歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第156歩目 vs.四天王フォボス!モリオン⑧

前回までのあらすじ

怒れる四天王フォボスが遂に動き出した!

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□□□□ ~喜びも束の間~ □□□□

 複数のドラゴンに勝利し、喜びに沸いていた戦場も次第にその熱が失われていった。
 当然のことだが、勝鬨を上げていた冒険者一同が続々と冒険者ギルドへと帰還を始めたからだ。

「では、僕達もドラゴンを回収したら戻るとしようか」
「そうですね」

 ドラゴンは貴重な資源となる。
 苦労して倒したのだから回収しない手はない。

「水竜を半々でいいかな?」
「そうですね。海竜のほうはどうしますか?」

「当然、君の物だろう」
「え?い、いや、俺は別に.....」

「遠慮は不要さ。今回の戦いにおけるMVPは君だ。その権利がある」
「.....分かりました。そういうことなら遠慮なく頂きます」

 当初は譲る気でいたのだが、考えが変わったので遠慮なく貰うことにする。

 頭部を失ったドラゴンの遺体が全部で7体。水竜が6体、海竜が1体となる。
 いかほどの価値になるのかは分からないが、鱗の質から見ても海竜のほうが貴重なような気がする。

(これで俺は.....)

 そう思いながらドラゴンを回収していると.....。

「「「「「あ、あの、竜殺し様にキャベツ様。そ、その.....」」」」」
「.....」

 その光景をいまだギルドに帰還せず、そわそわしたような、もじもじしたような様子で、ちらちらと見ている冒険者達が話し掛けてきた。.....もじもじすんな!気持ち悪い!!

 言わんとしていることは良く分かる。
 と言うか、ちらちら見すぎで、むしろこれで分からないほうが問題ありだろう。

「はっははははは!安心したまえ。君達の分もちゃんとあるからさ」
「「「「「たっはぁ~!さすが竜殺し様にキャベツ様だぜ!話が分かるぅ!!」」」」」

 諸手を挙げて一斉に歓声を上げる冒険者達。

 あ、あの.....。
 俺はまだ何も言っていないんですが.....。

「冒険者達への分け前は僕が出しておこう。君は何も心配する必要はないさ」
「.....」

 なにこの人!?
 めっちゃ男前なんですが!?

 キャベツさんがそう言うのなら、お言葉に甘えるとしよう。

 何も俺はケチっているつもりは一切ない。
 俺には俺の考えがあるだけで、今回はそちらを優先したいだけだ。

(俺だって本当はキャベツさんみたいに気前良く.....)

 悶々としながらも、最後の海竜を回収し終えたので、キャベツさんともども戦場を後にする。
 何気なく戦場を振り返ってみるとそこには.....。

 あの美しい景観を誇っていた観光地が、今は見るも無惨な姿を晒している。
 元の素晴らしい景観に戻るまでに、一体どれほどの年月が必要になるのだろうか。

「.....」
「どうしたんだい?」
「い、いえ.....」

 たった一度の過ちが、ここまでの被害を及ぼすことになろうとは.....。

 後悔。反省。自責。負い目。
 何とも言えない申し訳ない気持ちになってしまった。恐らく俺達が原因だろうから.....。

 そんな忸怩じくじたる思いを胸に抱いていたその時。

「「!!」」

 突如、感知スキルに反応した1つの生物。
 それを感じ取った瞬間から、吐き気や悪寒がするというか、ゾッと背筋が凍るというか、嫌な汗が背中を伝わり始めた。

「.....キャ、キャベツさん」
「.....あ、あぁ、分かっている」

 キャベツさんの顔が青ざめている。いや、俺もきっとそうなのだろう。
 考えたくもないことだが、恐らく俺とキャベツさんの認識は間違っていないはずだ。

 ・・・。

 殺気を孕んだ明確な敵がやってくる!
 しかも、そいつは海竜よりも遥かに強い!!

 ・・・。

 恐怖に、絶望に、体がおののく。
 苦労して倒した海竜よりも遥かに強い何かがやってくるという事実が目の前を真っ暗にする。

 そして───。

『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 遂に、俺達の前に姿を現した1匹の巨大なドラゴン。

 その容貌は思わず見とれてしまいそうになる程、キラキラと光り輝く美しいエメラルドブルーで彩られていた。
 先程の海竜を海の王様となぞえるなら、このドラゴンはさながら海の皇帝とでもいったあたりだろうか。

 そして、何よりも印象に残ったのが.....。

 このドラゴンの咆哮が、なぜか心を打つほどに、怒りに、悲しみに満ちていた。


 □□□□ ~戦意喪失。そして~ □□□□

───ガキィィイイイン!

【『bad!』キャベツさんが防御に失敗しました。ダメージを10%軽減します】

「がはぁぁあああ!!」
「キャベツさん!!」

 戦場にキャベツさんの苦しそうな叫び声が響き渡る。
 ここまで苦しそうな叫び声を上げるキャベツさんの姿を見たのは初めてだ。

「ヒール!.....大丈夫ですか?」
「.....ハァ。.....ハァ。.....あ、ありがとう。
 .....しょ、正直かなり厳しいが、ま、任せてくれ」

 既にドラゴン、いや、フォボスという名のドラゴンとの戦闘は始まっている。
 そして当然のことだが、戦法は『キャベツさんが守って、俺が戦う』のままだ。

 しかし.....。

───ガキィィイイイン!

【『bad!』キャベツさんが防御に失敗しました。ダメージを10%軽減します】

「.....が.....は.....」
「ヒ、ヒール!」

 まるで糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちるキャベツさんに素早くヒールを施す。

 キャベツさんがこの様子では、とてもじゃないが攻撃に移ることなど到底不可能だ。
 下手に攻撃に出ようものなら、キャベツさんともども俺も天に召されてしまう可能性が非常に高い。

 それに.....。

(せっかく、ここまで生き残ったのだから.....)

 その思いが俺の心の中を支配し、攻撃に移るタイミングを余計に鈍らせる。
 頑張っているキャベツさんには申し訳ないが、俺の戦意はもはや無いに等しいものになっている。

 勝ち筋が全く見えない無謀な戦い。
 弱者が強者にいいようになぶられる惨めな戦い。
 今まさに死へのカウントダウンが聞こえるどうしようもない戦い。

 もう一度言おう。
 頑張っているキャベツさんには申し訳ないが、俺の戦意はもはや無いに等しいものになっている。

 だって、そうだろう?
 この世界の理に、俺が、いや、俺とキャベツさんが勝てる訳はないのだから.....。鑑定!

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『フォボス』 レベル:ーーー 危険度:ーーー

 体力:ーーー
 魔力:ーーー
 筋力:ーーー
 耐久:ーーー
 敏捷:ーーー

【一言】歩じゃ勝てないよー!私が行くまで死なないでねーr(・ω・`;)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 やっと起きたのか.....。
 と言うか、アテナが来ればなんとかなるのか?この状況.....。

 敵であるフォボスのステータスが全く見れない以上、スキルレベルは4以上となる。
 何度も説明しているので敢えて説明は省くが、この世界ではスキルレベルが優先される為、この時点で俺達の敗北は決定している。努力?奇跡?そんなものではどうにもならないのが、この世界の理だ。

 更に言うのなら、この世界の管理者であるアテナにまで「勝てないよー!」と言われている以上、世界がどうひっくり返っても俺達の勝率は1%すらない。0%はどこまでいっても0%でしかないということだ。

 だから、くどいようだがもう一度言おう。
 頑張っているキャベツさんには申し訳ないが、俺の戦意はもはや無いに等しいものになっている。だって、攻撃しても無駄なのだから.....。

「.....ハァ。.....ハァ。.....た、例え相手が強大であろうとも.....ぼ、僕は絶対に負けない!」
「キャベツさん.....」

 しかし、そんな俺とは対照的にキャベツさんは必死にもがいている。
 絶対に勝てない相手に対しても、いまだメラメラと闘志を燃やし続けている。

(これが『勇者』と『勇者ではない』者の差というやつだろうか.....)

 そんなキャベツさんの挫けない勇者魂に胸を熱くしながらも、俺の戦意は萎えたままだ。

 この世界の様々なことはいい加減過ぎるのに、この世界の理だけはあまりにも厳しい。
 善が悪に勝てるという保証は全くなく、正義が不義に勝てるという保証も全くない。あるのは力による善のみ、力における正義のみ。『勝てば官軍。負ければ賊軍』というのが、この世界の理であり理念なのである。

 だから、俺はキャベツさんに感謝している。
 キャベツさんが勇者であることに、熱き勇者魂を持っていることに、いまだ戦意挫けずに必死にもがいていることに。

「.....ハァ。.....ハァ。.....と、当然だろう?.....ぼ、僕は正統勇者だからね。
 .....そ、それに、セシーネが僕を待っている!こんなところで負けられない!!」

 キャベツさんの瞳に炎がメラメラと灯った。
 その影響なのだろうか.....。

───ガキィィイイイン!

【『‎normal!』キャベツさんがダメージを50%軽減しました】

「ぐっ.....!」
「.....」

 この人、セシーネさんをちらつかせておけば、なんとかなるんじゃないのだろうか?
 愛は偉大ってか?.....くそっ!羨ましいな、もう!!

 何はともあれ、それが羨まけしからん理由であっても、俺はキャベツさんに感謝している。

 だって、そうだろう?
 キャベツさんが戦意を失っていないからこそ、いまだに戦線を維持できている訳なのだから。

───ガキィィイイイン!

【『bad!』キャベツさんが防御に失敗しました。ダメージを10%軽減します】

「.....ッ!.....ゴホッ。.....ゴホッ」
「ヒール!.....キャベツさん!セシーネさんが待っていますよ!頑張ってください!!」

 やはり、先程の攻撃を防いだのはまぐれだったようだ。
 キャベツさんのきれいな碧眼の瞳の色が失われる前に再びヒールを施す。

「.....ハァ。.....ハァ。.....あ、ありがとう。.....わ、分かっている。
 .....済まないね。.....君が攻撃に移れるチャンスをなんとか作って見せるから待っていてくれ」
「.....」

 息絶え絶えながらも、そう力説するキャベツさん。まさに勇者の鑑のような人だ。

 しかし、申し訳ないが、俺に攻撃する意思は全くない。
 ただただ、キャベツさんの戦意が挫けないよう祈ることとキャベツさんにヒールを施すのみ。


(神様!女神様!アテナ様!どうか早く来てくれますように!!
 俺とキャベツさんを一刻も早く救ってくれますように!.....と言うか、本当に早くしろ!!)


 キャベツさんの戦意を利用している俺の心境は、ただただ神頼みアテナ頼り一色となっていた。


□□□□ ~到着!~ □□□□

 その後もフォボスによる猛攻は後を絶たない。
 その度にキャベツさんが身を盾にして懸命に防いではいるものの、事態は少しも良くなる気配を見せない。

「やはり厳しいですか?」
「....ハァ。.....ハァ。.....そ、そうだね。
 .....た、例えるなら、み、見えないバーにタイミングを合わせるようなものだからね」

 はい、無理ゲー。

 それはもはやゲームですらない。
 音ゲーなら、仮に目隠しをしていても音でタイミングを合わせることができる猛者もいるらしいが、今の状況はその音すらもない。つまり、タイミングを合わせることができる材料がなにもないということだ。

 そう、このフォボスは、.....いや、真の強者ともなれば攻撃の際に発生する音など一切ないらしい。
 洗練された一挙手一投足は、仮にブレスであろうとも、そこには無音の世界が広がっているようだ。

 そんな激しい攻防をキャベツさんとフォボスが繰り広げている中、俺はキャベツさんに守られながらのんびりとアテナの到着を待った。
 何を悠長な!と思われる人もいるだろうが、キャベツさんへの応援とヒールぐらいしかやることがないので仕方がない。

(こういう暇な時間を、地球だったらスマホで暇潰しできていたんだけどなぁ.....。
 張さんは異世界版のスマホとか作ってはいないのだろうか?あったら便利だと思うんだけどなぁ.....)

 ここは別天地とも言える程、のどかな空間にすっかりと寛いでいた。
 今になって思えば、かつてアテナとラズリさんが俺に守られながらお茶会をしていた時の気持ちがよく分かる。(※第37歩目参照)

 何もすることがない、何もできることがない場合、例え緊迫した場面であっても、人はこうも堕落するものらしい。
 人の業の深さを思い知った一面だった。.....キャベツさん!がんばェ!!

 ・・・。

 その後も『焦らない、焦らない。一休み、一休み』状態の一休モードで過ごしていたら、遂にその時が訪れた。

「あー!歩、はっけーん( ´∀` )」

 待望の女神様がご到着されたようだ。
 わずか数時間ぶりだというのに、今はあのこ憎たらしい顔が愛おしい。

───だだだっ!

 そんなアテナの脇を猛然と駆け抜け、俺を目指して駆けてくる1つの影。
 その表情は下を向いていて窺い知れないが、恐らくは怒っていらっしゃる。だって、2本の尻尾がピーンと逆立っているのだから。

 そして.....。

───どんっ!

「ぐはっ!?」
「.....」

 駆けてきた勢いを一切殺さずに、そのまま胸に飛び込んでくるドールさん。
 魔法の使用過多でヘロヘロな体にはさすがに厳しいものがある。

「.....お、お前なぁ、少しは.....」

 そこまで言い掛けて口をつぐんだ。

「バカ主!バカ主!バカ主!」
「.....」

 俺の胸をポカポカと叩きながら、いまだに顔を上げようとしないドール。
 てっきり怒っているのかと思いきや、ちらりと見えたその顔には光るものが.....。

「.....(ひぐっ).....妾に黙って.....(ひぐっ).....危険な場所に行くでない。
 .....(ひぐっ).....心配するであろう.....(ひぐっ).....主に何かあったら妾は.....」
「.....悪い。心配かけた」

 俺の胸の中にすっぽりと収まっているドールをそのままギュッと抱き締めてあげた。

 さすがにこれにはジーンときた。
 なんというヒロイン力。ここまで心配してくれる人がいるというのは素直に嬉しい。

 そう、素直にドールの気持ちは嬉しいのだが、一方、こいつはというと.....。

「死んでなくてよかったねー!あーははははは( ´∀` )」
「.....」

 なんというダメイン力。

 メインヒロインであるというのにこの体たらく、呆れてものが言えない。
 いまだ俺の胸の中で泣き続けているドールの爪の垢でも飲ませたい気分だ。

 ・・・。

 ここはやはりあれしかないだろう。

「.....女神チェーンジ!」
「なんでよーヽ(`Д´#)ノ」

 なんでよーヽ(`Д´#)ノじゃねぇ!
 今すぐ、お利口さんのヘカテー様とチェンジしろ!


□□□□ ~対フォボス攻略会議~ □□□□

「美しい。僕と結婚してください」
「やーだよー( ´∀` )私は歩と結婚するのー!」

 撃沈。
 と言うか、あまりそういうことを公言するな!

「では、そちらの美しい狐のお嬢さんはどうでしょう?」
「断る。妾は心に決めた相手がおるのじゃ(ちらちら)」

 またも撃沈。
 ふーん。ドールって好きな人がいるのか。

「かわいい獣人?のお嬢さんはどうでしょう?大切にします」
「よく分からないのだ。ケッコンってなんなのだ?おいしいのだ?」

 撃沈.....なのかな?
 まぁ、モリオンに結婚を理解させるにはまだ早いかな。

 ・・・。

 俺達はいま、フォボス攻略会議を開いている最中だ。
 ドールが泣き落ち着いたのと、のおかげでキャベツさんもこの会議に加わることになった。

「はっははははは!みんな照れ屋さんみたいだね。
 僕はいつでもOKさ。気が変わったら、気軽に声を掛けておくれ」
「.....」

 この人、本当にポジティブだなぁ.....。

 それはいいのだが、案の定危惧した通り、キャベツさんがアテナ達を見るなりプロポーズし始めた。
 そして結果は、ものの見事に3連敗となった訳だ。.....いい加減にしないと、セシーネさんに言うぞ?

 いくらアテナ達が美しいからと言っても、いきなりプロポーズをするとか節操がなさすぎる。
 いや、全ての女性の味方だとか公言しているあたり今更か。

「.....こやつは何者なのじゃ?恐らくは勇者様なのであろうが.....」

 いきなりプロポーズしてきたキャベツさんに、さすがにちょっと引き気味のドールが俺に説明を求めてきた。
 それにしても、キャベツさんが勇者であることを見抜いているあたりはさすがである。

「実はな.....」

 ここで皆に、キャベツさんのこととこれまでの経緯を簡単に説明する。
 当然、モリオンのブレスが原因かもしれない点はボカしているが.....。

「.....正統勇者?普通の勇者様と何が違うのじゃ?」
「勇者業をちゃんとやっている勇者のことだよ」
「んー?じゃー、魔王をたおしてくれるのー(。´・ω・)? 」

 俺の説明を聞いて、いの一番にアテナが食い付いてきた。

 気持ちは良く分かる。
 これまで出会った勇者は、みんな勇者業を廃業している人しかいなかったから。

「仰せのままに、女神様。魔王が現れたのならば、このキャベツが見事仕止めてみせましょう」
「キャベツだってー!変ななまえー!あーははははは( ´∀` )」

 お、おまっ!?

 誰もが思い、誰もが口にしなかったことを当たり前のように言い放つアテナ。
 少しは空気を読め!そうたしなめようとしたのだが.....。

「名前を覚えて頂き光栄です」

 女神であるアテナの前で嬉しそうにかしづいているキャベツさん。
 アテナに名前を覚えて貰えたことが本当に嬉しいらしい。ポジティブすぎる!

 ちなみに、アテナが女神であることはキャベツさんには教えていない。
 教えてはいないのだが、キャベツさんはどうやらアテナのことを覚えていたらしい。

「アテナに会ったのは10年前のことですよね?よく覚えていましたね?」
「はっははははは!当然だろう?僕は全ての女性の味方なんだよ?
 一度見た女性のことは忘れないよ。しかも、一度会っているとなると忘れることなんてできないさ」

 す、すげぇ.....。

 つまり、先程はアテナを女神であると分かった上で口説いていたことになる。
 神すらも口説こうとするその性根は、呆れるとともに関心するものがある。究極の女好き、ここに極まれり。

「女神様。僕はこれまでも、そしてこれからも、ずっと勇者としての務めを果たしていきます」
「うんー。頑張ってー」
「つきましては、何かご褒美を頂けないでしょうか?今後のやる気にも繋がりますので、ぜひ!」
「えーr(・ω・`;)」
「あんた、本当にすごいな!?」

 あのアテナを困らせる存在がいようとは.....。
 いや、これぐらい濃い存在でないと、異世界で勇者などというものをやっていけないのかもしれない。


 結局、アテナにいい子いい子してもらうというご褒美に落ち着いたところで本題に戻る。
 と言うか、それでいいのかキャベツさん.....。

「君は分かっていないなぁ。
 女性に頭を撫でてもらうという行為は、男にとってもとても栄誉なことなんだよ」
「そ、そうですか.....」
「ほほぅ。そうなのじゃな。参考になるのじゃ」

 何の参考になるんだよ.....。

「それで?」
「んー(・ω・´*)」

 アテナにみんなの視線が集まる。
 俺は言わずもがな、みんなもアテナに期待しているらしい。

「歩とキャベツじゃダメだねー。あのドラゴンちゃんは強すぎるよー」
「.....」

 まぁ、アテナに言われずとも、それは分かっていた。

 問題はこの状況をどう乗りきるかだ。
 戦っても勝てないというのなら、負けない死なないでどうやってこの状況を乗りきるのかを知りたい。

「コンちゃんの支援術を使ってー、モーちゃんがギリギリ戦えるかなーって感じだねー(・ω・´*)」
「.....え?モリオンってそんなに強いの!?」
「我は強いのだ!あんなやつに負けないのだ!」

 いやいや。支援術ありきだから。
 しかも、それだと30分しか戦えないから。

 ただ、のだー!とかわいく万歳してやる気になっているモリオンに水を差す必要は敢えてないので、黙っている代わりに頭をぽんぽんしてあげた。ぽんぽんされたモリオンは嬉しそうに微笑んでいる。かわいい。

「じゃが、30分で片が付くとは到底思えぬのぅ.....」
「モリオンしか戦えないというのがネックだよな.....」
「くっ!正統勇者だというのに力になれないなんて!自分の未熟さが歯がゆいよ!!」
「我が頑張るから大丈夫なのだ!」

 モリオンの気持ちは嬉しいが、一か八かの賭けに出る訳にはいかない。
 30分で決着が付かなかった場合のことも考慮に入れると、それは最終手段となる。

「バカ者。そういう問題ではない。勝てる見込みが低いと言うておるのじゃ」
「戦っても勝てないのなら負けない戦いをするべきだよな。やっぱりあの作戦でいくべきでは?」
「僕もそれが一番いいと思う。可能性も十分ありそうだしね」
「でも、我は知らないのだ。知ってるのは臭いだけなのだ」

 モリオンはそうなのだろうが、敵さんであるフォボスはそうじゃないみたいなんだよなぁ.....。

 現状では、とある作戦を行う方向で話が進み始めている。
 戦っても勝てないというのなら負けない努力をするだけで、このとある作戦はまさにそれにふさわしい。

 そんな結論が下されようとしていたその時。

「(´・ω・`)」

 静かだったアテナの様子を何気なく窺うと、なんとも言えない表情で、熱い議論を交わす俺達をぼんやりと眺めていた。

「どうした?」
「んー。歩達はどうしたいのー?」
「どうしたいって.....。この状況をどうにかしたい.....」

 そこまで言って、次の言葉を紡ぐのを止めた。
 アテナが尋ねてきているのは、恐らくだが、俺が言おうとしていたことではないような気がする。

 考えてみれば、俺はアテナに何も尋ねてはいない。ただ一言、「それで?」としか.....。
 そもそも、俺はこの状況をどうやって無事に乗りきるかしか頭になかった。モリオンが支援術を使ってようやく互角という点からも、戦って勝てるという発想自体が全くなかった。

「.....(ごくっ)」
「(´・ω・`)」

 息を飲む。
 緊張しているのがよく分かる。

 ドールとモリオン、キャベツさんが、フォボス戦についてあーだこーだと議論しているようだが、全く耳に入ってこない。それぐらい心臓の鼓動が激しく脈打っていた。

「ま、まさか.....。か、勝てるのか?」
「よゆー!よゆー!私にまっかせなさーい(`・ω・´) シャキーン!!」

 そう言うと、アテナが自信満々に胸をドンッと叩いた。

───ぷるんっ

 あっ。揺れた。

「マジか!?」
「なんじゃと!?」
「おぉ!素晴らしい!」
「お姉ちゃんすごいのだ!」

 そんなアテナに驚く俺達一向。
 多分、勝てるという事実に驚いたのであり、揺れたおっぱいに驚いたのではないと信じたい。

「作戦はねー( ´∀` )」


 いまここに、智慧の女神アテナの華麗なる作戦が、竜族四天王フォボスを蜘蛛の糸のように絡め捉えようとしていた───。

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後書き

次回、本編『はじめてのモリオン』!

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今日のひとこま

~続・厳しい姉妹道~

「ほれ、姉さまもトカゲも急ぐのじゃ!主の危機なのじゃ!」
「ふぅ。ふぅ。コンちゃーん、はやーいーr(・ω・`;)」
「急ごうと言うたのは姉さまではないか!泣き言を言うでない」
「だってー、疲れたんだもーん(´-ε -`)おっぱい重いしー」

「無駄に脂肪を大きくしておるのが悪い。自業自得なのじゃ」
「ぶー!コンちゃんは無いから軽くていいよねー」
「ぶ、無礼な!少しはあるのじゃ!!」
「えー?ぺったんこじゃなーい?」

「.....ハァ。.....ハァ。.....お、お姉ちゃん。.....ま、待って欲しいのだ」
「なぜトカゲが一番遅いのじゃ?トカゲのほうが妾達よりも体力があろう」
「.....ハァ。.....ハァ。.....わ、我はかけっこしたことがないのだ」
「子供の癖にかけっこしたことがないというのはなぜじゃ?」

「.....ハァ。.....ハァ。り、竜族は歩くか飛ぶかのどちらかなのだ」
「はぁ.....。これだからトカゲは。.....良いか?少しでも遅れてみよ。
 そんな不出来な妹など妾はいらぬ。問答無用で置いていくのじゃ」
「!?」
「コンちゃーん、モーちゃんがかわいそーだよー(´・ω・`)」

「主の危機なのじゃ。仮にトカゲのせいで主の危機に間に合わなかったら、妾は一生トカゲを恨む」
「.....ハァ。.....ハァ。.....い、一生お姉ちゃんは我を嫌いになるのだ?」
「そうなりたくなかったら、死ぬ気で走ることじゃな。妾はもう振り返らぬ」
「コンちゃんはきびしーねー(´・ω・`)」

「.....ハァ。.....ハァ。.....わ、我は頑張るのだ!だ、だから嫌いにならないで欲しいのだ!」
「知らぬ。頑張るのは当たり前のこと。口ではなく結果で証明せい。姉さま、行くのじゃ!」
「モーちゃん、頑張ってねーr(・ω・`;)」
「.....ハァ。.....ハァ。.....ハァ。.....ハァ。.....つ、ついていくのだ」

その後、主人公達と合流するまで、本当にドールは一度たりとも振り向くことはなかった。


姉と妹の厳しい姉妹道はまだまだ続く.....。




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