャに挑むことにした。
 途中、アテナにおいてけぼりにされるという何とも悲しい事件が起こったが、それでもユミエルちゃんのおかげでどうにか神界に到着することができた。

 そして、最初に目の前に現れた神様というのが───。

「お久しぶりです、ニケさん。会いたかったです」
「私も、私もずっと歩様にお会いしたいと思っておりました」

 にこっと微笑みながら、以前同様、三つ指を付いて俺を出迎えてくれているニケさん。
 その仕草が、既に貫禄があるというか、様になっているところがなんともニケさんらしい。「これぐらいのこと、もはや造作もないことですよ?」と言わんばかりだ。

 それに、実は俺がそう感じた理由は仕草だけにあるのではない。

「そ、その.....。いかが、でしょうか?
 歩様に喜んで頂きたくて用意したのですが.....」

 いい!
 とてもいい!!

 ニケさんは少し恥ずかしそうに、でも、どこか不安そうな表情で俺にそれの感想を求めてきた。
 くどいのかもしれないが、普段はシャキっとしてデキるお姉さんの雰囲気を醸し出しているニケさんが、今はあどけない少女のように恥じらっているこのギャップがたまらなく俺を萌えさせる。

「とてもお似合いですよ」
「そ、そうですか!?ありがとうございます!」

 ニケさんの表情が一気に華やんだ。美しい。

 やはり、俺の見立ては正しかった。
 ニケさんには和服、所謂着物がよく似合う。

 いまニケさんが召しているものは、銀色の柳の紋様が刺繍された漆黒色の着物だ。
 帯も着物同様の刺繍が施されたもので、こちらは着物の色よりかは控えめな黒地。.....いや、紫がかっているようにも見える。
 更には、着物を召しているのだから当然と言わんばかりに足袋を着用し、黒地の鼻緒付きの草履まで履いている。

 まさに徹底した和服美人の出来上がりだ。

 それに、恐らくだが、意図的に全体を『黒』で統一していると思われる。
 それゆえに、ニケさんのが非常に強調されていて、自然とそちらに目がいってしまう。

 まるで、どこか計算されつくされた着こなしのようにも感じる。

「その着物はどうしたんですか?」
「取り寄せました。以前、歩様が私は着物が似合うと仰っていましたので」
「言った.....というよりも、心の中で思っただけなんですけどね?」
「同じことです」

 全然、同じじゃないですよ!

 そうツッコミたかったが、あなどけない少女のように喜んでいるニケさんを見ると、水を差すようでなかなか言い出せない。
 俺としては、心の中を読まれるのはあまり好きではないし、何よりも付き合っている最中にそういう力を使うのはなんか違う気がする。.....後で、それとなく指摘しておくか。

 それはいいとして、気になったことがある。

「さっき「取り寄せた」と言っていましたが、どうやって取り寄せたんですか?」
「通販ですよ。歩様もアテナ様の一件でご存知のはずです」
「アテナ?.....あぁ、ゴッド通販のやつですか?」
「それです。私達神は下界の物なら自由に取り寄せることができるんです」

 便利だなぁ、神様ってやつは.....。

 ちなみに、なぜアテナが父親からそのスキルを貰うまではニケさんのように自由に通販をできなかったのか。
 それは単純に、そのスキル、その力が必要なかったからだ。

 今までアテナの側には常にニケさんが居た。
 だから、『必要なものはアテナの代わりにニケさんが取り寄せればいい』とのことで、アテナはその力を持ってはいなかったらしい。

 アテナは神様ではあっても、比較的人間寄り (=無力)な神様なんだとか。

「でも、通販先はアモゾンですよね?」
「仰る通りです」

「名義や支払い方法はどうしているんですか?
 も、もしかして.....アテナのを利用しているとか、ですか?」

 アテナの【ゴッド通販】の名義は『舞日愛菜』となっている。
 ちゃっかり日本名を取得?偽造?していたことには驚いたが、それ以上に驚いたのは支払い方法が俺のカードになっていたことだ。

 つまり、俺は活動の場を異世界に移してはいるが、今現在もなお、俺の(日本での)貯金は減り続けているということになる。

 幸い、ウォーキング以外は無趣味だったおかげで、貯金額はそれなりにはある。
 それに必要な物、欲しかった物(車やバイク、PC等々)はあらかた手に入れてもいたし、彼女もいなかった上、親しい友人も遠くに居て頻繁に遊ぶこともなかったので、金を使う機会は全くなかった。

 恐らくだが、同年代の中でもちょっとした金持ちだったのではないかと思う。
 そう思うようにしている。.....HAHAHA。

 とは言え、俺としてもアテナの【ゴッド通販】は度々利用させてもらっているので、それに関しては不問とした。
 ただそれは、アテナの取り寄せるものが大したことのないレベルのものだからだ。

 そもそも、俺が許可を出さないと【ゴッド通販】は使わせない上、使っても1回の使用額は1万円前後で済む。.....あれ?意外と多くないか?
 しかし、今回は着物となると.....。

(ま、まさか.....。ニケさんも俺のカードを無断で利用しているとかはないよな!?)

 着物がいくらするのかは正直分からない。
 それでも、安いということは決してないだろう。

 ・・・。

 俺は口座の残高を心配しつつも、ニケさんからの回答を待つ。

 いや、別に、ニケさんの為になるのなら、金なんて少しも惜しいとは思わない。
 しかし、それでも、もしそうだというのなら、事前に相談とかして欲しいなぁ.....とか思ったり、思わなかったり?

「ご安心ください。名義も支払いも、アテナ様とは別のものですから」
「そ、そうでしたか.....。ちなみに、名義と支払い方法を伺ってもいいですか?」

「名義は『舞日仁菜マイニチニナ』。
 畏れ多いことですが、アテナ様とは姉妹ということにしてあります」
「『舞日仁菜』。素敵な名前ですね」

「ありがとうございます!!
 そ、それとですね?歩様のご判断を仰がずに、勝手に決めてしまったのですが.....」
「なんでしょう?」

 先程まで名前を誉められて喜んでいたニケさんの様子が一変した。

 もしかしたら、超規則バカのニケさんのことだ。
 舞日の姓を勝手に名乗っていることに罪悪感でも感じているのだろうか。.....いや、それにしては顔が赤いような?

「歩様の.....つ、妻ということにしてあります.....///」
「ぶふっ!?」

 つ、妻ぁ!?

 ニケさんは耳までゆでダコのように真っ赤に染めながら、「きゃ!恥ずかしい!!いやんいやん!」と言わんばかりに顔を両手で覆い隠してクネクネと体をよじらせている。
 衝撃の内容をカミングアウトされた俺も、嬉しいような、恥ずかしいような、何とも言えない気持ちだ。

「そ、その.....。ダメ.....でしたか?」
「うっ.....。ダメ.....じゃない、ですけど.....」
「ありがとうございます!歩様!!」
「.....」

 あ~!
 かわいいな、もう!!

 アテナに限らずニケさんもそうなのだが、好意全開100%の笑顔を見せられると、例え断らないといけないものであっても断るに断れない。
 とは言え、今回の件に関しては、ちょっと暴走し過ぎなようにも感じるが、それでも嫌な気はしないのも事実だ。

 元々、ニケさんは前回デートした時からそのような傾向があった。
 なんというか、ニケさんの中では既に俺達は恋人というか夫婦というか.....。

 それが、今回は目に見える形として表れたに過ぎない。

 例えるなら、今までは「私、歩様の奥さん役をやります!」と二人だけの間でおままごとをしていたに過ぎないものが、いつの間にかおままごとの範疇から飛び出し、「いつも主人がお世話になっております」と世間様に公表してしまったようなものだろう。.....分かりづらいか?

 何はともあれ、俺としても悪い気は全然しない。
 それに、ニケさんが喜んでいるようなので、特に何かを言うつもりも一切ない。

 そんなどっしりと構えている俺に、ニケさんからある衝撃的なものを渡される。

「で、では、こちらに署名と押印をお願いします」
「.....え?署名と押印?」
「はい。着物と合わせて取り寄せました。私は既に署名押印済みですので、後は歩様だけです」
「はぁ.....?何に署名押印すれば.....」

 うぇぇえええ!?

 渡されたのは1枚の茶色い紙。
 そういう経験がない俺でもよく知っている紙で、役場ではそれなりに目にする機会のあるものだった。

 まぁ、所謂『婚姻届』というやつだ。

 そして、ニケさんの言う通り、ニケさんの欄は既にバッチリと署名押印はされてある。
 本当に俺の署名押印待ちというところが、ニケさんの本気度を表しているようで、さすがに焦る。.....準備万端かっ!?

「勝手に妻と名乗るのは、歩様にとっても社会的、世間的によろしくないと聞き及んでいます」
「社会的!?世間的にってなんですか!?」

「こういうことはしっかりしておかないと歩様の名誉に関わりますしね。
 ささっ!署名押印を早くお願いします!提出は私がやっておきますから、ご安心ください!!」
「.....」

 ニケさんからの期待の籠った眼差しと圧が凄い。

 俺は女性から、いまだかつてここまで情熱的?問答無用な求婚をされたことがない。
 ゆえに、相手はニケさんということもあるので、本当はヒャッホー!してもいいのだろうが.....。

 ごめんなさい!
 気持ちは嬉しいのですが、まだそこまでの覚悟はないんです!!


 こうして、ニケさんとの2年ぶりの再会は波乱の幕開けから始まったのだった。


□□□□ ~友情と嫉妬~ □□□□

 ニケさんの暴走から始まった2年ぶりの再会劇。
 婚姻届の件は一旦保留ということにしてもらって、俺は他のメンバーに軽く挨拶を交わしていく。神界の、アテナの部屋に居るのは何もニケさんだけではないからだ。

 ちなみに、ニケさんは俺に断られてしょぼ~んとしている。

「久しぶりでありますな」
「キュ、キュ、キュ!」
「な"ー!な"ー!な"ー!」

 姿を現したのは、蝙蝠男のバットとクマのぬいぐるみであるテディ、そして、丸々と太った猫な"ーだ。
 この2人と1匹、いや、1人と2匹?それとも3匹?は相変わらず元気らしい。

「なぜニケ様からのプロポーズを断られるのであります?愛しているのではないのでありますか?」
「.....(ちらちらっ)」

 うっ.....。

 バットの不意打ちにも近い質問に、しょぼ~んとしつつも耳を傾けているニケさん。
 断った理由は先程伝えたので、いま耳をこっそりと傾けている原因は、きっと「愛しているのではないか?」の部分の回答待ちに違いない。

 ニケさんを好きなのは間違いない。
 ただ、「愛しているか?」と問われると、正直そこはまだよく分からない。

 好きと愛しているの中間地点と言えばいいのか。
『好き』以上『愛』未満な感じだ。

 つまり、ニケさんを愛するにはまだ時間が足りないような気がする。

「そ、そんな.....」
「すいません.....」

 俺の回答に、ガクッと膝を折り、手を地に付けるニケさん。
 まるで、この世の終わりだと絶望に陥ったような表情に、心を抉られるようで何とも居たたまれない。

「ふむ。ニケ様、気を落とされる必要はありませんぞ?」
「.....どういうこと、ですか?」

「時間が足りないということなのですから、時間を作れば良いだけのことですぞ。
 そうなれば、ニケ様の願いが叶うと約束されたようなもの。.....そうでありますな?」

 う~ん。
 そういうことになるのかな?

 俺がニケさんを好きなのは間違いない。
 そして、この気持ちは余程の事がない限りは消えることのないものだろう。いや、余程の事があっても消えないような気がする。

 愛はともかく、今はまだ『結婚』というものに対して、自覚と覚悟がないだけなのだから.....。

「き、期待していても.....。歩様を信じていても、いいんですか?」
「いいですよ、とか無責任なことは約束できません」
「そう、ですか.....」

「ですが!」
「!?」

「ニケさんを好きなことに嘘はありません。
 だから.....胸を張って「愛しています!」と言えるその日まで、もう少しだけ俺に時間をくれませんか?」

 情けない、優柔不断で身勝手な提案なのは重々承知している。
 しかし、それでも、本当に好きな人だからこそ、気持ちをしっかりと固めていきたいとも思う。

 俺のわがままにニケさんを付き合わす形で申し訳ないが、そこだけは譲れないし、理解して欲しい。

「はい!いつまでも、いつまでもお待ちしております!!
 例え、世界が滅びようとも。例え、私達神が絶滅しようとも、私はいつまでもお待ちしております!!」
「そこまでは待たせませんよ!?」

 ニケさんからのキラキラした眼差しに圧倒される。

 正直、ここまでくると、愛が重いとは言わないが、愛が怖いとは少し感じる。
 俺への好感度が限界突破しているというか、常に200%的な.....。ヤンデレなのかな?ニケさんは。

 ・・・。

 とりあえず、ニケさんの機嫌が直ったようで一安心。
 そんな俺とニケさんの様子を見て、満足そうな笑みを浮かべる1人の?1匹の?男。

「男らしいとは言えないでありますが、誠意こそ汝の真骨頂。まずまずでありますな」
「うるせえな!.....でも、助かった。ありがとう」

 バットがそれとなくフォローしてくれたであろうことは、なんとなくだが分かっているつもりだ。
 ただ、どうして俺に手を貸してくれたのかまでは分かりかねるが.....。まぁ、今はニケさんがご機嫌になったことだし良しとするか。

「それにしても、我輩の見立てはいかがでありますかな?
 ニケ様の魅力を最大限に活かしていると自負しているであります」
「なんのことだ?」

「分からないでありますか?
 ニケ様がいま召しておられるものは我輩が見立てものであります」

 なん、、だと!?
 バット、最高かよ!?

 バット曰く、着物とは季節に合わせた柄や色を考慮して着るものらしい。
 それが一般的かつ王道なんだとか。今の季節なら、桜の柄で暖かみを感じる色がいいとのこと。

 ただ、気になることがある。

「季節って、この世界に季節なんてものはあるのか?」
「ないでありますな。土地によって、気候や寒暖が決まっておりますからな」
「じゃあ、どうやって判断するんだよ?」
「そんなもの、汝の世界を基準にすればいいだけであります」

 なるほど。
 どうやって、現在の日本の季節を確認しているのかは分からないが.....。まぁ、ここは神界で神様なら何でもありか。

「本来なら明るく艶やかな色の着物をおすすめするでありますが.....。
 我輩は敢えてここで黒を見立てであります!」
「分かる!分かるぞ、バット!ニケさんと言えば、黒だよな!!」
「そ、そうなのですか?」

「そうなのであります!」
「そうなんです!」
「は、はぁ」

 言うまでもないことだが、他の色だって似合うことは間違いない。
 着物そのものが、ニケさんのイメージそのものなのだから。

 しかし、バットの言う通り、俺も敢えて『黒』にこだわりたい。理由は幾つかある。

「まず、ニケ様程の方であれば、内外にその威厳を示す必要があるであります。
 そういう意味では、黒留袖くろとめそでの着物は一番格式が高いものなので、まさにニケ様向けの着物かと」

「ニケさんは女神だしな。威厳は大事だ。うん、超大事。
 と言うか、バットはなんでそんなに着物に詳しいんだ?」

「我輩は元々人間でありますしな。当時は異世界の文化に目を輝かせたでありますよ」

 ふ~ん。そうなのか。
 まぁ、好奇心旺盛な奴そうだもんなぁ。.....あれ?バットは今なんて言った!?

「.....うぇ!?バットは人間だったの!?」
「そうでありますが、それがどうしたであります?」
「し、神獣って、人間がなれるものなのか?」
「何を今更.....。汝の奴隷も、条件さえ揃えば神獣になれるでありますよ?」

 マ、マジか.....。

 そう言えば、以前、ドールがそんなことを言っていたような気がする。
 てっきり、成体モードみたいな一時的なものだと思っていただけに、まさか本物の神獣になるとは思ってもみなかった。

「そうか、人間が.....。と言うことは、テディも元人間だったのか?」
「キュ、キュ、キュ!」

 いやいや。
 何言ってるか分からないから。

「そんな訳ないであります。テディはぬいぐるみが神獣化したものであります」
「それもそれでよく分からないんだが?」
「神獣化するにも幾つかパターンがあるであります」

 バットの説明をまとめると以下だ。

 ①人間の時に血の滲むような修練の果てにたどり着いた神獣化のパターン。
 ②モノが神の悪戯とも言うべき奇跡によって偶発的に神獣化したパターン。
 ③神獣が初めから神獣として、この世に生を受けて生まれてきたパターン。

「一番多いのは③でありますな。我輩やテディは特殊であります」
「ふ~ん。神獣ってのも色々あるんだな」
「.....と、まぁ、我輩達のことはどうでもいいであります」
「それもそうだな。正直、俺もあまり興味がない」
「キュ、キュ、キュ!?」

 相変わらず言葉は分からないが、今のはなんとなく分かる。
「なんでやね~ん!?」とでもツッコミを入れてきたんだろ?


 テディの軽快なツッコミを軽くいなし、再びニケさんの着物談義に戻るとしよう。
 とにかく、黒は格式が高く、ニケさんが着るには最適だというところまでは納得した。

「それに、黒はどこか頼りがいのある強い印象を受けるよな。
 仕事もバリバリ出来る、まさにデキるお姉さん系なニケさんにはふさわしい色だと思う」
「ほほぅ。汝も分かっているでありますな。まさにその通りであります!」

「お、お任せください!
 歩様の頼み事なら、このニケ、命をかけてでも達成してみせます!」

 怖い。怖い。
 さすがにそれはいきすぎですよ、ニケさん.....。

 ・・・。

 その後、俺とバットの着物談義は徐々に熱を帯び始め、いよいよ核心部分へと迫っていった。
 そして、それはある一つの奇跡を生み出したのだった。

「何よりも、ニケさんの最大の魅力と言えば、黒の着物を纏うことで際立つ.....」
「ニケ様の最大の魅力と言いますと、黒の着物をお召しになることで映える.....」

「!?」

 奇遇にも、俺とバットの意見が似通ったようだ。.....バットの奴め、まさかな?
 それに対して、驚いた表情で俺とバットの顔を交互に見遣るニケさん。

 そして、俺とバットから遂に明かされたニケさんの最大の魅力とは───。

「「まるで灼熱のように燃え盛っている真っ赤なまなこ!!」」

「なん、、だと!?」
「なん、、ですと!?」
「なん、、ですって!?」

 まさかの同意見に、驚いた表情で互いの顔を交互に見遣る俺達。
 俺はバットを、バットは俺を、そして、ニケさんは俺とバットを.....。

 そう、ニケさんの最大の魅力は、何と言っても灼眼のきれいな瞳にこそあると思う。
 あのきれいな灼眼の瞳で見つめられると、まるであらゆるものが魅了されてしまうのではないだろうか、と思えてしまう程に心をグッと鷲掴みにされる。

 だからこそ、ニケさんの最大の魅力である灼眼を活かす為に、敢えて黒の着物をおすすめしたいという訳だ。
 そもそも、全体的に黒を基調としていれば、自ずと灼眼のほうに視線が向くのは自然の摂理。

 つまり、ニケさんに最も似合う着物は黒留袖を置いて他になし!ということだ。

 それに、バット曰く。
 本来、黒留袖の帯には金地など豪華なものがふさわしいらしい。
 しかし、敢えてそのルールを侵してまで、紫がかった黒地の帯を選んだのには、ひとえにニケさんのきれいな灼眼をより際立たせる為の措置だったんだとか。.....バットの奴め、やりおる!

 今ここに、俺とバットの意見が完全に一致した。

───ガシッ!

 そして、それは男と男の熱い友情が芽生えた瞬間だった。

「やるな!バット!!」
「汝こそ!さすがニケ様が認められた男であります!!」

「あ.....」

 互いに、力強くも固い握手を交わしながら、心に秘めたる熱きソウルを称え合う。
 ただ、なぜバットがここまでニケさんのことについて熱く語っているのかその真意は分かりかねるが.....まぁ、今は同士ができただけでも良しとするか。

(バットに任せておけば間違いない。
 きっと俺好みのニケさんが出来上がるはずだ)

 俺はそう勝手に盛り上がっていた。
 しかし、俺とバットが熱い友情をさわやかに交わしている一方、ニケさんはそれを複雑な表情で見ていたことに、俺は少しも気付くことができなかった。

「.....」

 ただ、俯いて何かをぶつぶつと言っていることだけは確認することができた。
 少しばかり、ご機嫌斜めな雰囲気も出ているように思われる。.....ど、どうしたんだろう?

「お、おい。ニケさんの様子が.....」
「ふははははは!そうです!そうですとも!もっとニケ様について語るでありますぞ!」

 少し落ち着け!アホ蝙蝠男!!

 俺はニケさんのおかげで少しは冷静になることができたが、バットのほうは依然としてハイテンションなままだ。
 この蝙蝠男は、一旦熱が入ると没頭して周りが見えなくなるタイプらしい。

 そして、遂に2つの事件が起こった。

「ふははははは!ニケ様を愛する者同士、今後ともよろしく頼みますぞ!!」
「はぁ!?」

 はい、友情終了~。

 まず、1つ目の事件は、先程芽生えた友情がこの瞬間に壊れたことだ。
 度々、あれ?と疑問に思うところはあったが、まさか俺のニケさんに邪な感情を抱いていたとは.....。

「お前、ふざけんな!ニケさんは俺のニケさんだぞ!!」
「まぁまぁ。汝からニケ様を奪おうなどとは些かも思ってはおりませんぞ?
 共にニケ様を愛そうではありませんか?と、提案しているだけであります」

「それがダメだって言ってるんだよ!ニケさんは俺だけのニケさんだ!!」
「.....ふむ?汝がなぜ怒っているのか、我輩には全然分からないのでありますが?」

 くそっ!
 これだから異世界の倫理観ってやつは!!

 この世界の恋愛事情は一夫一婦制ではない。重婚が認められている。
 つまり、一夫多妻でも、一妻多夫でも、多夫多妻でも、経済的にちゃんと養えるのであれば、倫理上問題なしとなっている。

 そういう世界でバットも元人間として暮らしてきた影響か、『好きな人は好きな人同士で共有すればいいじゃない!』みたいな考え方が思いっきり表れてしまっている。

 別に、俺は異世界の倫理観を否定するつもりは一切ない。

 ただ、俺はニケさんを俺だけのものにしたいと思っている。
 だから、バットの考えは許容できないし、認めるつもりは微塵もない。

「.....本当にいい加減にしろよ?これ以上、説得しても無駄なようなら最終手段に訴えるぞ?」
「.....ほほぅ?これは面白い。一度、汝に敗れた身なれど、今度も勝てるとは思わないことでありますな」
「キュ、キュ、キュ!」

 よし、ぶっとばしてやる!!

 言ってもダメなら、手をあげる他はない。
 ここは弱肉強食の世界だ。強き者だけがその権利を主張できる。

 それに、説得をするだけ良心の塊だと思って欲しい。

 そんな良心の塊である俺に対して、恐らくは挑発のつもりなのだろう、固く交わした握手を一向に離そうとしないバット。
 それと特攻隊長の血が騒ぐのか、全く関係ないのに、まるで「かかってこいよ!」と言わんばかりにウェルカムカモーンと器用に挑発のジェスチャーをするテディ。

 ちょ、調子に乗るなよ!?
 このくそ蝙蝠男とくそぬいぐるみがっ!!

 俺の怒りは既に有頂天間近だった。
 30分しか滞在時間はないというのに、そんなことはすっかりと忘れて、バットやテディとニケさん争奪戦を繰り広げようとしていた。

 それは、さながら神界三国志である。

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『アユム・マイニチ』       『バット』          『テディ』
 体力:14250         体力:12200        体力:34000
 魔力:14240    VS   魔力:20000   VS   魔力:21000
 筋力:14245         筋力:11500        筋力:45000
 耐久:14245         耐久:13000        耐久:45000
 敏捷:16700         敏捷:24000        敏捷:19500
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 ステータス的には、『魏のテディ』、『呉の俺』、『蜀のバット』といったところか。

 本当なら、バットと手を結んで、単なる愉快犯であるテディを撃破すべきなのだろうが、いま現在バットとは最悪な状況だ。
 これではまるで、本来戦ってはいけないしょぼい国同士が激突し合うという夷陵の戦いが彷彿とさせられる。

 しかし、もし仮に夷陵の戦いだとしたら、俺とバットの力量差は伯仲しているものの、俺の勝利は確定的なものとなる。
 そして、そのままバットを討ち取り、勢いに任せてなんとかテディを蹴散らす.....。

 よし!やるか!!
 大切な人を守る手に入れる為にも俺は戦うぞ!!

 俺は決意を新たに臨戦態勢へと入る。
 と、その時、2つ目の事件が息を吐く間もなく一瞬にして起こった。刹那の瞬間と言っても過言ではないだろう。

 それは、俺が生命として、何ら不思議ではないまばたきという行動をしたその時だった。

───ドンッ!!

「.....え?」

 ニケさんの姿が、まるで蜃気楼のように揺れたと思ったその次の瞬間には、ニケさんの姿がその場から完全に消えていた。
 それは、全く見えなかったとかそういう類いのものではなく、まるでその場から瞬間移動でもしたかのようにパッと消え失せ、何事もなかったかのように先程までバットが居た場所(=俺の隣)に静かに佇んでいる。

 俺もテディも、そして、恐らくバットも(姿形が確認できないので予想の範疇でしかないが)衝撃的だったに違いない。
 あまりにも一瞬の出来事に、俺達は何も言えずにただ呆然と立ち尽くしていた。俺の右手にはバットの右手が握りしめられながら.....。ひ、ひぃぃいいい!?

 そんな固まった状態である俺達を他所に、ニケさんは遥か遠くを見下すように眺めつつ、そのまま冷酷に言い放った。

「身の程を弁えなさい!バット!!」

 その声はとても冷たく、まるでバットを生き物だとは欠片も思っていないような無慈悲なものだった。
 つまり、何が言いたいかと言うと、ニケさんはすごくお怒りであるということだ。.....怖ぃぃいいい!

 ニケさんの逆鱗ポイントは.....。

 恐らく、バットもニケさんの事を想っているという点だろうか。
 神界では、ニケさんであっても神格自体は決して高いものではないらしい。それでも、神獣であるバットよりかは高いのは確かなはずだ。

 要は、バットの身分不相応な恋慕というやつになる。

 超規則バカなニケさんの事だ。
 デメテル様の件もあることだし、神格の低いものが、神格の高いものを身分不相応にも慕うのはきっと許せなかったのだろう。


 俺はいまだ血が滴り落ちているバットの右手・右腕をその場に投げ捨て、遥か後方に居ると思われるバットに憐れみの視線を向けた。

 ほんの一瞬だけ友情を育んだ仲だ。
 慈悲の心はないが、憐れみの心だけは捧げてあげよう。

 そんな泣きっ面に蜂状態のバットに、ニケさんが更なる追い撃ちをかける。

「誰の許可を得て、歩様に触れているのですか?」
「.....ん?」
「私がいつ、歩様に触れてもいいと許可を出しましたか?」
「.....はい?」

 だが、なんかニケさんが言っていることが少しおかしい。
 ものすごく怒ってはいるようなのだが、思っていたものとは少し違うような.....?

「私だって、まだ歩様に全く触れていないんですよ!?バットだけずるいです!!
 覚悟しなさい!私よりも先に歩様に触れた罪は万死に値します!!」

 怒っている理由はそれなの!?

 全然、規則うんぬんではなかった。
 完全に私情まみれの、バットからしたらいい迷惑でしかない単なるわがままに他ならなかった。

「死に勝る恐怖と苦痛を持って罰とします!よく反省し、悔い改めなさい!!」
「.....」

 いま、女神より神獣に一つの神託神罰がなされた。

 例え、その神託が理不尽なものであろうとも、神が下した命令は絶対だ。
 ゆえに、バットは甘んじて神託という名の神罰を受け入れなければならない。

 ・・・。

 しばらくすると、とてもスッキリしたような笑顔とともに、俺に好意をぶつけてくるニケさん。
 まるで台風一過のような清々しささえ垣間見える。

「お待たせしました、歩様。
 邪魔者には制裁を加えましたので、ご安心くださいませ。.....では、早速参りましょうか」
「は、はい.....」

「あ、あの.....。今更ではあるんですが、て、手を握ってもよろしいですか?」
「か、構いませんよ」

 そのままダーツ場へと向かう間に、ニケさんからガッシリと手を繋がれた。.....ちょっ!?ガッシリ!?
 それはまるで、この手は絶対に離さない!という強い執念.....じゃなくて、意志を感じる。

「ありがとうございます!.....ふふっ。私が一番乗りですね!」
「HAHAHA。ソ、ソウデスネ!」

 えぇ!?
 バットが居なかったことにされてる!?


 こうして、俺はニケさんの新たな一面に恐怖.....いや、知れたことに歓喜しつつ、決戦の場であるダーツ場へと足を向けるのだった───。


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後書き

次回、本編『共同作業』!

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今日のひとこま

~その後のバットは~

「イタタタタタ.....。へ、へカテー様、おられますかな?」
「はいはーい☆久しぶりー!って、うわー!?その腕どうしたのー!?」
「お恥ずかしいところを.....。実はニケ様に粗相を働いてしまいまして.....」
「ふーん。そーなんだー。ちゃーんとごめんなさいしたー?」

「い、いえ.....。できましたら、お力添えを頂けないかと思っているであります」
「バット君一人じゃ無理なのー?」
「す、少し厳しいかと.....。何よりも激怒されておりますので.....」
「そっかー。いいよー!私がニケ姉に話をつけてあげるー☆」

「ありがとうございます。へカテー様に最大の感謝を.....」
「いーからいーからー☆それでー?何が原因で怒られちゃったのー?」
「そ、それは.....」
「原因分かんなきゃー、説得なんてできないでしょー?」

「仰る通りでありますな.....。実は、かくかくしかじかで.....」
「えー!?いまアーちゃんと人間君が神界にきてるのー!?」
「そうであります。今はニケ様の元におられますぞ」
「こ、こーしちゃいられないよー!バット君、いそぐよー!!」

「へ、へカテー様!?お気持ちは分かりますが、我輩の腕を!!」
「そんなのはー、唾でもつけときゃ勝手に生えるよー!急いで急いでー!」
「勝手に生えないから、冥界まで来たのでありますぞ!?」
「むこーに行ってから治してあげるよー!今は枝でもくっつけといてー!!」


アテナの部屋へと全速力で急ぐへカテー。
果たして、へカテーは間に合うのだろうか!?

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