歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第167歩目 はじめての分担作業!


前回までのあらすじ

ドールの暴走によって村を救うことになった!

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3/14 世界観の世界編!に一部追記をしました。
   追記箇所は、『種族紹介』の蜥蜴族・『奴隷』の⑪・『世界の倫理観』の⑭となります。

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□□□□ ~俺のお仕事~ □□□□

 ドールの暴走により、テシーネさんの依頼を引き受けてから5日が経った。
 想定以上に長居してしまっているが、それも本日まで。テシーネさんからの依頼もいよいよ大詰めにまできている。

「はい。次の人~」
「お、お願いします!」
「うっ.....」
「?」

 俺の呼び掛けに応え、仮設テントに入ってきたのは一人の獣人ちゃん。
 容姿からして、蜥蜴人の獣人だと思われる。.....ま、また蜥蜴人かよ。

 それと言うのも、ここレムーナは蜥蜴人の獣人の割合が非常に高い。
 他種族も当然いるのだが、それでも蜥蜴人の獣人が多勢を占めている。

「蜥蜴人は水辺に生息する習性がありますので、他の種族と比べても捕獲される頻度が高めなのです。
 それと群れでの行動が基本の種族となりますので、公共事業をさせるのに人気の種族となっています」

 なるほど。
 奴隷にするにはおあつらえ向きな種族ってことか.....。

 俺の戸惑いに親切に教えてくれるテシーネさんは、先程から俺にキラキラした眼差しを向けてきている。
 5日間ずっとこの調子なのだから、こそばゆいったらありゃしない。

「.....よく飽きませんね?」
「飽きるなんてとんでもない!ずっと見ていたいものです!!」
「ギルドの仕事が..... 」
「ご心配には及びません。午前中に全て片付けましたから」

 そ、そっすか.....。
 まぁ、いいんだけどね?口外さえしなければ。

 テシーネさんの依頼を引き受ける代わりにダンジョン攻略の権利を手に入れた俺は、相変わらず午前中にダンジョン攻略のスタイルを取っている。
 そして午後からは、テシーネさんの依頼に取り組むというのがここ最近の1日の流れだ。

 そんな俺の作業を、テシーネさんが「見てみたい!」と言い出したのが今から3日前で、今では毎日見に来ている。
 今でこそ、なんだかんだ言って助かっているのも事実なので無下に断ることはしていないが、最初は俺の作業を見ておもいっきり神聖視されているのが分かったので鬱陶しくて邪魔に感じていた程だ。

 テシーネさんがわくわくしながら見守る中、俺は『奴隷契約』のスキルを詠唱する。

「主人の名において命令を変更する。
『次の命令があるまでは自由に生きていい』。
 但し、『この地を離れることは禁止する』。以上だ」

『奴隷契約』スキルが発動したと同時に、今までの命令の上から新しい命令を上書きしていく。
 俺が命令するのは『次の命令があるまでは自由に生きていい』ことと『この地を離れることは禁止する』ことの2つだけだ。

 いっそのこと『自由奴隷』にしてしまってもいいのだが、それを機に本当の主人に反乱などを起こされたらたまったものではない。
 当然、主人側も反乱が起こった原因を調べるだろうから、そこで俺に行き着くことは容易に想像できる。
 仮に、反乱を扇動した勇者がいるなんて噂が流れでもしたら、他の勇者に申し訳が立たないのでここは慎重にいくべきだろう。

 そういう事情もあったので、テシーネさんには『命令を変更できる力がある』と前もって説明してある。
 当然、幾多の勇者を知っているギルド職員であっても、そんな力を持っている勇者は前代未聞ということもあったので、テシーネさんからは神聖視されることになったという訳だ。

「はぁ~~~~~///
 なんて素晴らしいお力なのでしょう!惚れ惚れしてしまいます!!」
「.....」

 うっとりとした表情で見つめられると照れてしまう。

 ラズリさん程ではないにせよ、テシーネさんもかなりの美人だ。
 いくら美人が苦手だと言っても、きれいな人に見つめられて悪い気はしない。

 心がどきどきと跳ねるのが分かる。
 脈がないと分かっているのに.....。

 無事、命令の変更が完了すると、胸元の奴隷紋が淡く輝き出した。
『奴隷紋』とは奴隷が奴隷である証そのもので、奴隷によって奴隷紋が刻まれている場所が異なる。当然、ドールにも奴隷紋は存在する。

「.....ぁんっ!.....ぃい!」

 へ、変な声出さないでくれますっ!?

 甘美な声を上げ、淫らな様子で悶えている蜥蜴人ちゃんから、そっと視線を逸らす。
 さっきからずっと、蜥蜴人の獣人は男女関係なくこの調子なので本当に困る。

 それに.....。

「.....(ちらっ)」
「竜殺し様?今、ちら見しましたね?」
「し、してませんけどっ!?」

 種族的なものなのかは分からないが、蜥蜴人の女性は長身でスラっとしている割にはおっぱいが大きい。

 スレンダーと言えば、ニケさんやラズリさん、ゼオライトさんがいい例だが、みんな言うほど大きくはない。
 スレンダーな人はそういうものだと思っていただけに、蜥蜴人の女性はなんだか新鮮な気持ちになる。.....いや、ニケさんは決して小さくはないけどね?

 ちなみに、蜥蜴人の男性はガッシリとしていて、マッチョ寄りな体型だ。
 上背は俺よりも高い人が多く、見た目的には体のバランスが取れていると言っても過言ではない。

「そ、その.....。勇者様は獣人である私にも欲情されたりするんですか?」
「どんな質問!?」
「い、いえ.....。今時、そのようなあからさまな反応をされる方も珍しいですので.....」

 バ、バレてる.....。

 照れたような、誘うような?、そんななんとも言えない表情でくすくすと笑う蜥蜴人ちゃん。
 ここで、俺は敢えて言いたい。

 おっぱいが悪いのだと!
 男に罪はなく、奴隷紋のある位置が悪いのだと!

『奴隷紋』は普通なら奴隷によってある場所が異なる。
 それが常識で、俺は奴隷商からそう聞いたし、実際にドールの奴隷紋の場所はお尻にあったりする。

 ちなみに、奴隷紋は普段生活している時には見えることはない。
 命令時などに浮かび上がってきたりするものだ。

 しかし、ここレムーナにいる奴隷の全てが、男女関係なく胸元に奴隷紋がある。
 そして、命令変更時には奴隷紋に触れないといけないので、当然のことながらおいしい思い.....いや、違う。柔らかい感触を感じることになる。これを全ての獣人ちゃんに.....。

 ここレムーナには約5000人の奴隷がいる。
 男女比はおよそ半々なので、つまり、2500人の獣人ちゃんのおっぱいを揉んだことになる。

 それも独身から人妻、未亡人と種類は様々だ。
 更に言うのなら、その大半が蜥蜴人ちゃんとなるので巨乳ばかり。.....俺は別に巨乳好きという訳ではないが、大きいと色々とね?

 だから、目にも手にも毒となるのは仕方がないと思う。

「えぇ。その気持ち、同じケモナーとして良く分かりますよ!」
「いやいや。俺はケモナーじゃないので.....」

 興奮した様子で迫ってくるテシーネさんに、俺は若干引き気味だ。

 五十音姉妹と言えば、何かしら問題があるのがもはやお馴染みである。
 問題というと失礼にあたるが、コルリカのソシーネさんは病弱体質だったりしているし。

 当然、レムーナのテシーネさんも、その例外に漏れてはいなかった。
 当初は信仰心がやばい人かと思っていたが、ギルド職員は大概そういう人がほとんどらしく、珍しいことではないらしい。

 では、何が問題かと言うと、先程上記に出た動物愛護精神である。
 獣人を動物扱いするのはタブーだと思うのだが、それでも、テシーネさんからしたら獣人も愛すべき対象に入っているのだとか。

 だから.....。

「ど、どうか!この村の奴隷を.....。
 いえ!この村の獣人達をお救いくださいませ!!」

 わざわざ危険を冒してまで、愛すべき獣人達を救って欲しいと懇願してきた訳だ。

 ちなみに、ケモナーなテシーネさんの旦那さんは獣人らしい。
 この世界の獣人事情から鑑みても、本当に徹底したケモナーぶりである。

「竜殺し様。次が最後の奴隷となります」
「そうですか。長かったような、短かったような不思議な感覚ですね」
「本当にお疲れ様です。感謝のしようもございません」

 丁寧に謝辞を述べながら、俺の額の汗を甲斐甲斐しく拭き取ってくれているテシーネさん。
 こういう気遣いができるからこそのギルド職員なのだろう。

(こういう奉仕的な姿を見ると、何だかラズリさんを思い出すなぁ。
 ラズリさんと別れてもう3年近く経つのか.....。今頃は何をしているんだろうか?)

 遠い地パレスにて、こんな普通な俺を好きだと告白してくれたラズリさんを想いながら、俺は最後の奴隷に『奴隷契約』のスキルを施すのだった。


□□□□ ~ドールとモリオンのお仕事~ □□□□

 俺が5日をかけて5000人の奴隷全てに命令の上書きを行っている間、ドール達には別の仕事を任せていた。
 そもそも、ここレムーナの奴隷達が生きた屍状態になっていたのには理由がある。

 まず1つ目は、人として最低限の生活さえすることを許されていなかったクソみたいな命令がそれにあたる。

 陽が出れば働き、陽が沈むまで休みは無し。
 地球や他の町とは異なり、街灯も何もない村なので、陽が沈めば村全体が真っ暗となってしまう。

「蝋燭とかは.....」
「ある訳ないじゃないですか。彼らは奴隷なんですよ?」

 かろうじて明かりがあるのはギルドぐらいなものだが、5000人の奴隷達が詰め掛けて来れないようにギルド側でも対策を立てている。
 テシーネさんがケモナーだから奴隷に優しいのであって、ギルド職員だからと言っても、他の職員が奴隷に優しい訳ではないのだ。

 つまり、何も見えない真っ暗闇な状況の中で、奴隷達は食事をしたり日々の生活を送らなければならない訳だ。
 テシーネさん曰く、仕事に出たきり村に帰って来れずに(暗闇で村への帰り道が分からずに迷子になるらしい)、そのまま死亡してしまう奴隷もいるのだとか。


 そして2つ目が、いま話題に出た過酷な仕事がそれにあたる。

「開拓.....ですか?」
「はい。これはどこの国でもそうなのですが、大森林はその国が開拓することを許可されおります。
 ですので、領土拡大の為、国が開拓を積極的に行っているのです」

 地図で言う所の左下部分がその大森林にあたり、この『奴隷の村レムーナ』も、元は大森林の一部だった所を開拓して建てられた村の1つらしい。
 だから、単なる開拓拠点の1つに過ぎない為、インフラが整っていないのだとか。

「そんなところにも派遣されるなんて.....。ギルド職員というのも大変なんですね」
「それがお仕事ですから。それに、それに見合ったお給料も頂いておりますし」

 住むには最悪だが、冒険者があまり訪れないことを考えると、楽できて、しかも稼げる職場とも言えるのだろうか。
 テシーネさんが、午後からはずっと俺に付きっきりになれるぐらいなのだから、仕事が忙しいということは決してないはずだ。

 とりあえず、レムーナが意外と楽な職場なんじゃね?問題は置いといて、本題に戻る。

 要約すると、国より命令されている開拓を行う為に大量の奴隷を送り込んだはいいものの、奴隷達はまともな生活を送ることができないため心身共に餓え果て、結果、開拓が遅々として進まないという訳だ。

(.....貴族はアホの子なのか?)

 労働者は肉体が資本だ。
 その資本が疎かになったら、効率は当然下がる。その為にも、奴隷達の健康には人一倍の気遣いが必要になる訳なのだが.....。

「ですので、死亡者が出た場合などは領主様に報告の義務がございます」
「報告の義務.....。つまりは、死んだら補充要員を送るってことですか?」

「その通りです。ですが、死亡者さえ出なければ.....。
 報告する必要はありませんので、領主様がこの村に関わる機会もないということでございます」

 わっるい人だなぁ.....。

 つまり、テシーネさんはこう言いたいのだ。
 領主がこの村に関わってくるのは奴隷の補充時のみだから、愛すべき獣人達に救いの手を差し伸べてもらっても何ら問題はありませんよ?、と。

 そして、暗にこうも言っている。
 ギルドからの死亡者の報告がなければ、当然、領主からは開拓の結果を求められるものです、とも。

「.....開拓を手伝って欲しいと?」
「せめて、奴隷達が休息できるだけの成果があればいいんです!」

「はぁ.....。だ、そうだが、手伝ってくれるか?」
「うむ!同胞の為なのじゃ!任せよ!」
「おー!我もお姉ちゃんと一緒に頑張るのだ!」

 既にドールが暴走してテシーネさんの依頼を引き受けていたのもあって、俺達は開拓の手伝いもすることになった。
 俺は奴隷達の命令の上書きを、ドールとモリオンは開拓の手伝いをするというふうに分担を決めて.....。

 ・・・。

 そして5日経ち、俺が全ての奴隷の命令を上書き終えると同時に、ドール達もものの見事に開拓をし終えていた。

「のぉぉおおおだ!」

───ドスンッ!
───ドスンッ!

 モリオンのかわいらしい掛け声とともに積み上げられていく伐採された木材。
 切り口が雑なところを見ると、力任せに薙ぎ倒していったのだろう。切ったというよりもへし折った感じだ。

「お疲れ、モリオン」
「今日もいっぱい頑張ったのだ!ご飯がおいしいのだ!」
「そうだな。働いた後の飯は一番おいしいよな」

 うんうん。
 モリオンも随分と社畜魂が備わってきたようで何よりだ。

「そうなのだ?お姉ちゃんは「働かないで食べるご飯が一番だよー( ´∀` )」って言ってたのだ」
「.....」

 しょうもないことばかり教えやがって!
 あのくそ駄女神は!!

 アテナにおしおきが決定したところで、もう一人の労をねぎらう。
 伐採のメインはモリオンなのだが、こちらは現場監督といったところだ。

「ドールもお疲れ」
「うむ。主もお疲れなのじゃ」
「今日は何かあったか?」
「これといって何もないのじゃ」

 開拓ということは、未開の地を切り進めていくことに他ならない。
 そうなると、当然、様々な問題が出てくる訳で.....。

 その最たる例が魔物だったりする。
『ダンジョンの外にいる魔物は雑魚である』と言うのは、この世界の常識ではあるが、それは人々が知っている範囲での常識であり、知られていない範囲では何とも言えない。

 いい例が竜族であり、こんな人里付近に生息してはいないとモリオンは言うが、未知の生物がいないとも限らない。
 だから、開拓には十分に気を付ける必要がある。毎日の確認は必須事項だろう。

「土地を見てきたが、あれはダメじゃの。
 理由はわからぬが、土地が疲弊しておる。ここと大差ないのじゃ」
「そうか。まぁ、枯れた土地でも国としては領土を増やしておきたいんだろうな」

「くだらぬのぅ。そんなことの為に同胞達が.....」
「.....」

 ドールの気持ちは痛い程分かるが、俺には、俺達にはどうすることもできない。
 俺達にできることは、目の前の奴隷達の現状を救ってあげることだけだ。未来を救うことはできない。

「分かっておる。.....それよりも、いつものを頼むのじゃ」
「よし、きた。.....『造形魔法』!」

 俺が『造形魔法』の詠唱を唱えると、積み上げられていた木材がどんどん形状を変化させていく。

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『造形魔法』とは物を作る魔法ではなく、物を物理的に別の形状に変化させる魔法だ。(※第46歩目参照)
 ただ、複雑な形状変化は不可能で、シンプルな物にしか変化させることはできない。
 例えば、この場合、木材を小屋に形状変化させるとかは無理だ。出来て、四角い箱ぐらいだろう。
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 そう、俺が作っているのは四角い箱ならぬ升だ。
 積み上げられていた木材が一つの巨大な升へとみるみる姿を変えていく。

「ウォーターボール!」

 そして、出来上がった巨大な升に並々と水を注いでいく。
 もうお分かりになっただろうが、俺が作ったのは即席の貯水升ならぬ貯水タンクだ。

 ここレムーナの奴隷達が生きた屍状態になっている原因のその3が塩辛い水となる。

 まるで海水のように塩辛いので飲むに堪えないばかりか、肌に付着させるとヒリヒリまでするという謎の水分。
 いくら奴隷達がこの水に慣れ親しんでいるとはいえ、こんなものを口にしていて健康なはずがない。

 そこで考えだされたのが貯水タンクという訳だ。
 考案者はドールで、伐採した木材を有効活用したナイスな案だと言えよう。

「良いか?今の水が無くなったら、この升に雨を貯めよ。
 この5つある升の中の水が無くなる前には、また雨が降るであろう。そうなれば永遠と水は無くならぬ」

 奴隷である同胞達に、コンコンと説明しているドール。狐さんだけになっ!

「黙らぬか」
「す、すいません.....」

 うまいと思ったんだけどなぁ.....。

 それはともかく、雨を飲み水にするという案は驚かされたが、少なくとも塩辛い謎の水分よりかは断然いいと思う。
 昔、ドールの住んでいた村ではこれが当たり前だったらしいので、生きる術というやつなのだろう。


 俺の命令上書きとモリオンの開拓、そしてドールの水確保。
 この3つの解決策で、ここレムーナの奴隷達は見違えるほど生気に満ち溢れた表情になったとさ。

                                   おしまい。




 ・・・。





「おしまい。じゃなーいヽ(`Д´#)ノ」
「.....なんだよ?」
「ねぇー、私はー(。´・ω・)?」

 えぇ.....。
 紹介するの?


□□□□ ~アテナのお仕事~ □□□□

 俺とドール、モリオンがテシーネさんの依頼により5日間頑張っている間、アテナはアテナで何やらしていたらしい。
 何やらというのは、正解には何をしていたのかが分からないからだ。

 始めは俺と一緒に仮設テント内に居たのだが.....。

「歩~。歩~。あそぼー!あそぼー!」
「仕事中だから後でな」

「あーきーたー!どっかいこー!」
「仕事中だって言ってんだろ!」

「.....(すやすや).....(^-ω-^)」
「お、おまっ!?自由過ぎるだろ!」

 遊ぼう遊ぼううるさいは、すぐに飽きるは、ところ構わず寝落ちするはで、正直邪魔でしかなかった。
 だから、2日目早々にはドールにアテナの面倒を任せてしまった。

 仮設テント内でジッとさせているよりかは、開拓に行かせたほうが多少は気晴らしになるだろうと判断したからだ。
 なにも邪魔な子を追い出したかったから、とかということでは決してない。

「姉さまは妾に付いてきてはおらぬぞ?」
「は!?どういうことだ!?」
「主が世話をすると姉さまが言っておったのじゃ」
「そーだったっけー?あーははははは( ´∀` )」

 こ、このくそ駄女神!
 またしても息を吐くように嘘を吐いたのか!?

 そうなると、アテナは実質4日間一人で自由行動をしていたことになる。
 何をしていたのかそこはかとなく不安になるとともに、何事もなく無事だったことにどこか安心感を覚える。.....心配させるなよ、全く.....。

「何をしていたんだ?」
「みんなとお話してただけだよー(・ω・´*)」
「お話?」
「そーそー!説法ってやつー?」

 お前は釈迦か!?

 一気に心配事が増えた。

 アテナは腐っても女神だ。その女神がお話ならぬ説法を村民に説いたという。
 それはつまり、神託というものに他ならない。

 ニケさんの神託はこれぞ神託という程に神々しくて、思わず跪いてしまった程だ。(※第130歩目参照)
 対して、アテナはニケさん程の力?神力?が無いとは言え、それでも女神である。きっと神託による影響は何かしらの形で表れているに違いない。

(うわぁぁあああ!知りたくない!知りたくなぁぁあああい!!)

 心の中で絶叫するも事実確認はしないといけないので、そのお話した人達のところまで案内してもらうことになった。
 せめて、少人数であることを祈るばかりだ。

 ・・・。

 しかし、そんな俺のささやかな願いは女神様アテナには届かなかった。

「おぉ、これはアテナ様。お散歩ですか?」
「んー( ´∀` )」

「アテナ様。先日はありがとうございました。おかげさまですっかりと元気に.....」
「言葉じゃなくてー、物で誠意をしめしてねー(o゜ω゜o)」

「先日のお礼を持って参りました。いかがでしょうか?」
「すくなーい!やりなおしーヽ(`Д´#)ノ」

 道行く奴隷達一人一人が、何故かアテナにお礼を述べている。
 まるでアテナ一人で奴隷達を救ったかのように.....。どんなお話をしたんだよっ!?

「のぅ、主。これは.....姉さまに手柄を横取りされたのではないか?」
「.....」
「どういうことなのだ?」
「要はトカゲは頑張ったのに、頑張ってないことになっているのじゃ」
「なんでなのだ!?それじゃー、ご褒美は無しなのだ!?」

 アテナのせいだ、とは口が裂けても言えそうにない。
 姉妹の仲を、純粋なモリオンの心を傷付けてしまいそうだから。ゆえに、ドールも敢えて言葉を曖昧にしているのだろう。.....本当に一番上の姉アテナはどうしようもないな!

「アテナ様。アテナ様。見てください!
 アテナ様から頂いたお力のおかげで、すっかりと体調が良くなりました!」
「よかったねー!ご飯はちゃーんとたべなさーい( ´∀` )」

「.....アテナの力?俺の力では?」

 ほぼ一日一食だった生活が、朝昼晩ときっちり摂れるようになったのはひとえに俺のおかげだと思う。
 それも獣人ちゃんの目の前で俺がやってあげたはずなのに、今ではアテナの功績となっている。

「こ、これは女神様!
 あなた様のおかげで病気がちな旦那が開拓に行く必要もなくなりました。
 あなたは旦那の命の恩人です。本当にありがとうございます。地上の女神様に感謝を.....」
「よかったねー!夫婦なかよくねー(o゜ω゜o)」

「開拓したのは我なのだ.....」

 陽が昇ったら開始し、陽が沈むまでほぼ毎日強制労働させられていた生活が、もはやその必要性がなくなったのはひとえにモリオンのおかげだと思う。
 それも獣人達の目の前でモリオンがやってあげたはずなのに、今ではアテナの功績となっている。

「は~。やっぱり水浴びは気持ちいいですね。
 アテナ様が考えてくださったこの入れ物のおかげで、汚れもすっかりと落ちました。
 それに水がこんなにもおいしいものだったなんて.....。本当にありがとうございます!」
「よかったねー!くさーい子はきらいだからきれいにしてねー┐(´ー`)┌」

「ぐぬぬ!なんだかイラッとくるのぅ!」

 塩辛くて飲むに堪えず、更にはヒリヒリするような謎の水から、飲み水から生活用水にまで使用できるようになったのはひとえにドールのおかげだと思う。
 それも奴隷達の目の前でドールがやってあげたはずなのに、今ではアテナの功績となっている。

「「「「「本当に、アテナ様がこの村を訪れてくださって助かりました!」」」」」
「「「「「アテナ様は我々の恩人です!我々の希望です!我々の女神です!」」」」」
「「「「「アテナ様ばんざーい!アテナ様ばんざーい!アテナ様ばんざーい!」」」」」

 その後も奴隷達からのアテナを称賛する声は止むことはなかった。
 それはまるで、この村全体がアテナを神として信奉している一種の宗教のような状況に陥っていると言っても過言ではない程に.....。

「私の恩を忘れないでよねー?あーははははは( ´∀` )」
「「「.....」」」

 俺の命令上書きとモリオンの開拓、そしてドールの水確保。
 確かにこの3つの解決策で、ここレムーナの奴隷達が見違えるほど生気に満ち溢れた表情になったのは間違いないだろう。言うなれば、村を救ったと言ってもいい。

 しかし、その結果がこれ.....。


 結局、今回の一件で奴隷達の表情には生気が甦ったが、俺達の表情には暗い影を残すことになった───。

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後書き

次回、本編『ある親子の想い①』!

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今日のひとこま

~黒き愛情~

「それにしても、命令を変更させる力をお持ちなんて勇者様とは本当に偉大ですね!」
「ありがとうございます。ですが、内密にお願いしますよ?」
「分かっております。このようなお力.....、奴隷制度のそのものを覆す事態になりかねませんから」
「理解が早くて助かります(まぁ、正確には違うけど)」

「本音を言わせて頂くなら、竜殺し様に奴隷達をお任せしたいところなのですが.....」
「それは本当に勘弁してください!5000人とか面倒みきれませんから!」
「ですが、竜殺し様ほどの方でしたら問題ないのでは?」
「冗談ですよね?5000人を養うって、そんな簡単な事じゃないですよ?」

「いえ、竜殺し様の名のもとにシンフォニアにて働かせるとか.....」
「それはそちらでなんとかしてください。所有した以上はそんな無責任な事はできません」
「無責任.....。やはり、竜殺し様もケモナーだったんですね!獣人にそこまでお優しいとは!」
「しつこいなっ!?.....その話はいいので、テシーネさんの旦那さんも連れてきてください」

「どうしてですか?」
「どうしてって.....。獣人なんですよね?」
「そうですが.....。それがなにか?」
「実験という訳ではないですが、もしかしたら『自由奴隷』並のところまで命令を上書き.....」

レムーナの奴隷達を『自由奴隷』にするのにはリスクがありすぎるが、テシーネさんの旦那さんだけなら問題はないだろう。

そう思っていたのだが.....。

「必要ありません」
「できるかもしれません.....え?」
「ですから、必要ありません。旦那は今のままで構いません」
「えっと?別に副作用とかはありませんが.....」

正直、即拒絶されるとは思いもしなかっただけにうろたえてしまった。

「いえ、竜殺し様のお力を疑っているのではなく、必要ないのでお断りさせて頂いたまでです」
「必要ない.....?失礼ですが、テシーネさんの旦那さんは完全奴隷ですよね?」
「はい。その通りです」
「でしたら、旦那さんの為にも『自由奴隷』にしてあげた方が良いのでは?」

「なぜです?」
「!?!?!?(.....あれ!?俺がおかしいのか!?)」
「旦那は今のままでも幸せですし、私も幸せですが?」
「は、はぁ.....」

旦那さんはともかく、テシーネさんが幸せなのは分かる。
ケモナーとして獣人の旦那さんと結婚しているのだから。

「それにですね?完全奴隷だからこそいいんじゃないですか」
「ど、どういうことですか?」
「だって、私を裏切れないんですよ?」
「.....は?」

「私だけしか愛せないんですよ?私だけしか見ることができないんですよ?」
「.....」
「まさに究極の愛じゃないですか!これ以上の愛なんて存在しませんよ!」
「だ、旦那さんを信用していないんですか?」

「信用してますよ?.....だから、縛るんです」
「!?」
「お分かりになりませんか?相手を完全奴隷で縛ることこそ理想の愛なのです!」
「.....」

うわぁ.....。
何言ってるのかさっぱり分からん。マジでやばい人だ.....。


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