歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第166歩目 奴隷村の実情!


前回までのあらすじ

コルリカえびせんは好評なようです!

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3/12 世界観の世界編!に一部追記をしました。
   追記箇所は、『冒険者ギルド』となります。

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□□□□ ~立ち寄る経緯~ □□□□

 コルリカでえびせんを名産品にしてから3ヶ月が過ぎた。
 道中色々とあったが、俺達は現在新しい村である『奴隷の村レムーナ』へとやってきている。

 当初、この村は避けて『農産物の町ミューロリア』へと向かおうと思っていた。
 理由は、『奴隷の村』とかいうパワーワードに良いイメージが沸かないことと、同じ奴隷であるドールが快く思わないだろうと考えたからだ。

 しかし、そんな俺の気遣いとは裏腹に、当然の如く猛反対された。

「野菜はいやー!!野菜はきらいなのーヽ(`Д´#)ノ」
「野菜は嫌いなのだ!おいしくないのだ!!」

「.....」

 そう、烈火の如く反対してきたのは、アテナとモリオンだ。

 この2人、普段からほとんど野菜を食べない程の野菜嫌いで、当初の計画でも『農産物の町ミューロリア』行きだけは断固として反対していたぐらいだ。
 それでも『農産物の町ミューロリア』行きを決定したのは俺の強い意向によるところが大きい。.....と言うか、好き嫌いしてんなっ!

 とりあえず、このダメ姉妹の意見は無視して、気になるドールに意見を求めてみると.....。

「妾に気を遣う必要などないのじゃ。妾は主の奴隷であることに誇りを持っておる」
「.....」

 この場合、奴隷に誇りを持つなよ.....とは言っちゃいけないんだろうな。
 いや、気持ちは嬉しいんだけどさ?

「それに、力を求めるならば、立ち寄らぬ手はあるまい?無用の心配なのじゃ」
「まぁ、ドールがそう言うなら.....」

 そういう事情もあったので、ドールの言う通り、可能な限りダンジョンをクリアしておきたいと考えている俺は、ドールのお言葉に甘えて『奴隷の村レムーナ』に立ち寄ることに決めた。


(奴隷の村とかネーミングセンスを疑うわぁ.....。例え、事実であっても、もうちょっと考えようよ.....)


□□□□ ~奴隷の村レムーナ~ □□□□

 さすが『奴隷の村』というだけあって、住民の獣人率が非常に高い。
 見渡す限りが、獣人。獣人。獣人。獣人。獣人。と、もはや『獣人の村』と改名しても何らおかしくない状況だ。動物園か、ここは?

「はー。コンちゃんみたいな子がいーっぱいいるねー(・ω・´*)」
「だなぁ.....。見たことがない種族もいるぞ?」
「そだねー。あとー、くさーいr(・ω・`;)」
「.....」

 口を慎め!
 我慢してることを口にするな!!

 村に入って誰でもすぐに気付くことだが、衛生環境が酷すぎる。
 いや、村の衛生環境はそこまで酷くはなく普通なのだが、奴隷達の衛生面が酷すぎる。

 顔は頬こけ、目に光はなく、体全体は痩せ細っている。
 皮と骨だけという言葉がしっくりくるほどの異様な姿だ。仮に、夜に出会ったりしたらトラウマものだろう。

 着ている衣服も、男女関係なく所々破れかけていて、もはや半裸状態と言ってもいい。
 それに、泥だか血だかなんだかよく分からないものがびっしりとこびりついていて、凄まじい腐臭を放っている。

 言うまでもないと思うが、当然のことながら奴隷自身の体も薄汚れている。
 きっと、体すら拭かせてもらえてはいないのだろう。元々は白猫の獣人だったと思われる子が、それはもう黒猫状態になってしまっている。

(まるで生ける屍.....)

 奴隷という概念が、ここまでピッタリと当てはまるものはそうそうないというぐらいの見事な、悲惨な奴隷像だ。
 こういう姿を見たくないからこそ、奴隷と深く関わり合いにはなりたくないのだと改めて思わされた。

「くちゃぁぁあああい(´;ω;`)」
「.....ぐ、ぐぬぬ!さすがに少し憤りを感じるのじゃ!!」
「.....(うぷっ).....き、気持ち悪くなってきたのだ.....」

 アテナは後でおしおきするとしよう.....。

 この状況に憤るドールと、この腐臭で気分を害すモリオン。
 色々な意味で来てはいけない場所だったと、今更ながら後悔し始めてきた。異世界の負の部分というべきか、人間の闇の深さともいうべきか。

「妾も酷いことをされたが.....。ここまで悲惨ではなかったのじゃ」
「これは生きているというよりも死んでいないってだけだしな.....」

 しかし、来てしまったものはしょうがない。
 かくなるうえは、さっさとダンジョンを攻略して、無かったものとして忘却の彼方に流してしまおう。

「うむ。それが良かろう」
「言っといて何だが.....。何か感じるものはないのか?」
「.....あるに決まっておろう?同胞がこんな仕打ちをされておるのじゃからな.....」

 よくよく見ると、ドールの体が小刻みに震えている。
 そればかりか、何かを堪えるかのようにお気に入りの服をぎゅっと掴み、その跡がしわくちゃになってしまってさえいる。

 誰よりも仲間思いなドールには、あまりにも無神経な質問だったのかもしれない。

「.....すまん」
「.....主のせいではなかろう?」
「それはそうだが.....。人間族を代表して済まないと思っているよ」

『奴隷の村レムーナ』はフランジュ領だ。
 つまり、奴隷達にここまで酷い仕打ちを行っているのは人間族となる。

 異世界人である俺は直接的には関係ないのだろうが、それでも、同じ人間族として申し訳なく思ってしまう。
 それと同時に、俺にはどうすることもできないという事実を、ドールには理解してもらわないといけない腹立たしさも襲ってくる。

「先程も言うたが、主のせいではないのじゃ。気にするでない。
 じゃが.....、同じ獣人として、同じ奴隷として、主のその気持ちは嬉しく思う」
「.....」

 ドールの気遣いの言葉、無理矢理に作った優しい笑顔が、なんとも言えずに切ない。

 ドールは全てを理解した上で、ここを早く立ち去ろうと言ってくれているのだ。
 姉や妹への気遣いだけではなく俺の心情も慮って.....。本当に良くできた12歳だ。

「今の妾では何も成せぬ。成せるだけの力が無い。同胞を助けることすら叶わぬ。
 力が欲しいのぅ.....。同胞を助けられるだけの力を.....。理不尽な世の中を変えられるだけの力を.....」

 そんなドールの何気ない呟きがいつまでも俺の耳に残った。
 出会った当初から変わらない、ドールが力を欲する本当の意味を知ることができた貴重な瞬間だった。


□□□□ ~再びの暴走~ □□□□

 酷使されている奴隷達には悪いが、こんな胸糞な土地はさっさと離れたい。
 そう全員の意見が一致したところで、足早に冒険者ギルドに立ち寄った。

「えぇ。ここレムーナにはFランクのダンジョンが2つございます」

 こんな土地にもダンジョンはある。
 力を求める以上、ダンジョンがあるのなら、クリアしていきたいと思うのが人情というものだ。

「Fランクが2つですか」
「はい。こういう土地柄のせいか、冒険者の方があまりお立ち寄りになられないのです。
 ですから、2つともランクが低いのが現状ですね」

 そう困惑気に語るのは、五十音姉妹の一人であるテシーネさん。
 コルリカに居たソシーネさんとは母親が異なる異母姉妹だ。

 そして、テシーネさんが言っている土地柄とは奴隷村のことを指している訳ではない。
 この世界の人々からしたら、奴隷はモノ扱いなので酷使するのが当たり前という認識がある。だから、俺や奴隷であるドールのように胸糞に思うことはあまりない。多少、不快に思う人はいるかもしれないが。

「塩辛いですもんね、ここの飲み物は.....」
「申し訳ありません。ここは開拓の一拠点でしかないので設備が整っていないのです」

 なるほど。
 だから、奴隷達の衛生面が最悪に近いのか.....。

 ここレムーナは荒野帯にある村だ。
 しかも、無理矢理に開拓したかのような惨憺たる跡まで残っている。そのせいか、土地が痩せているというか、枯れてしまっている。

 ぶっちゃけ、人が住むには適していない土地だと思う。
 その証拠に、海から直接引いているのか?と、さえ思うほど水が塩辛くて飲むに堪えない。これはあくまで俺達基準であって、ここの奴隷達はこの塩辛い水を飲んで生活しているというのだから驚きだ。

「テシーネさん達はどうやって生活しているんですか?」
「.....」
「あ、いえ、別に責めている訳じゃないですから」

 いけない。いけない。
 無意識の内に、不快そうな表情でも出ていたか?

「正統勇者キャベツ様より便宜を図るよう言われておりますので、竜殺し様には正直に申し上げましょう」
「キャベツさんから、ですか?」
「ご存知ないのですか?今頃は全冒険者ギルドに、そのような通達が行き届いているかと思われます」
「ぜ、全冒険者ギルドに!?」

 せ、正統勇者ってすごいな.....。
 いや、十傑の一人だからか?

 一人の勇者の意向が全冒険者ギルドにまで影響を及ぼすとか、改めて勇者というものの異世界における立場というものを認識できた。
 だからこそ、勇者ではない者が正統勇者になろうとしているのだから、勇者に恥じない行動をしていこうと自分自身を戒めるきっかけにもなった。

 そう、きれいに締めくくるつもりだったのだが.....。

「いえ、勇者様が凄いのはもちろんですが、私達冒険者ギルドは全勇者特別機構の機関なのです。
 ですから、正統勇者であり十傑のお一人であるキャベツ様の意向に従うのは当然のことでございます」
「そうなんですか!?」

 国の機関だとばかり思っていたのでかなり驚いた。
 そうなると、国とは独立した超法機関にあたるということなのだろうか。

「そういうことになりますね。私達も国の職員というよりかは機構から派遣された職員となりますし。
 ですが、その国で働かせてもらう以上は、その国の法にある程度従う必要はございます」
「派遣社員はどの世界でも大変なんですね.....」

 ファンタジーな世界に、そういうリアルな事情は持ち込まないでくれよ.....。

 テシーネさんの言う通り、冒険者ギルドが全勇者特別機構の管轄となるのなら、キャベツさんの意向が大きく反映されるのは当然だ。
 機構の正確な組織体系は分からないが、それでも、十傑という身分を考えれば相当上の地位に就いているのは間違いないだろう。キャベツさんの心遣いに感謝、感謝。

「そういう事情がありますので、私達職員は機構より毎日食事や水が支給されております」
「なるほど。でも、それだと機構にも相当な負担がかかっているのでは?」
「機構のほうも国に事情を説明してはいるようですが、政治に関わることですので.....」

 内政不干渉ってやつか?
 だから、ファンタジーな世界にリアルな事情は持ち込むなって.....。

 とりあえず、テシーネさんを始めとする冒険者ギルドの職員の事情はよく分かった。
 贅沢という贅沢な生活をしているようでは無さそうだし、特に何かを言うつもりはない。

 そうなると問題は.....。

「貴族達はどうしているんですか?さすがに機構はそこまで面倒を見てはいないですよね?」

 レムーナはフランジュ領なので、当然貴族がここを領有していることは間違いないだろう。
 所謂、領主というやつだ。コルリカにも貴族の領主 (正確には領主代理だったけど)がいたので、当然レムーナにも居て然るべきだろう。

「ここに領主様はおりません」
「.....え?じゃあ、ここの管理は誰がやっているんですか?」
「私達冒険者ギルドが領主様の代わりを務めさせてもらっています」

 それはいいのか?明らかな越権行為にあたるのでは?
 いや、でも、国や機構もこの状況を知った上での措置ということなのだろうから問題ないのか?

「いえ、機構はともかく国は知らないかと思われます。
 恐らくですが、貴族様の独断専行かと。地方を領有する貴族様は王への忠誠心など皆無ですから」
「辛辣っ!?」

「いえいえ。事実でございます。
 中央の貴族様は権力争いにうつつを抜かし、地方の貴族様は私服を肥やす。
 貴族様はいつの世も代わり映えはございません。清廉潔白な勇者様とは違うものです」
「HAHAHA」

 勇者も言うほど清廉潔白じゃないですよ?

 そんなことを冗談でも言える雰囲気ではなかった。
 それぐらいテシーネさんの勇者への憧れというか、信仰心が(視覚的にも)凄まじいものに見えた。

 熱狂的信者というよりかは狂信的信者。
 勇者が善にして全。

 そんなやばいオーラがひしひしと伝わってくる。
 冗談でも勇者を否定するような言葉は一言も言ってはならないのだと認識させられた。

 とりあえず、テシーネさんがやばい人なのは置いといて、一つの疑問が残る。
 それは奴隷達についてだ。

 領主が不在で、ギルドが村を管理しているということは.....。
 つまり、奴隷達を酷使しているのはギルド職員ということなのだろうか。

「いえ、私達ではございません。領主様でございます」
「でも、領主は不在なんですよね?だとしたら、ここまで酷使されている理由が.....」

 所謂、手抜きというやつだ。
 領主が不在であるならば、幾らでもサボりようはあると思うのだが.....。

 この時の俺は、この世界の奴隷というもののシステムをすっかりと忘れていた。
 そして、それを思い出させてくれたのは、やはり同じ奴隷であるドールだった。

「忘れたのか?.....いや、主の場合は忘れても致し方なしというべきじゃの」
「どういう意味だ?」

「『自由奴隷』である妾は恵まれておるからの。
 嫌な命令を拒否できるというのは存外幸せなものなのじゃ」
「!!」

 そう言うと、ドールは本当に幸せそうに自身の首輪をうっとりとした表情でなぞった。なんかエロいなっ!?
 2本の尻尾も左右に優雅に振られている。こっちはかわいい。

(そ、そうだった.....。この世界の奴隷システムは胸糞悪いものだった.....)

 ここでは奴隷制度の詳しい説明は敢えて省かせてもらう。(※詳しくは、世界編!【奴隷制度】を参照)
 簡単に言うと、奴隷にも種類があって、その一つである完全奴隷は主人の命令には絶対服従であること。
 つまり、主人から「死ね」と言われれば、それを拒否することは不可能だということだ。

 そして、ここレムーナにいる全ての奴隷は、当然のことながら主人に絶対服従の完全奴隷の者達ばかり。
 主人である貴族にどんな命令をされたのかは不明だが、この惨状を見る限りではロクでもない命令をされたことは明白である。

 いや、しかし、この惨状は.....。

「.....ドール。辛かったら言わなくてもいい。命令の範囲はどこまで及ぶんだ?」
「完全奴隷に制限などない。
 この地で死ぬまで働けと言われたら、この地から出られぬし、主人がおらずとも首輪の作動は起こらぬ」

 土地への束縛。
 そして、首輪もか.....。

「それだけではない。贅沢するなと言われれば贅沢はできぬし、
 もっと言えば、食事は一日一食、食べていいのはこれだけだと細かく指定することもできるの」
「.....」

 命をも自由にできるからこその完全奴隷。
 分かっちゃいたが、改めて聞くと本当に胸糞悪い。

「忘れておったではないか」
「HAHAHA」

 そういうツッコミはやめてっ!?

 ドールの鋭い指摘と呆れたようなジト目から逃れるようにして、テシーネさんとの会話を再開する。
 冒険者ギルドに来た目的は村の現状を知りたい訳ではなく、ダンジョン攻略について聞きたいからだ。

「ダンジョンは2つとも攻略してしまっていいんですよね?」
「2つ.....ですか。正直申し上げれば困ります。
 冒険者の方々があまり立ち寄られないとは言え、全くいらっしゃらない訳ではございませんので」

 ですよねー.....。

 こういう胸糞悪い土地であっても冒険者ギルドがあるというのはそういうことだ。
 可能性が0でないならば冒険者はやってくる。冒険者とはそういうものだ。だから、可能性を0にされるような行為 (=ダンジョンを2つとも攻略される行為)は、当然ギルド側もお断りしたいだろう。

「竜殺し様のお噂は聞いております。
 いかがでしょう?王都の時のように攻略の権利を購入されてみては?」

 あちゃー。
 そんな噂が流れているのか.....。

 テシーネさんの瞳が妖しく光る。

 やはり、臨時ボーナスはあると見て間違いないだろう。
 それに、こんな僻地にまでダンジョン漁りの噂が流れていたとは予想外だった。ギルドのネットワーク恐るべし!

 しかし、テシーネさんの発言から、コルリカの件はまだ知られていないというのは薄々だが分かる。
 つまり、そこに解決の糸口があるという訳だ。

(テシーネさんには悪いが、お金では絶対に買わんぞ!?)


 ・・・。


 さて、早々にドールを説得役にして、テシーネさんと交渉に入る。

「くふふ。またしても妾の出番ということじゃな♪」
「.....(すやすや).....(^-ω-^)」
「はむはむはむ.....(ごくんっ).....お姉ちゃん頑張るのだー」

「.....」

 ドールはノリノリで、アテナはすやすや、モリオンはもぐもぐ。
 特に「くさーいr(・ω・`;)」と言っていた駄女神は臭いのことなどなんとやらで熟睡しているし、「気持ち悪いのだ」と言っていたおバカ姫は気分のことなどどこ吹く風と暴食している。ほんま、このダメ姉妹はっ!

「名産品.....ですか?」
「はい。この村だけの名産品が出来れば、ダンジョンに頼ることはなくなると思いませんか?」
「はぁ.....、まぁ、確かにそうですが.....」

 あれ?
 乗り気じゃない?

 ソシーネさんの時とは違って、テシーネさんからは手応えをあまり感じない。
 それはドールにも伝わっているようで、ますますメラメラとやる気に燃えているようだ。頼りになるなぁ。

「仮に、その旅行者というのが増えたとしましょう。それ自体はとても魅力的なお話だと思うのです。
 各地の活気にも繋がりますし、私達冒険者ギルドとしても積極的にお手伝いさせて頂きたく思います」
「でしたら.....」

 この五十音姉妹というのは本当に侮れない。
 一部の姉妹を除いて、その大多数がみな意外と賢い人が多いことに驚く。

 このテシーネさんにしても、旅という概念がほぼ無いと言っても過言ではないこの世界で、瞬時にその有用性やメリットを考えられるあたり相当優秀な人だと思われる。血か?遺伝か?教育か?

「竜殺し様も一緒に考えて頂きたいのですが、仮に、この地に名産品が出来たとしましょう」
「はい」
「取り寄せのことは一旦置いておくとして、通りますか?この地をわざわざ旅行に選びますか?」
「!?」

 地図に目を落として考える。

 他所からやってくる者は、そのほとんどが旧都トランジュを経由するものらしい。
 そこから王都フランジュを目指すとなると.....。

「私が旅行者ならば、ミューロリアとコルリカのルートを辿ります。
 名産品ならば取り寄せられるでしょうし、恐らくですが、王都でも買えることでしょう。
 私の父ならば必ずそうします。商人とは利に敏いものですしね」

「.....」

 ぐぅの音も出ないとはこの事だ。
 俺だって、旅行者という立場に立ったら、きっとそのルートを辿るに決まっている。

 何が悲しくて『奴隷の村』なんてところに行かなきゃならないのか。
 ダンジョンさえなかったら、こんな村になんて来たいとは絶対に思わなかっただろう。

「そ、その通りなのですが.....。少しお言葉が.....」
「す、すいません」

 おっと、つい本音が.....。

「本音と言うておる時点でどうしようもないのじゃ」
「HAHAHA」

 これは手厳しい。
 そして、なにも厳しいのはドールの指摘だけではなく、テシーネさんの説得も厳しくなってきた。

 名産品という新たな利益に目を付けない訳ではないだろうが、それでもコルリカ程のメリットを感じてはいないようだ。
 敢えて手伝ってもらう必要はないですよ?みたいな雰囲気をテシーネさんからはひしひしと感じる。これでは情報の与え損に他ならない。

(マ、マズいぞ.....。このままでは攻略の権利を購入させられてしまう.....)

 ジリジリと焦る俺に対して、にこにこと営業スマイルを浮かべるテシーネさん。
 もうお話は以上ですか?とばかりに、権利購入の事務作業に入っているその姿はまさしくプロの受付嬢だ。

(くっ!ここまでなのか!?俺達の説得の旅はここで途絶えてしまうのかっ!?)

 俺が諦めかけ1億ルクアを用意しようとしたその時、不屈の闘志に燃えるあいつが遂に動き出した。
 そう、みんなご存知の駄女神ことアテナ.....ではなくて、忠誠バカことドールさんだ。

「お主は何も分かってはおらぬのぅ。いつ主が名産品だけだと言うたのじゃ?」
「どういう.....ことでしょうか?」

「主はあくまで分かりやすいように名産品という一例をあげたまで。
 その本当の狙いは別のところにあるのじゃ」

 .....え?
 本当の狙いってなに!?

 ドールが何を言っているのか分からない。いや、分かりたくないのかもしれない。
 まるで本能が理解することを拒絶しているかのような.....。こ、怖いぃぃいいい!

「その別の狙いというものを詳しく教えて頂けますか?」
「クドい説明は好かぬから端的に言うのじゃ」
「はい。お願いします」

 あのテシーネさんが食いついている、だと!?

「主は偉大なる竜殺しにて、十傑の一人にも認められる程の勇者なのじゃぞ?
 そこらへんの木っ端勇者とは格が違う。言うなれば、十年に一人、いや、百年、千年に一人の勇者なのじゃ」

「い、いくら何でも持ち上げ過ぎだろ.....」
「竜殺し様はちょっと黙っててください!」

 なんで!?
 俺がその紹介されている勇者なんですが!?.....まぁ、勇者じゃないけど。

 しかし、ドールの迫真の演技は本当に素晴らしいの一言だ。
 こう、聞く者をもっと聞いていたいと上手く誘っていくあたりはセンスを感じる。ただ、他の勇者を木っ端勇者扱いはさすがに言い過ぎだが.....。

「そして、勇者とは人々に夢を、希望をもたらす者。
 ここまで言えば、お主でも分かろう?主の本当の狙いというやつが」
「.....つまりは、この村がより良くなる為のお力添えをして頂ける、ということですか?」

「はぁ!?」

 とんでもない方向に話が向き始めた。
 俺は単にの『名実を売る』だけのつもりでいたのだが、いつのまにやらの『名実を売る』話になってしまっている。

「そういうことじゃな。それを解決する代わりにダンジョンを頂くのじゃ。悪い話ではなかろう?」
「そういうことじゃな、じゃねぇ!なに勝手なことを.....」
「大事な話をしているので竜殺し様は黙っててください!!」
「ひぃ!?.....す、すいません」

 テシーネさんの勢いに恐れをなして、思わず引っ込んでしまった。
 この現実をテシーネさんには直視して欲しい。.....無理なんだろうなぁ、ドールに乗せられているし。

 いや、むしろ考えるべきは、テシーネさんがドールの話に食いついてしまう程の問題があるということだろう。とは言え、このレムーナの問題と言えば、すぐさま思い付くのはあれしかないが.....。

 そして、その嫌な予感は、お約束と言ってもいい程に見事的中することになる。

「ど、どうか!この村の奴隷を.....。
 いえ!この村の獣人達をお救いくださいませ!!」
「任せよ!」

 勝手に決めてんなっ!!


 こうして、再び忠誠バカドールの暴走のせいで、俺はテシーネさんの依頼願いを引き受けることになった───。


(91日分の取得品)

①ダンジョン攻略(E)の報酬   (↑5,000,000ルクア)
②魔道具『カメラ』の購入費    (↓20,000,000ルクア)
③一時的な馬車の購入費      (↓500,000ルクア)
④91日分の馬の餌代        (↓300,000ルクア)

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『アテナ』 レベル:3 危険度:極小

種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀

職業:女神
称号:智慧の女神

体力:50
魔力:50
筋力:50
耐久:50
敏捷:50

装備:殺戮の斧

女神ポイント:117,340【↑100,100】(91日分)

【一言】きいてー!きいてー!鼻栓すれば臭くないんだよー!お昼寝は口呼吸ー( ´∀` )
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アユムの所持金:3,656,302,200ルクア【↓15,800,000】(91日分)
冒険者のランク:SS(クリア回数:20回)

このお話の歩数:約9,930,000歩(91日分)
ここまでの歩数:約61,345,200歩

アユムの旅行年:31ヶ月+29日(↑91日)
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『アユム・マイニチ』 レベル:11076【↑936】

種族:人間
年齢:26
性別:♂

職業:凡人
称号:女神の付き人/竜殺しドラゴンスレイヤー
所有:ヘリオドール/ねこみ/ねここ

体力:11086(+11076)【↑936】
魔力:11076(+11076)【↑936】
筋力:11081(+11076)【↑936】
耐久:11081(+11076)【↑936】
敏捷:13536(+13476)【↑936】

装備:竜墜の剣ドラゴンキラー(敏捷+2400)

技能:言語理解/ステータス/詠唱省略

Lv.1:初級光魔法/初級闇魔法

Lv.2:浄化魔法

Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知/隠密
   偽造/捜索/吸収/治癒魔法/共有
   初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法
   初級土魔法/ 物理耐性/魔法耐性
   状態異常耐性

Lv.4:初級風魔法 (※『竜墜の剣』装備時のみ)

共有:アイテムボックスLv.3
   パーティー編成Lv.3
   ダンジョンマップLv.3
   検査Lv.3
   造形魔法Lv.3
   奴隷契約Lv.3

待機:申請魔法Lv.3
   ワールドマップLv.3
   マッピングLv.3

加護:『ウォーキング』Lv.11076 769/11077
   『NTR』   Lv.6056  4869/6057
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後書き

次回、本編『奴隷村の解決策』!

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今日のひとこま

~3ヶ月の旅路~

───ガラガラガラ

「ひゃっほ~!やっぱり歩きでの旅はレベルがガンガン上がって気持ちいいな!!」
「ふむ。主への好意を加味しても気持ち悪いのものじゃな」
「うぉい!?聞こえているぞ!?」
「気持ち悪いものは気持ち悪いのだから仕方あるまい?」

───ガラガラガラ
───ガタンッ

「.....(うぷっ).....お、お姉ちゃんも気持ち悪いのだ?」
「いいから横になってろ。少しは乗り物に慣れておかないと、この先もしんどいぞ?」
「.....ご、ごめんなさい、なのだ」
「気にするな。徐々に慣れていけばいいよ」

───ガラガラガラ

「歩~r(・ω・`;)」
「なんだよ?」
「おしりいたーい(´;ω;`)」
「お前はわがまま言うな。ただ乗ってるだけなんだから我慢しろ」

俺達は現在、『奴隷の村レムーナ』に向けて旅をしている最中だ。
俺は当然歩きで、アテナ達はコルリカで購入した馬車に乗っている。

「魔動駆輪を購入するのではなかったのか?」
「仕方がないだろ?魔動駆輪みたいな最先端魔道具は大きめの都市にしかないみたいだし」
「はぁ.....。早く乗りたかったのじゃ」
「旧都トランジュにあるらしいから、そこでな?」

───ガラガラガラ
───ガタンッ

「.....(うぷっ).....そ、そこにいけば、これも治るのだ?」
「すぐには治らないけど、治る可能性はある」
「.....が、頑張るのだ。気持ち悪いの嫌いなのだ」
「そうだな。俺も手伝ってやるから頑張ろうな?」

───ガラガラガラ

「ふかふかなベッドがあるやつにしよー?固いやつきらーい(´・ω・`)」
「それは魔動駆輪関係ないだろ」
「あとねー、TVがあるといいなー( ´∀` )」
「だから、それは魔動駆輪関係ないだろ。と言うか、さすがにTVはないだろ.....」

御者はドールに任せ、モリオンは乗り物酔い克服の訓練中。
アテナは荷台でただダラダラしているだけだ。それなのにわがままばかり。この駄女神ときたら.....。

「それにしても、主は良いのぅ。歩くだけでレベルが上がるとは。羨ましいのじゃ」
「そうか?それ以外ではレベルが一切上がらないんだぞ?
 冒険でのお約束のボスを倒す楽しみがないし、倒した時の高揚感もないのは意外ときついもんだ」
「それは一時的なものであろう?妾は強くなっていく実感を常に感じていれるほうが良い」
「そういうもんか?とりあえず12時間歩いてみるか?多分、明日は足がパンパンになるぞ?」

───ガラガラガラ
───ガタンッ

「.....(うぷっ).....わ、我は歩いているほうがいいのだ」
「モリオンはダメだ。乗り物に慣れるのが先。毎回、気分悪くなられたら面倒だしな」
「.....うぅ。.....こ、これに乗ってると食べ物食べられないのだ」
「そうだな。食べたかったら頑張るしかないな」

───ガラガラガラ

「んー?ふつーにたべれるけどー(。´・ω・)?」
「誰もお前に言ってないから。と言うか、妹が苦しんでるのに普通に食べるな。少しは遠慮しろ」
「だってー、揺れてぜーんぜんたべられないんだもーん(´-ε -`)」
「だから遠慮しろって言ってんの!それで全然食べてないとか冗談だろ!?」

1日12時間の移動で約11万歩。
『奴隷の村レムーナ』への旅はまだまだ始まったばかりだ。

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